働き方改革とは? 一人一人が多様で柔軟な働き方を自由に選択できる社会へ
日本の労働環境の問題を受け、政府主導で働き方改革が進められています。これまでもさまざまな企業で、働き方改革の施策が講じられてきました。それでもまだ多様な働き方を自由に選択できる社会の実現には至っていません。
企業がどのような働き方改革をしていけば、多様で柔軟な働き方を自由に選択できる社会になるのでしょうか。
この記事では以下5点を見ていきます。
・働き方改革とは? 目的と取り組みを解説
・働き方改革関連法の概要と企業側の課題とは
・雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
・長時間労働の背景と是正の動き
・多様で柔軟な働き方を実現させるには?
働き方改革とは? 目的と取り組みを解説
働き方改革とは、厚生労働省によると、働く場所・時間・環境などの点で多様で柔軟な働き方を「自由に選択」できるようにするための改革です。日本が直面している「少子高齢化による労働者の減少」「働き方に対する価値観の変化」に対して、働き方を選択できる社会を実現し、明るい将来の展望が持てることを目指したものとなっています。
参照元:厚生労働省 働き方改革のポイントをチェック!
働き方改革関連法の概要と企業側の課題とは
働き方改革の施策を実施するにあたり、2018年7月に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)の概要を、企業担当者や労務・人事が押さえておくことが重要です。
各担当者が働き方改革とは何かを理解し把握していなければ、働き方改革の目的がぶれてしまいます。目的がぶれてしまうと「誰のための、何のための取り組みなのか」が不明確となり、企業側と働く人双方のメリットにはならない労働環境をつくってしまう可能性があります。
※この記事では「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」を「働き方改革関連法」と記載しています。
多様で柔軟な働き方を自由に選択できる社会の実現に向けて取り組むのが働き方改革です。働き方改革が多くの企業で進められていく中、LIFULLでは、2020年7月、個人・企業・地域による多方向の交流をこれまで以上に活性化し、新しい場の構築を目指す「LivingAnywhere WORK」という構想を発表しました。LIFULLは、働く場所の自由を提供し、多様なライフスタイルの実現に向けて取り組んでいます。
働き方関連法の概要と3つの柱
働き方改革関連法の概要は次の通りです。
労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずる。
引用:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の概要
働き方改革関連法の概要の中には、3つの柱があります。
雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
長時間労働の是正
多様で柔軟な働き方の実現
3つの柱に沿って労働環境を整備することで、働く人のワークライフバランスの実現に大きく貢献できます。また、働き方改革を推進する企業担当者、労務・人事が正しく解釈して実施することで、企業にとっても大きなメリットとなるのです。
企業側の課題
働き方改革の実現に伴い、企業側で主に3つの課題が生まれています。
一つ目は人件費の課題です。働き方改革の一つとして、同一労働同一賃金があります。これは正規雇用・非正規雇用にかかわらず、同一の賃金を支払うことを義務化する施策です。しかし、同一賃金に対応することで、人件費が増加することが企業側のネックとなってしまう可能性があります。 これまで、責任の有無や待遇条件によって支払う賃金が異なっていたものを同一にして支払うということは、非正規雇用の賃金分が上昇することになります。非正規雇用の人数が多い企業は、人件費負担の増加幅も大きくなるということです。
2つ目に管理職の負担増加の課題です。残業時間の上限(月間45時間)が設けられていることから、時間内に終えられない業務を残業時間の制限規制がない、「管理監督者」という立場の管理職が補うケースも起こり得ます。
「管理監督者」とみなす基準は労働基準法で定められています。
1.労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有している
2.労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有している
3.現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものである
4.賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされている
これらの条件を満たしていなければ、管理監督者とは言えず残業時間に制限があります。
最後は、生産性の課題です。残業時間に上限があるため、既定の残業時間では業務が終わらない場合もあります。時間内に業務が終わらないと、企業全体の生産性の低下を招き、売り上げの低迷につながる可能性があります。課題解決には、一人あたりの業務量軽減などではなく、どうすれば現状の業務を時間内に終えるようにできるかなど、業務プロセスの改善に企業全体で取り組むことが重要になります。
雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
正規社員と非正規社員(短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との基本給や手当などの待遇差を正すべく、雇用形態にかかわらない待遇改革も進められています。正規社員と非正社員で業務内容に違いがないにもかかわらず、給与体系や手当が違うことが問題視されていました。
こうした背景もあり、2021年4月に全ての企業で「パートタイム・有期雇用労働法」が適用されました。この法律により、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」は企業にとって完全義務化されたと言えます。
また、待遇差について非正規社員から事業主に対して説明を求めることが可能になりました。説明を求められた事業主は、その要求に応じる必要があります。
参照元:厚生労働省|【リーフ】パートタイム・有期雇用労働法が 施行されました
長時間労働の背景と是正の動き
日本では、長時間労働・有給休暇取得率の低さが原因の健康被害や過労死といった問題が後を絶ちません。こうした問題を受け、長時間労働の見直しは働き方改革の最優先課題となっています。2019年4月から働きすぎを防ぐために、残業時間の上限が定められました。残業時間の上限に関しては以下の2点が定められています。
- 年間上限360時間
- 休日労働含めて上限月45時間
2点の上限を日ごとで見ると、1日平均約2時間が残業時間の上限となります。これは特別な事情がない限り守らなければいけません。
※一部業種については2024年まで適用猶予があります。
参照元:厚生労働省 働き方改革関連法に関するハンドブック
しかし、ただ時間の上限を守るだけでは、先にも述べたように生産性の低下を招く可能性が高まります。
長時間労働を防ぐ有効な対策方法は企業によって異なりますが、ここでは多くの企業で採用する対策方法を3つ紹介します。
1つ目は、業務の棚卸しです。ほぼ全ての企業で長時間労働の見直しに有効な対策方法の1つ です。一つひとつを洗い出してみて「本当に必要なことなのか」「やらなくても支障がないのでは」と客観的に見ると、重要な業務と省ける業務の整理ができます。
2つ目は、タイムマネジメント不足の解消です。組織の残業時間を正確に把握することから始めると、何にどれくらいの時間を使っているのか?と疑問視するきっかけになり、業務内容や管理体制の改善につながります。
3つ目は、結果を出すまでの「プロセス」に着目することです。これによって、作業効率を上げるきっかけが見つかる場合があります。結果を早く出せる人が「何をどのようにしているのか?」という業務フローの工夫や効率化テクニックを、組織全体で共有することで効率化につながるはずです。
良いプロセスを評価していくと、次第にボトムアップで改善策の提案が生まれやすくなり、組織全体で業務効率化に対する意識が高まるケースも。その結果、労働時間の短縮に結びつきます。
多様で柔軟な働き方を実現させるには?
2019年4月に、「働き方改革関連法」が施行され、全国の企業が長時間労働の見直しや生産性向上を視野に入れたさまざまな取り組みを実施しています。
また、多様で柔軟な働き方を実現するために、企業の取り組みとは別に個人でも働き方改革を実践している人がいます。それは、単に残業時間の短縮や労働生産性の向上といったものだけでなく、「自分らしい働き方とは何か?」を見つめ直し、既成概念にとらわれない生き方を模索した上での、ライフワークバランスを重視した働き方です。
ここからは、企業・個人ができる働き方改革の取り組み、そして多様な働き方の実現に向けた企業のプロジェクトを紹介していきます。
企業ができる働き方改革の取り組み
企業で行う働き方改革の代表的な取り組みとして、テレワーク、フレックスタイム制、常駐型フリーランスについて紹介します。
2020年4月に行われた東京都内の従業員30人以上の企業に対するテレワークの実態調査では、テレワークの導入率は62.7%に上ることがわかりました。
参照元:東京都 報道発表資料 2020年5月11日
しかし、「テレワーク導入のために新たな費用はかけられない」「自社の業務内容ではテレワークを活用できないのでは?」と導入に対して踏みとどまっている企業担当者もいるでしょう。そうした企業のために経済産業省から、IT導入補助金というテレワーク導入をサポートする補助金制度があります。
参照元:©2021 一般社団法人 サービスデザイン推進協議会 IT導入補助金2021
フレックスタイム制は、出社・退社時刻・労働時間を自ら決めて働くことができる制度です。家庭の事情で午前中は家を空けられないといった人でも働く時間を選べるため、仕事とプライベートの両立が可能です。フレックスタイム制は「就業規則等への規定」「労使協定の締結」の条件を満たすことで導入できます。
参照元:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き
常駐型フリーランスとは、フリーランスの人材が企業内に常駐する働き方です。案件ごとに最適なフリーランスをアサインできるのが企業にとってのメリットですが、フリーランスにとっても一番多い悩みを解決できる有効な手法でもあるのです。
実態調査ではフリーランスの一番の悩みは収入の不安定さと判明しています。フリーランスが企業に常駐する働き方は、悩みを解決できる有効な手法となるため、Win-Winの関係性を構築できます。
個人ができる働き方改革の取り組み
企業の取り組みだけでなく、個人レベルでも働き方改革は可能です。価値観をアップデートし、すでに自分らしい働き方を得た2人の当事者を紹介します。
執筆家でありIT批評家の尾原和啓さんは、コロナ禍で日本がリモートワークへシフトする数年前から、オフィスで働かなくても仕事ができることに気がつき、現在では海外など複数の拠点でリモートワークを実践し、生活を送っています。東松寛文さんは、サラリーマンとして勤務しながら世界中を旅するリーマントラベラーとして、自分らしい働き方を実現しています。
多様な働き方の実現を促すプロジェクト
LivingAnywhereは、「『自分らしくを、もっと自由に。』を共創し、実践しよう」をテーマとし、どこにいても人にとって必要なライフライン・仕事・教育などが手に入る世界を目指すプロジェクトです。
そしてLIFULLは、LivingAnywhereの実践を目的としたコミュニティ「LivingAnywhere Commons」を運営しています。このコミュニティでは日本各地に拠点を持ち、個人・企業を問わず会員は拠点を自由に活用して、生活したり働いたりできる環境をつくり上げています。
まとめ
新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、それまで当たり前ではなかったテレワークという働き方が浸透し、働き方改革の推進に再度着目する企業が増えました。
働き方改革の目指すところは、「多様で柔軟な働き方を自由に選択できる社会の実現」です。オフィスに出社することにとらわれず、多様な働き方が認められ広まっていくことで、子育てや介護・趣味・副業などと本業のワークライフバランスを大切にした自分らしい生き方の実現につながることでしょう。
また、働き方改革への取り組みに力を入れる企業は社会的な信頼や評価を得やすくなります。労働環境や制度を見直すことで働きやすい環境が整備されれば、労働生産性の向上だけでなく、ワークライフバランスを重視した自分らしい働き方を望む就職希望者が増えて人財確保がしやすくなるメリットも生まれるのです。
働き方改革をさまざまな形で実現しようとする企業が今後さらに増えていくことで、「働き方を自分で自由に選べる社会」に近づいていくことでしょう。
監修者:大塚万紀子
1978年生まれ。中央大学大学院法学研究科卒業。株式会社ワーク・ライフバランスの取締役/パートナーコンサルタント。自らのマネジメントスタイルを変革してきた過去の経験や、高度なコーチングスキル、コミュニケーションスキルを生かしてさまざまな働き方改革を効果的に遂行。行政組織における働き方の見直しや、地域創生の鍵としての働き方改革促進を担う。
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