日本は外国人には住みにくい国、なんてない。
2022年1月に公開されたLIFULL HOME'Sのweb限定動画「大量分身ホームズくん『外国籍フレンドリー』篇」に出演している、ノルウェー出身のミスターヤバタンさん。InstagramやYouTubeなどSNSを中心に活躍中の動画クリエイター/コメディアンで、Instagramのフォロワーは50万人にも上っている。「日本の文化や風物詩に出合った外国人がビックリする」という内容が大人気だ。
ヤバタンさんは高校生の時に日本に興味を持ち、19歳で初めて東京と大阪へ旅行。その後も日本語を勉強し、5年前から本格的に日本に移り住んだ。「ずっと日本で暮らしていきたい」というヤバタンさんが日本に引かれた理由は何なのか。外国人として、日本に来た時に感じた壁はあったのか。ポジティブ・ネガティブ両方の側面から、ヤバタンさんの目に映る日本を語ってもらった。
コロナ禍による減少はあったが、長いスパンで見ると日本における外国人の数は年々増え続け、この10年で約4割増えた。彼らが日本に住むには、当然ながら仕事や住居など、生活の基盤が必要だ。しかし、「外国人だから」という理由で賃貸物件の入居を拒否されるケースなど多くの壁が立ちはだかり、傷つくケースが後を絶たないという。
ヤバタンさんも入居拒否を経験した一人。根底にあるのはおそらく、「外国人だからルールが守れない(だろう)」「外国人だから難しい交渉はできない(だろう)」という日本人のステレオタイプな考え方だ。日本人である私たちは、この事実にどう向き合っていけばいいのか。
※参考:令和2年6月末現在における在留外国人数について | 出入国在留管理庁
日本のお笑いに衝撃を受けた
小さいころから、動画を作るのが好きだった。父親はノルウェーでミュージシャンとして活躍したあと、お笑いのプロデューサーに。だから、家にはカメラがいつもあった。
「趣味というか、自分も動画を撮って映像を作って遊んでいました。思い出すのはハリー・ポッターのパロディー映像かな。ハリー・ポッターの内容だけに、再現するのは手間がかかるんだけど、友達と一緒に熱中しながら作っていましたね。父親の仕事にも影響を受けて、小さい時から”将来は俳優になりたい”って思っていたんです。
日本に興味を持ったのは高校生の時です。YouTubeで『ガキの使いやあらへんで!』の『笑ってはいけないシリーズ』を見て衝撃を受けたんですよ。ノルウェーには決してなかった、日本ならではの笑いだと思います。そもそも24時間かけてロケをするっていうのがビッグなプロジェクトだし、その中で細かい笑いを生み出すセンスがすごい。芸人さんが笑いをこらえきれずに爆笑したり、大物俳優さんが出てきて体を張るというのもすごく面白いですよね。ガキ使がきっかけで日本に興味を持って、日本の音楽や映画、アニメをたくさん見るようになりました」
19歳で初めて日本を訪れた。行き先は東京と大阪で、2週間の旅だった。
「チャレンジすることが大好きだから、お金がたまってすぐに日本に行きました。2012年だったかな。大阪もすごく思い出深くて、”グリコ、たこ焼き、なんでやねん!”っていう飲み会のコールに使うフレーズも現地の人に教えてもらいましたよ(笑)。訪れてみて面白かったから、3カ月後にまた日本に来て半年間住んでいました。仕事をしながら、日本語学校に通いましたね。
その後ノルウェーに帰ったんですけど、ちょうどInstagramとかがはやり出したから、日本語学校時代のクラスメイトのモノマネを動画に撮って投稿しだしたんですよ。アメリカ人とイギリス人の日本語の発音の違いとか、韓国人が日本語を話すとこうなるとか……(笑)。日本語って表現も細かいし、アクセントによって全く意味が変わるから難しいですよね。食べ物のスイカと交通系カードのSuicaとか。そういう難しさのある日本語だったからこそ、面白く感じていたんだと思います。僕の動画の原点はそこからで、2017年にまた来日して、本格的に動画を作りだして、今に至ります」
日本人の温かさとルールに対する厳格さ
「ビックリした~!」というお決まりのセリフに、ハイテンションの高い声。ミスターヤバタンのキャラクターは、どこから生まれたのだろうか。
「ヤバタンというキャラクターはもともと低い声だったんですよ。ノルウェーの家の中で外国人のモノマネを撮影している時はそれはそれで面白いと思っていたけど、次のステップには行けない。日本で、さらに外で撮ったらもっと面白くなると思った。例えば桜を公園に見に行って”ビックリした~!”といったら周りの人がすごく笑ってくれたし、高い声で話したら”カワイイ!”と言ってもらえたし、やっているうちにウケるポイントに気づいて今のヤバタンができていった感じです。高い声でしゃべりすぎて、普段でもたまに出ちゃうこともありますよ(笑)。
日本において、”カワイイ”はめっちゃ大事。あとは“ヤバイ”もいろんな意味があって面白い。”ヤバイ”っていう言葉が好きだからミスターヤバタンっていう名前にしたんです。初めて名前を聞いたら、なんだろう?誰だろう? って思うでしょ? それがめっちゃ好き(笑)」
ヤバタンさんが日本を愛する理由。それは日本人の温かさだ。
「日本人って明るくて優しくてすごくたくさん笑ってくれる。だから大好きなんです。よく日本人はシャイっていわれるけど、それはステレオタイプじゃないかなと思う。シャイに見えるかもしれないけど、しゃべってみたらみんな笑顔ですよね。すごく温かい人が多いと思いますよ。
例えば撮影でいろんな人と話しますけど、プレゼントをくれたりする。あとは迷子になったら手伝ってくれるでしょ。”日本人は道をめっちゃ教えてくれる”っていうのは有名ですよ。『あの曲がり角を左ね』っていうだけじゃなくて、ちゃんとその曲がり角まで連れてってくれるんですもん。それがGoogleマップとは違うところですよね(笑)」
一方で、日本で暮らす外国人が困る問題、住居や仕事の壁をヤバタンさんも経験したことがあるという。
「大変だったことといえば……例えば携帯電話を持つ時かな。携帯電話を買うためには、銀行口座が必要って言われて。だから銀行に行って口座を作ろうと思ったら、今度は電話番号が必要と言われて。”じゃあどっちも作れないじゃん”って困ったことがありました(笑)。あとは家を借りる時ですかね。1年間とか2年間の契約ができないから、マンスリーアパートに住む外国人が多くて、僕も5年前に日本に来た時も最初はそうでした。みんな外国人だからという理由で、”日本語がしゃべれないからコミュニケーションができない”って思われているんだと思います。ちゃんと仕事をしていれば、何の問題もないと思うんですけどね。
今は賃貸を借りていますけど、物件を探している時に”外国人はダメ”って断られた経験があって、”本当にこんなことがあるんだ”って仰天しましたね。でも不可解だったのは、内見が終わったあとに断られたこと。外国人がダメなら、最初から言ってほしかったですよね……。ちゃんとお金も持っているのに借りることができないというのは、悲しかったです。幸い周りに助けてくれる方もいて、ちゃんと今の家に住むことができていますよ。
仕事で不思議に思うことは、ルールが多いところ。撮影をしていても、”この背景はダメ””この場所はダメ”と言われることが多くて、厳しいなあ……と思うことはありますね。肝心のオチのシーンが撮れないこともありましたから(笑)」
お互いのバックボーンを「イマジン」することが、壁を取り払う
いろいろな経験をしたヤバタンさんだが忘れたくないのは、総じて日本に対してポジティブな感情を持っているということだ。それは「その国にはその国の文化がある」という考えがあるからだという。
「違う国に引っ越したかったら、その国の事情を勉強したり、理解しようとするのは大事なことでしょう?だから一方的に日本はおかしな国だと決めつけるのは僕は好きじゃないし、外国人である僕たちも頑張らなきゃいけない。だけど、例えばさっきの物件探しの話だったら、不動産屋さんとオーナーさんがコミュニケーションを取ったりして、もっと外国人が住みやすい環境に変えていけばいいとも思う。お互いの歩み寄りが必要だと思うんです。
ステレオタイプって生まれることそのものはごく自然なことで、それをうまく利用したり崩していくことに意味があると思うんですよ。例えば、”外国人なのにお箸上手ですね”ってよく言われますけど、それってステレオタイプじゃないですか。でもそれを”外国人だからお箸が下手だと思ってたの?”って不快に思うのではなくて、”ありがとうございます”と純粋に受け取る。そこからまた会話が広がっていくんです。僕も逆の立場だったら、”お箸上手だなあ”って思うかもしれないな、と相手の気持ちを考えるようにはしていますね。
ソフト面のことを言ってはいますが、外国人がより日本で暮らしやすくなるためには、お互いのバックボーンや気持ちをイマジンすること、そしてコミュニケーションを取ることだと思います。完璧なコミュニケーションじゃなくてもいいんです。僕だって完璧じゃないし、ずっと笑顔とジェスチャーで日本の皆さんと通じています。笑顔って言葉より伝わる気がしています。ドアを開けてあげたり、目が合ったらほほ笑んだり……小さいことでもやってみたら、世界が変わってくる気がします」
ヤバタンさんの夢。それは日本の魅力を伝え続けていくことだ。
「日本の皆さんは本当に笑顔で頑張っている人が多いから、動画を通して伝え続けたいです。”日本にこんな良いところがあったんだ”って言われると、すごくうれしい気持ちになりますね。あとは目標として、自分の番組や映画を作ること。ゆくゆくは本名のクラウドとしても活動していって、日本の皆さんに愛される存在になっていきたいですね。一緒に仕事してみたい人は……キレイな女優さん。長澤まさみさんとご一緒できるのを目指しています!」
「日本にこれからもずっといたい」と話すヤバタンさんの笑顔からは、心から日本を愛していること、そして多くの日本人と接してコミュニケーションの壁を取り払ってきたことがうかがえた。髪の色や言語が違っても、同じ人間。「心を通い合わせること」が、日本が外国人から愛され続けるカギなのかもしれないと感じた。
取材・執筆:久下真以子
撮影:阿部健太郎
1992年生まれ、ノルウェー・オスロ出身。高校生の時に見た日本のお笑い動画にほれ込み、日本での芸能活動を志す。現在はInstagramやYouTubeを中心としたSNSで、日本各地を回って日本の文化などをリポートする動画などを投稿。フォロワーはすべてのSNSを合計すると200万以上にも上る。「ホントにビックリした~!」という動画内のセリフが人気を博している。
YouTube公式 Mr Yabatan https://www.youtube.com/channel/UC4R2E-9VWWBxFb5fC0qy3hQ
Twitter @mr_yabatan
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