年相応のファッションや生き方をしなきゃ、なんてない。
年齢などの枠に囚われない、個性的な“カゲキファッション”を楽しんでいる志茂田さん。Twitterフォロワー数は40万人以上にも及ぶ。Twitterなどに寄せられる若い世代の悩みにも、突き放すことなく真剣に向き合い答えている。そんな彼は、絵本の読み聞かせの活動も行う。年齢という枠にとらわれず、ファッションを楽しみ悩みを聞き、絵本で心を動かす。現在、80歳。「2000年3月25日、普通で言えば、満60歳、還暦を迎えましたが、そのときに、ぼくは新0歳になりました」(オフィシャルHPより)。いつだって好きな言葉である『いまが出発点』を胸に、志茂田さんの挑戦は止まらない。
高齢化社会が進む日本。“高齢者はこうあるべき”という既成概念が残る一方で、シニアのライフスタイルも多様化している。今回のコロナ禍においても、「アクティブすぎるシニア」などが話題となった。そもそもの年齢という枠にとらわれる生き方は、果たして正しいのだろうか。
靴下だって組み合わせ自由
ファッションにも年齢は関係ない
「あまり黒やグレーは使いません。派手な色を着ていると、気分が元気になって前向きになれるんです」。タイツが伝線したらあえて切ったり、左右バラバラの靴下を履いたりする。1980年代半ばから、短パン×カラータイツも志茂田さんの定型スタイルだ。
「アメリカ映画の脇役やエキストラのような人に、割と目を引かれましたね。“あの人はどんな格好をしているんだろう?”って。定形を外す着方をしている人に、影響を受けたかもしれません」。独自の“カゲキファッション”を貫く志茂田さんは、自分の“やりたい”にもとことん正直な人だ。
“やりたい”という強い思いはいつの日か形になる
1996年、出版社を立ち上げる。小説家としても数多くの著書を発表してきた志茂田さんは、ショッピングモールでのサイン会も積極的に行っていた。「ショッピングモールの書店は、いい位置に配置されている」ことから、野次馬含め多くの人が集まったという。
「子供とお母さんが一緒にこちらを見ている姿が目立ちました。その光景を見て、この子供たちに絵本の読み聞かせをしようと思ったんです」
母親に絵本の読み聞かせをしてもらった子供の頃の記憶が、ふと蘇った瞬間だった。ただし、その思いから実現に至ったのは1年後。いつものようにサイン会を開催すると、いつになく子供が押し寄せたことがきっかけだった。
「こんなに子供たちがいるのなら、読み聞かせをやらなくちゃ!と思ったんです。書店の方に『10冊ほど絵本を持ってきてください』と、その場で頼みました。そこで読んだのが『三びきのこぶた』。読み始めたら、ざわざわしていた子供たちが、あっという間に静まり返ったんです。“絵本の世界に入ってきた”んですよね。気がつけば、大人も聞き入っている状態。絵本の読み聞かせには、こんな力があるのかと驚きました」
“絶対にやらなきゃいけない”わけではない、けれど“やりたい”という思い。その思いが、現実となる。さらに、子供達の心までも動かした。
「何人かの子供たちが『また来てね』、『感動しました』と声を掛けてくれたんです。大人の方でも『実はとても嫌なことがあって落ち込んでいたけど、聞いているうちに元気が出ました。ありがとうございます』と言って帰られた方もいる。僕自身、心が洗われた気がしました。こんなにみんなが良い気持ちになれるなら、読み聞かせ活動を続けようと心に決めたんです」
この活動には、志茂田さんの奥様も大賛成。早速、次男の下田大気さんが卒園した幼稚園に「ウチの主人が読み聞かせ活動を始めたんです」と話を提案した。すると、他の幼稚園や保育園、小学校へと広がっていく。それ以来、志茂田さんは自身でも絵本を製作している。そしてその語りはフォーマットに縛られない、自由なものだ。
「自作のものを(一語一句)記憶しているわけではない。ただ、ストーリーは頭にある。一生懸命、その言葉を読もうとしなくてもいいと思うんです。絵本の中にある、メッセージが伝われば」
絵本には人の心を動かす大きなパワーがある
こうした活動がテレビや新聞などメディアで取り上げられ「一緒にやりたい」という仲間が一人、また一人と現れた。そして読み聞かせを始めて約1年後、1999年に「よい子に読み聞かせ隊」を結成する。その暮れには、兵庫県西宮市立の瓦林小学校から「読み聞かせをしてほしい」と依頼を受けた。
「4年前の阪神大震災で被災した子どもたちがいっぱいいて、その子供たちの多くがPTSDを持っているとのことでした。夜中に急に悲鳴を上げて飛び起きたり、国道を走る大型トラックの振動で立ちすくんで動けなくなったり……そういった子供達の癒しになればという思いから、声を掛けていただきました」
迷いなく二つ返事で「行きます」と答えた志茂田さん。ただ、どんな絵本を読めばいいかは迷った。志茂田さんが影響を受けたアンデルセンの絵本は、悲しい物語も多い。今回は悲しい話ではなく楽しい話にしよう、そう思っていた。
「日にちが近づくにつれ、いつも通りでいいのではないかと思いました。先入観を持たないでやろう、と」
全学年の児童、保護者、教職員、地域の方々……600人以上の方が集まった。読み始めると、子供も大人も涙ぐむ方が多くいたという。
「例えば、アフリカの小さな子供たちが飢えや伝染病に掛かり、次々に死んでいく。日本の若い医師や看護師も、医療支援で行ってるんですよね。そういう話を絵本にして読み聞かせれば、社会貢献なんて言葉を知らない3歳の子供でも、考えられることがある。“自分も大きくなったら、ああいうことがやりたい”とかね。要するに、社会貢献と同じことを考える。絵本というのは理屈じゃない。読み聞かせて感動すれば、必ず絵本のメッセージは伝わっていくんです」
人それぞれ状況は違うから“寄り添う”気持ちを大事にする
瓦林小学校での経験から“命の尊さ”“生きることの素晴らしさ”をテーマに読み聞かせをすることをモットーに掲げた。そういった生きることへの思いは、SNSでも拡散されている。志茂田さんのTwitterには、多くの人から人生相談が集まるのだ。
「Twitterは、最初は新刊などの告知として使っていました。でもせっかくならそこに自分の生き方や願望を文字にする方が、見る人に伝わるんじゃないかと思ったんです。140文字という限られた文字だけど、その向こう側には大海が広がっている。いろんな人たちに伝わっていく。そうすると、感想から質問まで届くようになったんです」
“自分は世の中に必要ないのでしょうか?”“自分を好きになるためにはどうすればいいんですか?”。人生にまつわる難問の数々。それに対し志茂田さんは、ただ前向きな言葉をかけるわけではない。人それぞれ、置かれている状況は違うから。少しでも、その人に寄り添うことを意識して問いに応える。
「僕は若い時代、今風の感覚になりたいという気持ちや好奇心があるんです。だから一つの質問に対し、勝手に妄想を膨らませてお答えすることもある。自分自身も、年がら年中、自問自答を繰り返しています」
同じ事柄でも、その人の状況や性格によって考え方は異なる。答えは一つではない。
「自分と周りを比較して、自分を責めがちな人が多いと思います。でも、いいじゃないですか。今の自分を認めてあげて。他の人にはできないけどあなたにはできることも、あると思います。78歳の僕が、10代や20代の子に“自分の若い頃は”などと苦言を呈しても仕方ない。彼ら彼女らに一瞬でもいいから、同化するようにしています。僕自身は、悩みはあっても受け入れる。“今の状況がそうなんだから、しょうがないだろ”って。いつももうひとりの人間がそう言ってるんです。“そこから(どうするか)だろ”って」
悩みに対し、確実な答えがあるわけではない。時に思うような結果にならなくも、そこから得られることはあるはずだ。
1940年生まれ、静岡県伊東市出身。志茂田景樹事務所代表取締役、「よい子に読み聞かせ隊」隊長。1980年、小説『黄色い牙』で直木賞を受賞し話題に。その後ファッションセンスやキャラクター性にも注目され、タレントとしてテレビ番組にも多数出演する。現在は童話・絵本を執筆、全国各地の読み聞かせを実施するなど、幅広い社会的活動を行う。
公式Twitterアカウント:@kagekineko
公式Blog:https://lineblog.me/kageki_neko/
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