【第2回】LivingAnywhere WORKトップ対談 〜DXが創る働き方の未来〜

株式会社LIFULLは2020年7月、個人・企業・地域による多方向の交流をこれまで以上に活性化する新しい場の構築を目指す「LivingAnywhere WORK」の構想を発表した。働く場所の選択肢に多くの地方を加えることで密を回避することを目的とし、LivingAnywhere Commons事業では遊休不動産を活用したco-livingスペースを2023年に全国100箇所設けるという目標を掲げている。賛同企業や自治体はすでに100を越え、今まさにトレンドとなっているワーケーションや、二拠点居住、Uターン・Iターンといった、多様な暮らし方・働き方を求める人々の間で「LivingAnywhere WORK」への関心が高まっている。


LivingAnywhere WORK「働く場所から、自由になろう。」|LivingAnywhere Commons

LivingAnywhere WORKプラットフォーム構想。LivingAnywhere Commonsでは、企業や自治体などの有志団体によって各地拠点をつくり・シェアし合い、どこでも働ける環境( #WorkingAnywhere )を整えるプラットフォームを構想しています。この新しいプラットフォーム構想に賛同する企業や自治体を募集しています。

第2回目となる今回は、賛同企業のひとつである株式会社デジタルホールディングス代表取締役会長の鉢嶺登氏(以下、鉢嶺)をゲストに迎え、 株式会社LIFULLの井上高志氏(以下、井上)とともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の現状や今後の可能性、近い将来における人間の生き方・働き方について対談が行われた。

延命措置のDXからビジネスモデルを変革するDXへ

2020年7月に、株式会社オプトホールディングは株式会社デジタルホールディングスに商号を変更した。1994年の創業からインターネット広告代理事業を主事業として運営してきた同社は、デジタル産業革命の勢いが増す中、インターネット広告代理事業だけには留まらない「あらゆるデジタルシフト」に対応することが社会や企業の繁栄のための課題になると考え、象徴ともいえる商号を変更したという。

デジタルシフト事業への変革に対して強い覚悟を示した鉢嶺氏は、あらゆる産業がインターネットに繋がる時代に取り組むべきデジタルシフトは、単純にこれまでの業務プロセスをデジタル化するデジタライゼーションにとどまらず、ビジネスモデル自体をデジタルに合わせて変革させていくデジタルトランスフォーメーション(DX)を行う必要があると説明した。

鉢嶺「僕らの定義としては、大きく攻めのDXと守りのDXの二種類に分けています。守りのDX(デジタイゼーション・デジタライゼーション)というのは、ハンコの電子化やRPAの導入、テレワークの導入などといった業務プロセスのデジタル化によって、生産性を上げてコストダウンを図ることです。これはあらゆる企業や国、自治体がやらなければいけないことです。

それに対して、攻めのDXというのは、ビジネスモデル自体をデジタル産業革命時代に合わせたものに変えていくということ。例えば、代理業や仲介業、卸業などといった業態は今後基本的に衰退をしていきます。これは我々広告代理店も同じで、インターネットの最大の特性は売り手と買い手が直接つながるということなので、間に入っている仲介業や代理業は基本的に不要になってくる。完全になくならないまでも付加価値が下がっていくことは間違いないわけです。そうなると、根本からビジネス構造を変えていかないと立ち行かなくなってしまう。

守りのDXはコスト削減にしかならないので、ある種の延命措置です。攻めのDXでビジネスモデル自体を変えていくことが必須になりますので、この攻めと守りをしっかりと分けて取り組んでいくことが必要になってきます」

井上「DXをやるといっても、ただ守りのDXをしているだけでは社員から選ばれなくなっていく。これから来る未来のニューノーマルな社会にフィットしたビジネスモデルに変革していくって難しいじゃないですか。既存の本業をある意味捨てていくとか、徐々に減らしていくというようなトランスフォームなので、経営的には難易度が非常に高いですよね。そんな中で、鉢嶺さんは広告代理業からDXを本業にするんだといって、社名まで変更したというのは英断で、まさにトランスフォームだと思うのですが、その中で気づいてきたポイントはありますか?」

鉢嶺「いろいろな企業と接していると、頭の中では変わらなきゃと気付いているけれど、足元では一応食べることはできているので変わらなくてもいいという企業が非常に多いです。

例えば、旅行代理店の場合、個人旅行でいえば航空券はネットで買えるし、ホテルの予約やレンタカーの予約もネットでできます。旅行代理店に頼む必要は個人旅行に関してはほぼ無いわけです。

また、車のディーラーの場合は三重苦と言っています。そもそも車を買う人が年々減ってきている。これから電気自動車になると整備不良が少ないので定期点検の売上が激減する。そして、高額商品といえどもネットで買える時代になってしまう。そこまでわかっているのだったら、何か手を打ちましょうという話です」

DXに成功する組織は若手からの突き上げが必要

では、攻めと守りのDXを取り組むにあたって、どのような体制を整備する必要があるのだろか。井上氏も鉢嶺氏も、DXに成功する組織づくりとして、若手の突き上げが必要だという。

井上「大企業で100年も続いてきたような会社さんは、やはり現場の若手、活きのいい人達はすごく危機感を感じていて『何かをやりたい』と思っているけど、結局できないということが多いと感じます」

鉢嶺「統計上のデータで出ているのは、若い人の方がデジタルは得意ということ。あと、年を取れば取るほど新規の投資や、リスクを負っての投資、海外の投資などへの意欲が減退していきます。だったらもう、デジタルを分かる若手が、『僕らに任せてください』と上を突き上げるしかなくて、別組織を作ってもらって、CEOから権限を与えてもらうしかないです」

働く場所や組織からの解放が進み、より自由な働き方へ

新型コロナウイルスの対策として、早期から大胆な勤務形態の変更を実施したデジタルホールディングスグループ。鉢嶺氏は働く場所や組織からの解放によって、より自由な働き方に進んでいくという。

 

鉢嶺「当社グループも2020年3月の段階で原則テレワークに切り替え、オフィスの1/3は解約しました。そして緊急事態が解除された後も、原則出社は週2日以内にしてくださいという形でお願いをしました。会社に行くと、大体フロアには1割ぐらいの従業員しか出勤していないという状態です。ある種、こういった状態が当たり前になりつつあるのかなと思っています。

テレワークが主流になると、どの方がいつ出社するか分かりませんから、固定席ではなくフリーアドレスが前提になってきます。また、どこでも働けて、どこでも住める。都心で働くという東京一極集中だったものがワーケーションという形で地方でも働けるということになりました。私は今、リゾートワーケーションができる『ナスコンバレー構想※』を掲げて栃木県の那須で働いていますが、こういった動きが各社で広がってきていると思います。

※リゾート環境を有しながらも、都心からほど近い立地を活かした那須地区にて、新しい働き方に関心を持つ経営者や従業員の方々にワーケーションの場としてご利用いただくことで、人との交流を生み出し、那須から新たなビジネス機会の創出や先進的な取り組みを目指していることから、シリコンバレーになぞらえ「ナスコンバレー構想」と名付けられた。IT企業の経営者を中心に、実際に那須地区でのワーケーションを体験し、すでに複数の企業がナスコンバレー構想への賛同を表明している。

また、当社では、ちょうど先日、副業を完全に解禁しました。今までは事前申請制でしたが、今は事後報告制であらゆる副業がOKになりました。働く場所や組織など、全てのものから解放されて、より自由な働き方になっていくということが大きな一つの流れだと思います。

ただ、働くことをやめるかといえばやめないのではないかと思っています。例えば、江戸時代なんて京都まで1ヶ月かけて歩いて行っていた。それが現在は新幹線でたかだか2、3時間で行けるようになりましたが、残りの30日間は働いているわけです。結局働くということ自体に楽しみがあるし、人生そのものがあるから、働くということ自体はやめないんだろうなと思います」

働き方が自由になることで、仕事に対する関わり方にも変化が生まれてくるのではないかと、井上氏は言う。

井上「ライスワーク、ライクワーク、ライフワークという言葉がありますが、生活費を稼ぐためのイヤイヤやっている仕事は劇的になくなっていくでしょうね。そうなると本当に好きなことをやるライクワークと、あとライフワークとして社会に貢献をしていきたいという方がメインになっていくと思います。

鉢嶺さんがおっしゃる通り、多分人間はクリエイティブな生き物なので、時間も場所もお金も自由にしていいと言われたら、ぐうたらになるかというと、ずっとぐうたらやってても飽きてしまうと思うので、何かやり始めると思うんですよね。それがお金が儲かるかどうかという観点ではなくなって、好きとかやりたいとかっていう方向に人は向かっていくと思っています。それってウェルビーイングが高いんですよね。

それで究極、全ての産業がAIやロボティクスに置き換わってやってもらえるようになった時に、人間が何をするのかというと、太古の昔から続いてきた、食べる、飲むという根源的な喜びや、歌を歌う、踊るといったクリエイティブなことをするんだろうなと、そんな風に考えていますね」

地域を超えた交流から生まれるイノベーション

最後に、イベント参加者からの質問で、ワーケーションにおいて交流が生まれるために必要なことについて鉢嶺氏、井上氏にそれぞれ伺った。

鉢嶺氏「実際には、全員が地方に移り住むということはないと思います。なんだかんだ都市には魅力があるし、やっぱり東京から移りたくないという人がマジョリティだと思います。そうした中で、僕や僕の周りの経営者は、東京に住みながら、軽井沢へ行ったり、那須へ行ったり、熱海へ行ったりして癒されているわけです。僕はそれが葉山だったんです。

こういうリゾートライフを僕はもっと民主化したいと思っていて、那須でのワーケーションも値段をすごく安く設定しました。社員が普通に何度でも行ける状態を作ることが重要なんじゃないかと思って、那須を選びました。

那須に東京の人たちがたくさん行くことによって、那須に住まわれている人たちと交流を深めて欲しいですし、実際にもう始まっています。僕ら経営者は何人かがすでに那須へ行き、那須塩原の市長に来ていただいたり、現地の起業家の方に来ていただいたりすることが始まっているので、ぜひジョインしていただきたいと思っています。

僕らは那須の良さを知りたいし、那須の方は東京の情報が知りたい。そこにイノベーションが生まれたらいいなと思います」

井上「僕らもまさにLivingAnywhereをやっていると、基本的には企業と行政と個人が、それぞれ地元の方々とごちゃごちゃと混ざると、そのカオスの中からいい感じのコミュニティが生まれてくるんですよね。やはりコミュニティはすごく大事だなと思っています。

今日は自治体の方や LivingAnywhere WORKの賛同企業の方もたくさんいらっしゃると思うのですが、まだ体験したことがないという人は、やはり体験しないとわからないので、まず行きましょう。

ナスコンバレーやLivingAnywhere Commonsの場所に行ってみると、すごく楽しいな素晴らしいなって感じますので、その上でぜひ賛同企業として新たに名を連ねてください。また、誘致したいという自治体がありましたら、どんどんお声をかけてください。我々どこでも行きますので、よろしくお願いします」

イベント概要

開催日:10月29日(木) 19:00~20:00

登壇者:

鉢嶺 登 (株式会社デジタルホールディングス 代表取締役会長)
井上 高志 (株式会社LIFULL 代表取締役会長)

ファシリテーター:
小池克典(株式会社LIFULL 地方創生推進部 LivingAnywhere Commons事業責任者)

登壇者PROFILE

鉢嶺 登

1967年千葉県出身。1991年早稲田大学商学部卒。森ビル株式会社勤務の後、米国で急成長しているダイレクトマーケティング業を日本で展開するため、1994年株式会社オプト (現: 株式会社デジタルホールディングス)設立。2004年、JASDAQに上場。2013年、東証一部へ市場変更し、現職。eマーケティング支援にとどまらず、未来のデジタル事業の立ち上げやベンチャー企業の投資育成にも努め、グループ全体で未来の新事業創造に挑戦している。 また、デジタル産業革命の中で、「デジタルシフトカンパニー」に軸足をうつし、株式会社デジタルシフトの代表にも就任。2020年7月には自身が代表取締役会長を務める「株式会社オプトホールディング」の社名も「株式会社デジタルホールディングス」へ変更、日本の企業、社会全体のデジタルシフトを牽引、支援している。

井上 高志

株式会社LIFULL 代表取締役会長 神奈川県横浜市出身。新卒入社した株式会社リクルートコスモス(現、株式会社コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱き、1997年独立して株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。 インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME’S(現:LIFULL HOME’S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外併せて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している。 個人としての究極の目標は「世界平和」で、LIFULLの事業の他、個人でもベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開。そのほか、一般財団法人Next Wisdom Foundation 代表理事、公益財団法人Well-being for Planet Earthの評議員、一般社団法人新経済連盟 理事、一般財団法人PEACE DAY 代表理事、一般社団法人21世紀学び研究所 理事を務める。

執筆・編集/ IDEAS FOR GOOD

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