ジェロントロジーとは? 人生100年時代をいきいきと過ごすための考え方と超高齢社会の課題

厚生労働省によると、2021年における日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳でした。また、65歳の女性の6%、男性の1%が100歳まで長生きするというデータが示す通り、日本はまさに人生100年時代に突入したと言えるでしょう。

超高齢社会には課題も少なくありません。人生100年時代には新しい生き方、ライフデザインが求められます。こうした課題に取り組んでいるのが「ジェロントロジー」という学問分野です。この記事ではジェロントロジーへの理解を深めるため、下記の6点を解説します。

  • ジェロントロジーとは
  • ジェロントロジー研究の歩み
  • 加齢と上手に向き合う「サクセスフル・エイジング」の考え方
  • シニア世代の就労・社会参加の現状
  • 超高齢社会の課題とは
  • 老後の経済的不安をどう解決するかを考える

出典:
令和3年簡易生命表の概況|厚生労働省
「100歳まで生きる」が当たり前の時代に?|厚生労働省

ジェロントロジーとは

ジェロントロジーとは、高齢者を意味するギリシャ語の「Geront」に、「学・論」を意味する「‐ology」が組み合わさった造語です。

ニッセイ基礎研究所のジェロントロジー推進室によると、ジェロントロジーは「加齢に伴う心身の変化を研究し、高齢社会における個人と社会のさまざまな課題を解決することを目的とした、AGING(加齢・高齢化)を科学する学問」とされ、「老年学」や「加齢学」とも呼ばれます。

また、エイジングに関する用語を解説している『現代エイジング辞典』(1996年出版)では、「老年学は人口の高齢化にともなって起きてきた種々の変化や問題を解決するために、生物学、医学、心理学、経済学、社会学、社会福祉学、建築学などの自然科学と社会科学の関連した科学の協力によってできた総合科学」と定義されます。

※出典:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)|ニッセイ基礎研究所

ジェロントロジー研究の歩み

ジェロントロジーの萌芽は20世紀初頭までさかのぼります。1903年にフランス・パスツール研究所の微生物学者イリヤ・メチニコフ博士が長寿に関する研究をジェロントロジーと命名したとされています。ジェロントロジーへの取り組みは、1930年代以降高齢化社会が進行した欧米先進諸国で早くから行われていました。

例えば、1938年にはアメリカのミシガン大学で加齢と高齢者に関する組織的な研究がスタートしました。20世紀前半のアメリカでは、生理的老化の原因や生活習慣病の克服を目指し、人間の寿命をどこまで延ばせるかを主な目的に、ジェロントロジーの研究が発展しました。

20世紀後半になると、ジェロントロジーの研究テーマは寿命をどう延ばすかというものから、老後をどう豊かに暮らすかという「生活の質(QOL)」を高める内容に移行していきます。高齢期における可能性やポジティブな側面に徐々に光が当たるようになりました。

また、1987年に老年学者のジョン・ローと社会科学者のロバート・カーンが科学雑誌『サイエンス』に「サクセスフルエイジング」と題した短い論文を発表しました。同論文では、「人は年をとっても、健康で自立し、社会に貢献できることが重要だ」と説いています。

その理念に基づき、エレン・マッカーサー財団(※1)がジェロントロジーの分野に膨大な研究費を投入。10年にわたって全米の大学の医学、工学、経済学、心理学、社会学、法学の専門家が連携し横断的な研究が行われました。日本でも研究が進み、1998年には東京都老人総合研究所(現在の東京都健康長寿医療センター研究所)から老化にまつわる研究成果をまとめた『サクセスフル・エイジング』が発刊され、ベストセラーになっています。

※1 2010年に設立されたサーキュラーエコノミーへの移行をビジョンとした組織
※出典:
ジェロントロジーとは?-人生100年時代の基礎知識 基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.285]|ニッセイ基礎研究所
ニッセイ基礎研究所「report April 2010 ジェロントロジーの役割と期待」

加齢と上手に向き合う「サクセスフルエイジング」の考え方

ジェロントロジー研究においてたびたび取り上げられる「サクセスフルエイジング」は、“理想の生き方、老い方”と言い換えることができるでしょう。この理念に基づいて、ジェロントロジー研究者は、「高齢期にどのように年を重ねていくことが理想なのか」を追究しています。

1960年代には、「高齢期になったら田舎で静かに暮らすような生き方が理想」とされる「離脱理論」が、ジェロントロジー研究者によって提唱されました。その後、「年齢にかかわらず活躍し続けることが理想の老い方」とする「活動理論」が提唱されたのです。

そして、1980年代になって登場したのが「継続理論」であり、ここでは「中年期までに築いてきたライフスタイルやアイデンティティーなどをいつまでも継続できることが理想の老い方」としています。

※出典:人生100年時代のサクセスフル・エイジングとは? |ニッセイ基礎研究所

高齢期に訪れる3つのステージを“よりよく”生きること

多くの人は、若い時は元気で自立した状態にありますが、徐々に心と体の働きが弱くなり、最終的にケアやサポートが必要な状態になります。このように要介護の状態に陥っていく過程に見られる心身機能の著明な低下を示す状態を「フレイル」と呼びます。

フレイルとは、日本老年医学会が提唱した用語であり、“加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態”を表す言葉として『フレイル診療ガイド 2018 年版』で解説されています。「虚弱」「老衰」などの意味を持つ「Frailty(フレイルティー)」が語源とされ、高齢者においてよく認められる老年症候群です。

引用:『フレイル診療ガイド 2018 年版』(日本老年医学会)

人生100年時代においては、高齢期は30年以上にも及ぶ長い期間を意味します。ジェロントロジー研究において、「高齢期に訪れる3つのステージを“よりよく生きる”ことがサクセスフルエイジングである」という新たな考え方があります。

それは高齢者の生活時における自立度の変化を明らかにした研究成果を基に提唱されています。多くの人が高齢期にたどるステージは、70代前半までが高い自立度を保つステージ1「自立生活期」、70代半ばから加齢とともに緩やかに自立度が下がるステージ2「自立度低下期」、そして本格的な医療や介護を受けながら暮らしていくステージ3「要介護期」の3つに区分されます。それぞれのステージには、「社会に参加し、活躍したい」「自立した生活をするための課題を解決したい」「健康のまま長生きしたい」といったより豊かな長寿を実現するための根源的なニーズがあります。こうした高齢期の各ステージにおけるニーズを満たしながら生きていけることが、長寿時代の「サクセスフルエイジング」と考えられます。

出典:
厚生労働省「広報誌「厚生労働」2021年11月号 特集1
前田展弘「高齢者市場の現状と展望~豊かな長寿に貢献するイノベーションの視点~

シニア世代の就労・社会参加の現状

高齢期に“よりよく生きる”ためにも外に出て人と会って活動する「社会性を維持」した暮らし方は非常に重要でそれは健康維持にもつながることです。

政府も、年齢に関わりなく意欲と能力に応じて働ける「生涯現役社会」の実現に向けて、高齢者の就労および社会参加を促す政策に力を入れてきています。2021年4月からは「70歳までの就業機会確保に向けた支援措置」が雇用主へ努力義務化され、こうしたこれまでの法改正や自治体のさまざまな取り組みにより高齢者の活躍の場所や機会は拡大してきています。

内閣府の資料によると、2020年の労働力人口は6,868万人でしたが、そのうち65~69歳は424万人、70歳以上は498万人とあり、労働力人口総数に占める65歳以上の者の割合は13.4%と上昇を続けています。また、60~69歳の約7割、70歳以上の約5割が働いているか、またはボランティア等何らかの活動を行っています。

一方、社会的な活動をしていない理由については「健康上の理由、体力に自信がない」が34.6%でもっとも多く、「時間的・精神的ゆとりがない」(25.4%)、「団体内での人間関係がわずらわしい」(17.0%)が続きました。体力的な理由以外にも、無理なく楽しみながら活動・活躍できる受け皿がないことも社会参加できない理由になっていることがわかります。

出典:1 就業・所得|令和3年版高齢社会白書(全体版)|内閣府
3 学習・社会参加|令和3年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府

超高齢社会の課題とは

満たされない高齢者の活動意欲

定年退職した高齢者が継続して働く環境は整備されつつありますが、希望する全ての高齢者のニーズに応えているかというと、残念ながら十分とは言えません。また、働き続けることや社会貢献活動への参加を希望する理由もさまざまです。単に収入目的だけでなく、健康維持、生きがい、あるいは社会とのつながりを持ちたいと願う高齢者もおり、そうした意欲をいかに満たしていくかを社会全体で考える必要があると言えます。

高齢者を取り巻く別の問題に、社会的孤立や孤独死の問題があります。その背景には生涯未婚率の上昇と相まって単身高齢世帯が増加していることや、地域社会の崩壊に伴う人間関係や地域力、仲間力が弱体化している点が挙げられます。

多様なニーズと課題を踏まえるなかで、「超高齢社会に適合した地域社会」「人々の新たなつながり」をどう創っていけるかが、高齢者の活動意欲を促し満たしていくための重要な鍵と言えるでしょう。

老後の不安をどう解決するかを考える

生命保険文化センター「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」(2021年6月)によると、人生100年時代の到来に対する意識(長寿社会への不安感)として「どちらかといえば希望より不安が大きい」「希望より不安が大きい」と回答した人の合計が51.2%で全体の半分を超えました。

定年を迎え仕事から解放された途端、「やることがなくなった」と生きがいを失ってしまうという人も少なくありません。そこには、健康や経済的な不安、燃え尽き症候群などの精神的理由が社会参加の障壁になっているケースも考えられます。超高齢社会におけるよりよい生き方を探るジェロントロジーにおいても、「年齢に左右されず自分らしく生きる」ことは大きなテーマと言えるでしょう。老後を楽しむ「第二の人生」に決まりはなく、人生を充実させる考え方や方法はたくさんあります。

定年退職後、キャンピングカー旅や海外ひとり旅を楽しみ、YouTubeチャンネルで発信するCamper-hiroさん。定年後にお金や時間などの制約を抜きに本当にやりたいことは何かを考えた時、キャンピングカーで好きなところに旅する生活という答えにたどり着きました。YouTubeでは旅ログだけでなく、「第二の人生」として老後の暮らし方についても発信し、幅広い層から反響を得ています。「老後の不安についてあれこれ悩む時間がもったいない。『今』を大切にし、行動することが大事」と語ります。

Instagramのフォロワー約10万人を持つ茨城のダンスチーム「BACK STREET SAMBERS(通称・三婆ズ)」のメンバーはHiromi(65歳)、Michiyo(68歳)、Keiko(72歳)で平均年齢は68.3歳です(2022年当時)。中心メンバーのHiromi さんは、若い頃は固定観念にとらわれて『こうしなくちゃいけない』と考えることが多かったが、世界中のダンサーと出会ったことで固定観念が薄れていった」と語ります。「何かを始めるのに、遅すぎることはない」と話す三婆ズのみなさんから、年齢を理由にやりたいことを諦めず、一歩踏み出す勇気が大事だということを学べます。

定年後に太極拳、マージャン、散歩など幅広い趣味を楽しむ大崎博子さん。20万人以上のTwitterフォロワーを持つ自称「最高齢ツイッタラー」です。娘から勧められたことをきっかけに60歳を過ぎてからパソコンを勉強し、今やタブレットやスマホを駆使して趣味の映画や動画鑑賞を楽しんでいます。「年寄りらしく生きる、なんて私はしたくない。人の目を気にせず、好きな髪形や好きな洋服を着て、一人暮らしを楽しく暮らしています」と話す大崎さん。年齢にとらわれず、自分の限界を決めず、気になったことや興味を持ったことに果敢にチャレンジする姿は、エネルギッシュの一言に尽きます。

出典:ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査|公益財団法人生命保険文化センター

まとめ

これから日本が本格的な超高齢社会に突入することはもはや避けられません。不安を抱いて未来を迎えるか、希望を持って未来に歩んでいけるかは、私たち一人ひとりの心がけにかかっていると言えるでしょう。今から必要な知識を取り入れ、悩みを一つずつ解決していきませんか?

監修者 前田 展弘

㈱ニッセイ基礎研究所 ジェロントロジー推進室 上席研究員(東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員)。2004年ニッセイ基礎研究所入社。専門はジェロントロジー(高齢社会総合研究)。高齢者のQOLや長寿時代のライフデザイン等の基礎研究を基に、超高齢社会の課題解決に向けた研究および事業開発に取り組んでいる。著書に『東大がつくった高齢社会の教科書』(共著、東京大学出版会 2017年)など。

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