不動産業界の離職率の高さは解消できない、なんてない。―優秀人材の獲得・定着率を劇的に向上させたレオパレス21の人事戦略―
少子高齢化の加速による労働力不足が叫ばれる昨今、人材の確保・定着率の向上は、あらゆる企業の喫緊の課題となっている。中でも不動産業界は、他業界と比較しても離職率が高い業界の一つで、一般労働者の離職率が12.6%と、全体平均の11.5%を上回っている(厚労省2024年雇用動向調査)。常態化した長時間労働や営業コミットメントによるストレスから社員を解放して定着率を高め、併せて優秀な人材を惹きつける術はないのだろうか。
1973年の創業以来、弛まぬ改革を重ねながら、長年にわたって不動産業界をリードしてきたレオパレス21も、いつしか人材を確保し定着させることの難しさに直面する状況を迎えていた。しかし同社は、そんな難局を見事に、それも驚異的なスピードで打開する。それは例えば、離職率の数字の変化からも明らかで、不動産業界の一般労働者の離職率が12.6%(厚労省2024年雇用動向調査)であるのに対して、同社は2023年の11.1%から、24年に9.0%、25年には7.9%と大幅に低減させてきた。その結果、2025年に厚生労働省が作成した「人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集」にも取り上げられたほどだ。
業界トップクラスの人材確保・定着率を実現したレオパレス21。その原動力となった、先鋭的とも言える人事戦略から学ぶべく、LIFULL HRソリューション事業部長 秋庭麻衣、同 國松圭佑がレオパレス21本社オフィスを訪ね、レオパレス21人事部人材採用グループ副部長 吉野智子氏、同本店キャリア採用課課長 音政彦氏、同本店キャリア採用課 櫻田結子氏にお話を伺った。
私たちは、新卒採用にもキャリア採用にも、“選ばれる会社になっていきたい”という強い思いを持って臨んでいます
業界リーダーが陥った「トップダウン経営」の罠
レオパレス21は、「新しい価値の創造と、笑顔あふれる暮らしの想造」を企業理念として掲げていることからも分かるように、進取の気性にあふれる革新的な社風を持つ企業だ。
レオパレス21吉野氏(以下、吉野)「この会社は、常に新しいことにチャレンジしていく会社です。ただアパートを建て、入居者様を見つけて管理していくだけではなく、そこに必ず価値を生むことを求めています。入居者様とアパートオーナー様の価値向上を、併せて従業員の価値向上をも追求してチャレンジを続けている弊社は、本当に、『やってみよう!』のハードルが、すごく低い会社だと感じますね」
そんなチャレンジ精神が産んだ「一括借上げシステム(同社がアパートを一棟丸ごと借上げて入居者へ転貸することで、空室リスクを回避する制度)」「お部屋カスタマイズ(賃貸物件の壁紙を無料で変更できるサービス。現在の名称はmy DIY)」といった施策や、「スマートロック」「&Leo(契約情報の確認から日常生活の困りごと解決まで、幅広い機能を集約したアプリ)」等のDX導入によって、同社は常に業界をリードしてきた。しかし、2018年に発覚した施工不備問題もあって失速。それ以来、人材の確保にも苦しみ始めることになる。そして施工不備問題の原因究明に取り組んだ第三者委員会と共に自社の経営をあらためて見直した結果、さまざまな社内問題の元凶が「トップダウン」の経営手法にあることが明らかになったという。
吉野「トップの『こうやっていくぞ!』という掛け声に、何千人という社員たちが一斉に動く。そこには抜群の推進力が生まれます。だから成長スピードも早かった。ただ、そんなトップダウン経営に社員が慣れていくことで、“自ら考える機会”が減ってしまったのでしょう。考えるよりも上から言われた通りに動けばいい、が当たり前になり、本来行われるべきチェックが疎かになってしまっていたのだと思います」
レオパレス21人事部人材採用グループ副部長 吉野智子氏
社内の雰囲気を一変させた、ボトムアップ経営への大転換
レオパレス21は経営陣を一新し、トップダウン経営からボトムアップ経営へと大きく舵を切った。そんな動きの象徴が、同社が新たに制定したMVVC(Mission, Vision, Value, Credo)だ。経営の指針となるこのMVVCは、自ら手を挙げて参加した社員によって結成されたチームが作り上げたものだ。
吉野「その中でもクレド(Credo=行動指針)は、チームのメンバーから出された言葉をもとに練り上げて完成させたものです。ですからクレドは、例えば我々が発信する情報の中にも必ず盛り込んでいますし、日頃から社員の間でも、『あ、それって、クレドの○番だよね』といった会話が交わされていたりもします」
LIFULL 秋庭(以下、秋庭)「なるほど、そのように社員の皆さんに企業理念が浸透していれば、人事施策を進める上でも方向性が定まりやすいですよね。反対意見も少なく、進捗も早いでしょう」
LIFULL HRソリューション事業部長 秋庭麻衣
株式会社LIFULL執行役員。新卒入社後、社内第1号の産休・育休を経て復職。仕事と育児の両立で直面する壁を打破すべく、2014年に「LIFULL FaM」を設立。ママが子連れで働きスキルアップできる仕組みを展開。現在は自治体連携を含め子連れオフィスを全国9拠点へ拡大。自らの経験から生まれた「誰もが自分らしく働ける社会をつくる」という信念を軸に、現在はHRソリューション事業の責任者として事業を牽引している。
レオパレス21 音氏(以下、音)「そうですね。他の例を挙げますと、弊社には評価基準の中にも、『あなたの仕事の内容は“新しい価値を創造する”という企業理念に則しているか』を問う項目があります。つまり、企業理念が掲げるものに留まることなく、行動した結果として評価に直結しているわけです。
また、社内表彰制度というものもあり、個人やチームが表彰され、それが全社的に中継されたり社内報に載ったりします。それによって社員全員が会社の方向性を再確認できるだけでなく、MVVCを自分ごととして捉えることができる、という側面もあると思います」
トップダウンからボトムアップへの転換は、社内全体の雰囲気をもまた、一変させたという。
吉野「今の社内には、階層に関係なく誰もが意見を出せるような、発言しやすい雰囲気が醸成されていると思いますね」
秋庭「具体的には、どのようなことが挙げられますか?」
音「たとえば私ども人事部では月に一回、経営陣と話し合うことのできる会議が設けられています。これは他の部署も同様です。またそれ以外にも、昨年は全社的に、非管理職が経営陣と対話するためのワークショップを設けました。これには、社内から30名ほどが手を挙げて参加してくれまして、丸一日を使って経営陣と話し合いました」
レオパレス21 櫻田氏「私は昨年入社したのですが、私から見ても率直に発言できる雰囲気が社内にあるなと感じます。と言いますのも、私が入社の面接をしていただいた時に、こちらからは切り出せなかった施工不備の件について、『素直にお伝えするんですけど……』と、向こうから進んで話していただいたんです。正直、『え?その話するんだ!』って驚きましたが、実はそのことも、私がここに入社しようと決めた理由の一つです」
レオパレス21人事部キャリア採用課 櫻田結子氏
弛まぬ改革を後押しする、“手挙げ”という文化
さて、先述のクレドの作成も、また経営陣と対話するワークショップも、挙手性で編成されたチームによって行われた点が共通している。“手挙げ”と呼ばれるこの行為には、同社のどんな期待が込められているのだろうか?
吉野「弊社が“手挙げ”を重視しているのは、
秋庭「なるほど。手を挙げて自ら動くことをとても大事にされているのがよくわかります。自分から動いた人は、その後たとえ難局に直面したとしても『自分で選んだのだから』と頑張ってくれますものね。やはり内発的動機というものをすごく大事にされていて、それが御社の原動力にもなっているのだなと、お話をお聞きして改めて感じました 」
社内のこの“手挙げ”文化は、昨年新たにスタートした人事プロジェクト「Leo:Revo(レオレボ)」(レオパレス・
音「Leo:Revoは、若手を管理職に登用し、“社員が主役の会社”へと変革していくためのプロジェクトです。昔は弊社も、もっとベンチャー性が強く、30代の部門責任者がいたとも聞いています。しかし試験制度によってそのスピード感が弱まってしまっていた。そこで、たしかなパフォーマンスを発揮している方には積極的に手を挙げてもらい、この制度を利用してどんどん昇進してもらおうというのが狙いです」
レオパレス21人事部キャリア採用課課長 音政彦氏
吉野「Leo:Revoには、スタート初年度から全国の70人ほどが、手を挙げて応募してくれました。自らこの会社を変えていきたいというチャレンジ精神の表れでしょう。多くの会社の昇進は階段方式ですから、管理職になるチャンスは、その1つ手前の階層の人しか得ることはできませんよね。しかしこの制度のもとでは、管理職の3つ手前のステージから、『私にチャレンジさせてください!』と手挙げができるんです。手を挙げた中で要件を満たしている人は、管理職と同等の試験を受けることができ、受かった人は管理職候補者となり、近いタイミングでアサインされる、という仕組みになっています」
“労働時間の短縮”という難題に、いかにして挑んだのか
人材の獲得・定着率の向上を目指す上で欠かせない要素の一つに「労働時間の短縮」が挙げられる。この課題については、同社はすでに10年以上前から積極的に取り組み、効果を上げてきた。直近の数字を見ると、社員の平均残業時間は19.3時間(2025年3月期)。有給取得率は、業界平均65.5%(2025年厚労省就労条件総合調査)に対し、同社は82.0%(2025年3月期)を達成している。
吉野「弊社にもかつては、エンドレスで仕事をするような文化があったのは事実です。しかし時代の流れもあり、労働基準法の改正もあって、弊社は健康経営に舵を切りました。業務改善のためには必要な投資もしました。例えば人の手を介さなくても済ませられる仕事はDX化していくといったようなことですね。
しかし何より、業務時間の短縮に大きく貢献してくれたのは、チーム制の採用だったと思います。クレドの1つにも、『会社は一つのチーム。』という言葉がありますが、私たちは個人制からチーム制に切り替えたのです。昔の営業に課された目標は、個人目標がほとんどでしたから、自分がコミットした数字は自分で取りに行く一方で、人の仕事は手伝わないというスタイルでした。しかし、それをチーム制に切り替えたことで、休んでいる人の分は仲間がカバーするスタイルに変わりました。だから安心して休みを取ることができるようになり、それによってワークライフ・バランスが保てるようになったわけです」
秋庭「たしかに不動産業界は、個々人の独立独歩の姿勢が強く、いわば個人商店の集まりのような側面があります。一人ひとりのインセンティブ意識が非常に高い中で、チーム制へと舵を切られたのは大きな決断でしたね」
LIFULL 國松「かなり難しいところにメスを入られたのだな、と感じるのですが、社内に反発などは起きなかったのですか?」
LIFULL HRソリューション事業部 國松圭佑
出版社、人材業界などを経験後、2017年にLIFULLへ中途入社。LIFULL HOME'Sの広告営業を経験。2022年には年間トップセールス受賞。営業をしていた時の実体験から得た課題解決として、不動産領域特化採用支援サービスを社内新規事業コンテストSWITCHに発案して入賞を果たし、現在はLIFULL HOME'S不動産転職事業 CEOとして従事。
音「まったくなかった、と言えば嘘になりますが、納得している者のほうがはるかに多かったのは事実ですね。全員で変えていこうよ!という一体感がとても強かったのだと思います」
採用をさらに活性化させた、リファラル採用・アルムナイ採用
人材の採用についても改革を推し進めているレオパレス21では、リファラル採用(社員の知人紹介)とアルムナイ採用(退職者の再雇用)にも積極的に取り組んでいる。
音「経営陣からも賛同を得て、2025年度から本格的に導入しました。そして今期は、リファラル採用とアルムナイ採用で計16名を採用することができました。また、リファラル採用において、これは昨年も一昨年も起こったことなのですが、弊社に転職してまだ3か月にも満たない方に、その前組織の方を紹介していただいた、という例が多く見られました」
秋庭「リファラル採用もアルムナイ採用も、本当にいい会社じゃないとうまく機能しないと言われています。その成功はやはり、今こちらで働いていらっしゃる方々の満足度が高いからこその結果なのでしょうね」
音「ありがとうございます。それと、私どもは採用の際に、会社に関する情報を正しく誇張なく伝えていくことが重要だと肝に銘じています。そうすれば入社した後も、事前に得た情報と現実との間にギャップが生じず、採用時に得た情報は正しかったなと実感しながら働くことができます。それもまた、リファラル採用とアルムナイ採用の成功に貢献しているかもしれません」

“選ばれる会社”になるために、これからも正直な情報発信を続けていく
秋庭「お話を伺っていますと、本当にいろいろな施策がなされていて、しかもそれがしっかりと浸透していることがよくわかります。今後さらに人事として取り組もうとされていることは、おありですか?」
吉野「何より“選ばれる会社になっていきたい”という思いを、新卒採用においてもキャリア採用においても共通して持っています。弊社では現在、企業ブランディングの再強化に取り組んでおりますが、企業ブランディングの強化には、採用ブランディングの強化が欠かせないと認識しておりますので、そこは我々が動いていかなければならない。優れたスキルを持つ多くの方々に、当社の実態を知っていただくための効果的な活動をしていくことが、これから私たちが取り組むべきことだと考えています」
秋庭「選ばれる会社になりたい、というのは全ての企業さんに共通する願いかと思いますが、実際には、採用したい人数を確保するために、十分には納得できない方も採用せざるを得ず、その結果定着しない、という負のスパイラルに陥っている企業さんも多いかと思います。そんな企業さんにアドバイスするとしたら、どんなことが挙げられますでしょうか?」
音「大切なのは、自社の正しい状態を知っていただくことに注力することだと思います。私たちの業界は、長時間就業とかブラックというイメージがどうしても先行してしまいがちです。目標値に対してのコミットを求められることはどの業界にもありますが、それが不動産業界はすごく強いと思われている。これを払拭するためには、そして自社のストロングポイントを正しく伝えるためには、人材紹介会社さんとの関係が非常に重要になってくると思います。企業の人事が、人材紹介会社さんという外部機関に対して、いかに自社の正しい情報を嘘なく伝えられるか。嘘なく伝えることによって求職者の方々に、ありのままの自社の姿を理解していただき、十分納得した上で入社していただく。これが、人材の採用と定着に関して、とても大切なことだと思いますね」
優秀人材の獲得・定着率を劇的に向上させたレオパレス21様の挑戦は、業界全体への大きな希望だと感じました。特に印象的だったのは、MVVCの策定などを通じて社員が自ら手を挙げ、当事者意識を持って組織を変えていく『自発性』の文化が根付いている点です。
また、リファラル採用やアルムナイ採用の成功の裏にある、実態を『嘘なく、誇張なく伝える』という誠実な姿勢は、HRソリューションを担う私たちにとっても重要な示唆となりました。今後も、企業の『内発的動機』を呼び起こす支援を続け、企業が『ありのままの姿』を発信することで、企業と働く個人の双方のHAPPYを創っていきたい。その決意を新たにした、非常に意義深い対談となりました。
取材・執筆:宮川貫治
撮影:阿部拓朗
吉野 智子(写真中央)
株式会社レオパレス21 人事部 人材採用グループ 副部長
2001年に新卒入社後、賃貸営業職としてBtoB・BtoC営業を約10年間経験。その後、全社横断の企画部門であるコーポレート推進部へ異動し、業務効率改善や事業推進に携わる。2023年より、新卒・キャリア採用再開に伴い採用責任者を担当。施工不備問題による企業イメージ低迷からの刷新を推進し、3年連続で採用目標を達成。
音 政彦(写真右)
株式会社レオパレス21 人事部 人材採用グループ キャリア採用課 課長
2010年、新卒入社。不動産開発営業としてキャリアをスタートし、その後人事部へ異動。以降、新卒採用およびキャリア採用の両領域において幅広く経験を積む。2015年には全社的な働き方改革の一環として残業削減施策を提案・推進。2018年の施工不備問題に伴い採用活動が停止した際には、施工管理業務に従事し、現場理解を深めるとともに組織に貢献した。現在はキャリア採用課長として、採用戦略の立案から実行までを統括し、組織強化を牽引している。
櫻田 結子(写真左)
株式会社レオパレス21 人事部 人事採用グループ キャリア採用課
営業経験を経て人事へ転身。前職では部長直下のもと、1名体制で採用部門の立ち上げを担い、協力会社の選定から母集団形成、面接まで一貫して担当。
2025年にレオパレス21へ入社後は、新規採用手法の確立や採用HPの作成、面接力向上に向けた研修企画を推進。現在は最注力ポジションである開発営業部の採用を担当。
株式会社レオパレス21 HP:https://www.leopalace21.co.jp/