美の基準に縛られる日本人【前編】容姿コンプレックスと向き合うための処方箋
日本人は、海外の人と比べると「自分の容姿に自信がない」と答える人が多いそうです。実際、「理想の体型とほど遠い」「顔のパーツが好きじゃない」など、容姿に対してコンプレックスを感じる人は少なからずいることでしょう。
「外見より中身が大事」という声を聞くこともありますが、それでも人の価値を外見だけで判断する考え方や言動を指す「ルッキズム」にとらわれている人は少なくありません。なぜ、頭では「関係ない」と理解していても外見を気にする人がこれほど多いのでしょうか?
この記事では、容姿コンプレックスとルッキズムについて、以下の4点に焦点を当て解説します。
前編
後編
自分の外見を低く評価しがちな日本人
若い世代に限らず、大人になっても容姿について悩むことは珍しくありません。しかし、私たちはなぜ「見た目」にこだわるのでしょうか。
大手企業のユニリーバが保有するビューティーケアブランド「ダブ」は、世界14ヶ国の10~17歳の少女を対象に「美と自己肯定感に関する」調査を行いました。結果、半数以上が自分の容姿に自信がないことが分かりました。また、日本の10代女性は9割以上が容姿に自信がないと回答しました。(※1)
品川美容外科クリニックが実施した理想の容姿に関する調査によると、容姿に関して理想と現実のギャップを感じることがある方は8割近くいることが分かりました。(※2)
理想の顔に関する質問では、ギャップを感じる部分に「顔のサイズ」や「輪郭」、「鼻」、「肌」といった部位が挙がっていました。芸能人やモデルのような小顔や、筋の通ったきれいな鼻を理想とする女性が多く、自分の容姿とはギャップを感じているようです。
メンタルセラピストの阪本明日香さんは、自身のYouTubeチャンネルの動画で日本人の容姿コンプレックスとルッキズムについて言及しています。その中で、ドイツのリサーチ会社が2015年に実施した「自分の容姿に対する満足度の調査」において、22ヶ国中、日本は最下位というデータがあり、日本が世界で一番自分の容姿に満足していない国という結果だったことを取り上げました。(※3)
このデータから、世界と比較して日本人は自分の容姿にコンプレックスを抱く人が多いということが分かります。
また、「YouTubeに登場する女性は、あまりに自然にブス、デブと卑下している。自分の外見を否定してからメイクをし始める動画ばかり」と指摘し、悲しいことであると発言しています。
YouTubeやその他のSNSに限らず、日常においても他人から外見を褒められると「いやいや、そんなことないですよ」と謙遜する人も多いのではないでしょうか。日本人は、自分の容姿を肯定することを避ける傾向にあるようです。
出典
※1 Girls on Beauty: New Dove Research Finds Low Beauty Confidence Driving 8 in 10 Girls to Opt Out of Future Opportunities
※2 理想の容姿を徹底調査。8割近くが「自身とのギャップ」を感じつつも、半分以上の人は近づくための取り組みはできていない?? | 医療法人社団翔友会 品川美容外科のプレスリリース
※3 Satisfaction with personal looks
容姿コンプレックスから身体醜形障害に陥るケースも
見た目を気にし過ぎるあまり、「醜形恐怖症」という病になって摂食障害に陥り、心と体の不調に苦しんでしまう人もいます。
身体醜形障害とも呼ばれる醜形恐怖症は、「ほかの人から見るとそれほど奇妙には思われないのに、本人は自分の体形がひどく醜く劣っていると思い込み、その結果周囲の人たちに不快感を与えたり、軽蔑されたりしていると思い込んでしまう病的な悩み」と定義されています。(※4)
醜形恐怖症は、顔だけでなく体型も対象に入り、自身の体型に対して歪んだ価値観を持ってしまうため、摂食障害を引き起こすこともあります。
あるテレビ番組の特集に出演した女性は、小学生の時期に自身の体型を気にしはじめ、中学生の頃から摂食障害に苦しんでいたそうです。26歳まで自分の見た目を過剰に気にするルッキズムにとらわれていた女性は、「もっと痩せなきゃ」と、ご飯を食べずに30キロ減量するなど無理なダイエットを続けていました。しかし、あるとき「ぽっちゃりでも幸せに生きている人はいるはず」と価値観が大きく変化し、現在はありのままの自分を受け入れてプラスサイズモデルとして活動しているそうです。
男女問わず、理想の体型に憧れ、ダイエットに挑戦した経験のある方は少なくないでしょう。しかし、健康的な減量ではなく過度な絶食と暴飲暴食などを繰り返すダイエットは体や心に大きな負担を与えてしまいます。
人類学者の磯野真穂さんは、「痩せたい」気持ちそのものが悪いのではないと言います。「問題は『理想体型』そのものの存在ではなく、その体型への欲望に見境がつかなくなってしまうことだと思うんです。その過激さ、過剰さに乗ってしまわないように注意することが、いちばん大事なのではないでしょうか」と警鐘を鳴らします。
ありのままの自分を認める「ボディポジティブ」とは
メディアから発せられる情報やイメージが人々に与える影響は大きく、SNSなどを通じてルッキズムにとらわれる人も少なくありません。しかし、ルッキズムを見直す動きとして、「#ボディポジティブ」とハッシュタグを付けてSNSで発信する女性が増加しました。
「ボディポジティブ」とは、自身や他人の体を批判せず、ありのままに愛そうというムーブメントのことで、海外の俳優やモデルらも、SNSなどを通じて自分に対してポジティブなメッセージを発信しています。
俳優、歌手、モデルとして活躍するセレーナ・ゴメスさんは、心ない人々から度重なる体型批判の言葉を投げかけられてきました。2024年1月、10年前の21歳だった頃のビキニ姿と現在のビキニ姿の写真をInstagramにアップし、「私はパーフェクトじゃない。でも、自分を誇りに思う……ときどきありのままで大丈夫だってことを忘れてしまう」と投稿しました。海外でも、痩せたモデル体型でないと美しくないという、ルッキズム視点での評価は珍しくありません。そうした中でも、このような「今の自分の体型が気に入っている」「ふくよかな体を気にしない」というボディポジティブな価値観でとらえるセレブが増えています。
容姿コンプレックスを克服するには
「容姿が醜い」という呪縛から解放され、コンプレックスを克服するためには、他人と比べずに容姿以外の魅力を見つけたり、自分の心のありように向き合ったりする「自己マネジメント」が大切です。
自身の顔や体を「好きになれない」と一方的に嫌うのではなく、自分自身と対話し、自分にしかない「個性」や「自分らしさ」を見つけてみてはどうでしょうか? コンプレックスだと感じていた特徴が実は強みとなって、短所から長所に変えることもできるはずです。
「自己マネジメントを続けるのが難しい」「自分と向き合うことができない」という方がいたら、容姿コンプレックスによるメンタル不調を防ぐために、カウンセラーに相談するという方法もあります。
外見に対する自信のなさから心を閉ざし生きづらさを感じる人もいるかもしれません。そんなときは、自分一人で解決しようとせず誰かに話して、自分のコンプレックスと向き合い、克服する方法を探ってみましょう。
臨床心理士としてカウンセリングを行っているみたらし加奈さんは、苦しんでいる人に「あなたは一人じゃない。カウンセリングを受ける道があるんだよ」というメッセージを、ネットやメディアを通じて発信しています。みたらしさんは、「心の問題って、扱うことが難しいから専門家がいるんです。一人で抱え込まず、専門家に頼ってください」と常に語っています。
みんなが読んでいる記事
-
2025/02/25なぜ、災害時にデマが起きるのか。│防災心理学・木村玲欧教授「善意のリポスト・転送が、助かる命を奪うかもしれない」
災害時のデマが引き起こすリスクについて詳しく解説しています。感情を揺さぶる巧妙なデマが増加する中、情報の真偽を確認し、防災に備えることの重要性を兵庫県立大学の木村玲欧教授が語ります。災害時に適切な情報活用法を知り、デマ拡散による危険を防ぐ対策を紹介しています。
-
2022/02/15人のために建築物をつくると自然が荒れる、なんてない。浜田 晶則
パンデミックが私たちの生活にあらゆる影響を与えたこの2年間。働き方や日常生活が変化を余儀なくされる中、改めてこれからの「暮らし方」について考えた人は多いのではないだろうか。そんな今、建築を造ることで人と自然を再生し、さらには地方の活性化をも行おうとしている人がいる。建築家の浜田晶則さんだ。浜田さんは、1984年富山県に生まれ、コンピュテーショナルデザイン(※1)を用いた現代的な建築設計が国内外で注目を浴びている。また、デジタルテクノロジーを用いた作品を制作するアート集団チームラボにも建築家として加わるなど、“デジタル”を軸に分野を超えて活躍する。そんな彼が今模索しているのが、これまでになかった形の「人と自然との共生」の在り方だ。2022年秋に向けて設計が進む、自然環境に没入できるアートヴィラ「ONEBIENT 神通峡(ワンビエント じんずうきょう)」をはじめとし、都会と自然との中間に位置する日本全国の里山に、テクノロジーを用いた建築を設計していく予定だ。
-
2024/06/11キャリアの空白は人生にとってのリスク、なんてない。 ―作家・安達茉莉子の人生が示す「本当の自分」との出会い方―安達 茉莉子
安達さんは政府機関への勤務や限界集落への移住、海外留学などさまざまな場所・組織に身を置き、忙しない生活を送ってきた。その中で、「人間が人間であるための心の拠り所」として、言葉と絵で物語を表現する創作活動を続けている。現在では専業作家として活動する彼女の経歴は、どのように紡がれてきたのか。この記事では、安達さんが歩んできた道のりを振り返る。
-
2022/02/22コミュ障は克服しなきゃ、なんてない。吉田 尚記
人と会話をするのが苦手。場の空気が読めない。そんなコミュニケーションに自信がない人たちのことを、世間では“コミュ障”と称する。人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のパーソナリティを務めたり、人気芸人やアーティストと交流があったり……アナウンサーの吉田尚記さんは、“コミュ障”とは一見無縁の人物に見える。しかし、長年コミュニケーションがうまく取れないことに悩んできたという。「僕は、さまざまな“武器”を使ってコミュニケーションを取りやすくしているだけなんです」――。吉田さんいわく、コミュ障のままでも心地良い人付き合いは可能なのだそうだ。“武器”とはいったい何なのか。コミュ障のままでもいいとは、どういうことなのだろうか。吉田さんにお話を伺った。
-
2024/06/25なぜ、私たちは「ルッキズム(外見至上主義)」に縛られるのか|助産師、性教育YouTuber・シオリーヌ(大貫詩織)が実践した“呪いの言葉”との向き合い方
助産師、性教育YouTuberのシオリーヌさんは、ルッキズムの影響もあり、過去に3度の大幅なダイエットを経験しました。痩せることで、周囲から見た目を褒められ、ダイエットはより加速していった結果、摂食障害になってしまいました。今回は、自身の経験に基づいてルッキズムの問題点や対処法を語ってもらいました。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」などの既成概念にとらわれず、「しなきゃ、なんてない。」の発想で自分らしく生きる人々のストーリー。
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」