男は介護に向かない、なんてない。 ―「荒川区男性介護者の会」神達五月雄さんが語る、家族を介護する男たちの今とこれから―

今の日本は、核家族化の進行、婚姻率の低下、離婚率の上昇などを背景に、家庭で家族を介護する人の数が増えている。同居の家族を介護する人の数を性別でみると、女性介護者が約7割で、男性介護者が約3割(2022年・厚労省)。かつては「家族の介護は女性がするもの」と考える人も多かったが、近年では男性介護者も増加傾向にある。そして男性介護者には、仕事と介護の両立に悩む人が多く、慣れない家事に疲れて鬱になる例も見られるという。今回は、そんな男性介護者の集いである「荒川区男性介護者の会」を訪ねた。

「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」副会長を務める神達五月雄さん

「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」は、自宅で家族を介護しているオヤジ達が集まり、情報交換して学び合ったり、愚痴をこぼしたり励まし合ったりする会だ。そこで副会長を務める神達五月雄(かんだつ いつお)さんは、自らも長きにわたってご家族を介護し、この会でたくさんの仲間たちと出会い、語り合ってきた。そんな神達さんに、ご自身の介護経験と、男性介護者の今、そしてこれからについて伺った。

男性介護者は、その多くが自分で介護のルールを定め、それを守らなきゃと思い詰めがち。でもそれでは自分が疲れて壊れてしまいます

働き盛りの37歳の時に父親が倒れる。そして介護が始まった

神達さんの介護が始まったのは、ご自身が37歳、お父さまが72歳の時だった。当時同じ屋根の下に暮らしていたのは、神達さんとご両親、そして6歳年下の弟さんの4人。しかしお母さまは膝を痛めていて歩行にやや困難があり、弟さんには知的障がいがあった。

当初はお母さまと神達さんの二人でお父さまの介護を分担していたが、お母さまの老いに伴い、多くの部分を神達さんが受け持つことになっていく。介護を始めた当時はまだ存在していなかった介護保険制度が2000年にスタートしたのを機に、お父さまは要介護5の、そして介護する側のお母さまも要介護1の認定を受けた。

それにしても、息子が父親を介護するにあたっては、どんな苦労があったり、どんな感情が伴ったりするのだろうか? 神達さんの第一声は、意外なものだった。

「父の介護を始めて、一番やっかいだったのは、彼の虐待願望でした」

お父さまは自らの情けない姿、状態に恥じ入って、神達さんに自分を殴って欲しいと、そして時には、殺して欲しいとまで口にしたという。

「ある日私が帰宅すると、家に置いてあった仕事上の大切な書類が、ビリビリに破り捨てられていたことがありました。父がやったのです。なぜかって? 私が想像するに、『ほら、これでお前は俺のことを殴りたくなっただろう? 今度こそ殴ってくれるんだろう?』という気持ちからだと思います」

「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」副会長を務める神達五月雄さん

もともとお父さまはどんな気質の方だったのか? 元気だった頃のお父さまは?

「かつての父親は、『風邪をひくなんて気が緩んでいる証拠だ。そんなものは気合で治せる!』と豪語するような、とても厳格で気の強い人でした。それがもう、まったくの別人になってしまった」

東京荒川区の町屋から横浜にある会社まで毎日通いながら、帰宅するとすぐに父親の介護が始まる生活を続けた神達さんはもちろん大変だったろうが、介護される側の父親にもまた、さまざまな思いがあったに違いない。そして神達さんの介護が始まってから2年9か月後、お父さまは旅立たれた。

父親を看取って息つく間もなく、母親の介護が本格化する

お父さまの葬儀の時には、お母さまの膝は悪化して車椅子を使う生活になっていた。その年、2010年夏の健康診断で、当時81歳のお母さまは糖尿病の診断を受けた。

「その夏はすごい猛暑だったんですよ。私の母親は元々かき氷が大好きで、熱中症対策も兼ねて、その夏はたくさん食べました。甘いシロップをたっぷりかけてね。それで血糖値がボン! と上がっちゃった。以前から血糖値が高めなのは分かっていたのですが、当時は数値が落ち着いていたので、すっかり油断してしまっていたのです」

そして10月には、トイレで転倒して足を骨折。さらに翌年、フルニエ症候群(糖尿病から引き起こされる疾病で、臀部の壊死を伴うことがある)を発症。やがて人工肛門を造設することになる。その間にお母さまの要介護度は、当初の1から5へと進行した。つまり、神達さんの介護の負荷はどんどん増していったわけだ。

糖尿病の治療には、運動と食事制限が欠かせないが、お母さまの身体の状態で運動するのは難しい。だから食事制限がより重要度を増す。通常の介護に加えて神達さんには、母親の食事内容を厳しくコントロールし管理する必要が生じた。そんな神達さんを救ったのは、かつて食品メーカーに勤めていた時の知識と経験、加えてネットなどで勉強して獲得した知識だった。

「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」副会長を務める神達五月雄さん

「1食400キロカロリー、1日で1,000キロカロリー以下。塩分は1日5g以下を守り続けました。今日の3食は、どんな食材を使い、何を食べさせ、概算で何キロカロリー程度だったか、それを毎日ノートにつけて、先生が往診に来てくれるたびに見てもらっていました」

神達さんの口からは、摂取カロリーや塩分以外にも、ヘモグロビンa1cやグリコアルブミンといった、糖尿病にまつわる専門用語が飛び出してくる。とにかく勉強家だし、それを厳格に実行されてきたのがよくわかる。そんな努力の甲斐あって、やがてお母さまの血糖値は適正化され、治療薬のインスリンを注射する必要がなくなるほどに安定する。

男性が女性を介護することの難しさ

神達さんによれば、以前経験した父親の介護と母親の介護には、つまり、男性が男性を介護することと、男性が女性を介護することの間には、大きな違いがあるという。

「自分の母親のシモの世話をするというのは、それは辛いものですよ。排泄の介助、身体の清拭や洗浄、オムツ交換、そんな作業に僕は毎回、精神的にダメージを負ったし、最後まで慣れるということがなかったです。だけど、介護する側も辛いですけど、される側はもっと辛く悲しいのではないでしょうかね」

そんな悩みを語り合う場所として「荒川区男性介護者の会」があった。神達さんが「荒川区男性介護者の会」に入会したのは、まだお母さまの介護が本格化する前の、お父さまの葬儀の翌月のことだった。会の存在は以前から知ってはいたのだが、仕事が多忙を極めていたため、なかなか参加できずにいたのだ。

入会して出会った男性たちの中には、親を介護している人もいれば、奥さんを介護している人もいた。みんながそれぞれの苦労や悩みを吐露し合い、学び合い、一緒に飲んで食べるこの会は、当時の神達さんにとって大きな安らぎに、そして励みになったという。

「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」勉強会の様子

「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」副会長を務める神達五月雄さん 「荒川区男性介護者の会」2か月に一度、定例会。この日は「社会福祉協議会とSDGs」についての勉強会が行われた

介護という作業には、心やさしくて何かと気がつきやすい女性の方が向いているのでは? と考えがちだが、男性介護者ならではの優位点は、存在するのだろうか?

「それは何より、“力”でしょうね。腕力、体力ですよ。なぜかって、介護というのは皆さんが想像する以上に力が必要な作業なのです。私の母で言うと、身長は150cmほどでしたが、糖尿病のせいもあって一番重い時は85kgありました。85kgの人間を抱き起こしたり、立ち上がらせたり、移動させたりするのには、ものすごい力が要る。少なくともこの点だけは、女性よりも男性の方が向いていると言えるのではないでしょうかね」

介護を隠すのではなく、発信する勇気を持って欲しい

神達さんによれば、自分の家族が介護を必要としていることや、自分が家族を介護していることを、恥ずべきこととして隠そうとする人も多いのだそうだ。しかし隠すのではなく、むしろ発信する勇気を持つべきだと神達さんは言う。それはかつて神達さんが遭遇したある事例から、痛感させられたことだ。

「この会でかつて副会長を務められていた方に、ある時がんが見つかりました。奥様はパーキンソン病を患っていらして、息子さんには障がいがありました。その後、先に奥様が亡くなられたのですが、間もなく彼のがんが急速に悪化してしまった。しかし彼のおかれた状況はこの会で発信され、共有されていましたから、彼が亡くなるとすぐに福祉協議会が駆けつけて動いてくれたのです。障がいのある息子さんに成年後見人をつけ、施設を見つけ、その後の医療をどうするかまでを含めて話を進めてくれた。もし、父親である彼が情報発信していなかったら、息子さんは家の中で一人っきりになっていたかもしれません」

「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」副会長を務める神達五月雄さん 定例会の後は、懇親会でお互いを労わりあう

神達さんのお父さまとお母さまの介護は、合計約21年間に及んだ。6年前にはお母さまも見送り、ご両親の介護は終えたものの、今も弟さんと同居してそのケアをしながら、高齢者のデイサービスの送迎ドライバーとして介護に関わり続けている。そんな神達さんに、いま現在介護をしている男性、そしてこれから介護を始める男性に向けて、メッセージをお願いした。

うちの会は、男性介護者の会といいながら女性の会員もいます。だから感じることですけど、男性介護者は、こういう時はこうしなきゃいけないんだ! と、自分で介護のルールを厳しく定め、マニュアル化して、それを守らなければならないと思い詰めてしまう傾向がある。そんな人が女性に比べて多いような気がします。でもそうやっていると、介護する側の自分が疲れ果ててしまいますよね。自分の心や身体を壊してしまいかねない。だから何より、介護する人がいつも健康体であること、健康で長生きすること。これが一番大切なことだと思いますね。
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執筆:宮川貫治
撮影:阿部拓郎

「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」副会長を務める神達五月雄さん
Profile 神達 五月雄

東京都荒川区東尾久生まれ。大学卒業後、ゴルフ場を全国展開する会社に入社し、北海道、熊本などへ転勤後、食品メーカーへの出向を経て外資系生保へ転職。1998年より自宅で父親の介護を、2001年からは母親の介護を始め、21年半の在宅介護を経験。2001年3月に父親を看取り、翌月「荒川区男性介護者の会」に入会。2018年より同会副会長。

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