ジェンダーレスとは? ジェンダーフリーとの違いや男女差別撤廃の実現に向けた社会の動き

世界共通の目標として掲げられるSDGs(持続可能な開発目標)には「ジェンダー平等を実現しよう」というゴールがあります。性別による差別や偏見をなくし、全ての女性と男性が対等に権利・機会・責任を分かち合える社会をつくることを目指し、世界中で取り組まれている目標です。

日本では性別の違いにより、社会的・文化的な不平等や差別が生まれている現状があります。ジェンダーレスとは、そういった社会的・文化的な性差が取り払われた状態、もしくは取り払おうとする考え方です。この記事ではジェンダーレスの意味や、ジェンダーフリーとの違いについて紹介します。

この記事では下記の3点を解説します。

  • ジェンダーレスの意味とジェンダーフリーとの違い
  • ジェンダーレス社会の実現に向けた取り組みと事例
  • ジェンダーにとらわれず自分らしく生きることの大切さ

ジェンダーレスの意味とジェンダーフリーとの違い

ジェンダーとは

解決しなければならない世界の問題の一つに、ジェンダーへの偏見や不平等があります。ジェンダーとは、男性は外で働き女性は家庭を守るなど、社会的・文化的な性差を指し、生物学的な性差であるセックス(sex)とは区別されます。つまり、ジェンダーは生まれながらにして決まっているのではなく、社会、文化との関わりの中で形成されていくものなのです。

ジェンダー平等は、国連が定めるSDGsのゴールの一つにも挙げられています。特に日本は、世界経済フォーラムが発表するジェンダーギャップ指数において参加する世界156カ国中120位であり、ジェンダー平等には遠い現状があります。

関連記事:ジェンダーとは? 男女格差をなくし持続可能な社会の実現へ 

ジェンダーフリーとは

ジェンダーレスと似ている言葉に、ジェンダーフリーがあります。これは、日本では性による社会的・文化的差別をなくすことを意味して使われています。つまり、社会的・文化的性差の押し付けから自由になる(自由=フリー)という意味の言葉です。「従来の性別における決め付けや役割分担にとらわれず、男女間のアンバランスな力関係や格差をなくそう」という考え方がもとになっています。

ジェンダーレスとは

性による社会的・文化的差別をなくすことを意味して使われることが多いジェンダーフリーに対して、ジェンダーレスとは男女間における区別や性差の境界線をなくすことや男性・女性の概念を取り払おうという考え方を指しています。

具体的には、「学生の制服では男子生徒はスラックス、女子生徒はスカート」「男の子はブルー、女の子はピンク」など、社会的に形成されてきた男女間における区別がありますが、こういった区別をなくしていくのがジェンダーレスの取り組みです。

ジェンダーレスファッションとは

「ジェンダーレス男子」「ジェンダーレス女子」といった呼称のファッションモデルやインフルエンサーを目にしたことのある人も多いかもしれません。近年、ファッション業界では男女の境界線がないスタイルやアイテムが注目され、例えば、ネイルをする男性、スカートをはく男性、ナチュラルメイクで短髪の女性などがいます。

こうしたジェンダー平等、ジェンダーレスは特に若い世代に浸透しつつあり、社会的・文化的に区別された性別にとらわれず、自分らしさを貫いているモデルやタレント、インフルエンサーたちにも注目が集まっています。

高校生の頃から自身のジェンダーに対して違和感を覚えていたという、ゆっきゅんさん。世間一般でいわれている男らしさや女らしさは、社会がつくったものだと気づき、自分は自分という気持ちを大事にしながら自分らしい生き方を追求してきました。ジェンダーで悩む多くの人たちに自分の言葉を届けるべく、今はアイドル・歌手として活動しています。

タレントやモデルとして活躍するりゅうちぇる(ryuchell)さんは、過去には自分らしさを上手に表現できず、苦しんだ時期があったそうです。ジェンダーにまつわる固定観念に縛られて生きることに疑問を感じ、自分らしさを解放した生き方にシフトした瞬間、息苦しさが消えたと語ります。

ジェンダーレス社会の実現に向けた取り組みと事例

ジェンダーレスは、男女格差の解消や多様性を認め合う社会をつくるため重要な考え方といわれています。多様なジェンダーを尊重し、優しい社会を実現するため、企業や学校が取り組んでいる事例を紹介します。

1.「男性名詞」「女性名詞」の廃止

女性の保育士は「保母」、女性の看護師を「看護婦」のように同職種でも男女で呼び方が異なっていることがありました。「看護婦」の例では、男女雇用機会均等法が改正されたことで、2001年に保健婦助産婦看護婦法は保健師助産師看護師法に改正され、看護の職名については男女の区別なく、看護師に統一されました。

※参考文献:看護師と助産師のジェンダー再編 -戦前と戦後の専門職の形成過程-

2.男女で分類しない制服

学校の制服において、ジェンダーレスの考え方を採用する学校が増えています。例えば長崎県の公立高校の一部では、女子はスカートとスラックスの制服を選択できます。「私服でも冬はズボンが多いので違和感はないです」と話す生徒もいました。

他にも、東京都江戸川区では中学校の3分の1で選択制の制服が導入されています。ある中学校では、スラックスかスカート、ネクタイかリボンを自由に選択できるようです。それまではスラックスを「男子用」、スカートを「女子用」と呼んでいましたが、新たにストレートのスラックスをA型、スカートをB型、丸みを帯びたスラックスをC型と呼ぶなど、ジェンダーレスが広がっています。

※参考文献:“ジェンダーレス制服”導入広がる 学校の「男女分け」に苦しむ生徒も | NHK

3.機内アナウンス「ladies and gentlemen」を廃止

ジェンダー問題が語られるのは男女平等の文脈が多いですが、多様な性のあり方が広がっているためセクシャルマイノリティの方にも配慮したジェンダーレスな取り組みが始まっていますこれまで定番だった機内アナウンスの呼びかけ「ladies and gentlemen」を廃止する航空会社が増加しています。「all passengers」や「everyone」など、あらゆるジェンダーに配慮したアナウンスに変更されています。

また、近年ではサービス登録時などの性別選択欄にもジェンダーレスに対応した変化が見られます。「男性」「女性」の他、「回答しない」「その他」などの選択肢が用意されているのを見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。

ジェンダーにとらわれず自分らしく生きることの大切さ

ジェンダーにまつわる悩みや課題に向き合い、さまざまな取り組みを実践している3名を紹介します。

ジェンダーレスな自分を素直に表現できるようになったKanさん

Kanさんは、セクシュアリティやボディポジティブについてSNSで発信する他、学校・企業での講演活動を行っています。同性愛者であることを自覚したのは15歳の頃でしたが、当時のセクシュアルマイノリティーのイメージは、テレビで見る「オネエキャラ」の人たちだけでした。「男性が好きな僕は、オネエとして生きていかなきゃいけないんだ」と、自己実現に迷っていた経験を明かしています。Netflixの人気コンテンツ『クィア・アイ in Japan!』に出演したことをきっかけに、Kanさんはジェンダーレスな自分を素直に表現できるようになりました。

ダイバーシティ推進のプロジェクトで編集長を務める遠藤祐子さん

遠藤さんは、女性目線で考えるダイバーシティ推進のプロジェクト「MASHING UP」の編集長を務めています。例えば、「女子アナと呼ぶのに、なぜ男子アナとは言わないんでしょう」と遠藤さんは疑問を投げかけます。これは、先に紹介した女性名詞の一つと言えます。さらには「女性活躍という言葉があるのに、男性活躍って言わないのはなぜ?」と問いかけます。

女性活躍と叫ばれて久しい現代。しかし女性だから活躍しなければならないのではなく、ジェンダーにかかわらずどんな人でも「自分の人生を愛して生きられるようになるといい」と遠藤さんは語ります。

「男らしさ」からくる生きづらさを研究する田中俊之さん

大正大学心理社会学部准教授の田中さんは、「男性学」を研究しています。「デートでは男性がお金を多く支払うべき」「男性なら定年まで正社員で働くべき」といった男性に対する固定観念が日本では根強く残っています。しかし、こうしたジェンダーロールに生きづらさを感じる男性は少なくありません。男性だからといって「弱音を吐いてはいけない」「強くあらねばならない」といった考えにとらわれる必要はないと田中教授は語っています。

まとめ

ジェンダーはそもそもグラデーションであり、「男性」「女性」をくっきりと分けることはできません。ノンバイナリー、Xジェンダーなどのジェンダーもあります。ピンクやフリルが好きな男性もいないというわけではありません。しかしながら、社会的・文化的に刷り込まれた「男らしさ」「女らしさ」は知らず知らずのうちに脳に刻み込まれています。こうした無意識の思い込みであるアンコンシャスバイアスは、誰もが持っているものです。とはいえ、ジェンダーにまつわるアンコンシャスバイアスを、無自覚のまま相手に押し付けたり心ない発言を投げかけたりすると、相手に悪影響を与えることになりかねません。ジェンダーレスの考え方が広まり、浸透していった先の未来には、あらゆる人にとって生きやすい社会が待っているのではないでしょうか。

監修者:松阪 美歩

一般社団法人パートナーシップ協会代表理事。会社員、個人事業主を経て20代半ばでマーケティング会社を設立。ジェンダー問題に直面した自身の経験から、「誰もが働きやすい社会の実現」に向け、当協会を立ち上げる。男女の昇進格差や賃金格差の改善に向け調査・研究を行い、ジェンダー平等経営を企業に向け推進する。内閣府SDGs分科会メンバー。「ジェンダー平等SDGs経営」「ジェンダー平等企業は業績が伸びる」ほか各種セミナーを開催。
https://www.gb-work.or.jp/

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