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STORIES 2020/06/17

LGBTQだから特別扱いしなきゃ、なんてない。

山田 なつみ&杉山 文野

LGBTQをはじめ、すべての人が自分らしく前向きに生きられる社会の実現を目指す「NPO法人 東京レインボープライド」で、共同代表を務める山田なつみさん。新型コロナウイルス感染症流行の影響で初めて開催することになったオンラインイベントで延べ約44万ものアクセスを獲得し、より多くの人にメッセージを届けられる可能性に手応えを感じている。

LGBTQという言葉の認知度は、10年前に比べると格段に高まったが、当事者以外はどこか人ごとのように捉えてしまうことも少なくないだろう。しかし本来は誰もが何らかのマイノリティであり、「多様性」の中で生きているはずだ。そういった思いから、「NPO法人 東京レインボープライド」は昨年、「性的指向および性自認のいかんにかかわらず、すべての人が、より自分らしく誇りをもって、前向きに楽しく生きていくことができる社会の実現」というビジョンを定めた。このビジョンのもと、今後どのような活動をしていこうとしているのか。コロナウイルス感染症の世界的流行による社会情勢の変化で、LGBTQを取り巻く環境はどのように変わりつつあるのか。共同代表を務める山田なつみさん、そして杉山文野さんにお話を伺った。

「一年の中でこの一日だけ、自分が自分らしくいられる」という言葉がショックだった

山田さんはレズビアンの当事者だ。しかし、家族・学校・職場といったまわりの環境に恵まれ、レズビアンであることに悩んだり壁にぶつかったりした経験はないのだという。

「まわりの理解があり、カミングアウトに対して、驚きを見せられたこともありませんでした。ごく普通の中学・高校時代を送り、大学での留学生活を経て就職し、社会人生活を満喫していました」

LGBTQという言葉すら知らなかったほど、山田さんはそうした活動と無縁だった。しかし、ふとしたきっかけで、2011年の年末に行われた、団体名と同じ名称のパレード「東京レインボープライド」のボランティア説明会に参加することになる。同年に当時は任意団体だった「東京レインボープライド」が立ち上がったばかりで、翌年の団体初開催の「東京レインボープライド」に向けての準備が始まっていた。そこで驚きをもって知ったのが、「LGBTQの当事者の多くはこんなに苦労していたのか」ということだった。

「説明会の会場には数十人のボランティア志願者がいましたが、そのほとんどが男性、おそらくゲイの男性で、他のセクシュアリティの方は自分以外、ほとんどいませんでした。説明会後の懇親会では皆、自分が抱えてきたつらい思いや、感じている不便や差別といったことばかり語っていたのです。このときの印象は、『なんてネガティブな団体なのだろう』というものでした。

でもイベント当日を迎えたら、悲壮感を漂わせていた人たちも皆、本当に笑顔で元気で楽しそうに活動していたんです。人はこんなに変われるということに感動を覚えた一方で、ボランティアや参加者から聞いた『一年の中でこの一日だけ、自分が自分らしくいられる』という言葉がショックで。翌日から日常に戻ったら、また自分に殻をかぶって生きていくんだなって。そのときに私は、イベントのボランティアや参加者として来ているLGBTQの当事者が、日常に戻ってもそのまま自分らしくいられるような世の中にしたいと思いました」

それまで団体を運営していたスタッフはゲイが中心。「もっとさまざまなセクシュアリティの方に加わってもらうことで、イベントのコンテンツを多様にしていきたい」という団体側の意向もあり、山田さんは翌年から運営に加わることとなった。

「東京レインボープライド」は年々規模を拡大し、2019年は20万人を動員する。そして同年10月、立ち上げ時から共同代表を務めた山縣真矢さんに代わり、山田さんが全会一致の推薦を受け共同代表に就任する。

「私自身は裏方の方が得意だし、前に出るタイプではないんです。でも、代表になった以上、自分が前に出て発信していかなくてはいけないと思い、日々チャレンジしています。苦手なことに挑戦できる環境を与えてもらい、ありがたく感じています」

引き続き共同代表を務める杉山さんにも、山田さんが共同代表に推薦された背景を伺った。「僕はこれまでも共同代表を務めていたのですが、イージー(山田さんのニックネーム)はずっと、縁の下の力持ちというポジションでした。ミーティングでも積極的に発言するタイプではないんですが、全体のことをよく見ていて誰よりも熱い思いを持っています。代表は、派手な部分も地味な部分もバランスよくこなすことが求められるので、イージーはまさに適任でした」

これまで積み重ねてきた自信が、初のオンラインイベントの成功につながった

山田さんと杉山さんの2人が共同代表を務める体制に移行して初となる「東京レインボープライド2020」は、新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、開催の約1か月前に中止の決定を余儀なくされる。苦渋の決断だったが、代替として4月25・26日に開催したオンラインイベントでは、延べ約44万人のアクセスを獲得することとなった。オンラインイベントを開催したことでこれまでとは異なる可能性に気づき、今、山田さんも杉山さんも、「東京レインボープライド」の今後にますます期待している。

「来年も状況次第ではリアルイベントが開催できない可能性がゼロとは言い切れません。だからこそ、今年、難しい状況でもオンラインイベントに挑戦することが大事だと考えました。リアルイベントしかなかった前回までは、地方在住、土・日曜に仕事がある、周囲にカミングアウトしていないなどの理由で、参加できなかった方がたくさんいらっしゃいました。今年のオンラインイベントでは、そういった方々にもコンテンツを届けることができました」(山田さん)

「これまでも代々木公園の物理的な限界を感じることはありましたが、オンラインまで手が回っていませんでした。今回、リアルイベントが中止となり、オンラインでイベントをやらざるを得ない状況に追い込まれた。追い込まれたことによって、今まで僕たちが積み重ねてきたものがしっかり発揮され、結果として44万人の方にご視聴いただくことができました。これにはすごく可能性を感じています。メッセージをたくさんの方に伝え、LGBTQへの理解を広げていくという目的を考えると、手法はオンラインでもオフラインでもどちらでもいいのだと気づきました。

オンラインイベント開催に至るまでには、『僕たちならできるはず』という思いと『やっぱりダメなんじゃないか』という思いとの葛藤がありました。でも、これまでだって良いときも悪いときも継続してイベントを作り上げてきた。その自信が、今回のイベントをやり抜く力になってくれたと思います。オンラインイベント終了直後から、今まででは考えられなかったようなアイデアがどんどん湧いてきていますし、結果的には良いこと尽くしとなりました」(杉山さん)

しかし、リアルイベントでしか味わえない感動もあるという。

「パレードのときに、皆で『ハッピープライド!』と言いながらハイタッチをするのですが、あの感動はリアルでないと味わえません。ですから、今後も絶対にリアルイベントは必要です」(山田さん)

「リアルイベントで、限られた空間の中に皆で集まって楽しむ良さもあります。ですから、今後はオンラインとオフラインの両方をやることによって、より幅広い方々にアプローチしていきたいと考えています」(杉山さん)

一方で、新型コロナウイルス感染症の流行により、LGBTQの当事者は自分たちの不利な立場について実感させられる機会が増えているのではないかという。

「カミングアウトしていないLGBTQの方が、家族として何十年も一緒に暮らしているにもかかわらず、医療の現場では家族として扱ってもらえなかったという事例をネットニュースで見ました。今回、多くのLGBTQの当事者が、自分の身にこうした問題が起こり得るのだと実感し、改めて危機感を感じています。自分の置かれた不利な状況について気づき、考えるきっかけになるというんでしょうか。現在の状況は、今までLGBTQの理解を広める活動や、国や行政に対して何かを求めるということに関心がなかった当事者の方たちにとっても、自分の置かれた状況を見つめ直し、何か行動を起こすきっかけになるのではないかと思います」(山田さん)

在宅勤務中のオンライン会議で、パートナーと生活していることがばれてしまうかもしれない。万が一同居しているパートナーが感染した場合、自分が濃厚接触者として扱われることで、周囲にLGBTQであることがばれてしまうかもしれない。大切な人の最期に立ち会えないかもしれない。……実際に、インターネット上でもさまざまな不安の声が上がっている。このような不安は、これからの行動の大きな原動力となっていくはずだ。

自分の知っている世界や範囲を越えた先にある感動を知ってもらいたい

「東京レインボープライド」の新たな可能性が見えた今、山田さんが特に取り組んでいきたいのは「人々の意識を変えること」だという。

「私が『東京レインボープライド』の活動を始めた頃に比べると、LGBTQという言葉の認知度が高まり、当事者が普段どんなことで困っているかということも知られるようになってきました。一方で、意識の深いところで理解されておらず、理解がありそうに見える人からぽろっと差別的な発言を聞いてしまい、逆に傷つけられてしまうという場面もあります。だからこそ、私は人々の意識を変えていくことに取り組んでいきたいです。

私が個人的に取り組んでいるのは、当事者以外の応援してくれる人(アライ)を増やすことです。そのために、職場などの当事者以外のコミュニティにいるときにもあえてLGBTQの話題を出したり、まわりの人をイベントに誘ったりしています。その人たちが、そこで得た知識や見たものをさらに自分の家庭や職場などで広げていってくれると思うので。もちろん、『東京レインボープライド』の活動をこれからも毎年続けていくということもとても大事です」

そこには、自分の知っている世界や範囲を越えた先にある感動を、もっと多くの人に知ってもらいたいという思いがある。

「人って自分の許容範囲の中で生きるのは楽じゃないですか。でも、その範囲を越えたところには、自分の知らなかった面白いものがあったりします。それって、人生にも良い影響を与えてくれるんです。自分のキャリアで壁にぶち当たったときに、視点を変えるきっかけになりますから。私が初めて『東京レインボープライド』にボランティアとして参加したときに覚えた感動を、もっと多くの方にも体験していただきたいなと思います」

誰もが「多様性」の中に生きている

団体としても昨年、「性的指向および性自認のいかんにかかわらず、すべての人が、より自分らしく誇りをもって、前向きに楽しく生きていくことができる社会の実現」というビジョンを定めた。LGBTQだけに焦点を当てるのではなく、「多様性」の中に生きるすべての人が自分らしく生きられることを目指している。

「『LGBTQ』や『多様性』という言葉を聞いても人ごとのように思ってしまう方も多くいますが、そんなことはありません。日本を出たら誰でも外国人になりますし、ある日突然、車いす生活になることもあります。今のコロナの状況もそうですが、明日何が起こるかわかりません。ですから、『多様性』というのは『自分でない誰か』のためのものではない。誰もが『多様性』の中に生きているのです。押し付けられがちな『こうあるべき』というものを取っ払い、一人ひとりが自分らしく生きることができ、人の幸せを自分の幸せに思えるような世の中にしていきたいと考えています」(山田さん)

「僕たちはLGBTQというテーマでやっていますが、LGBTQのことだけわかってほしいとは思いません。誰もが何かしらのマイノリティですから、皆の課題に対して皆で取り組んでいきましょうと呼びかけたいです」(杉山さん)

コロナウイルス感染症流行による現在の困難な状況の中で、この価値観はますますあらゆる人に求められるものになっていくと考えられる。

「また、今年のイベントを通しては、大変な状況だからこそ、幸せをシェアするということが大事だと改めて実感しました。イベントテーマは『Your happiness is my happiness 〜あなたの幸せは、私の幸せ〜』だったのですが、当初は、このような状況下で『ハピネス』について語ってよいのか、かなり迷いました。『それどころじゃない』という社会状況の中で、自分たちの権利だけ主張して『ハッピー』と言っているように見えてしまわないかと。
しかし結果的には、『皆さんが感じる幸せ』を出演者の方や参加者にシェアしていただいたことで、イベント開催中の2日間、あたたかい雰囲気に包まれました」(杉山さん)

自己肯定感が高い人を増やすことで、他の人を思いやれる人を増やしたい

最後に、自分らしく生きることができず悩んでいる方、もっと幸せに生きたいと考えている方に向けてのメッセージを聞いた。

『自分らしく生きられない』と思っている自分自身を、自分らしさとして認めてあげてほしいと思います。自分らしさと言いながら、どこかの誰かの成功事例と比較して、理想と現実のギャップに苦しむというのが一番つらいと思うんですよ。認めたくない自分の情けない部分や嫌な部分を受け入れるのは苦しい作業ではありますが、自分で受け止めてあげれば、次が見えてくるんですよね。

だから、一番いいのは自分と友達になってあげること。友達が何か失敗して、『自分なんて生きる価値ない』と言っていたら、『そんなことないよ。お前だっていいところあるじゃないか』って声をかけるはずなんです。その言葉を、自分自身にもかけてあげる。自分とうまく付き合えるようになると、他者ともうまく付き合えるようになります。良いことも悪いことも含めた、今の自分の立っている位置をまっすぐに確認するということが、自分らしさの第一歩なんじゃないかと思います」(杉山さん)

「自分らしくというのは、コンプレックスや悩みがある程度取り除かれている状態だと思うんです。自己肯定感が低いと余裕が持てません。だから私は、その方法をまだ確立できてはいませんが、自己肯定感が高い人を増やしていきたいと考えています。LGBTQに限らず、すべての人が自分らしく、前向きに生きていける世の中にしていきたいです」(山田さん)

どんなに小さいことでも、自分がしたことを褒めてあげてほしいと思います。自分を認め、心に少し余裕が生まれると、他の人のことを思いやれたり、助けたいと思うようになったりしますから。他の人を思いやれる人が増えていくと、だんだん世の中が良くなっていくはずです。

編集協力/IDEAS FOR GOOD

Profile 山田 なつみ&杉山 文野

山田 なつみ
特定非営利活動NPO法人東京レインボープライド 共同代表理事。
2013年よりNPO法人東京レインボープライド運営スタッフとして活動を開始し、2019年10月に共同代表理事に就任。普段は会社員として働いている。

杉山 文野
特定非営利活動NPO法人東京レインボープライド 共同代表理事。
日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。現在は1児の父として子育てにも奮闘中。

STORIES 2020/06/17 LGBTQだから特別扱いしなきゃ、なんてない。