【前編】ルッキズムとは? SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題

SNSで発信される無数の写真や動画は、私たちの脳を絶えず情報過多の状態にさらしています。人間の五感の一つである視覚が知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて下記の6点を解説します。

前編

後編

ルッキズム(外見至上主義)とは?

そもそも「ルッキズム」とは、何でしょうか?『オックスフォード英語辞典』と『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』は2000年以降に発行された版に「ルッキズム(lookism)」という単語を含めていますが、いずれも「外見にもとづく差別または偏見」と定義しています。

ルッキズムという言葉は、1978年の雑誌「ワシントンポストマガジン」で初めて使用されたといわれています。そこで掲載された「Fat Pride」というタイトルの記事に、太っているだけで尊厳を傷つけられたとして抗議活動をした人々が作った新語がルッキズムだと紹介しています。

They are rallying to help each other find sympathetic doctors, happy employers and future mates. They are coining new words (“lookism” – discrimination based on looks, “FA” – Fat Admirer), fighting for new laws against discrimination based on a person’s size, and seeking to change the entire outlook of modern society.

彼らは自分たちに共感してくれる医師や幸せになれる職場、将来の伴侶を見つけるために互いに助け合い、立ち上がっている。『ルッキズム』という新しい言葉を掲げ、見た目による差別を撤廃する法律を求めて闘い、現代社会の潮流を変えようとしているのだ。(翻訳:河合良成)

Fat Pride, The Washington Post

また、ルッキズムは単に「外見にこだわること」や「外見を重視すること」ではなく、「セクシズム(性差別)」「レイシズム(人種差別)」「エイブリズム(健常主義、障がい差別)」「エイジズム(年齢差別)」などと深く関わり絡み合っています。ルッキズムは、外見の評価基準が誰によって、またどのように決められるかを問う視点と言えるでしょう。

※出典:「ルッキズム」概念の検討外見にもとづく差別|西倉実季

身近にあるルッキズムの事例

東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式の演出で、女性タレントの容姿を侮辱するような案が浮上し、世間から批判されたことはまだ記憶に新しいでしょう。

ルッキズムは私たちの「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」の一つであり、人の属性や印象をもとに先入観で決めつけたり、レッテルを貼ったりするようなステレオタイプのバイアスは日常生活に潜んでいます。

ルッキズムの具体例には、以下のようなケースが挙げられます。

  • 「A子よりB子の方がかわいい」など日常生活において見た目を周りから比較されるのは圧倒的に女性が多い
  • 「身長が170cm以下の男性は魅力がない」など、身長が低い男性への風当たりが強い
  • 「女性は痩せている方がキレイ」「ムダ毛があると女性からモテないから男性も脱毛すべき」などテレビや雑誌などのメディアで発信される

こうしたルッキズムは家庭環境の影響も大きく受けます。

2018年に開催された「『美しさ』は、誰が決める?~ルッキズムに関する日韓比較~」というイベントでは、参加者に向けてルッキズムに関するアンケートが実施されました。

アンケート結果によると、「ルッキズムを経験した」と感じる年齢は多くが10~20代で、幼少期からと回答した人もいました。

例えば、家庭内では「美人じゃないんだから、せめて勉強くらい頑張れ」や「姉と比べて、容姿が劣っている」といった言葉を親から受けることもあるのです。

10代では学校の先生や同級生、20代では会社の上司や同僚といった相手から、外見への評価や差別を受けたという傾向があることから、自分の所属している最も身近な社会や環境でルッキズムを経験するケースが多いことがわかりました。

※出典:私の人権のはなし 日本 YWCA

なぜ社会課題として注目されているのか

オックスフォード大学出版局が発行している『人的資本管理辞典』によると、ルッキズムが社会課題として注目されるのは「管理者が特定のタイプの外見を必要とすると信じている顧客対応の仕事がある職場においてである」と記載されています。つまり、本来は外見が評価されるべきではない場面で評価されることが問題だと指摘しているのです。

この議論は、「イレレヴァント論」と呼ばれています。イレレヴァント(irrelevant)とは、「無関係の」「不適切な」という意味ですが、例えばプログラマーの採用において最も重要なのは、プログラミング言語を操作できることや、仕様書通りにシステムが作動するようにプログラムを書き上げることですが、外見の評価が求められるとすれば、採用担当者はすでにルッキズムに陥っていると言えるでしょう。

日本社会でもその傾向は根強く、容姿に対して一定の基準をもうけ、合否を判断する「顔採用」と呼ばれる慣習は外見評価を巡るルッキズムの代表例です。例えば、株式会社薄毛の窓口が20代~60代の成人男女341人の採用経験者を対象に行った調査によると、10代~30代では約9割、40代では86.8%、50代では75%が薄毛の応募者を避ける傾向が明らかになりました。

※出典:採用と頭髪の印象に関する調査|株式会社薄毛の窓口

後編へ続く
監修者 外川 浩子

NPO法人マイフェイス・マイスタイル代表。1967年東京都墨田区生まれ。慶應義塾大学通信教育課程文学部卒業。NPOを経て独立。2006年、実弟の外川正行氏とマイフェイス・マイスタイルを設立。見た目に目立つ症状のある人たちがぶつかる困難を「見た目問題」と名づけ、交流会や講演などを通して問題解決をめざし、「人生は、見た目ではなく、人と人のつながりで決まる」と伝え続けている。

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