年齢のせいで夢を諦めないといけない、なんてない。

Instagramのフォロワーは23万人超、YouTubeの登録者は19万人超(ともに2023年4月時点)と注目を集めている芸人・CRAZY COCOさん。36歳の女性ピン芸人で、なんとまだ芸歴は1年余りのオールドルーキーだ。

大学卒業後、商社勤務を経て外資系航空のCA(キャビンアテンダント)に。その後は日本に帰国し会社員として働いていたが、2021年7月に新型コロナウイルスに感染。「後悔のない人生を送りたい」と一念発起し、芸人の道をスタートさせた。CAから芸人への転身、そして35歳からのチャレンジと、はたから見れば異色のキャリアを歩む彼女。人生の岐路に立った時に大切にしている軸や、自分らしい働き方・生き方とは何かについてインタビューするとともに、芸人としての姿を通して伝えたい思いを伺った。

CAの衣装を着たCRAZY COCOさん

CRAZY COCOさんのフォロワーは20代から30代の女性が多いという。同世代の女性といえば、就職・転職・結婚・出産……さまざまなライフイベントがあり、選択を迫られる場面が少なくない。しかし、「やりたいことがあるけれど、一歩踏み出せない」「チャレンジしたいけど、年齢的に自信がない」など、勇気が持てないこともあるはずだ。

CRAZY COCOさんの生き方の原動力になっているのは、「人はいつ死ぬかわからない」という実感を伴った原体験。中学生の時に難病で父を亡くし、その後も母が何度も大病を患うなど、命のはかなさと強さを幼い頃から感じてきているからだという。

チャレンジに年齢は関係ない。
最初の一歩を踏み出せば、道はどんどん開けるはず

「エンターテイナー」には、潜在的に憧れていた

大阪で生まれ育ったCRAZY COCOさん。今思えば、人を楽しませるエンターテイナーには当時から無意識に憧れていたかもしれないという。

「子どもの頃はずっとお調子者で、体を張っていましたね。例えば砂利の坂道ででんぐり返しし出すとか……(笑)。ダンスを習っていたので、人前に立つのは得意だったし、自分の体で何かを表現して、周りに笑顔になってもらうというのが好きだったのかもしれません。学校でも、生徒会長とかはやらず文化祭や体育祭で一番張り切っている女子生徒っているじゃないですか。私はまさしくそのタイプでした(笑)」

大学卒業後は、商社勤務を経てCAに。倍率が高いといわれているCAの世界に飛び込めたのは、“入念な準備”があったからだ。

「大学時代に留学していたのですが、就職先では英語を使った仕事ができなくて悩んでいた際に、外資系CAとして働いていた留学時代の友人から、『面接を受けてみなよ! 絶対CA向いてるよ!』とお誘いがあったんです。

そうはいっても難しい試験なので、準備はめちゃくちゃしましたね。だって、絶世の美人とか、5カ国語をしゃべれる人とか、わんさかいるんですよ。その中で自分が勝てる方向性を考えたら、企業研究しかないと。だからその航空会社の新しい渡航先はどこかとか、今年はいくつエアバスを購入したのかとか、おそらく面接で聞かれないであろうことまで調べましたね。いろんな角度から答えられる自分で臨みたかったんです」

CAと芸人。一見、全く畑の違う職業に見えるが、意外にも話を聞いていくと共通点が見つかった。

「観察力は芸人になっても生きているかもしれませんね。常連のお客さまは名前をできるだけ覚えられるように、特徴を観察していました。それに、機内サービスが終わって就寝時間になっても、15分に1回はお客さまに変わった様子はないか見回りをしなければならないので、少しの変化でも敏感に気付けるようになりました。

あとは、臨機応変さです。年齢や社会人経験も関係しているかもしれませんが、例えばバンコク行きなのに急にマレーシアに着陸するとか、お肉とお魚を提供できるはずの食事サービスがケータリングのミスでお魚しかなかった、とか。そういうのが日常茶飯事なんです。だから番組の収録でイレギュラーなことが発生しても、『新人の割に落ち着いているね』と言っていただけますね」

できる時にできることを。点が線につながった芸人への思い

エンターテイナーになりたかった小さい頃の思い。なぜ「今」、しかも「芸人」というステージにたどり着いたのだろうか?

「2021年の7月に、新型コロナウイルス(以下、コロナ)に感染したんです。当時はやっていた、デルタ株です。ホテルの空き待ちで自宅療養だったんですけど、保健所から健康チェックで電話がかかってきた時、『ちょっと呼吸がおかしいですね。爪の色見てもらえますか?』って言われて。見てみたら爪が真っ青だったんですよ。そこから救急車を呼んでくれて、入院になりました。咳や味覚障害はなかったんですけど、39度5分以上の熱が1週間以上続いて、幻覚を見ていました。

ちょうど同じタイミングで、私の友達の後輩が20代だったんですけど、軽症なのにコロナ感染から2週間で亡くなってしまったというのを聞きました。コロナって本当に怖い病気なんだ、死ぬこともありうるんだ――と思った時に、このままでは自分の人生後悔すると考えたんです」

人はいつどうなるかわからない。命のはかなさは、子どもの頃から身近に感じていた。

「私が2歳の時、父がALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断され、次第に進行して人工呼吸をつかう寝たきりの生活になったんです。私が14歳の時に亡くなって、“ああ、人生って平等じゃないんだ”というのは幼いながらに感じていましたね。

それから母も脳腫瘍や白血病など何度も大病を乗り越えてきているのを見て“は本当にいつ死ぬかわからないから、できる時にできることをやっていこう”と強く思うようになりました。エンターテイナーになりたいという小さい頃からの思いもあったのが、ここで点が線につながったような感覚でした」

芸人を選んだのは、ハードルは高くても賞レースで注目さえされればその世界に飛び込める、早い道だと判断したからだ。実際、2021年の「THE W」(女性芸人No.1を決める決定戦)では初出場にして準決勝進出。その後、吉本興業からスカウトされ、2022年3月から正式に芸人としてのキャリアをスタートさせている。

「素人の挑戦だったので、かなり準備はしましたね。だってネタを作ったこともないし何をやっていいかわからないですから。2回戦に進出したのが240組くらいいたと思うんですけど、全部ネタをチェックしてExcelにまとめて、スタートから何秒で1回目の笑いが起きているかっていうところまで、みっちり分析しました。

毎日練習をして、地元のスタジオを借りたりもして、本番で思いっきりできるように体にネタを刷り込みましたね。緊張の舞台を乗り越えるのは練習量しかないと。これもCAの試験の経験が生きているかもしれませんね」

安定した会社員から、不安定な芸人の道へ。35歳でのキャリアチェンジに不安はなかったのだろうか。

「年齢よりも、“食べていけるか”という不安は正直ありましたね。でも、航空会社の後に転職した会社も、誰もが知っているような大きい会社だったのにコロナの影響で倒産してしまいましたし、仕事に“絶対安定”なんてないんだなと思うんです。だったら好きな仕事をやって、足りない分はアルバイトで稼ぐ方が私には合っている。それぐらいの柔軟さでやっていこうと思えたので不安はないですね」

人生で今が一番若い。まずは何か一つ行動を

何かを始めたいが、一歩勇気を出せない時、どうしたらいいのか。CRAZY COCOさんにコツを聞いた。

「追い込んでしまえばいいんですよ。私は基本的に悩まない性格なので、衝動性があるんだけど(笑)。でもCAを目指す時も、働きながら専門学校に通うのに50万円かかったんですよ。大きなお金ですけど、払ってしまえば元を取るしかなくなってくるんです。始める前は不安要素が多いので、動かない時間が増えますけど、何か一つアクションを起こしてしまえばどんどん行けると思いますよ」

SNSのフォロワーからも、たくさんのメッセージをもらう。彼女はそれをしっかり目に焼き付けているそうだ。

「“社会人2年目になって、転職を考えているけどどうしたらいいかわからない”とか、“やりたいことが見つからない”というメッセージ若い方からたくさん頂くんですよ。でも、『私なんて芸人スタートしたの去年だよ! 35歳だよ!』って思いながら、読んで励みにさせていただいています。みんな、まだまだ時間はあるので、一生懸命目の前のことをやっていたら道は見えてくると思います。

それと、できるかできないかじゃなくて、やるかやらないか。70歳から山登りを始めている人だっているし、年齢のせいにするのは自分で自分にストッパーをかけているようなものだと思うんです。年齢は関係なく、スタートしたら結果が出るよっていうのを、自分の姿を通して伝えられたら光栄ですね」

最後に、今後の目標や目指す芸人像を伺った。

「レギュラーの仕事が増えて、たくさんの人に見てもらえる存在になりたいですね。私は『めちゃイケ』や『はねるのトびら』(※)などを見て育った世代なので、やっぱりテレビで体を張って笑わせられるような芸人になりたいですね。大久保佳代子さんとか、イモトアヤコさんとか、すごく目標としています! 元CA芸人というよりも、1人のお笑い女性タレントとして、みなさんから愛されるような存在になりたいです」

CAや芸人は一見特殊な仕事のように見えるが、話を聞いていくうちに、「一人の女性のキャリアチェンジの物語なんだ」と思えた時、CRAZY COCOさんがすごく身近な存在として感じられるようになった。「面白い」だけでなく「共感できる」存在だからこそ、23万人を超えるフォロワーに支持されるのだろう。これからも、彼女の存在がファンの人生を後押しすることを願うばかりだ。

※「めちゃ×2イケてるッ!」「はねるのトびら」は、どちらもフジテレビ系列で放送していたお笑い番組

人生のチャレンジに、遅すぎることなんてありません。年齢はただの数字で、いつからでもスタートしたら結果が出ると思います。私には、CA時代からInstagramをフォローしてくれている方々がいるんですけど、その人たちはまさに私の人生が変わっていくところを見て、喜んでくださっているんです。素人でも行動一つで生活や人生が変わるんだっていうのを、自分の活動を通して発信していけたらと思っています。

取材・執筆:久下真以子
撮影:片山祐輔

頬杖をつくCRAZY COCOさん
Profile CRAZY COCO

本名・井上徳子(いのうえのりこ)。1986年9月6日生まれ、大阪府出身。大学卒業後、専門商社勤務を経て、外資系航空キャビンアテンダントに転職。2018年末に退職して日本に帰国後もさまざまな職を経験していたが、2021年7月に新型コロナウイルスに感染。「悔いのない人生を歩みたい」との思いから、芸人を目指す。2021年「女芸人№1決定戦 THE W」では初出場で準決勝進出。2022年3月、吉本興業所属。Instagramでは23万フォロワー、YouTubeでは19万超のフォロワーと、SNSを中心に注目を集めているが、テレビでの露出も増加している。

Twitter @CRAZYCOCO2021
Instagram @crazycoco0906
YouTubeチャンネル CRAZYCOCOチャンネル

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