年齢による差別「エイジズム」の代表例や対策・取り組みを解説

総務省によると、2023年9月15日時点での総人口に占める高齢者の割合は29.1%と過去最高に達しました。日本の高齢者人口の割合は世界で最高と言われています。高齢者を含め、一人一人が生き生きと活躍するためには、高齢者に向けられるエイジズムの克服が求められます。

この記事では下記の4点を解説します。

  • 世界中で問題となっているエイジズム(年齢差別)
  • さまざまな場面で見るエイジズムの例
  • エイジズム対策や高齢者雇用の事例
  • エイジズムを払拭するには?

※出典:総務省 統計トピックスNo.138 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-

世界中で問題となっているエイジズム(年齢差別)

「エイジズム」とは、年齢に基づいたステレオタイプや偏見、差別のことです。

2016年10月1日の国際高齢者デーに「Take a Stand Against Ageism(エイジズムに立ち向かおう)」と呼びかけがなされ、国連本部で会議が開催されました。その場で、経済社会局高齢化担当ローズマリー・レーン氏が答弁しましたが、この呼びかけの背景には、世界的な高齢化があります。

※出典:Taking a stand against ageism | United Nations

2016年において、世界人口の中で60歳以上の人口は約6億人に達し、2030年までに14億人に達すると予想されていました。世界的に高齢化が進む一方で、エイジズムが根強く存在し、高齢者の尊厳を傷つけ、疎外し、孤立させている現状があるのです。

2019年に米国で50~80歳の男女2,035人を対象に実施された調査では、9割以上の高齢者が「エイジズムを経験したことがある」と回答しました。米国に限ったことではありませんが、エイジズムの根底には、人種差別や性差別と同様、根深い固定観念があることが分かります。

※出典:Experiences of Everyday Ageism and the Health of Older US Adults | Geriatrics | JAMA Network Open | JAMA Network

例えば、米大統領ジョー・バイデン氏は2023年に81歳になり、大統領の最高齢記録を更新しましたが、米紙ニューヨークタイムズなどが発表した世論調査では71%が「大統領として年を取り過ぎている」と回答しました。

※出典:Trump Doubles Lead Over DeSantis In 2024 GOP Primary Race, Quinnipiac University National Poll Finds; 65% Of Voters Think Biden Is Too Old For Second Term | Quinnipiac University Poll 

また、エイジズムの別の例として、60歳でゴールデングルーブ賞を受賞した俳優のミシェル・ヨーは授賞式前のインタビューで「年を取れば取るほど、能力より年齢で見られるようになってしまう」と答えました。

年齢に基づいて人を評価してしまう傾向は誰もが無意識のうちに持っており、それが「差別」とは気付かないほどです。年齢をどう見るべきなのかに関して、エイジズムに関する多くの著作がある米作家アシュトン・アップルホワイト氏は「加齢とはニュートラルなもので、全ての人間が経験していること」であり、「年齢の概念は中立であることが理想である」と述べます。

米国をはじめとして、エイジズムに対する問題意識は高まっていますが、日本のメディアで報じられることは決して多くはありません。

さまざまな場面で見るエイジズムの例

エイジズムは決して高齢者だけを対象にした差別ではありません。ここでは、若者も含め、年齢に基づいて相手に偏見を持ってしまうエイジズムの具体例を取り上げます。

高齢者へのエイジズム事例

少子高齢化が進むことで、高齢者雇用が増えている企業は少なくないでしょう。しかし、高齢者一人一人の能力や経験、スキルなどを考慮することなく、年齢だけを基準にして「あの人は高齢だから、新しい仕事は任せられない」と決定したり、そうした偏見に基づいて接したりするなら、それはすでにエイジズムである可能性が高いでしょう。あるいは、看護や介護の現場で高齢者に対して「赤ちゃん言葉」で話しかけたり、子ども扱いしたりすることもエイジズムの一つと言えます。

メディア上にもエイジズムは見られます。例えば、米イェール大学に在籍する経済学者、成田悠輔氏が「僕はもう唯一の解決策は、はっきりしていると思っていて、結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなのしかないんじゃないかな」とコメントし、米国をはじめとして多くの海外メディアの批判にさらされました。

※出典:A Yale Professor Suggested Mass Suicide for Old People in Japan. What Did He Mean? – The New York Times

SNSのハッシュタグなどで頻繁に用いられる「老害」という言葉も高齢者のネガティブな側面をひとくくりにするエイジズムの表れです。

エイジズムには、年齢を理由に差別される「否定的エイジズム」と、年齢ゆえに優遇される「肯定的エイジズム」がありますが、それらが社会制度設計に入り込むこともあります。例えば、高齢者の免許証返納問題は、個人の能力に関係なく一定の年齢で区切りをつけるという考え方であり否定的エイジズムですが、医療費や交通機関の無償化・シニア割は肯定的エイジズムと言えるでしょう。

若者へのエイジズム事例

高齢者に対するエイジズムに比べると注目されることは少ないかもしれませんが、若者に対するエイジズムも存在します。

例えば、個々の能力や背景ではなく、年齢だけに基づき「最近の若い者は根性が足りない」「若い親に子どものしつけができるわけがない」などとひとまとめに評価することはエイジズムの一種です。

また、職場におけるエイジズムとして、何気なく発する「若いから何でも許されていいよね」「その年でまだ結婚していないの?」「〇歳なのにまだ役職もないの?」などの言葉もエイジズムとして認識すべきでしょう。

「子どもは働けない」という既成概念にとらわれず、12歳の時に親子起業した加藤路瑛さん。起業に対する批判も気にせず、既成概念すら超越した視点で社会を見据えています。自分らしく働き、挑戦しにくい社会を変えていこうというチャレンジ精神を持つ加藤さんのストーリーはこちらです。

エイジズム対策や高齢者雇用の事例

エイジズムは私たちの意識に根深くある偏見の一つであり、社会全体がエイジズムを克服することは決して簡単なことではありません。しかし、企業単位で変革はすでに始まっています。

その一つはシニアの活躍を促進する制度の導入です。企業がシニア職員を対象にリスキリングやスキルトレーニングのサポートをし、新しいキャリアへの挑戦を後押しすることで、高齢者自身を含め、職場全体の意識改革を期待できます。

経済産業省によると、リスキリングとは“新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること”を指します。経験を積んだ高齢者がさらに職場での新たな業務を担えるよう、ITスキルを含めてサポートすることが求められるでしょう。

※出典:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流

日本社会全体の労働人口が減少し、どの業界でも人手不足が常態化しています。その課題に対する解決策として高齢者の採用が実を結んでいるケースもあります。

例えば、警視庁が発表した2022年の警備業の概況によると、年齢別では60歳以上の警備員が約5割に上りました。また、岐阜県のセントラル建設株式会社では、2018年11月に定年・継続雇用制度の改定を実施し、60歳の定年を65歳に、65歳までの継続雇用を70歳までに引き上げました。また同社では75歳の警備アルバイトも活躍しているとのことです。

※出典:令和4年おける警備業の概況 警察庁
※出典:シニア活用企業事例集 厚生労働省

海外の事例では、オーストラリアで複数の拠点を持つ広告エージェンシー「Thinkerbell」は、応募の条件が55歳以上の「Thrive@55」と呼ばれるプログラムを立ち上げました。8週間の有償インターンシップを提供するこのプログラムは、広告業界で働く人のうち、50歳以上の人の比率はわずか5%という現状を踏まえ、エイジズムを是正したいという狙いがあります。

※出典:Thinkerbell launches Thrive@55; the internship program that’s only available to people aged 55+ – Campaign Brief

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エイジズムを払拭するには?

今後ますます高齢化が進む日本社会において、私たちはどうすればエイジズムを乗り越えられるでしょうか?

前出のエイジズムの専門家であるアシュトン・アップルホワイト氏は「高齢化社会それ自体が問題という考えは極めて年齢差別的だ。年を取ることそれ自体は問題ではない」と述べています。

高齢化が進む社会をネガティブに捉えがちですが、高齢化に伴う問題とプラス要素の面を見ることも忘れてはならず、その両面を総合的に見ることが重要です。

高齢化社会を語る時、私たちの多くは「高齢者=支えられるべき存在」として捉え、「負担」とみなしてしまう傾向があります。しかし、経済産業省によると、高齢者の2015年の体力・運動能力を2001年と比較すると、この10年強で約5歳若返っています。また、歩行速度についても2006年までの10年で約10歳若返ったとのデータもあります。さらに、70歳以降まで働くことを希望している高齢者は8割にも上るのです。

こうした調査結果をもとにすると、高齢者を一律に「支えられるべき存在」と見るべきではなく、むしろ高齢者も支え手になれることを前提にし、就業機会や地域社会における活躍の場を提供していくべきでしょう。

それに加えて、エイジズムが誰の中にも存在する固定観念であることを認識しましょう。人種や性別と同じように年齢に関する固定観念も幼少期に形作られることから、親や教育関係者など「教える側」の意識改革が求められます。

出典:2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について 経済産業省

まとめ

日本社会において今後も高齢者が増え続けることは避けられません。しかし、その現状をどのように受け止めるかは私たち次第です。年齢というバイアスで相手を偏って見るエイジズムを乗り越え、一人一人の能力や個性に向き合い、お互いを尊重し合える社会の実現に近づくための取り組みが必要でしょう。

執筆:河合 良成

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