気候危機は自分じゃない誰かが解決してくれる、なんてない。
環境活動家として、講演活動などを通して若い世代に向けて情報発信をする露木しいなさん。小さな頃から自然とふれあうことが大好きだった露木さんは、高校で留学したグリーンスクールで、大好きな自然や地球、人々の暮らしが危機的な状況にあり、自分がその原因の一部になっていることを知った。学校の仲間たちがNGOを立ち上げたり、グレタ・トゥーンべリさんと出会って接したりした経験から刺激を受け、露木さんは行動する。
地球環境は大きな危機に直面しているが、今に始まった問題ではない。昔から明らかになっていた問題を先延ばししてきたツケは、未来を生きる若い世代に残されてしまっている。
Z世代(※)でもある露木しいなさんは、環境活動家として、特に若い世代に向けて環境危機の実情と未来へのアクションを伝えている。インドネシア・バリ島にあるグリーンスクールで学んだ経験を持ち、現在は大学を休学して講演活動や化粧品作りワークショップの開催などに取り組んでいる。
人間の経済活動が地球を覆い尽くす地質時代の「人新世(ひとしんせい・じんしんせい)」ともいわれる中、私たちは問題解決のために何ができるだろうか。
(※)Z世代:1990年代中盤から2000年代終盤までに生まれた世代を指す。
一人ひとりが、気候危機の問題の一部になっているが、解決の一部にもなり得る
露木さんが環境活動家になった原体験には、「トトロ幼稚舎」で過ごした時間があった。そこは、横浜市にある自然を舞台にした園外活動が中心の幼稚園だ。横浜の中華街近くの都会で暮らしながら、幼稚園で自然を好きになった。
「お昼ご飯に、薪を燃やして飯ごうでご飯を炊くんです。ほかにも、森で採ってきた薬草を天ぷらにして食べたり、幼稚園生の遠足で箱根八里、30km以上を1日で歩いたりするんですよ。めっちゃハードですよね。そうやって、都会に住みつつ、自然の中にいるのが当たり前になっていきました。自然は私にとってディズニーランドのようで、何でもあって夢が詰まった特別な場所になっていきましたね」
しかし、高校生でインドネシア・バリ島にあるグリーンスクールに留学するまでは、自然が好きな気持ちと環境問題が露木さんの中で結びついていたわけではなかったという。
「日本にいた時に、中学校で『地球温暖化とは何か。30文字以内で説明しなさい』といったテストの問題がありました。30文字に収まる文章は暗記をして答えていましたが、“自分ごと”にはなっていませんでした。
気候変動は社会の教科書で、見開き2ページ程度しかなくて、今でも全国の学校で講演をする時に見せてもらうと変わっていません。それでは、“自分ごと”としてつながりを知ることにもならないし、解決していこうというふうにもならないと感じます。現在は環境活動家として活動しているから、もともと環境にとても関心があってグリーンスクールに入ったと思われがちなんですけど全然そうじゃなかったんです」
「何かを始めるのに、大人になるまで待たなくていい」
露木さんが環境問題を“自分ごと”として捉え始めたのは、留学先のグリーンスクールに入学してからだ。母親から「英語なら日本の語学学校で学べる。ほかの何かも学べる場所を」と言われ、偶然出合ったのがインドネシア・バリ島にあるグリーンスクールだった。
「サステナビリティ教育を重視している学校ですが、グリーンスクールに通っている人がみんな環境に強い意識があるわけではありません。私の場合は、幼少期に自然を好きになった体験があったので、グリーンスクールに行った時に環境問題、地球温暖化がただ地球の裏側で起きている問題ではなく、“自分ごと”だと思えたんです。
環境問題は“誰か”が引き起こしているものというイメージがあったんですけど、その“誰か”は自分であることを知りました。それから、自分がペットボトルを使わないようにしたり、お肉を食べ過ぎないようにしたり、ものを買い過ぎないようにしたりする日々の選択に興味を持ち始めました。私たちは、環境問題の原因の一部になっているのですが、逆にいうと、それは解決の一部にもなり得ること。環境はすごく難しいことのように感じられるけれど、自分でちゃんと選ぶことができれば、解決の立場に立てるんだなって思って、そこから環境問題っていわれるものに興味を持ち始めましたね」
グリーンスクールのカリキュラムが特徴的で、日本の高校のようなテストはほとんどなく、「暗記テストやったのは1回か2回かな」とのこと。多かったのは、それぞれの授業の最終プロジェクトとして行う制作や発表だ。20~30種類に分別されたリサイクルステーションから素材を持ってきてアート作品を作る最終プロジェクトは、理科の授業だったが、ほかにもものづくり、美術といった五感を使った要素が総合的に組み合わさっていた。
そうした授業を共に受けた仲間たちからも大きな影響を受けたそうだ。最も印象に残っているのは、NGO団体「Bye Bye Plastic Bags」を立ち上げたメラティさんとイザベルさん姉妹だ。
「彼女たちは、バリ島からプラスチックバッグを無くす活動をしていました。約4年かけてゴミ拾いをしたり、お店に訴えかけたりという活動を行い、最終的にバリ島の法律を変えたんです。プラスチックバッグを禁止にする法案が出されて、実際に可決されたのを見て、それぐらいビッグなことができるんだ、と感じました。
彼女たちがよく言っている言葉に、『You don’t have to wait to be grown-up to make a change(何かを始めるのに、大人になるまで待たなくていい)』がありました。私もその言葉をきっかけに『やってみよう』と思って、オーガニックコスメ作りを始めました。
ほかに、『Nalu(ナルー)』という洋服のブランドは、私と同い年の女の子(ダリさん)と弟(フィンさん)が二人でやっています。インドネシアとインドの子どもたちには、洋服や制服を買うお金がないために学校に行けない子がいます。そこで、インドで服を生産することで雇用を作り、生産された服を販売してその利益で洋服を寄付する活動でした」
2018年に開催された「気候変動枠組条約締約国会議(COP)」では、本会議に先立って開催される青年たちの会議「COY(Conference of Youth)」に参加した。出会ったのは、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんだ。
「グレタさんは、もう本当に深刻だし、つらそう。オフステージでも話したのですが、人の前で話をしたくないのに、でも伝えなきゃいけないことがあるから話をしているという感じですね。
グレタさんが目立ちがちですが、若い世代で、地球環境がひどく悪化している事実を受け止めて活動している人はほかにもたくさんいると思います」
1万6千人に講演を届けた
グリーンスクール卒業後、帰国して大学に入学したが、1年間通ったのちに休学した。大学に通いながら環境活動をすることもできたが、休学して専念することにしたのは、「大学は待ってくれるけど、環境は待ってくれないから」だという。
「環境に対して、やらなきゃいけないことはもう決まっています。これだけ世の中に科学者や評論家がいて、いろんなことを調べて結果が出ている中で、じゃあ次は何が必要なのかなと考えると、“行動しかない”と思ったんですよ。だから、休学して活動に専念することにしました。
講演は20年11月から始め、これまでに約120回、計1万6千人ほどの人たちに届けてきました。体を動かして、五感を使って、自分が学んだことを行動に移すことを大切にしています」
“待ってくれない”環境の問題を解決するために、私たちに何ができるだろうか。
「もし何かやりたいと思ってくれている人には、早くて経済的に安くて、かつインパクトが大きいアクションがあります。それは、電力会社を替えることです。再生可能エネルギーを使った電力会社があり、驚くほど簡単に、スマホを使って5分で手続きができます。これはもうとにかくみんなにやってほしい。
自分が選ぶものを通して、その場では見えない人、動物、地球に影響していくということをちょっとでも想像力を使って考えてもらえたらなと思います。でも、それは環境活動家の私でも24時間、常に考え続けるのは難しくて、ハードルは高い。まずは自分を満たしてあげること、その上で地球の未来のことに対して、想像力を豊かに持ってほしいです。
大きな会社で講演をする時に、『会社として何ができますか?』と聞かれますが、『皆さん一人ひとりとして何をやっているんですか?』と聞くとほとんどが答えられないんです。一人ひとりの集まりである会社は、この一人ひとりが変わっていくと、世の中がどういう風に変化していっても、この会社が柔軟に対応できるのではないかと思います。会社であっても学校であっても、実は伝えている内容はほとんど同じなんです。みんな必ず、消費者という一人ひとりなので」
SDGsのゴールは30年。日本がカーボンニュートラルを目指しているのは50年。目標はとても高く、このままでは達成が難しいともいわれている。環境を守る活動をより加速させていかなければ、人間も自然も、そして地球も持続可能であることができなくなる。「私は30年よりも、50年を見ています」と語る露木さんは、これからの地球を担う世代として、より若い世代に向けて情報発信し、アクションを促している。
一人ひとりが環境問題を“自分ごと”として捉え、国や地域、世代を超えて解決に向けた協力をしていける土壌を、露木さんはこれからも耕していく。
すると、「環境活動家になるためにはどうしたらいいですか?」と聞かれることも多くなってきました。「別に何か申請しなきゃいけないわけじゃないから、自分が環境活動家だと名乗ったら環境活動家だよ」と伝えています。私の講演をきっかけに行動を始めてくれたらうれしいです。
2001年、神奈川県生まれ。中学校卒業後、インドネシア・バリのグリーンスクールに留学。在学中にオーガニックコスメブランド「Dari Bali(ダリバリ)※現在はShiina Cosmetics」を立ち上げ、校内で事業展開。18年に開催された「気候変動枠組条約締約国会議(COP)」では、本会議の前に開催される「COY(Conference of Youth)」に参加。卒業後、帰国し大学に入学。現在は休学し、環境活動家として講演などを行う。
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