Utility3.0とは? 日本のエネルギー産業が迎える「5つのD」と持続可能な社会に向けた取り組み

脱炭素化に向けた取り組みが始まり、私たちはこれまで以上にエネルギー問題について考えるようになりました。日本のエネルギー産業も大きな転換期を迎えており、将来的には「Utility3.0」への移行が期待されています。

この記事では下記の4点を解説します。

  • Utility3.0とは?
  • Utility3.0の世界では暮らしはどう変わる?
  • 2050年脱炭素化に向けた日本の取り組み事例
  • 持続可能な社会に向けてエネルギー問題に向き合うプロジェクト

Utility3.0とは?

Utility3.0の「Utility」は「有用性」という意味で、電気やガス、水道などの公共事業の担い手を指す言葉です。日本のエネルギー産業あるいは電気事業は、現在大きな変革をもたらすトレンドに直面しています。これらのトレンドにより導かれる電気事業の将来像が、「Utility3.0」と呼ばれるものです。

今後、エネルギー産業は以下の「5つのD」に直面するといわれています。

  • 人口減少・過疎化(Depopulation)
  • 脱炭素化(Decarbonization)
  • 分散化(Decentralization
  • 制度改革(Deregulation)
  • デジタル化(Digitalization)

「5つのD」に取り組む過程で、エネルギー小売業は顧客体験を提供するサービス業となり、電気自動車の普及により電力システムと運輸システムの融合が進みます。このような新しい顧客体験(UX)の創出に加えて、電力市場自体のリパワリング(電力市場の再設計)が進んだ世界が、Utility3.0と定義できるでしょう。

エネルギー産業は「Utility1.0」から「Utility2.0」へ移行している最中であり、将来的に「Utility3.0」に移行していくことが期待されています。

Utility1.0は、電気事業が始まって以来のビジネスモデルのことです。供給義務を伴った法的独占(地域独占)により「規模の経済性」を追求し、積極的な投資により高度経済成長を支えてきました。

Utility2.0は、電気事業の自由化です。これは1970年代に発生した、オイルショックなどで経済が低成長に移行したことを契機としています。電気事業者が独占的に活用していた、既存の送配電ネットワークを第三者に開放して発電と小売の分野の競争による事業のスリム化を図りました。

太陽光発電をはじめとした分散型電源は徐々に普及していますが、今後さらにコストが下がれば、大規模集中型電源と同様に活用が進む可能性があります。Utility3.0では、こうした分散型技術によりエネルギー産業が新たなステージを迎えると予測されています。

※出典:電気事業とインフラ産業の将来像(Utility3.0) – J-Stage

現在進行しているUtility2.0では、電力自由化による発電・小売の競争が中心ですが、Utility3.0では他の事業との連携、融合が進む点が特徴です。

例えば、太陽光発電や家庭用蓄電池などの分散型電源のリソース制御を行ったりする事業者「リソースアグリゲーター」が大きな役割を果たします。

また、Utility3.0では電気事業が運輸事業などと融和し、将来の社会インフラを統合的に担う事業に発展するともいわれています。

Utility3.0への変革に向けては、再生可能エネルギーの低価格化と蓄電技術のさらなる進化や適正な規制緩和、分散型電源を起点としたビジネスへの対応が不可欠といった点も指摘されています。

Utility3.0の世界では暮らしはどう変わる?

エネルギー産業がUtility3.0に移行すれば、私たちの日常生活はどのように変わるのでしょうか?

具体的なイメージを膨らませるためには、エネルギー産業が「分散化」されるとはどういうことか、理解しておく必要があります。現在、発電所は3つの価値を提供しているといわれています。私たちがすぐにイメージするのは、「電気をつくる」価値です。それ以外にも、「必要な時に必要な量を発電できるという価値」と、「出力調整によって系統の安定性を確保できる価値」があります。

Utility3.0において、それぞれの価値を提供できるプレーヤーが多様化することで、これまで発電所がまとめて提供していた価値が細分化され、さまざまなビジネスが登場することが期待できるでしょう。

プレーヤーの多様化に加え、「5つのD」のうちの1つ「デジタル化」についても触れておく必要があります。すでに私たちの日常生活のさまざまな場面で活用されているIoTの普及により、例えば、これまでは漠然ととらえられていた「快適」という事象を、デジタル化により「どのくらいの温度や湿度が快適」と数値化できます。そうすれば、ビジネスは「エアコン」という手段の販売ではなく、「部屋を快適な温度、湿度に保ってくれる」サービスの提供へとシフトするということです。

こうした潮流を前提にすると、NPO法人国際環境経済研究所 理事・主席研究員の竹内純子氏は、従来の電力システムと分散型技術が完全に融合する結果、エネルギー業界の小売業はいったん消滅すると予測しています。その代わりに、消費者が期待する成果をコーディネートする「UXコーディネーター」なる役割が登場し、電気料金を含めてサービスフィーを支払う未来になるのではないかとコメントしています。

※出典:建築設計リポート Vol.31 脱炭素時代の自立分散型エネルギー社会に向けて

2050年脱炭素化に向けた日本の取り組み事例

菅内閣総理大臣(当時)は、2020年10月26日の所信表明演説において、日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。加えて、2021年4月には気候サミットにおいて「2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを表明しています。

日本が排出する温室効果ガスのうち約9割がCO2であり、CO2の排出量の約4割が電力部門、残りの約6割が産業や運輸、家庭などの非電力部門からの排出です。カーボンニュートラルを目指す上で有効なのは、「電源の低炭素化」と「需要の電化」を掛け算することです。例えば、「ガソリン車→EV」と「火力発電→再エネ・原子力」を掛け合わせることで、大幅なCO2排出削減を見込めるといえるでしょう。

※出典:第1部 第2章 第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組 │ 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) HTML版 │ 資源エネルギー庁

※出典:日本のエネルギーが直面する5つの課題

「ゼロカーボンシティ」とは

ゼロカーボンシティとは、脱炭素化の実現に向けて、2050年までに「二酸化炭素の実質排出ゼロ」を目指すことを表明した地方自治体のことです。

東京都、京都市、横浜市をはじめとする598自治体(2022年2月28日時点)が名乗りを上げ、再生可能エネルギーの導入、EV(電気自動車)の普及促進など、多くの自治体が温室効果ガス削減のための具体的な取り組みを始めています。

※出典:2050年 二酸化炭素排出実質ゼロ表明 自治体

例えば、横浜市は2018年に国からSDGsの達成に向けて優れた取り組みを行う「SDGs未来都市」に選定され、「Zero Carbon Yokohama」を宣言し、2050年までの脱炭素化を目指しています。

具体的には2050年までに横浜市内のエネルギー消費量を約50%削減すること、市内の消費電力の100%を再生可能エネルギー由来の電力へ転換する目標を立てています。横浜市自らが率先し、庁舎の使用電力の100%再エネルギー化を2021年3月に実現しました。市内の小・中学校71校と1区役所(2021年3月末時点)では、設置した蓄電池を電力の需給調整に活用したり、非常時の電源として利用したりする取り組みも行っています。

※出典:横浜市の脱炭素化「Zero Carbon Yokohama」とは?! | みんなでおうち快適化チャレンジ 家族も地球も健康に | 環境省

持続可能な社会に向けてエネルギー問題に向き合うプロジェクト

日本は石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に恵まれておらず、そのほとんどを輸入に頼っています。もし、私たちがエネルギー問題に関して課題を先送りし続け、エネルギーの選択を間違うと、2050年には惨憺(さんたん)たる社会を迎えることになるでしょう。再生可能エネルギーや資源循環利用を基軸とし、持続可能な社会に向けて未来のエネルギーシステムに向き合うことが求められています。

既存のインフラに依存しないで、電気やガス、水を利用できる「オフグリッド環境」の実現に向けた取り組みもその一つといえるでしょう。

U3イノベーションズ合同会社の川島壮史さんと株式会社LIFULLの北辻功多郎さんは、オフグリッド環境を社会実装することで、「エネルギーと他の産業の掛け算を創出し、新たな社会システムを構築」することを目指しています。ここでいう新たな社会システムとは、「Utility3.0」のことです。

オフグリッド環境の実証実験は、2022年3月から山梨県の「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」で行われています。5棟のインスタントハウスの電力は屋外のソーラーカーポートで発電され、インフラ棟の大容量蓄電池にて充電して供給されます。また、建物で利用された生活排水はインフラ棟の水処理設備で浄化され、再利用できます。

「未来に対し、本当の安心・安全、幸せを手に入れるためには、水やエネルギーを誰かに委ねるのではなく、自分たちで担わなければなりません。その第一歩として、オフグリッド環境は大きな力を発揮してくれると信じています」と川島さんと北辻さんは語ります。

まとめ

2050年に向けて日本社会がカーボンニュートラルを目指すこと自体は、素晴らしいことです。しかし、そこに向けたロードマップや技術的解決策が具体化されていなければ、日本はエネルギー問題において窮地に陥ってしまいかねません。Utility3.0を実現するためは分散型技術導入の促進やスタートアップの参入などが欠かせませんが、私たち一人ひとりの関心の度合いがその障壁を取り除くことにつながるでしょう。

監修者:川島壮史
東京大学大学院理学系研究科修了後、アクセンチュア株式会社に入社し、戦略グループマネジャーとして、エネルギー業界を中心に新規事業戦略の策定や業務改革支援などのコンサルティングに従事。2014年より国内総合電機メーカーに移籍し、太陽光や蓄電池などを軸としたエネルギー関連の新規事業開発に従事。事業の立ち上げを見届けた後に、テック系スタートアップに移籍し、COOとして事業戦略の策定から経営管理までの幅広い業務を担う。2020年2月より参画。

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