性別を決めなきゃ、なんてない。

聖秋流(せしる)

人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。

今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。

ジェンダー差別が社会課題として重要視され始め、メディアへセクシュアルマイノリティのタレントが登場することや、インフルエンサーが自身のセクシュアリティをカミングアウトすることも増えた。

その一方で、自分のセクシュアリティをカミングアウトできず悩みを抱える当事者はまだまだ多い現状にある。実際に身の回りでもジェンダー差別的な発言を聞いたり、カミングアウトしにくい環境ができたりしていることはないだろうか。

もちろん、セクシュアリティに関することだけではない。取り繕って、自分らしさを周囲に表現できない人も少なくないだろう。では、自分らしく生きるとはどういうことなのだろうか? どうすれば自分らしく生きられるのだろうか?

きっかけは、自分が生きやすい世の中をつくるため

自分の性別に違和感を持ち始めたのは中学生の頃だった。

「幼少期から友達は女の子ばかりで、男の子の友達はほとんどいませんでした。特に理由があるわけではなく、男の子が遊ぶドッジボールや鬼ごっこよりも、女の子と部屋でお話したり、一輪車や縄跳びで遊んだりすることが好きだったんです。

中学校に上がると、だんだん男女の区別ができ始めますよね。小学校までは男女混合だった授業なども、男女別が増えます。そのタイミングで自分の性別に違和感を持ち始めました。

例えば、体育の授業で体操服に着替える時、男性の更衣室で着替えることが気まずかったです。中学でも私は女性の友達の中で過ごしていたため、同室で着替えをしている同級生の男性たちも気まずそうにしていました。でも、先生に相談することはできず、結局体育のある日は家から体操服で学校へ行っていましたね」

自分の性別にだんだん違和感を持ち始めた中学時代。先生にも相談できずもどかしい思いをした時もあった。しかし、ありのままの聖秋流さんを否定する人はいなかったという。周囲に恵まれていたために、自分らしさを表現することへのハードルはそこまで高くはなかった。

コンプレックスを解消するためにメイクを始めた高校時代

ありのままの聖秋流さんを表現するために、切っても切り離せないのが「メイク」。メイクに興味を持ち始めたのは、中学3年生の頃だった。
「実は、中学生の頃はコンプレックスだらけでした。自分の顔が本当に嫌いで、中学2年生の頃からはほぼ毎日マスクを着けているくらいでした。周りの友達や姉がメイクでキレイになっていく姿を見て、私もメイクに興味を持ち始め、高校生になってから本格的にメイクを始めました。

アルバイトをして、自分のお金でコスメを買っていましたね。メイクは、友達や姉に教えてもらったり、動画でも簡単に勉強できたりする時代だったので、比較的始めやすい環境だったと感じます」

自分のコンプレックスを解消するために始めたメイクだったが、キレイになることへどんどんハマっていったという。

「当時は芸能人の男性がメイクをし始めていた時期だったので、男性向けのナチュラルなメイクに挑戦していました。当時は満足していたんですが、メイクって本当に恐ろしいもので……どんどんエスカレートしていくんですよね(笑)」

学生時代の聖秋流さん

温かい言葉のおかげで発信を続けることができた

聖秋流さんといえばTikTok。メイク動画や、面白おかしいおしゃべり動画が人気だ。

「もともと、ジェンダーレスについて発信をしたくてSNSを始めました。当時、テレビで多様なセクシュアリティーを発信している人はいましたが、現実ではありのままの自分を表現できない人が多いことについて、身をもって感じていました。だからこそ、若者に身近なSNSでジェンダーレスを発信する人が一人でも活躍すれば、助けられる人がいるんじゃないかな……と感じたのが大きいです。

初めはTwitterで発信をしていました。『勇気をもらいました』とメッセージをいただいたこともあります。私自身も勇気をもらいましたし、本当にうれしかったです」

いろいろなコスメを使ったりメイク動画を見たりして、だんだん技術が身についてきたのか、今のようなしっかりしたメイクになりました」

当初は活動のフィールドをTwitterで展開していた聖秋流さん。現在、メインで活動しているTikTokを選択した理由はなんだったのか。

「私がTwitterで発信していた時期に、私を知ったことがきっかけでメイクを始めた男の子がいたんです。その子から『TikTokを始めてみたら』と勧められたことがきっかけで、TikTokでの投稿を始めました。

実は、TikTokを始めるのはすごく怖かったんです。私の周りは昔からありのままの自分を受け入れてくれる人ばかりでした。家族も友達も、誰一人私を悪く言う人はいません。でも、SNSは大勢の人の目に留まるツールなので、絶対にたたかれるんやろうな……と思いながら始めました。
始めてみると、心ないコメントもありましたが『男の子なの?』という驚きや応援のコメントが多かったんです! そのおかげで、今も発信を続けていられるんだと感じています」

自分らしい生き方=ジェンダーレスクリエイター聖秋流

聖秋流さんは現在、ジェンダーレスクリエイターとして活躍している。
その「ジェンダーレスクリエイター」という肩書がついたのはTikTokを始めたことがきっかけだ。

活動を始めた当初の聖秋流さん

「ジェンダーレスクリエイターと呼ばれ始めたのは、今の事務所に入ってからだと思います。いろいろなメディアで取り上げていただく機会が増え、いつのまにか『ジェンダーレスクリエイター』になっていました(笑)」

SNSでの発信の他に、ジェンダーレスアパレルブランド『Ceci&Ü(セシユー)』の立ち上げなども行っている聖秋流さん。Ceci&Üは、性別によるファッションの既成概念を取っ払い、誰もが自由に自分を表現できるジェンダーレスな服をコンセプトとしているブランドだ。

「私自身が今までメンズの服やレディースの服を着た上で感じたデメリットをなくしたブランドを作りたいという思いがありました。最近では女性がメンズの服を着ることは当たり前になってきましたよね。でも、レディースの服を男性が着ることってほとんどないと思います。

だからこそ、性別の既成概念にとらわれずに楽しむことができるジェンダーレスブランドをつくりたいと思い、Ceci&Üを立ち上げました」

現在、SNS総合フォロワーは95万人超え。大勢の人にジェンダーレスを発信し続けている聖秋流さんの心には、ある思いがあるのだという。

「SNSでジェンダーレスについて発信したのには、周りの人や自分自身が生きやすい世の中をつくりたいという思いがあったからです。実際に、ジェンダーレスクリエイター聖秋流として活動を始めてから、私自身の生きやすさが変わりました。

例えば、私は道を歩いている時や、人が多い場所で話すことが嫌いだったんです。自分の容姿で声を出せば、『あの人って、男? 女?』とすれ違う人に振り返って見られました。見られる側からするといい気がしないですよね。

でも、今はたくさんのファンの方が私のことを知り、応援や共感の言葉をくださいます。だんだんと自分に自信がついて、今では堂々と外で話ができるようになりました」

ネガティブなコメントも自分らしさのために吸収する

ほぼ毎日TikTokで動画を投稿し続けている聖秋流さん。クリエイターとして発信し続けなければならないことにストレスは一切感じないという。

「私はもともと関西育ちなので関西弁がメインですが、TikTokに動画を投稿し始めた当初は標準語で話していました。でも、慣れないことをしているからか、すごく緊張してしまって……。途中から関西弁にシフトしたんです。関西弁だとありのままの自分でいられるし、日常の自分と全く変わらないので、動画を撮るのは苦じゃないです。

インフルエンサーだから動画出さなきゃ!みたいなストレスは全くなく、ただ日常のおしゃべりをしている感覚なので、今の活動はとても楽しいです」

毎日投稿する動画には視聴者から膨大なコメントが来る。聖秋流さんは時間をかけてコメントを全て読んでいるという。心ない言葉にもやっとすることはないのだろうか。

「コメントを全て読むことには意味があると思っています。うれしいコメントは活動の支えになりますし、アドバイスのコメントは次に生かせたりしますよね。悪口のコメントが来ていても、同じ悪口コメントが来ないようにするための糸口になります。

私がTikTokを始めたての頃、自分の眉毛の形をめちゃくちゃたたかれたんですよ。たたかれすぎて、自分の眉毛を気にするようになったのですが、実はそれって悪口に見えてアドバイスだったりしますよね(笑)。そのおかげで今の眉毛があるので、一見悪口コメントに思えるものでも全部読んで、取り入れられるものは取り入れるようにしています」

ネガティブなコメントも自分の力に変える。ジェンダーレスの発信を経て、自分らしさをたくさんの人に伝えてきた聖秋流さん。飾らないありのままの姿を発信していることこそ、彼女が人気者である秘訣なのかもしれない。生まれも性別も関係ない。自分が好きな自分でいることが、ありのままの自分なのだろう。

生物学的な性別は生まれた時に決まってしまいます。社会的にセクシュアリティへの理解が進んでいるといわれる世の中ですが、私たち当事者からすれば「まだ全然理解されていない」と感じる人がほとんどです。そもそも、理解する、しないの境目があること自体がジェンダー差別ではないでしょうか。今、悩んでいる人にとって、ありのままの自分をカミングアウトすることにはとても勇気が必要です。でも、私の経験から言えることは誰だって他人から100%理解されるのは難しいということ。だからこそ、自分らしく生きて、本当に理解し合える友達をつくり、自分の生きやすい人生を過ごしてほしいと思います。そして、カミングアウトという言葉すらもなくなるくらい、多様な生き方が当たり前になればいいなと思っています。

取材・執筆:ともだ
撮影:宮本恭平

聖秋流(せしる)
Profile 聖秋流(せしる)

2000年9月21日生まれ。滋賀県出身。SNS総合フォロワー95万人超のジェンダーレスクリエイター。TikTokでは、関西弁での面白おかしいおしゃべり動画や美容動画を発信。学生時代から抱えていた性別の違和感を解消し、生きやすい世の中をつくりたいとの思いからジェンダーレスクリエイターとしてマルチに活躍している。

TikTok @smile._.0921
Instagram @seshi_smile
Twitter @aaa_littl
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCP8Ly9PUyiAfc4GJxKnXyNw

Ceci&Ü(セシユー)
ブランド公式ECサイト https://ceciandu.com
ブランド公式インスタグラム @ceci.u_official

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