“年相応”でなきゃ、なんてない。―40歳、ロリータモデル青木美沙子が“好き”を貫く原動力―

ロリータファッションの先駆者でモデルの青木美沙子さん。長年モデルやインフルエンサー、また外務省に任命されたポップカルチャー発信使(通称「カワイイ大使」)※として国内外にロリータファッションの魅力を発信しながら、正看護師としても働いてきた。活躍の一方で、ある時から年齢に関する固定観念に葛藤するようになる。“年相応”のファッションや生き方、結婚・出産の適齢期、固定観念に基づくSNSでの中傷に晒されながらも、34歳で年齢を公表。世間の“常識”に縛られずに好きなことを貫く生き方が多くの反響を呼んだ。年齢の固定観念と、青木さんはどう向き合ったのか。自分らしい生き方を選んできた、青木さんの原動力や考え方について語ってもらった。

※外務省:ポップカルチャー発信使(ファッション分野)の委嘱

“年相応”でなきゃ、なんてない ―40歳、ロリータモデル青木美沙子が“好き”を貫く原動力―|LIFULL STORIES

ダイバーシティという言葉が広がるにつれ、以前よりも多様な生き方を選択しやすい世の中になった。それでも未だに“年齢”という呪縛に囚われる人は少なくない。特に女性の場合、結婚や出産の適齢期とされる年齢は20~30代と若く、歳を重ねることにネガティブな意見も多く見られる。それだけでなくファッションや趣味、生き方にも『年相応の選択をするべき』といった固定観念がつきまとう。40歳を迎えた青木美沙子さんは、ロリータモデルとして、一人の女性として、葛藤しながらも自分の生き方を選んできた。

年齢のせいで、何回もやめようかと考えた。
でもロリータは着ると自信を持てる“戦闘服”。
だから、翌日にはまたロリータを着ている

ロリータモデルと正看護師、二足のわらじ

青木さんがモデルを始めたのは高校生の時。当時は雑誌のストリートスナップに写る同世代の多くの女の子と同じように、古着ファッションに身を包んだ。そうして撮影に呼ばれる中で出合ったのが、リボンやフリルがいっぱいのロリータファッションだった。

「ロリータファッションは仕事で一度着たらハマっちゃいました。看護師の国家試験を受ける時も、気合い入れたいなと思ってロリータのお洋服で行ったんですよ」

ロリータファッションのアイテムは高価格。そのため学生のうちは少しずつ可愛いアイテムを取り入れながら楽しみ、その魅力にのめり込んでいった。高校卒業後は正看護師を目指して短大の看護学科に進んだが、その間もロリータファッションを身につけ、モデルの仕事も続けた。

「看護師は命を預かるお堅い仕事。『常に人を助けるために全力でいなさい』という教えなので、授業中にリボンを頭につけていたら、それはもう怒られました。看護師が派手な格好や髪型、化粧をするなんて言語道断……という世界だったんです」

晴れて正看護師として働き始めてからも、シフトの合間を縫っては読者モデルの仕事を続け、好きなロリータファッションを着続けた。

年齢とファッション・結婚・出産

高校時代から現在までロリータ愛を貫いてきた青木さんが、年齢との間で葛藤し始めたのは25歳を過ぎた時期だった。

「その頃から、SNSなどを通じて『その年でロリータはもう痛い』とか『ロリータババア』と言われるようになりました。28歳頃になると、やんわり年齢を言うのを避けたり、パスポートを見せたくなかったり……。お洋服がすごく若く見られる分、年齢とのギャップをすごく感じて、コンプレックスに感じていました」

ロリータファッションを好きな気持ちは変わらない。それでも可愛らしく目立つファッションであるがゆえ、「ロリータは若者だけのファッション」といった固定観念による冷ややかな目に晒されて、心が揺れた。

「ロリータファッションをやめようかな、恥ずかしいかなって思うことは何回もありました。それでもロリータを着ると、なぜだか自分に自信が持てる気がして。

“あ、これって戦闘服なんだ”って思うんです。人の意見に左右される日もあるけど、翌日にはロリータを着ていました」

さらに30代になると、さまざまな人生の選択で悩みが増えた。

「世間では年齢でカテゴライズしがち。私も『35歳までには結婚しよう』という目標を持ちましたが、結婚や出産は自分1人でできることではないし、仕事も続けたいと悩み続け、今に至ります」

年齢にまつわる世間の常識や固定観念の中で悩みながらも、34歳で転機を迎えた。

「もっと自分勝手に生きていい」

それまで雑誌やSNSなど限られた場所で発信してきた青木さんは、ロリータファッションをより広く伝えるため、自身を追いかけるドキュメンタリーテレビ番組への出演を決意する。その際に自身が34歳であることを公表した。

「ロリータファッションへの偏見がすごく嫌で、本質を知ってもらうきっかけになればいいなと思い、テレビに出ることにしました。けれど年齢を公開することで『その年齢でそんな格好して……』とロリータファッションのイメージが悪くなるのではと、不安や葛藤もありました」

しかし実際に放送が終わってみれば、年齢で好きなファッションを諦めず、また看護師の仕事と両立して働く青木さんの姿に励まされた人から、ポジティブな声が多く届いた。その後の取材などもこれまでと異なり、生き方や年齢に関するものが増えた。2023年に発売した書籍『まっすぐロリータ道』では、青木さんのこれまでの生き方を振り返っている。

「特に同世代の30~40代からの反響が多かったです。この年代って結婚や出産などの使命感に苛まれたり、婚活を頑張ったり、変化の多い時期。

なかなか変化できない人もいるし、でも変化しなきゃいけないっていう世の中の風潮もある。ファッションでも、“30歳になったらもうピンクは着れない”みたいな世間のしがらみがあって、なかなか自分の好きなことを貫けない世の中だと思います。

そうやって悩む人たちに、私みたいない人もいるから『そんなに焦らなくても大丈夫だよ』とか、『もっと自分を出して自分勝手に生きていいんだよ』ってメッセージを送れたらいいなと思っています」

国によって異なる年齢や価値観

葛藤もある中、青木さんが長くロリータモデルを続けられた理由の一つに海外での活動を挙げる。

「海外に行けたからこそ視野が広がり、好きな生き方をしてこれたんじゃないかと思います。改めてロリータファッションや“KAWAII(かわいい)文化※1”が世界中に愛されているんだと感じ、日本の良さを痛感しましたし、ロリータを好きな人たちの思いを背負っているという使命感や重みも感じました」

ロリータファッションは日本発祥の文化だが、海外では日本と異なる点も多い。ロリータファッションがブームという中国では、“モテファッション”として認識されている。

「日本ではこういう主張の強い服を着るととっつきにくいし目立つので、嫌がる男性が多いです。でも中国の男性は『自分のためにおしゃれしてくれて嬉しい』と感じるようで、カルチャーギャップに驚きました」

さらに海外は年齢に関する価値観も日本と異なった。

「海外ではロリータファッションのユーザー層が10~50代くらいまでと幅広く、中国では50~60代もいます。ロリータファッションには多様なジャンルがあって、“クラシカルロリータ※2”は年齢が高い方でも着やすいんです。それに海外では年齢を聞かれたことがありません。日本は年齢を気にし過ぎだと思います」

一方、日本でもメディアに登場する青木さんの影響や、多様性を支持する社会の流れもあり、最近ではロリータファッションを着る人の年齢層が広がってきている。

「子育てが一段落した人や、昔ロリータに憧れていたけど勇気がなかった人、『50代からロリータ始めました』という人もいてありがたいです」。

青木さんはそういった主婦層やシニア層にもロリータの魅力を発信すべく、ファッションセンター『しまむら』とのコラボレーションなどにも取り組んでいる。

 

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※1 アニメ・マンガ、ファッション、キャラクターなどのかわいいコンテンツが海外で注目され、外務省は「かわいい文化」をクールジャパン戦略の主要コンテンツとして発信した
※2 ヨーロッパの伝統的なスタイルを基本にした、上品で控えめな装飾が特徴のロリータファッション

自分の人生は自分が主役

2023年に40歳を迎えた青木さんは、この一年が今までで一番忙しかったと話す。「本やメディア、コラボレーションを通じて、特殊に見られがちなロリータファッションを“普通のもの”として発信し、少しずつ浸透させられた年でした」

これまでの活動が報われる場面が増えても、すべての葛藤を乗り越えたわけではない。

「ロリータモデルを続けることに、葛藤はまだあります。体力も落ちたし、外見も変わるし、批判もあるし、葛藤はずっと続きます。けれど自分の人生なので、自分が主役。

人の意見ばっかり気にしていたら洗脳されてしまう。

『自分はどうしたいか』を、世の中ではおろそかにされ過ぎてるように感じます。私は人に流されて、後で後悔したくないんです」

そうして挑戦を続ける青木さんの姿は、見る人の心も動かす。

「年齢を重ねる中でファッションや生き方について悩む人、自分の気持ちを押し殺して生きている人も多いですよね。プライベートでロリータファッションを楽しむ人たちはより少数派で、周りから止められることもあると聞きます。そういう人たちにも私みたいな人もいるということを励みにしてもらえたら、女性の生き方の幅が広がればいいなって思うんです」

SNSやインターネットによってさまざまな人の生き方や意見が見えやすくなった現代だからこそ、自分の内なる声は置き去りにされがちなのかもしれない。年齢や性別、妻、母親といった属性に関する多くの固定観念は誰が決めたともなく社会に広がっているが、その意見を飲み込む前に、自分にしか聞こえない自分の本心に耳を傾けることも必要だろう。

30代は仕事もプライベートも常に焦っていて、すごく悩んだ。でも悩んできたからこそ今の40歳があるし、悩んだことは無駄じゃなかったと思っています。それに40歳を迎えたらちょっと達観した部分もあります。どんな結果であれ、どんな生き方であれ、自分を褒めてあげられるように生きていきたいな。

取材・執筆:臼井杏奈
撮影:大崎えりや

青木美沙子さん
Profile 青木 美沙子

1983年生まれ。高校時代に読者モデルとしてデビューし、ロリータファッションのカリスマ的存在となる。2009年には外務省より「ポップカルチャー発信使(カワイイ大使)」に任命され、ロリータファッション代表として文化外交にて25か国45都市を歴訪。2013年には「日本ロリータ協会」を設立し、初代理事長に就任。現在はモデル、インフルエンサーとして活動しつつ、訪問看護師としても働く。
X @aokimisako

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