親の介護に悩む前に。安心した老後生活を親が送るために押さえておきたいポイントとは?
内閣府が発表した「令和3年版高齢社会白書」によると、日本の総人口における65歳以上の割合は1950年の5%未満から、2020年には28.8%に達しました。総人口が減少する中で65歳以上が増加することにより高齢化率は上昇を続け、2036年には3人に1人が高齢者という時代になるといわれています。高齢化が進む日本において、介護の問題はますます注目を集めています。親の介護が初めての介護になる人もいるはずです。家族にとってベストな選択ができるよう、介護における問題点やポイントを把握しておきましょう。
この記事では下記の3点を解説します。
- 親の介護を円滑にするために親族や兄弟姉妹でやっておくべきこととは
- 介護に必要なお金と備え・注意点を解説
- 介護負担を軽減するサービスについて知ろう
親の介護を円滑にするために親族や兄弟姉妹でやっておくべきこととは
親が高齢になり、自立して生活するのが難しくなった場合、自宅での介護や介護施設への入居といった選択が迫られることになります。法律的にも子どもには親の扶養義務があり、介護を必要とする親を支えていかなければなりません。
おじ、おばといった親族や兄弟姉妹との間で介護をめぐってトラブルに発展することも少なくないため、介護にまつわるもめごとを避けるためにも、家族間での協力や話し合いをしておくのが望ましいでしょう。親に安心して老後生活を送ってもらうためにも、家族間でやっておきたいことを3つ紹介します。
①介護が始まる前に親と話し合っておく
自宅で介護するか施設に入るのかなど、親が元気なうちから本人が望む介護について話し合っておきましょう。エンディングノートと呼ばれる終活用のノートもあります。項目別になったノートも販売されているので、親に話して協力してもらうとよいでしょう。
②介護を分担する取り決めをしておく
介護をすることになる兄弟姉妹間で本音を話し合っておきましょう。お金に余裕がない、結婚して家族がいる、遠方に住んでいるなどそれぞれに事情があるため、直接的な介護ができないなら金銭的な支援を多めにするなど、兄弟姉妹間で納得できる介護の方針を決めておきましょう。
また、一人っ子で兄弟姉妹がいない場合や親が離婚や死別で独り身の場合は、親の兄弟姉妹などに協力を求めるのも一つの手段です。兄弟姉妹でも他の兄弟姉妹を扶養し合う義務を負っているため、両親の兄弟姉妹であるおじ、おばにも扶養義務があります。さらに、介護を支援してくれるケアマネジャーや主治医を見つけることも検討しておきましょう。
③公的機関や相談窓口を下調べしておく
介護について不安や悩みがある場合は、一人で抱え込まずに地域包括支援センターと呼ばれる公的機関を活用しましょう。市区町村が設置している福祉専門の窓口で、福祉の資格を持ったスタッフの無料相談を受けられます。スタッフには、医療・福祉・介護の専門家である社会福祉士・保健師・主任ケアマネジャーなどがおり、相談内容に応じて適切に解決方法を提案してくれます。必要であれば各種支援を受けられるように手続きの補助もしてくれるので、悩みがあれば相談してみましょう。
介護に必要なお金と備え・注意点を解説
介護にあたって直面するのがお金の問題です。親の預貯金や年金を介護費用に充てたとしても、次第に貯蓄が少なくなっていくことが想定されます。介護する側もされる側も安心できるように、お金に関する事前の準備や情報収集を行っておくとよいでしょう。介護に必要なお金とお金の対策について紹介します。
介護にかかる費用はいくら?
生命保険文化センターが実施した2021年度の「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護に必要な費用(公的介護保険サービスの自己負担費用含む)は、住宅改造等の一時的な費用の平均は74万円、月平均は8.3万円でした。介護期間は平均61.6カ月のため、これらから計算すると介護にかかる費用は約590万円と分かります。
まずは、親の資産や負債の状況、自宅介護や施設入居にかかる費用を把握し、それを踏まえて家族で話し合いましょう。また、親のお金だけでまかなうのが難しそうであれば、家族みんなで介護に必要なお金を出し合って積み立てる「介護預金」を用意しておくのもよいでしょう。
※出典:介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?|リスクに備えるための生活設計|ひと目でわかる生活設計情報|公益財団法人 生命保険文化センター
介護にかかる資金対策を解説
介護にかかる公的介護保険制度は、たびたび改正されています。そのため、介護が現実的になった時、どのくらい保障を受けられるかはめどが立ちづらい側面があります。しかし、今からその制度の概要を知っておけば、見直しがしやすくなるでしょう。また、民間の介護保険もあるので、それら2つの概要を紹介します。
公的介護保険は、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして2000年にスタートしました。65歳以上の介護が必要な人、40~64歳までの医療保険加入者で国が定めた16の特定疾病が原因で要介護認定を受けた人が自己負担1~3割で各種介護サービスを受けられます。満40歳を迎えると介護保険料を徴収され、支払いは一生涯です。会社員の場合は所得によって異なる保険料が給料から差し引かれます。
公的介護保険のサービスを受けるには、介護が必要であることを示す「要介護認定」が必要です。要介護認定は介護の必要度合いに応じて、「要支援」1または2の2段階と、「要介護」1~5の5段階の、合わせて7段階があります。
申請から要介護認定を受けるまでの流れを解説します。介護が必要になったら、まずは申請を行いましょう。申請の窓口は介護を受ける人が住む自治体の役所の介護保険担当課です。申請をするとまず行われるのが、調査員による聞き取り調査です。その後、聞き取り調査や主治医のをもとに判定が行われ、約1カ月で認定通知が送付されます。
介護保険から給付される金額は、要介護状態区分ごとに上限が決められており、以下の表のようになっています。
支給限度額は金額ではなく単位で、サービスによって1単位あたりの単価が異なります(上記の表は目安としやすい、1単位10円のものです)。また、市区町村によっても上限額が異なる場合があるので、事前に各自治体に確認しましょう。
※出典:区分支給限度額(介護保険から給付される一ヶ月あたりの上限額)(目黒区)
続いて、民間介護保険について紹介します。公的介護保険を補完するために、生命保険会社の介護保険を利用する方法があります。民間介護保険は現金が給付されるのが特徴です。
民間の介護保険は、ニーズに合わせてさまざまな形態の保険を選べるのが特徴で貯蓄型と掛け捨て型の2種類があります。
貯蓄型は死亡保険や年金保険がセットになっていて、亡くなった場合の死亡保険金や解約時の解約返戻金を受け取れるのが特徴です。掛け捨て型は、解約返戻金や満期保険金を抑えた代わりに、保険料が安くなっています。
保険会社が独自に定めた給付条件に該当しない場合、要介護状態になっても給付金を受け取れないことがある点には注意しましょう。また、給付要件が公的介護保険に連動するタイプの場合、介護保険法が改正されると給付条件が変更になる場合があります。介護保険は定期的に見直すようにしましょう。
親のお金を介護費用に充てる場合は、認知症などによる口座凍結に気を付けましょう。銀行預金等は原則として名義人しかお金を引き出せません。例えば介護が必要な親が認知症になり口座が凍結されてしまうと、お金を引き出せず、介護費や生活費に困ってしまうケースがあります。
介護負担を軽減するサービスについて知ろう
ここでは、介護負担を軽減するサービスを紹介します。
公的介護保険のサービスには、訪問介護・訪問入浴介護・デイサービス・ショートステイなどがあります。公的介護保険外のサービスとしては、ケアマネジャーや地域包括支援センターへの相談、施設介護サービス(介護施設への入居)があります。介護施設は要介護者に安心した生活を提供し、生活スタイルも安定するのがメリットです。また、家族以外の人とも触れ合う機会があり、孤立を防ぐことができます。
人気お笑いコンビ「メイプル超合金」の安藤なつさんは介護歴20年の介護のプロです。2015年のM-1グランプリ出場時の前夜にも夜勤をしていました。初めて大人のおむつ交換をした時は、学んだことが通じずショックを受けたそうです。しかし、「さまざまな人とのコミュニケーションを取れる介護は、私の中で楽しいもの」と語っています。下記の記事では、介護のプロである安藤さんから見た介護の大変さや楽しさをインタビューしました。
老人ホームや高齢者向け住宅が介護に必要になった場合は、検索サイトを活用してみるとよいでしょう。株式会社LIFULLでは、「LIFULL介護」というサービスを展開しており、全国47都道府県の施設検索や無料の入居相談が可能です。
LIFULL介護の事業責任者である泉雅人さんは、「今は多くの介護のプロに介護を任せる選択肢がある」と言います。仕事の定年を迎えてからの生活で不透明な部分を解決していき、老後の不安をなくすという思いを持って事業活動を行っています。
まとめ
介護の形は、家族ごとに千差万別です。親を含めた家族とどのような形で介護を行っていくかを話し合っておけば、安心できる老後生活を送ることにつながります。資金面の確認も大きなポイントです。親のお金だけでまかなえるのか、きょうだいや親せきなどの協力からお金を工面する必要があるのかをはっきりさせておくと、介護が必要になった時に安心材料になるでしょう。
また、現在はさまざまな介護サービスがあります。介護サービスの活用も視野に入れ、自分や家族にとって理想の介護を見つけていきましょう。
監修者:藤井 寿和
合同会社福祉クリエーションジャパン代表。24歳まで陸上自衛官を経験後、介護の仕事に転身。20代で医療法人の事業部統括マネジャーに就任した後、35歳で独立。スタッフや設備の優劣を問わず良好な施設運営ができる「いつでもどこでも誰でもメソッド」を軸に、年間100日を超える出張活動を全国で展開中。介護業界の情報発信とスポットライトが当たる重要性に築き、メディア事業を立ち上げ、現在に至る。
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