女性の生き方に「しなきゃ」、なんてない。 ―LIFULLのリーダーたち―LIFULL FaM事業 CEO 秋庭 麻衣
2024年4月1日、ソーシャルエンタープライズとして事業を通して社会課題解決に取り組む株式会社LIFULLは、チーム経営の強化を目的に、新たなCxOおよび事業CEO・責任者就任を発表しました。性別や国籍を問わない多様な顔ぶれで、代表取締役社長の伊東祐司が掲げた「チーム経営」を力強く推進していきます。
シリーズ「LIFULLのリーダーたち」、今回はLIFULL FaM事業CEO 秋庭麻衣に話を聞きます。
連載 LIFULLのリーダーたち
- 第1回代表取締役社長執行役員 伊東 祐司
- 第2回代表取締役会長 井上 高志
- 第3回CLO平島亜里沙
- 第4回執行役員CCO 川嵜 鋼平
- 第5回不動産転職事業CEO國松圭佑
- 第6回LIFULL HOME'S物件情報精度責任者 宮廻 優子
- 第7回LIFULL FaM事業 CEO 秋庭 麻衣
- 第8回LIFULL HOME'S FRIENDLY DOOR責任者 龔 軼群
- 第9回執行役員CPO 羽田 幸広
- 第10回執行役員CTO 長沢 翼
- 第11回LIFULL HOME'S戸建・注文事業CEO、Sufu事業CEO 増尾 圭悟
- 第12回執行役員CFO グループ経営推進本部長 福澤 秀一
- 第13回LIFULL HOME'S CPO、分譲マンション事業 CEO 大久保 慎
- 第14回LIFULL ALT-RHYTHM責任者 宮内 康光
- 第15回LIFULL HOME'S流通・売却事業CEO 古谷 圭一郎
- 第16回LIFULL 地方創生事業CEO 岡林 優太
- 第17回LIFULL Financial代表取締役社長 清水 哲朗
- 第18回LIFULL 取締役 宍戸 潔
- 第19回LIFULL 取締役、グループデータ本部長、CDO 山田 貴士
社内初の産休・育休取得者となった秋庭は、当時、子育てをしながら働く社員がいなかったことに不安を感じ、育休復帰後に子育てと仕事を両立できる社内制度づくりに取り組みました。「子育ても仕事もハッピーに」という秋庭のモットーはキャリアの原点になり、やがてママの就労支援事業「LIFULL FaM」を立ち上げました。ここでは事業を通して成し遂げたい思いと女性のキャリアについて考えを聞きます。
まさに、私のキャリアは出産しなければ思いつきもしなかったことで溢れています。
新卒1年目の妊娠・出産経験は、きっと強みになる
――秋庭さんのこれまでの経歴を教えてください。
ネクスト(現LIFULL)の新卒1期生として入社しました。不動産賃貸領域の営業職に就き、1年後に妊娠して出産を経験しました。私が社内で初めての産休・育休取得者だったため、子育てをしながら働く社員がいないことに不安を感じました。これから産休・育休を取る人が不安を感じない会社にしていきたいと思い、育休から復帰したら、子育てと仕事を両立できる制度をつくろうと考えていました。
復帰後すぐに、LIFULLの全社員に向けて「子育てと仕事を両立する制度づくりに取り組みたい。一緒に考えてくれる人を募集します」と呼びかけました。多くの方に集まっていただき、他社の事例を勉強しながら制度づくりを進めました。結果として、1年ほどで制度の施行まで進めることができました。
――LIFULL FaMは、どのように生まれたのでしょう。
まずは自分の働く会社が子育てと仕事を両立できる環境にしたいと思い、社内の制度づくりを進めました。そのうえで、ゆくゆくはLIFULLだけでなく、世の中の多くの人の子育てと仕事を両立する支援がしたいと思うようになりました。とはいえ、私自身も両立で大変な時期があり、また、思いを事業化するにしても自分の力をつけないと実行に移せないと考えていました。
復帰後は人事部に異動して、人材育成や組織開発、人事サービスなどを経験しました。人事企画グループ長になり、忙しい日々を過ごしていたのですが、このままだと「より多くの人の子育てと仕事を両立するお手伝いをしたい」という思いが流れてしまうと感じたのです。思い切って、社内の新規事業提案制度「SWITCH」に応募しました。
――SWITCHの結果はどうだったのですか?
2011年にSWITCHに応募して優秀賞をいただきました。そこで事業化を進める予定でしたが、会社が初めての減収減益になり、新規事業を立ち上げる雰囲気ではなくなりました。いったん事業化の話が流れて、そこから3年間は人事部のマネージャーとして働きました。2014年に「100社100カ国展開」という事業構想が生まれ、この機に私の事業も進めたいと考えたのです。経営陣が集まる会議にLIFULL FaM事業化の提案を持っていき、LIFULLの子会社化にこぎつけました。
――LIFULL FaM事業の変遷を教えてください。
子会社化した当初は、親同士が子どもに関するスケジュールや写真を共有するアプリを運営していました。ただ、アプリは無料でインストールできて広告収入を得る事業だったため、短期間で成果を出すことができませんでした。会社を閉じようかと考えていた時に、ママたちにマーケティングに関するオペレーション業務を担当してほしいと依頼がきたのです。その業務を請け負ったことから、ママの就労支援という今のLIFULL FaMが立ち上がりました。
現在はLIFULL本社で、地方創生推進事業部の中のLIFULL FaMとして私が事業責任者をしています。東京オフィスの他に、岩手県釜石市・福井県鯖江市・島根県雲南市・宮崎県宮崎市に拠点があり、子連れで働けるオフィスの運営やテレワーク人材の育成を手掛けています。釜石市・鯖江市・雲南市の拠点は自治体と一緒に立ち上げており、自治体事業としてママが子育てを両立しながら働ける仕事を提供しています。
――紆余曲折がありながら、自分の思いを事業化するチャンスを掴み取ったのですね。
20代はバリバリ働くイメージでいたので、新卒の頃には想像もしなかった道を歩いてきました。私は、裁量権の大きい会社で働きたくてベンチャー企業に的を絞って就職活動をしたほどのベンチャー志向でした。当時はITバブル期で、様々なネットベンチャーが立ち上がっていたのです。ネクスト(現LIFULL)を選んだのは、創業社長の井上(高志)の「ビジョンから逆算して事業を考える」という姿勢に衝撃を受けたからです。
妊娠がわかった時、正直なところ「今後、私のキャリアはどうすればいいのか」と考えました。しかし、「自分は、他の人が経験しないことを経験するんだ。いずれこの経験が強みになって生きていけるはずだ」と考えるようにしていました。
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社会的価値を生み出し、公明正大に利益を追求する
――これから5年間で取り組みたいことは?
LIFULL FaMは、現在5拠点で約300名が働いています。今後5年間で全都道府県に拠点を置いて、働くメンバーを1,000人に増やし、売上を10億円まで伸ばしていきます。LIFULL FaMの事業は誰もが「やっていることは素晴らしい」と言ってくれます。しかし、資金がないと事業は続けられません。子会社の代表をしていた時に、資金が足りずに税金が払えないかもしれないという経験をしてきました。LIFULL FaMは、しっかり利益を出しながら社会的価値を生み出して、社会に還元していきたいと強く思っています。
LIFULLとしては、女性の役員・管理職の比率を改善していく必要があると思っています。私は社内初の産休・育休取得者で、当時は周りのメンバーの支援に支えられました。その恩に報いるためにも、私が成果を出して道を切り拓いていきたいです。さらに、社内に限らず日本の女性役員・管理職の比率を上げていく活動に関与したいと思っています。
――女性の役員・管理職を増やすために、どんなことに取り組むのでしょう。
私は新規事業を立ち上げましたが、閉じようかと考える時期がありました。一度失敗したようなものです。でも、失敗するのは当たり前だとも思うのです。周りも「大丈夫だ」と温かい言葉をかけてくれます。しかし、当事者からしたら、資金を出してもらい、事業に全神経を集中させてきただけにツラいんです。今後は、チャレンジ後に事業を持続させるための支援や、失敗した人に寄り添って次のキャリアを応援するような取り組みを通じて、女性管理職の比率改善に貢献していきたいです。
私自身、新規事業を経験して多くのことを吸収し、成長できました。新たな挑戦はキャリアアップの大きなチャンスとなるため、女性の挑戦を支援していきたいです。また、新規事業には失敗がつきもの。失敗しても、経験をその後に活かせるように後押ししたいです。
私は上司に恵まれ、育休後の仕事はルーティン業務ではなく、スケジュールやタスクをコントロールしやすいチャレンジ業務を経験しました。0→1を創り、成功した際には大きな自己効力感を得ることができました。女性は自己肯定感が低いと言われており、これが役員・管理職を希望する女性が少ない理由の一つだと考えています。上司の指導力を育成することで、自己効力感を得られる女性を増やし、結果として女性の自己肯定感を上げていきたいと考えています。
誰もが一番幸せになるために、自分の思いを伝えていく
――LIFULLは、事業を通じて社会課題解決に取り組む企業グループであることを明示しています。秋庭さんご自身は、事業を通してどんな社会課題を解決していきたいのですか?
私の原点は、育休から復帰する時の不安を解決したいという思いです。私自身、子育てと仕事を両立する中で大変なことはたくさんありましたが、良いことも同じくらいありました。例えば、時短勤務でも生産性の高い仕事をする能力、急な休みや早退に備えて周りに助けてもらう関係性を築くコミュニケーション能力など力がついたと感じます。子育てを経験しなければ今の自分はなかったと考えると、子育ては仕事に良い影響を与えています。LIFULL FaMのコンセプト「子育てと仕事をハッピーに!」の通り、子育てと仕事を両立して幸せに働く人が増えるといいと思っています。
――秋庭さんの「しなきゃ、なんてない。」は?
私はいつも、枕詞なしで「しなきゃ、なんてない。」と思っています。例えば、子育てと仕事の両立は100人いれば100通りの方法があります。子育て50%/仕事50%の人もいれば、70%/30%の人もいる。「両立はこうしなきゃ」なんてなくて、自分にとって一番幸せな方法を考えて、追求していけばいいんです。
私自身も子育てを犠牲にして仕事をしたらハッピーにならないし、事業も続けられないと考えて行動してきました。「事業責任者だから、こうしなきゃいけない」ではなく、自分の好きなようにすればいいと思っています。わがままに聞こえるかもしれませんが、妊娠した時も「私はこうしたい」と会社に伝えたのです。
取材・執筆:石川 歩
撮影:白松 清之
株式会社LIFULL 地方創生推進ユニット FaMグループ長。
株式会社ネクスト(現株式会社LIFULL)に新卒で入社し、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」の営業を経験。社内第1号となる産休・育休を取得し、復職後に経営陣に自ら新たな子育て支援施策を提案し、社内制度を立案。時短勤務を続けながら人事部で新卒採用や人材育成を担当し、管理職としてメンバーのマネジメントを経験。
仕事と子育ての両立で直面する問題を解決したい、という強い思いから2014年10月にネクストから100%出資を受けて「株式会社LIFULL FaM」を設立。ママが子連れで働き、スキルアップする「ママの就労支援事業」を運営。現在、東京都目黒区と福井県、宮崎県、島根県にオフィスを展開。2021年4月からLIFULL 地方創生推進部FaMグループとして事業を継続。
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