【後編】インクルーシブとは? 障がい、性別、年齢など多様性を認め合う共生社会の実現
前編
後編
※関連記事:ダイバーシティとは
障がいがありながらも自分らしく生きる人たち
インクルーシブ社会に向けて、政府もさまざまな取り組みをしていますが、「法律で決められたから障がい者を受け入れなければならない」という考え方では、本当の意味で多様性を認め合う社会を実現するのは難しいでしょう。
障がい者であるかどうかということよりも、個人として相手に向き合い、尊重する気持ちを持ち、相手を受け入れることが大切なことです。
ここでは、障がいがありながらも周りのサポートや理解を受けて、自分らしく生きる人たちを紹介します。
西村大樹さんは、小さい頃からスポーツが大好きでしたが、障がい者ゆえに「危険だから」「責任を取れないから」と周囲からの決め付けに押しつぶされ、やりたいことができない悔しさを感じてきました。それでも諦めず、軟骨無形成症患者としては日本初の体育教師の教員免許を取得、また結成したダンスユニットでは全国3位に。現在ではプロのダンサーとして活躍しています。
真壁詩織さんは、脳機能にある問題ゆえに、聞こえた音声を言葉として識別する作業が困難になるAPD(聴覚情報処理障害)と向き合いながら、教師として活躍しています。宮城教育大学在学中にAPDとの診断を受けた後、自分の障がいについて周囲の人たちに伝え、「APD説明書」を作成してサポートをお願いするようにしました。真壁さんは「まずは工夫しながらやってみる。それでも駄目なら『胸を張って』助けを求めよう。助けてもらった分、違うところで誰かの力になれればいい」と語ります。
かんばらけんたさんは、先天性二分脊椎症という重度の障がいがあります。専門学校を卒業して、日本ヒューレット・パッカード株式会社に入社し、システムエンジニアとして働く傍ら、車いすダンサーとして2016年にリオデジャネイロパラリンピックの閉会式に出演。2017年には、東京都の大道芸ライセンス「ヘブンアーティスト」にも合格しました。かんばらさんは、「僕は、できることはできるし、できないことはできない。車いすダンスに関しては、できること」と話します。
これらは一例に過ぎませんが、障がいがある上で活躍している人は決して少なくありません。
インクルーシブ社会実現に向けて行動する先駆者
日本社会と障がい者の「間」には、意識や価値観のギャップのようなものがあります。それらを取り除くことが、インクルーシブ社会の実現に向けて必要になってきます。その壁を打ち壊そうと取り組んでいる人たちがいます。
森下静香さんは、1996年より「たんぽぽの家」で障がいのある人の芸術文化活動の支援や調査研究、アートプロジェクトの企画運営、医療や福祉などのケアの現場におけるアート活動の調査を行っています。森下さんは障がい者とのかかわりを通じて、「障がいのあるなしに関わらず、誰もが社会に参加したいという気持ちを持っていることに気付いた」と語ります。だからこそ、一人ひとりに合った仕事をつくることが必要で、地域社会で必要とされる多様な仕事を生み出せたらという思いで、活動に取り組んできました。
松田崇弥さんは、障がいのある人が描いたアートをデザインに落とし込み、プロダクト制作・販売や企業・自治体向けのライセンス事業を行っています。松田さんが共同で立ち上げた会社「ヘラルボニー」は障がい者の特性を「異彩」と定義し、「異彩を、放て。」をミッションに掲げています。「『かわいそうだから支援してあげよう』ではなく、障がいのある方の可能性を純粋に感じてほしい」と松田さんは語ります。
平林景さんは、一般社団法人日本障がい者ファッション協会(JPFA)代表理事を務め、JPFA発信のX-styleブランド「bottom’all」を展開しています。平林さんの目標は、パリコレクションでの車いすショーの開催です。このショー開催の目的は「障がいに対する世の中の偏見に対して、『それは今まで世の中の当たり前だっただけで、これからの当たり前は違うんだ』と示して、新しい世界をみんなに見せること」だと、平林さんは力強く語ります。
まとめ
社会は、障がい者を含めた多様な人たちで構成されています。私たちは目の前の相手を「障がい者」「外国人」「高齢者」といった枠でカテゴライズしてしまう傾向があります。しかし、大切なのは、相手がどんな属性や背景があったとしても、まずは、その人自身を理解しようとする姿勢です。それを阻む「心の壁」を取り除くことから、インクルーシブ社会は始まるのではないでしょうか。
前編を読む
星美学園短期大学日伊総合研究所客員研究員、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所名誉所員。専門は、視覚障害教育、イタリアのインクルーシブ教育等。近著として、『イタリアのフルインクルーシブ教育――障害児の学校を無くした教育の歴史・課題・理念』他、多数の著書がある。
みんなが読んでいる記事
-
2023/09/12ルッキズムとは?【前編】SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題
視覚は知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて解説します。
-
2022/02/03性別を決めなきゃ、なんてない。聖秋流(せしる)
人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。
-
2023/08/31身体的制約のボーダーは超えられない、なんてない。―一般社団法人WITH ALS代表・武藤将胤さんと木綿子さんが語る闘病と挑戦の軌跡―武藤将胤、木綿子
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行によりさまざまな身体的制約がありながらも、テクノロジーを駆使して音楽やデザイン、介護事業などさまざまな分野でプロジェクトを推進。限界に挑戦し続けるその姿は人々の心を打ち、胸を熱くする。難病に立ち向かうクリエイター、武藤将胤(まさたね)さんとその妻、木綿子(ゆうこ)さんが胸に秘めた原動力とは――。
-
2022/02/22コミュ障は克服しなきゃ、なんてない。吉田 尚記
人と会話をするのが苦手。場の空気が読めない。そんなコミュニケーションに自信がない人たちのことを、世間では“コミュ障”と称する。人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のパーソナリティを務めたり、人気芸人やアーティストと交流があったり……アナウンサーの吉田尚記さんは、“コミュ障”とは一見無縁の人物に見える。しかし、長年コミュニケーションがうまく取れないことに悩んできたという。「僕は、さまざまな“武器”を使ってコミュニケーションを取りやすくしているだけなんです」――。吉田さんいわく、コミュ障のままでも心地良い人付き合いは可能なのだそうだ。“武器”とはいったい何なのか。コミュ障のままでもいいとは、どういうことなのだろうか。吉田さんにお話を伺った。
-
2023/02/27アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)とは?【前編】日常にある事例、具体的な対処法について解説!
私たちは何かを見たり、聞いたり、感じたりした時に実際にどうかは別として、「無意識に“こうだ”と思い込むこと」があります。これを「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」と呼びます。アンコンシャスバイアスによるネガティブな影響に対処するための第一歩は、「意識し、理解する」ことです。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」などの既成概念にとらわれず、「しなきゃ、なんてない。」の発想で自分らしく生きる人々のストーリー。
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」