【前編】アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)とは? 日常にある事例、具体的な対処法について解説!
私たちは何かを見たり、聞いたり、感じたりした時に実際にどうかは別として、「無意識に“こうだ”と思い込むこと」があります。これを「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」と呼びます。アンコンシャスバイアスによるネガティブな影響に対処するための第一歩は、「意識し、理解する」ことです。
ここでは以下の5点について解説します。
前編
後編
アンコンシャスバイアスとは?
アンコンシャスバイアス(unconscious bias)は、「アンコンシャス=無意識」と「バイアス=先入観や固定観念、思い込み」が組み合わされた言葉です。日本語では、「無意識の思い込み」と表現されていますが、他にも「無意識バイアス」「無意識の偏見」等と表現されることもあります。
日常におけるアンコンシャスバイアスの事例としては以下のようなものがあります。
- 血液型で相手の性格をイメージする。例えば、「O型の人はおおらか」で「A型の人はきちょうめん」など。
- 性別、世代、学歴などで相手を見る。例えば、「団塊の世代だから○○」「東大卒は〇〇」など。
- 「親が単身赴任中」と聞くと「母親」ではなく「父親」を想像する。
- 「性別」で仕事や役割を判断することがある。「消防士は男性」「看護師は女性」など。
- 男性から育児や介護休暇の申請があると、「奥さんはいないのだろうか?」ととっさに思う。
上記に挙げたことは、日常や職場にあふれているアンコンシャスバイアスのごくごく一例です。私たちは、「過去の経験」や「見聞きしたこと」に影響を受けて、無意識のうちに(知らず知らずのうちに)、偏ったモノの見方をしていることがあるかもしれません。
アンコンシャスバイアスは「無意識の思い込み」であるため、そこから生まれた言動が知らず知らずのうちに相手を傷つけたり、キャリアに影響を与えたり、コミュニケーションを阻害したりする場合があります。
※出典:アンコンシャスバイアスとは?|一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所
企業の人材マネジメントや働き方改革における支援セミナーなどで、アンコンシャスバイアスという言葉を多く目にする機会が増えてきたかと思います。自治体のホームページにも「人権」「男女共同参画」のページに解説コンテンツがあります。いつ頃からアンコンシャスバイアスが注目されるようになったのでしょうか。
日常や職場で目の当たりにするアンコンシャスバイアスの事例
内閣府男女共同参画局は2022年11月「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」を発表しました。
性別役割について「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の4段階で聞いたところ、男女ともに「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」の項目が一番高くなりました(男性48.7%、女性44.9%)。男女差が大きく開いたのは「男性は~べきだ」という次の3項目でした。
- 「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」(男性34.0%、女性21.5%)
- 「男性は結婚して家庭をもって一人前だ」(男性30.4%、女性17.9%)
- 「男性は人前で泣くべきではない」(男性28.9%、女性17.6%)
また、「男性は結婚して家庭をもって一人前だ」という項目で「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた男性は、20代で合わせて26.7%(「そう思う」4.7%、「どちらかといえばそう思う」22.0%)でしたが、60代では合わせて38.4%(「そう思う」6.1%、「どちらかといえばそう思う」32.3%)で、世代によって大きな開きが見られました。
「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という項目においても「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた男性は、20代で合わせて28.9%(「そう思う」6.4%、「どちらかといえばそう思う」22.5%)なのに対し、60代では合わせて40.0%(「そう思う」7.9%、「どちらかといえばそう思う」32.1%)で、10ポイント以上の開きがありました。
さらに、「女性はか弱い存在なので、守られなければならない」は、女性に好意的ではあるものの、職場において女性の役割を固定化することにつながる考え方です。男性20代では「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した人は合わせて28.8%でしたが、50代で35.9%、60代で38.4%に増えることが分かりました。
逆に「男性なら残業や休日出勤をするのは当たり前だ」「同程度の実力なら、まず男性から昇進させたり管理職に登用するものだ」については、「そう思う」と考える20~40代の役員・部長(代理)クラスは50~60代よりも多い結果になりました。
他にも、職場の役割分担に関する以下の項目に関しては、男性の中でも年代が若いほど「そう思う」という傾向が強いことが明らかになりました。
- 「職場では、女性は男性のサポートにまわるべきだ」
- 「男性は出産休暇/育児休業を取るべきでない」
- 「仕事より育児を優先する男性は仕事へのやる気が低い」
- 「営業職は男性の仕事だ」
- 「女性社員の昇格や管理職への登用のための教育・訓練は必要ない」
職場においてアンコンシャスバイアスに気付かずにいると、採用や人材育成、昇進などのシーンでネガティブな影響を与えかねません。
※出典:令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究
アンコンシャスバイアスの影響は多岐にわたる
アンコンシャスバイアスは、「性別」に対するものだけではありません。
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所と法政大学の松浦民恵教授は、2022年8月に「がんと仕事に関する意識調査」報告書を発表しました。「がん」や「がん治療と仕事の両立」にひそむさまざまなアンコンシャスバイアスやその影響が浮き彫りとなりました。
例えば、初めてがんと診断された時に不安に思ったことは、以下の内容が多いことが分かりました。
- 「あと何年も生きられないかもしれない」(68.0%)
- 「罹患(りかん)前のような生活に戻れなくなるかもしれない」(61.0%)
- 「家族がショックを受けるだろう」(59.4%)
- 「罹患前のように働けなくなるかもしれない」(59.2%)
ところが、これらの不安は、時間経過とともに、30~40ポイント近く減少。さまざまな情報にふれ、治療を受ける中で、「アンコンシャスバイアスが上書きされた」とも言えるでしょう。
また、本調査によると、「がんになったら、今までどおり働くことはできないだろう」というアンコンシャスバイアスは、「これまでどおり働くことを希望する人が6割弱いた」とのこと。この結果を知ることにより、「がん治療をしながらこれまでのように働くことは無理だ」といったがんに対するアンコンシャスバイアスが上書きされる人もいるでしょう。
出典:「がんと仕事に関する意識調査」アンコンシャスバイアス研究所/松浦民恵教授調べ(2022年)
他にも、災害時の避難行動に影響するといわれている正常性バイアスや、キャリア等に影響するインポスター症候群をはじめ、アンコンシャスバイアスの影響範囲は多岐にわたります。
人や組織に影響するアンコンシャスバイアス(一例)
ステレオタイプ | 性別・世代等の属性をもとに、先入観や固定観念で相手を見る傾向 |
正常性バイアス | 「私は大丈夫」と、自分に都合のいいように思い込む傾向 |
確証バイアス | 自分の考えにある情報や、都合のいい情報ばかりに目が向く傾向 |
権威バイアス | 「権威のある人の言うことは、間違いない」と思い込む傾向 |
集団同調性バイアス | 周りと同じように行動してしまいたくなる傾向 |
現状維持バイアス | 「このままでいい」等、現状維持を望み、変化を退けたくなる傾向 |
インポスター症候群 | 能力があるにもかかわらず、自分を過小評価する傾向 |
経営やマネジメントにも悪影響を与える可能性があるとして、組織内のアンコンシャスバイアスの解消に取り組む企業も増えています。DE&I推進の観点から、多様な考え方を受容・尊重する考え方が重視される傾向にある今、ますますアンコンシャスバイアス対策の重要性が大きくなることでしょう。
後編へ続く
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所代表理事。1970年、大阪府生まれ。2018年、一人ひとりがイキイキする社会をめざし、アンコンシャスバイアス研究所を設立、代表理事に就任。企業・官公庁、小・中学校等で、さまざまなテーマ・視点からアンコンシャスバイアスを届けている。アンコンシャスバイアス研修の受講者は8万人をこえる。2022年には、がんと共に働くことを応援するための共同研究「がんと仕事に関する意識調査」報告書を発表。著書に、『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』 (かんき出版)、『導く力』(KADOKAWA)などがある。
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