年齢による差別「エイジズム」【後編】代表例や対策・取り組みを解説
総務省によると、2023年9月15日時点での総人口に占める高齢者の割合は29.1%と過去最高に達しました。日本の高齢者人口の割合は世界で最高と言われています。高齢者を含め、一人一人が生き生きと活躍するためには、高齢者に向けられるエイジズムの克服が求められます。
この記事では下記の4点を解説します。
前編
後編
※出典:総務省 統計トピックスNo.138 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-
エイジズム対策や高齢者雇用の事例
エイジズムは私たちの意識に根深くある偏見の一つであり、社会全体がエイジズムを克服することは決して簡単なことではありません。しかし、企業単位で変革はすでに始まっています。
その一つはシニアの活躍を促進する制度の導入です。企業がシニア職員を対象にリスキリングやスキルトレーニングのサポートをし、新しいキャリアへの挑戦を後押しすることで、高齢者自身を含め、職場全体の意識改革を期待できます。
経済産業省によると、リスキリングとは“新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること”を指します。経験を積んだ高齢者がさらに職場での新たな業務を担えるよう、ITスキルを含めてサポートすることが求められるでしょう。
日本社会全体の労働人口が減少し、どの業界でも人手不足が常態化しています。その課題に対する解決策として高齢者の採用が実を結んでいるケースもあります。
例えば、警視庁が発表した2022年の警備業の概況によると、年齢別では60歳以上の警備員が約5割に上りました。また、岐阜県のセントラル建設株式会社では、2018年11月に定年・継続雇用制度の改定を実施し、60歳の定年を65歳に、65歳までの継続雇用を70歳までに引き上げました。また同社では75歳の警備アルバイトも活躍しているとのことです。
※出典:令和4年おける警備業の概況 警察庁
※出典:シニア活用企業事例集 厚生労働省
海外の事例では、オーストラリアで複数の拠点を持つ広告エージェンシー「Thinkerbell」は、応募の条件が55歳以上の「Thrive@55」と呼ばれるプログラムを立ち上げました。8週間の有償インターンシップを提供するこのプログラムは、広告業界で働く人のうち、50歳以上の人の比率はわずか5%という現状を踏まえ、エイジズムを是正したいという狙いがあります。
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エイジズムを払拭するには?
今後ますます高齢化が進む日本社会において、私たちはどうすればエイジズムを乗り越えられるでしょうか?
前出のエイジズムの専門家であるアシュトン・アップルホワイト氏は「高齢化社会それ自体が問題という考えは極めて年齢差別的だ。年を取ることそれ自体は問題ではない」と述べています。
高齢化が進む社会をネガティブに捉えがちですが、高齢化に伴う問題とプラス要素の面を見ることも忘れてはならず、その両面を総合的に見ることが重要です。
高齢化社会を語る時、私たちの多くは「高齢者=支えられるべき存在」として捉え、「負担」とみなしてしまう傾向があります。しかし、経済産業省によると、高齢者の2015年の体力・運動能力を2001年と比較すると、この10年強で約5歳若返っています。また、歩行速度についても2006年までの10年で約10歳若返ったとのデータもあります。さらに、70歳以降まで働くことを希望している高齢者は8割にも上るのです。
こうした調査結果をもとにすると、高齢者を一律に「支えられるべき存在」と見るべきではなく、むしろ高齢者も支え手になれることを前提にし、就業機会や地域社会における活躍の場を提供していくべきでしょう。
それに加えて、エイジズムが誰の中にも存在する固定観念であることを認識しましょう。人種や性別と同じように年齢に関する固定観念も幼少期に形作られることから、親や教育関係者など「教える側」の意識改革が求められます。
※出典:2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について 経済産業省
まとめ
日本社会において今後も高齢者が増え続けることは避けられません。しかし、その現状をどのように受け止めるかは私たち次第です。年齢というバイアスで相手を偏って見るエイジズムを乗り越え、一人一人の能力や個性に向き合い、お互いを尊重し合える社会の実現に近づくための取り組みが必要でしょう。
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執筆:河合 良成
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