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STORIES 2020/07/17

住まいや働き方は通勤に縛られなきゃ、なんてない。

モーリー・ロバートソン

国際ジャーナリスト、ミュージシャン、DJ、作家と、マルチに活躍するモーリーさん。ニューヨーク生まれの広島育ち、幼い頃から日本とアメリカを行き来し、価値観を柔軟に変化させながらアイデンティティを確立してきた。「今まで正解と思ってきたことが、手のひら返しのごとく間違いになることを何度も経験してきた」と語る彼の目にコロナ禍の世界はどう映り、自身の暮らしや価値観にどのような影響をもたらしたのか。

毎日、満員電車に体を押し込んで会社へ行く。通勤のストレスを少なくするために、できるだけ交通至便な都市部に住む。コロナ禍でテレワークが普及したのを機に、そんな“当たり前”が見直されるようになった。社会に潜むたくさんの「こうでなくちゃいけない」から解放されたとき、私たちの考えや行動はどんなふうに変わっていくのだろうか。STAY HOME期間の過ごし方と併せて話を伺った。

元の生活習慣に固執せず、
今何ができるかを考えた

情報番組のコメンテーターをはじめ、メディアや講演会などで引っ張りだこのモーリーさん。コロナ禍による外出自粛要請で仕事が次々とキャンセルになり、舞台俳優である奥さま以外の人とリアルで会う機会もなくなった。STAY HOMEの期間中、ちょっぴり寂しい思いをしていたのでは?と水を向けると「あまり人に会わなくなって、これでいい!みたいな感じ、ちょっとあったかもね」と、いきなりのモーリー節。

「もともと打ち合わせや会議は少ないほうだったけど、さらにダイエットしてずいぶんミニマムになりました。テレビのオンライン出演も、ほとんどぶっつけ本番。何をやるのかメールでざっくり教えてくれ、あとは任せろ!ってね(笑」

新型コロナウイルスの発生は海外ニュースで知ったが、このとき日本ではまだほとんど報道されておらず、海外との温度差にも不安を覚えたという。

「未知のウイルスということで、最初はやっぱり怖かったですよね、体を鍛えてるアスリートも感染したりして、僕もいよいよ年貢の納め時で、やりたいことは全部やっておかないと、みたいな。定期預金なんて持っていても仕方ないから全部使ってしまえという気持ちと、いや、これから仕事がなくなるから定期預金には絶対に手をつけるなという相反する気持ちが混在してました」

やがて外出自粛で自宅中心の生活スタイルになり、環境の変化になじめずストレスを感じた人も多くいたに違いない。そんななか、モーリーさんはこの状況がしばらく続くと考え、比較的早い段階で気持ちを切り替えた。かつての生活習慣に固執することをやめ、今何ができるかを考える。そうしてたどりついたのが、インターネットの学習コンテンツだった。

「ネット上には教育系から技術系、楽器の演奏に至るまでいろんなジャンルの講座があって、気になるものを片っ端から学んでいきました。妻もゼロからギターを習い始めてすごく上達しましたよ。当時、SNSには“やることがない”とか“退屈すぎて死にそう”といった書き込みがあふれていたけど、僕は全く逆。いろんなことを学習しているとあっという間に一日が終わるので、“人生は短い!”ということを改めて感じましたね」

自ら学びの時間を選択したのは、ハーバード大学時代に身につけた「心得」がベースにあった、とも。

「ハーバードでは、時間を管理しながら何をどう学習するのか、ゼロから全て自分で決めなくちゃいけなかった。いわゆるセルフスターターですね。誰かに指示されて動くのではなく、今自分が置かれている状況のなかで、どう動くべきかを理解して行動に移す。コロナ禍でスケジュールが何もなくなっちゃったときは、ハーバード式のモードに戻りました」

“アップサイクル”で意識がよりポジティブに

STAY HOME期間中、奥さまが始めた“アップサイクル”も気持ちをポジティブに切り替えるきっかけになったと話すモーリーさん。アップサイクルとは、古くなった物や使わなくなった物を素材として利用し、より良いものに作り替えること。リサイクルやリユースとはまた違った、サステイナブルなエコの形だ。

「妻がミシンを引っ張り出してきて、うちにある古いシャツとかを使ってマスクを4〜5個作ってました。この布製の人形も妻の手作り。一番の大作は人形劇シアターで、5日間くらいかけて作ったんじゃないかな。材料は、ネットショッピングで届いた梱包用の段ボール箱。単なるインテリアじゃなくて、この手作りシアターで人形劇のオンライン上映会もやったんですよ」

そんな奥さまの行動を目の当たりにして、モーリーさんもおのずとモノや消費に対する意識が高まったという。例えば、通販で買い物をするときはできるだけまとめて頼んだり、スーパーへ行くときはマイバッグを持参したりしたという。

「なるべく無駄をなくしてゴミを減らそうとか、最後まできちんと消費しようとか、環境のことを考えて行動するようになりました。今までの自分たちの生活スタイルが、地球にもだいぶ負荷をかけていたのかなって」

そんな時、耳にしたニュースもモーリーさんの気持ちを前向きにさせた。

「コロナの影響でインドの空が青くなったんだよね。都市封鎖で大気汚染が改善されて、首都のデリーから200km離れたヒマラヤが見えましたというニュースを聞いて、おおっ!て。これって、人類がポジティブな方向に行くためのひとつのヒントだったような気がします。前の状態を復元しようとするんじゃなくて、せっかく空が青くなったんだったら、それをキープしながら調整していくというか。そういうことも可能になるんじゃないかという希望が見えました」

思い込みで自分たちを縛り付けていた

コロナによって変わったのはインドの空だけではない。日本ではテレワークが一気に進むなど世の中の体系があちこちで変化し、それまで当たり前だったことがことごとく覆されていった。この現象を、モーリーさんは「いろんな価値観が強制的にアップデートされた」と表現する。

「まず驚いたのは、リモートワークでかなりのことができちゃうなっていうこと。そうなると、毎日、満員電車に乗って通勤する意味もなくなって、物の値段や価値観みたいなものが、通勤によって支配されていたことにも気付きました。出社しなきゃダメとか、都心に近いところに住まなきゃダメとか、今まで社会が“こうじゃなきゃいけない”と思っていたことがいっぱいあったんだけど、案外、思い込みで自分たちを縛り付けていたんだな、と」

思い込みからの解放は、これからの“住まい”にも影響を与えるのでは、とモーリーさんは語る。

「そういうものが緩んでくると、例えば自然に囲まれた快適な場所で暮らしたいということが実現できちゃうんですよね。街に行くのは週1回とか3週間に1回でいいと。そうやって、おのおのが住まいや働き方についてもっと自由に考え、選択していくと、過疎化みたいなものも食い止められるし、今まで地方再生と言いつつできなかったことも勝手に自己解決するような気がします」

実際、モーリーさんも長野や北陸の物件をネットで探したとのこと。

「かなり古い民家で、自分でリフォームすれば300〜400万円でいけちゃうみたいな物件があったんですよ。僕の場合、上下水道さえきっちりしていればどこでも大丈夫。近所においしいクロワッサンを買える店があれば、もう言うことナシですね(笑)」

未来が見えないなら、やりたいことをやればいい

かつての日常が少しずつ戻りつつあるなか、今、多くの人が関心を寄せるのがコロナ後の暮らし。モーリーさんの考える、新しい生活における大切な価値観とは何なのだろう?

「僕は、コロナが怖い!自分も感染して命を落とすかも……と思ったあの時期に、“自分は何をして生きていきたいんだ?”と自問自答したことを忘れずにいたい。だから、これからは多少のリスクを恐れず、本当にやりたいことを目指そうと思います。今までは、少しばかり退屈でも安定が大事っていうのが日本式の幸せのモデルだった。いわゆる中産階級意識ですよね。でも、それが成り立たなくなるかもしれないというヒヤッとした瞬間があったので、もうちょっとはっちゃけて、未来が見えないんだったらやりたいことをやればいいんじゃないって」

コロナを経験して、他人と同じことをするプレッシャーがだいぶなくなった気がする、とモーリーさんは言う。なぜなら、他の人と同じスタイルでやっていても、みんな揃って失業する可能性があることを知ったから。つまり、安全パイ的な生き方に縛られなくてもよくなってきた今こそ、自分がやりたいことをやる、一歩飛び出すチャンスなのだと。

「哲学的になりますけど、未来は自分で選べると思います。何となくこうなっちゃったという人も、選ばないということを繰り返した結果、じつは選んでいるんですよね。誰かが設計したそこそこの幸せを目指すのか、それとも自ら道を切り開いていくのか。もっとシンプルに言えば、受け身でいくのか、自分からいくのか。敷かれたレールの上を歩くのもいいけれど、自分で選んで自分のために時間を使うようになると、クオリティ・オブ・ライフがどんどん上がっていく気がするんです。すると、自然と意識が変わって、今まで想定していた進路とは別の方向に舵(かじ)を切るかもしれない。そういうことを繰り返しながら運命を変えてると思うんですよ。強迫観念みたいなものに縛られて行動できなかった人たちも、そこから解放されて動けるようになって何か新しいものが生まれてくる。むしろ、いい世の中なのかもしれないですね」

思えば、人生は選択の連続だ。その際、脳裏をよぎる「失敗」や「後悔」とどのように向き合えばよいのか。

自分で選んだ末の失敗だったら悔いはないと思うんですよね。逆に、当たり障りなく人に言われた通りにやってうまくいかなかったとき、自分が自分の時間を生きてこなかったことを後になって後悔するときが一番残念だなって思う。人って、自分で選ぶたびに学習するんですよ。うまくいかなかったり失敗したりしても、自分はこういうところが甘かったんだって学ぶし、次のステップに向けて弾みがつくんです。ある意味、コロナで運命が変わっちゃったわけだから、ピンチをチャンスに変えて、これからの人生、悔いのないものにしたいですよね。
Profile モーリー・ロバートソン

1963年生まれ。日米双方の教育を受け、1981年に東京大学とハーバード大学に同時合格。東京大学を1学期で退学し、ハーバード大学に入学。電子音楽とアニメーションを専攻。アナログ・シンセサイザーの世界的な権威に師事する。1988年ハーバード大学を卒業。タレント、ミュージシャンから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。

STORIES 2020/07/17 住まいや働き方は通勤に縛られなきゃ、なんてない。