“できない”、なんてない。―LIFULLのリーダーたち―LIFULL HOME’S事業本部FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群

FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群(キョウ イグン) FRIENDLY DOOR

2024年4月1日、ソーシャルエンタープライズとして事業を通して社会課題解決に取り組む株式会社LIFULLは、チーム経営の強化を目的に、新たなCxOおよび事業CEO・責任者就任を発表しました。性別や国籍を問わない多様な顔ぶれで、代表取締役社長の伊東祐司が掲げた「チーム経営」を力強く推進していきます。

シリーズ「LIFULLのリーダーたち」、今回はFRIENDLY DOOR責任者の龔軼群(キョウ イグン)に話を聞きます。

LIFULL HOME'S事業本部FRIENDLY DOOR責任者 龔軼群

中国・上海出身で、5歳から日本に住んでいるキョウ イグン。留学生として来日した、いとこが住まい探しで理不尽な体験をしたことから、住宅弱者の課題に目を向けはじめました。今回は、住宅弱者の課題を事業で解決する「FRIENDLY DOOR」立ち上げの経緯と、当事者への思いについて話を聞きます。

FRIENDLY DOORを運営するメンバーは、シングルマザーやLGBTQ当事者などの住宅弱者に関して課題感を持っている人が集まってくれています。

「外国籍のいとこが入居できない」。憤りから始まったFRIENDLY DOOR

――LIFULLにおけるキョウさんの管掌領域を教えてください。

LIFULLは、サステナビリティ経営を推進しています。さまざまな課題の中から8つの重点テーマを定めて、サステナビリティ課題を設定しているのですが、その一つに住宅弱者の解消があります。私は、外国籍や生活保護利用者、LGBTQ等の住宅弱者に親身になってくれる不動産会社を探してマッチングする「FRIENDLY DOOR」事業責任者をしています。

私は、事業の全体戦略や売上目標の設定やマネタイズサービス改善のための開発マネジメント、住宅弱者の解消に向けて不動産会社やオーナーの理解を促進するセミナー開催などを管掌しています。また、LIFULL HOME’Sの営業担当者と連携して、FRIENDLY DOOR参画してくれる不動産会社の開拓なども行っています。

――FRIENDLY DOORはどのように始まったのですか?

LIFULLに入社した理由と重なるのですが、私は2010年にネクスト(現LIFULL)に入社しました。入社のきっかけは、就職活動中に外国籍のいとこが家探しに困窮している姿を目の当たりにしたことです。いとこは日本語が話せて、生活に困っているわけでもなく、日本人の保証人もいるのに、国籍が違う留学生というだけで入居を断られていました。

憤りを感じていた時にたまたまのご縁でLIFULLを知り、人事部の方に「明るみになっていない入居差別の課題がある」と訴えました。親身に話を聞いて理解を示してくれる人事担当者の姿を見て、LIFULLなら私の価値観を共有できると感じました。

のうえで、「課題を訴えるためには、まずは入居差別があるというファクトを伝える必要がある」と助言されたのです。「そんなこと無理だよ」ではなく、「どのように課題解決をしていくか」というマインドで向き合ってくれる人事部の方と接して、この人たちと一緒に働きたいと思いました。そこで、ファクトを集めるために不動産会社に「なぜ外国籍の人の入居を断るのか」聞いて回ったんです。不動産会社の声を集めた資料をつくって最終面接で社長にプレゼンテーションして、内定をいただきました。

LIFULL HOME'S事業本部FRIENDLY DOOR責任者 龔軼群

――FRIENDLY DOOR事業化までの経緯を教えてください。

LIFULLに入社、新卒メンバー3人で外国人留学生のサポートサービス事業を考えました。この事業を社内の新規事業提案制度「SWITCH」に出して、優秀賞をいただきました。しかし、この提案事業は他部署に引き継がれることになり、私は不動産賃貸領域の営業部に配属されました。それから4年ほど営業職を経験した頃に、入居差別を解消する事業を始めるためには営業職以外の経験が必要だと感じて、企画職に転身しました。企画職としてはLIFULL HOME’Sアプリの開発に携わった後、国際事業部へ異動し、「ボーダレスな住まい探し」をコンセプトに海外進出での不動産ポータルサイト立ち上げに従事しましたしかし、国際事業部の事業計画の見直しを受け、今度はサイトをクローズすることになったのです。私は入社のきっかけとなった入居差別の課題解消という思いを諦めきれず、改めて2018年にSWITCHで事業提案し、入社8年目でようやく事業推進者として、サービス立ち上げにこぎつけました。

現在は、外国籍・生活保護利用者・LGBTQ・高齢者・シングルマザー・シングルファザー・被災者・障害者・家族に頼れない若者・フリーランスの9つのカテゴリーで入居希望者と不動産会社をマッチングするサービスを展開しています。参加してる不動産会社は、5,500店舗まで増えました。

FRIENDLY DOORが不要になる社会へ

――キョウさんが、これからの5年間で取り組みたいことを教えてください。

最終的な目標は、LIFULL HOME’Sに加盟しているすべての不動産会社が住宅弱者に対応してくれる状態にすることです。そうなれば、FRIENDLY DOORというサービスは要らなくなります。そのために直近では、相談できる不動産会社を10,000店舗まで増やす施策を進めています。また、当事者の皆さんが物件探しやすいように「外国籍フレンドリーな物件」「障害者フレンドリーな物件」の一覧ページを用意しています。今後は、検索できる物件数を引き上げる取り組みを進めます。

さらに、当事者向けのサポートサービスを構築中です。例えば、外国籍の方が初めて日本で家探しをする場合、家賃の相場や敷金・礼金など日本のルールを理解する必要があります。また、障害のある方が一人暮らしをする場合は、近くに病院があることが家探しの必須条件かもしれません。

家探しには、家賃相場や初期費用の調べ方、補助金の申請や住替えをサポートする居住支援法人の探し方など、情報を活用する力が必要です。FRIENDLY DOORで、家探しのリテラシーをあげるサービスを提供し、家探しのハードルを下げてから不動産会社にお繋ぎしたいと考えています。

LIFULL HOME'S事業本部FRIENDLY DOOR責任者 龔軼群

――LIFULLは、事業を通じて社会課題解決に取り組む企業グループであることを明示していますが、まさにキョウさんの取り組みは社会課題解決に直結した事業ですね。

そうですね。私はLIFULLに入社してからずっと、生活者にとって住まいの選択の不平等をなくしたいと思って仕事に取り組んできました。課題の解決策を講じて住宅弱者をなくしていくことが私の事業であり、解決すべき社会課題だと思っています。

――今は住宅弱者ではないけれど、環境が変われば誰もが住宅弱者になる可能性があります。キョウさんは、誰もが当事者意識を持つためにどうしたらいいと思いますか?

例えば、ベビーカーを使っている方を見て、車椅子の方をイメージするような目配りだと思います。車椅子とベビーカーは同じような動作が必要で、日常生活をする上で似たようなハードルがあると気がつくか、気がつかないかだと思うんです。暮らしの些細なものごとに目を向けて「おかしいな」と感じたり、いろんな人に出会ってその人の困難に目を向けることからスタートするんです。

また、外国籍の留学生」のようなわかりやすいハードルはなくても、親の介護の課題を抱えているなど、きっと誰もがなにかしらの課題当事者です。自分が抱えるツラい思いから、少しでも他者のツラさを想像していくことが必要だと思います。

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――最後お聞きします。キョウさんの「しなきゃ、なんてない。」は?

「できない、なんてない。」です。私は住宅弱者という社会課題を発見し、これまで他の人があまりやってこなかった領域にチャレンジし、取り組んできました。今の事業も、「ビジネスと社会課題解決は成り立たないのでは」と言われることが正直かったです。でも、やってみたらできました。もし一人でできなかったら、みんなでやればいいと思います。自分ができないことも、他の人と一緒にならできるかもしれません。みんなで方法を見つけることで、社会は変えていくことができると信じています。

住宅弱者の課題は、日本に限ったことではありません。国境を超え環境が変われば誰もが経験する可能性があります。これは社会全体の問題なのです。

取材・執筆:石川 歩
撮影:鹿野 勝

LIFULL HOME'S事業本部FRIENDLY DOOR責任者 龔軼群
Profile FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群(キョウ イグン)

上海生まれ。5歳の時から日本に在住。2010年株式会社ネクスト(現・株式会社LIFULL)入社。営業や国際事業部などの部署異動を経て、2019年からはFRIENDLY DOORの事業責任者に。認定NPO法人 Living in Peaceの代表理事も務めている。

FRIENDLY DOOR https://actionforall.homes.co.jp/friendlydoor
認定NPO法人Living in Peace HP https://www.living-in-peace.org/

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