企業の体質は変えられない、なんてない。 —「全社員が自律の精神を持ち、ここで働くことを誇りに思える企業へ」大東建託 田中良昌常務取締役に聞く—
賃貸住宅の建築・管理を軸に成長してきた大東建託は、近年、暮らしを支えるさまざまな分野へと事業の幅を広げながら、パーパスとして掲げる「託すをつなぎ、未来をひらく。」のもと、社会が求めるさまざまな価値提供を目指している。今回は、このパーパスを全社員に浸透させ、これまでのトップダウン型組織から、現場が主役となって自律的に動く組織へと転換することを目指す“体質強化プロジェクト”を推進する、3人のリーダーに話を聞いた。
本連載の第1回にご登場いただくのは、取締役常務執行役員の田中良昌氏。業務本部長、人的資本経営本部長を歴任され、現在は東日本建築事業本部長の任にある。「体質強化プロジェクト」においては、竹内社長のもと、プロジェクト全体の指揮をとる初代責任者だ。聞き手は、LIFULL HRソリューションズ事業部長 秋庭麻衣と、「体質強化プロジェクト」をパートナーとして支えたLIFULL Leadership代表 吉田宗興が務めた。
大学卒業後、当時「野武士の集団」とも言われた大東建託へ
LIFULL 秋庭麻衣(以下、秋庭)「田中さんは、そもそもどのような経緯で不動産業界を志向され、中でも大東建託さんに入社されたのですか?」
大東建託 田中良昌氏(以下、田中)「兄が建築業界で働いていたこともあって、私もその道に興味を抱いていました。食品業界も含めて複数の会社を受けましたが、最終的には、給与水準の最も高かった大東建託を選びました。実は親にも兄にも大反対されたのですが、なんとか説得して。次男だからまあいいかと許してくれたのでしょう」
LIFULL 吉田宗興(以下、吉田)「大東建託がこれほどまでに成長し、田中さんが取締役になるとは予想できなかった(笑)」
田中「今思えばそうですが、当時は大学の学生課からも、『あんな野武士の集団みたいな会社に入って大丈夫か?』と言われました。その頃の大東建託は、世間からそう見られていたのです」
吉田「なるほど。そんな時代に入社されて、現在の役職に至るまでのご経歴を、簡単に振り返っていただけますか?」
田中「91年の入社後、4年間コンサル営業をやりました。5年目からは、今でいうリーシング部門(当時のテナント営業課)に移り、担当職・管理職を務めていたのですが、その後、自ら手を挙げてコンサル営業担当に戻りました。今思えば、あれが『本当の営業の始まり』でしたね」
辛かった営業の仕事が、自分を鍛え育ててくれた
秋庭「その時代の営業は、今以上に大変だったかと思いますが、その『本当の営業の始まり』について、何か思い出やエピソードなどはございますか?」
田中「当時の大東建託には、圧倒的なトップダウンの文化と、高インセンティブ・成果主義、または、勝てば官軍負ければ賊軍扱いの会社でした。実績を上げれば勝者になれるということで、社内に“大東ドリーム”という言葉が存在していたほどです。
そんな中で私は、3カ月間実績を上げられなかった時期に、“100軒飛び込み”を命じられたことがあります。訪ねた家が不在の場合は勘定に入れず、お客様とお話したお宅が100軒になるまで訪ねて回るのです。あれは8月の猛暑の中のことでした。1日中歩き回って夕方の6時ごろ、92軒目のお宅で、庭先で水撒きされているご主人に向かって必死に話していたら、奥さまが『まあ、お上がりなさいよ』と私を家の中に招き入れてくれて、ご夫婦でじっくり話を聞いてくださったのです。翌月ご契約を頂きました。
契約後ご主人様から、あの時真っ黒な私を見て「この人なら相談できると思い話を聞いた」とおっしゃっていただき、本当の大東建託の仕事がわかった時でした」

秋庭「今でも忘れることのできない、田中さんの営業の原点という感じでしょうか?」
田中「そうですね。もう四半世紀も前の、今ではあり得ない、自分の原点と言える経験かもしれません。私は、お客様はそれぞれ何らかの悩みをお持ちだと思うんですよ。その悩みを、営業マンに対して『この人になら打ち明けてもいいかも…』と思っていただくこと、それがこの仕事の一番大事なところではないかと思います。そしてそのためには営業する側も、自分を曝け出す覚悟が必要かもしれません。お客様を自分の家族と考え、信頼関係を構築することの重要性を肌で感じることのできた、得難い経験です」
「人的資本経営本部」という名称に込められた意味
吉田「その後も営業で本部長までに至った後、竹内社長のもと、人的資本経営本部長に就任されました。部署名が人事部でもHR本部でもなく、そのものズバリの『人的資本経営本部』という名称になったのには、何か理由があるのですか?」
田中「人的資本経営というのは比較的最近の概念ですが、大東建託では今から40年も前に、創業者の多田勝美が『人はコストではなくキャピタル(資本)である』という言葉を残しているんです。これは当時の経営計画書にも記載されています。
私たちはこのDNAを継承しつつ、同時に私たちの“覚悟”として、まず社員への、そして社外へのメッセージとして明確に示そうと、あえてストレートな名称を選びました。人材への投資というのは、すぐに業績に直結するものではありませんが、会社が人に投資し、社員がその力を2倍・3倍にしていくことで、社員のエンゲージメントが高まり、生産性が、業績が、そして顧客サービスが向上していく、という連鎖が生まれると考えてのことです」

パーパスを現場に活かすために。動き出した「体質強化プロジェクト」とは
2023年4月に発足した竹内体制は、早くも6月にはそのグループパーパスである「託すをつなぎ、未来をひらく。」を発表した。そして2024年、LIFULL Leadership(以下LIFULL)伴走のもと、「体質強化プロジェクト」がスタートする。
秋庭「この体質強化プロジェクトですが、何をどう強化するプロジェクトなのか、改めてご説明いただけますでしょうか?」
田中「私ども大東建託にはこれまで、トップダウン100%と成果主義の文化が根付いていました。これは意思決定スピードの面ではとても優れているのですが、多様性が求められるこの時代には、現場の声を吸い上げる組織体質への転換が必要であるという認識を、竹内さんと共有していました。この転換を成し遂げ、社員の自主自律を促すことで会社をさらに強くしていく狙いで始めたプロジェクトです。
ここではまず、「上司は支援者であるべき」だという竹内さんの方針を浸透させることから始めました。これはトップダウンを完全に否定するのではなく、指導者が、日常的には支援者として一緒にものを作っていく組織を目指すものです。それを実現するために、まずは行動指針(6項目)の策定に取り掛かるべく、LIFULLさんのサポートを得ながら、役員層の6チーム(A〜F)と、私たちがチームXと呼ぶ現場層(支店長・課長・担当)の3チーム、計9チームが何度も集まって、議論を重ねていくことから始めました」
吉田「総議論時間は、実に3,080時間にも及んだわけですが、それ以前に田中さんは、この策定チームの人選にこだわられましたよね。『チームには、絶対に現場スタッフを交えるべきだ!』と。あれは、どのようなお考えからだったのでしょうか?」
田中「それは、『上が勝手に作った行動指針では、現場に落とし込むことができない』と考えていたからです。つまり、上から下までのさまざまなレイヤーの社員が議論を戦わせた結果として生まれた指針でなければ実効性がないと感じていたのです。
それで策定チームには多くの現場スタッフに参加してもらったわけですが、結果的に、現場の意見をほぼそのまま反映させることができた、そして社員に分かりやすく動きやすい行動指針ができたと思っています。中でも私が重視しているのは『お客様は自分の家族と考える』という項目ですね。それまでの、売上・業績優先の思考からの転換を促すものになっていると思います」
- お客様は自分の家族だと考えよう
- 良心を磨き、良識を育てよう
- 笑顔で話し、仕事を楽しもう
- オープンマインドでいこう
- 誇れる仕事を、つないでいこう
- 自分・今だけでなく、ひと・未来で考動しよう
大東建託の行動指針

秋庭「現場の意見を反映した6項目の行動指針が策定され、今はそれを浸透させるフェーズへ移ったとお聞きしています。この浸透も、うまく進んでいますか?」
田中「いえ、これを全社に浸透させるのは容易なことではありません。このフェーズに入って改めて、成果主義・実績至上主義の文化が大きな弊害となっていることに気付かされました。『実績を上げればマル、上げなければバツ』という評価体系がまだ根強く残っており、実績だけを見て(人格などを見ることなく)行われた昇格をめぐって、周囲に大きな不協和音が生じた例もありました。
対応策として、評価制度に『未来への評価を3割導入する』といった段階的な改革を進めています。未来への評価というのは、“人を育てる”ことや“社員のエンゲージメントを高める”といったことで、実績に加えてこれらの要素をしっかり加味していこうということです。個の力以上にチームの力で戦う組織へと移行していく時期に来ているようにも感じます。これに関しては、いまだ道半ばという状況です」
吉田「“道半ば“という言葉が出ましたが、社内は現在どのような状況にあると認識されていますか?」
田中「この行動指針は、トップマネジメントから下へ向かって徐々に浸透して来てはいますが、最近支店長層に対して、続いて課長層に対しての説明会を行ったところ、この支店長層と課長層の間にさえ、行動指針に対する納得感にかなりの差があるのを感じました。支店長はどちらかというとマネジメント層ですので、『まあ、やってみるか』という思考になってくれていますが、課長は、より現場に近く現実的ですから、『いや、これじゃ担当者は動かないでしょ』という思いが先行しがちなのです。さらにこれからは担当レベルにまで浸透させていかなければなりませんから、その道のりは平坦ではありません。今後も引き続きLIFULLさんに伴走していただきながら、透明性の高い会社に向けて改革を続けていきたいと思っています」
「従業員エンゲージメント調査1位」にも気を緩めず、100年企業を見据えて
秋庭「とはいえ、従業員エンゲージメント調査で1位を獲得されるなど、御社の改革はスピーディに、そして順調に進んでいるように見えます」
田中「たしかに数値的には大きな改善が見られました。しかし私は、これを半ば懐疑的に見ているというのが正直なところです。まだまだ『良い得点をつけないと何を言われるか分からない』という文化が残っているのではないか? と。ですから私は、支店へ訪問するたびにスコアと実態の間にギャップがないかを確認するようにしています。
一方で、上司を評価する項目(上司が支援してくれる、一緒にものを作ってくれるなど)のスコアが向上していることは、竹内体制の方針が、徐々に現場に浸透しつつあることの証左だとも感じています」
吉田「なるほど。さて創業から50年を超えてなお大東建託さんは進化を続けておられますが、一昨年発表されたVision2030の中に、“100年企業”というワードがあります。100年企業を見据えた時に、重要なことは何だとお考えでしょうか?」
田中「そうですね、DX・AX(※)に投資を続けていくのは当然のことですが、何より大切なのは、やはり“人”ですよ。“人を資本として育て続けていく”ことが不可欠だと私は考えます。これまでの50年にも大変なことはたくさんありましたが、次の50年となると様相は全然違ってくる。世界は大きく変わっていきますからね。だからこそ、人を本当の資本として位置付けて育てていくことこそ、最も重要であると考えています」
※デジタルトランスフォーメーション・AIトランスフォーメーション。デジタル技術、AI技術の活用によって業務効率化、プロセス改善、事業革新を目的とした取組みのこと。

人を大切にし、多様性を認め、社員がここで働くことを誇りに思える企業へ
最後の質問として、「LIFULL STORIESが、いつもタイトルとして掲げている『しなきゃ、なんてない。』を、大東建託流に言うとすれば、どんな言葉になるでしょうか?」という難しい質問に、田中さんはこう答えてくれた。
田中「言いたいことはたくさんありますから1つに集約するのは難しいのですが、1つだけ言うとしたら、『企業の体質は変えられない、なんてない。』ですかね。実際に当社は、その体質の変化と強化が大きく進んでいますから。あえてもう1つ申し上げるとすれば、『女性だからマネジメント層にはなれない、なんてない。』。これから人を資本として育てていく上で、“多様性”というのは極めて重要な要素です。そして多様な人材ということで言えば、女性の登用も絶対に欠かすことはできません。弊社には実際のところ、まだ女性支店長が1名しかいないのです。これも何とかしたい、ぜひ実現させたいと思っていることの1つです」
秋庭「最後に、田中さんご自身の今後の目標などございましたら、教えていただけますでしょうか?」
取材・執筆:宮川貫治
撮影:森本絢
大東建託株式会社 取締役 常務執行役員、東日本建築事業本部長
1991年入社。長年にわたってコア事業である建設事業の営業部門に携わり、営業統括部長・建築事業部長などを歴任。
2023年4月には上席執行役員業務本部長に任命され、同年6月に取締役、2025年4月に取締役上席執行役員、人的資本経営本部長に就任。現在は東日本建築事業本部長を務める。「体質強化プロジェクト」においては、竹内社長のもと、プロジェクト全体の指揮をとる初代責任者。