高齢だからおとなしく目立たない方がいい、なんてない。―「たぶん最高齢ツイッタラー」大崎博子さんの活躍と底知れぬパワーに迫る―
大崎博子さんは70歳まで現役で仕事を続け、定年後は太極拳、マージャン、散歩など幅広い趣味を楽しんでいる。しかもパソコン操作も自分の手でこなし、Twitterのアカウントを10年以上前に取得。今や20万人以上のフォロワーを持っている(2023年5月時点)。「たぶん最高齢のツイッタラー」と自称し、前向きにアクティブな毎日を送っている。2023年で91歳の大崎さんはやりたいことはすぐに挑戦するし、今も自分の足で行きたいところに歩いて行く。大崎さんの底知れぬパワーの原動力について伺った。
内閣府が公表している「令和3年版高齢社会白書」によると、65歳以上で一人暮らしをしている人の割合は、2015年時点で男性約192万人、女性約400万人となっている。今後も高齢者の一人暮らしは増加すると見込まれている。
“91歳で、一人暮らし”と聞けば、「きっと寂しい老後を過ごしているのだろう」とか「老人ホームに入らなくて大丈夫?」「年金暮らしで、子どもや孫に迷惑をかけないようひっそりと生活しているのだろう」というイメージを持つかもしれない。
2022年に出版された『89歳、ひとり暮らし。お金がなくても幸せな日々の作りかた』で取り上げられたのは、公営住宅で一人暮らしをする大崎博子さん。ごく普通の“おばあちゃん”の、何げない生活風景の写真と自身の生き方や価値観をエッセイのようにつづるタレント本のような作りだ。
実際に大崎さんに会うと、その明るくはつらつとした様子は若い人にも全く負けておらず、「高齢女性の一人暮らしってこんなに気ままで、幸せに満ちあふれているのか」と驚く。大崎さんの明るさと元気の秘訣、生きる力について聞いた。
※出典:3 家族と世帯|令和3年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府
年齢は関係ない。私はわたし。健康に気をつけて、好きなことを楽しみながら毎日、充実して暮らしたい
パソコンを始めて世界が広がった
大崎さんの一日は、朝5時半に目覚め、7時過ぎに出かけることからスタートする。近くの公園で太極拳をするためだ。極寒の真冬に気温がマイナスになっても休まない。
「太極拳は始めて8年半くらいになります。風邪ひとつひかないのは、鍛えているおかげかもしれませんね。91歳でやっているのは、私だけ。1時間の太極拳が終わったら、その後は2~3人の友人と公園を散歩するんですね。そうするとだいたい8,000歩近く歩くことになるから、健康維持のためのこの日課は欠かせないんです」
今はいろいろなチャレンジをして生活を楽しんでいる大崎さんだが、以前は仕事が忙しく、趣味なども特になかったという。60歳くらいの時に「お母さん、何か趣味を見つけて」と娘さんから言われた。今はまだ仕事があるからいいけれど、定年後はどうするのと問われて、何か趣味を探さないと、と思った。
その後、娘さんはロンドンへ留学。そのまま現地で就職して結婚し、大崎さんは、一人暮らしになることが決まった。そこで娘さんからパソコンをすすめられた。
「娘はロンドンから毎日のように安い回線を使って電話をかけてくれました。でも、いくら安くてもお金はかかりますね。スカイプやFaceTimeの電話なら無料だしパソコンでもやってみたら?って言われて。パソコンなんて触ったことがなかったけれど、やってみようかなという軽い気持ちで始めました」
しかし、大崎さんは機械オンチ。パソコンのことは何もわからなかったので、どこか教室に通おうと考えた。ちょうど銀座のアップルストアで『Macを買えば1年間通い放題9800円』という教室が開かれており、Macのパソコンを買った。
「娘にもすすめられて、アップルストアの教室に通い始めたんです。そこで友達ができたから、結局は3年も通っちゃって(笑)。この教室に3年も通ったおかげで、パソコンやタブレット、スマートフォンまで使いこなせるようになりました。費用を気にすることなく娘と通話できるようになったし、YouTubeで大好きな東方神起の動画も思う存分楽しめるようになって、世界が広がったんです」
一番大事なのは健康。そしてきれいに年を重ねたい
常に前向きな大崎さんが気をつけているのは、やはり健康。それは一人暮らしであることが大きな要因だという。
「娘と同居していたら、『世話になればいいか』と頭の片隅で考えてしまうと思います。親子だし、放っておかないだろうと。でも、娘はロンドンにいるので何かあってもすぐに来てもらえない。だから自分自身で守っていかなければならないと肝に銘じています」
歩くことだけでなく、食事にも気をつけている。基本的に自分が食べたいものを食べるが、野菜を必ず入れるようにしている。夕方になると缶ビール1本の晩酌を、ゆっくりと時間をかけて楽しむ。そのために酒のさかなをそろえるが、少しずついろいろバラエティーに富んだお料理を並べるのが、健康にいい食事になっているという。
「今の社会は、年を重ねることをネガティブに考えがちでしょう。でもね、誰でも年を取るから、私は極端に怖がってはいないんです。ただ、どうせならきれいに年を取りたい。『もうこの年齢だからいいだろう』とは思わないようにしています。
例えば、外見ですね。髪の手入れを怠ったり、適当な洋服を着たりしない。それが他者へのマナーだと思うんです。だから、近くのスーパーに行くにも素顔では行かないの。最低限、アイラインと眉を描いて出かけます。
本を出版してから、知らない人から声をかけられることが多くなって。適当な身なりをして、本に載っていたイメージとかけ離れていたら、相手の方にも申し訳ないって思っちゃって(笑)。『90歳でも小ぎれいだったよ』と言われたいので、ちょっとだけメイクにも気をつけています。小さな気遣いは大事です」
ファッションもしかり。黒を着てはダメと娘さんに言われているので、ピンクやパープルなど発色のいい色を着るようにしている。
「昔から高齢の人は派手な色をあまり好まないように思います。年寄りらしく、年相応で目立たないのが美徳のように育てられてきたからじゃないでしょうか。でも、私はそうは思いません。好きな色、きれいな色を着ると気分が違うんです。これから生きるなら、人の目を気にするのではなく、自分が良ければいいと割り切ったっていいじゃないですか」
寂しくなった時に気分を変える方法を見つけておく
アクティブな大崎さんにも寂しい、孤独だと感じられることはあるのだろうか。
「たまにはね。そういう時はNetflixを見ます。そこで気分転換して。韓流ドラマのドロドロの愛憎劇なんかを見ていると、寂しい気持ちなんて『もういいか~』と思ってしまうの(笑)」
2年くらい前から好きな韓国のグループBTSの曲を、タブレットを使ってYouTubeで聴くのも楽しみだという。また、娘さんにすすめられて始めた趣味の一つであるTwitterをやっていると寂しくない。
「2011年に始めた頃はあまり興味がなくて、ほとんどフォロワーもいませんでした。でも、東日本大震災でロンドンにいる娘と電話がつながらずに困ってしまって。そんな時に、唯一の連絡手段がTwitterでした。そこで、Twitterの存在を見直したんです」
以来、Twitterのフォロワーは順調に数を伸ばし、20万人を超えている(2023年5月時点)。
「フォロワーが20万人以上いるので、何かをツイートすると必ず返事が来ます。『おはよう』と書いただけで、返事がいっぱい届くんです。だから寂しい時は何か答えが返ってくるようなツイートをします。そうするとたくさん返信があるので、それを読んで、またそれに返事を書いていると寂しさはどこかに行ってしまいますね」
自分から外に出て求めないと、人とのつながりは生まれない
私たちは年を重ねるほどに世間の柵のようなものにとらわれて、なかなか行動的になれない人も多い。しかしそれは、家族がいるからでもあると大崎さんは話す。
「朝起きたら汗をかいていて、シャワーを浴びたいなと思っても、家族がいたら一人でシャワーなんて浴びにくいでしょう。家族との交流と一人暮らしの気楽さは全く別物だと思いますが、今は一緒に暮らす家族がいないので一人でも楽しく過ごせる方法を自分で探すしかないですね。
とにかく男性も女性も外に出てみることをおすすめします。例えば、毎日同じコースを歩くだけでもいいんです。同じ時間に歩いている人がいたら、その人とまずあいさつして、声をかける。次からはもうお互いにあいさつはできるようになりますね。次は立ち止まってちょっとしゃべる。その次はその人の友達も加えて輪を広げていく。そうすると、うちにいるより外にいる方が楽しくなってくるかもしれないですよね。
毎日歩きたくなる。その人に会ってあいさつしたい、しゃべりたいと思うかもしれない。そういうことがとても大事ですね」
与えられるのを待っていても何も起こらない。とにかく外に出てみることを大崎さんはすすめてくれた。
2022年に発売した著書が好評で、2023年1月に2冊目『90歳、ひとり暮らしの知恵袋 お金をかけない素敵な毎日の過ごし方』が出版された。
人生100年時代をどう生きていくか、早めに考えておくことが大事
「人生100年時代」といわれるようになり、この言葉が未来への希望と、老後の不安を多くの人に与えている。大崎さんは、この人生100年時代をどのように捉えているのだろう。
「定年も延長されて、70歳まで働かないと生活できないような『人生100年時代』は、もうすぐそこに来ているように思います。その時に自分がどうやって生きていくかというのを、ある程度の年齢になったら考えておくと安心できるんじゃないでしょうか。70歳で定年間近になったら、自分のこれからの歩く道を考えて生活をしないとね」
今は若くても誰もがいずれ同じように年を取り、老いを実感する日が必ず訪れる。そうなる前に、きちんと前を見据えて自分の行く末について考えておく必要がある。大崎さんのような希望の光になる先人の背中を見て、前向きに好奇心を持ち、人生を歩んでいくことができれば、年を取ることも怖いことではなく素敵なことだと思えそうだ。
取材・執筆:村田泰子
撮影:内海裕之
1932年茨城県生まれ。2DKの都営住宅で一人暮らし。ブライダル関連のファッションコーディネーターとして70歳まで働く。娘のすすめで78歳の時にパソコンを購入。2011年に始めたツイッターが幅広い世代から支持を得て話題に。自著に『89歳、ひとり暮らし。お金がなくても幸せな日々の作りかた』『90歳、ひとり暮らしの知恵袋 お金をかけない素敵な毎日の過ごし方』(ともに宝島社)がある。
Twitter @hiroloosaki
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