エシカルファッションにただ一つの正解を求めなきゃ、なんてない。

鎌田 安里紗

鎌田安里紗さんは、エシカルファッションプランナーとしてフェアトレード製品の企画・制作をはじめファッションや暮らしに関する情報発信や教育・啓蒙活動に取り組む。一人の生活者として日々の選択に「モヤモヤ」を感じながら、心動かされるものに出合う機会を提供し続ける鎌田さんの思いに迫った。

自然環境や労働者の人権などに配慮した、倫理的なファッションを意味する「エシカルファッション」。世界各地ではエシカルファッションの祭典も催されるようになり、その市場規模は近年拡大してきた。2015年に提唱されたSDGs(持続可能な開発目標)の認知拡大もあり、エシカルファッションやサステナブルファッションへの人々の関心は高まっているが、まだあまり身近なものとして捉えられていないのが現実だ。ファッションモデルやアパレルショップ店員としてのキャリアを経て、エシカルファッションプランナーとして活躍する鎌田さんは、日本でファストファッションが流行し始めた頃から服の生産背景に興味を持ち、自ら生産地へ足を運んできた。また、ものづくりの生産地訪問や暮らしの情報交換のために立ち上げたコミュニティ「Little Life Lab」の参加者にも、普段着ている服や使っているもののストーリーを見つめる機会を提供してきた。そんな鎌田さんに、誰もが未来のために選択できるアクションのヒントについて話を伺った。

「自分が着ている服は
どこからやって来たのか?」
そんな小さな疑問に、
世界が広がる入り口がある

鎌田さんがファッションの世界に入ったのは、高校1年生のときだった。学校に通う傍ら渋谷のアパレルショップでアルバイトをしていた鎌田さんは、その休憩中によく読んでいたファッション雑誌の担当者から、偶然声をかけられてファッションモデルとしての活動も開始。

好きな服に囲まれる日々を過ごしていた鎌田さんだったが、年月がたつにつれ、ショップを訪れる客の行動が次第に変化していくのを感じ、やりきれない思いを抱くようになる。

「ファストファッションがはやり始めた頃でした。それまでは『このブランドが好き』と言って買いに来てくれていたお客さんが『似たデザインの服、さっきの店でもう少し安く売っていたね』という会話をして去って行くようになってしまったんです。『選ぶ基準は見た目と値段だけなの?』とモヤモヤを感じましたね」

やがて、そのブランドのファッションアイテムの企画も手掛けるようになった鎌田さん。自身が作り手側になったことで、「デザインの良い製品が安く手に入ってしまう」という状況に、徐々に違和感を覚え始めた。

「モデルとして雑誌に載って服を宣伝して、ショップでは販売員としてお客さんに自分たちの服を売る……こんなにたくさんの服に触れてきたのに、自分が手にしている服がどうやってできるのかは全然知りませんでした。さらに、自分でも商品の企画やデザインを行うようになって、『ブランドの担当者ですら生産背景を把握しきれていない』ということを知り、衝撃を受けました。例えば、『自分が作ろうとしている服に使われる糸がどこから来ているのか』を知らなくても商品を作れてしまう。それって便利なことなのかもしれませんが、『作り手ですら商品の出所を知らない』状況ってなんだか不思議だと思いませんか?」

「ものづくりは企画から原料調達、製造、販売まで一貫して行うもの」というイメージを持っていた鎌田さん。自身の想像とはかけ離れた「生産背景をよく知らなくても商品を作れてしまう」ことに不思議さを感じ、鎌田さんは、自分が着たり売ったりしている服が一体どこから来たものなのか、その生産背景を調べることにした。

実際に生産現場に足を運んで分かった、服のストーリー

まだファッション業界のサステナビリティに関する問題が取り沙汰されていなかった当時。すでに認知され始めていたチョコレートやコーヒーなどのフェアトレードの概念になぞらえ、「服のフェアトレード」について考え始めた。

「いろいろ調べていくと、ファッション業界は環境への負荷が高く、働く人たちや動物への負荷や悪影響もあるということを知りました。

自分が着ている服の生産背景がきちんと見えないことに対して、『大丈夫なのかな』という不安もありましたし、“服”を中心としたなりわいだからこそ、『もう少し納得して服を着たい』とも思いました。それで、生産工程を直接自分の目で見たり、生産者の話を自分の耳で聞いたりしたいと思うようになったんです」

鎌田さんは実際に海外の生産地にも足を運んだ。そこで目にしたのは、服の原料となる糸をお湯に通し、染めたものを干し、手で紡いで機織りをするという「手作業で服が出来上がっていく様子」だった。

「人の手はすごい。そう思いました。私たちは、毎日服を着ているけれど、その背景にあるストーリーを全然知りません。それって、すごく損だなと感じました」

服の選択基準が偏っていくことに覚えた危機感

服の生産背景を知り、デザインや価格ではなく、商品の背景を伝えることで、新しい角度から服を楽しんでもらいたい、と考えていた鎌田さん。しかし、周囲にそうした思いを理解してもらうのは簡単なことではなかった。モデルとして携わっていた雑誌で生産現場のリアルについて扱ってもらえるよう提案したが、実現には至らず。そういったテーマに共感してくれる人も周りにあまりいなかった。

「ファストファッションが増え、手頃な価格でおしゃれな服を手に入れられるようになりました。こうして誰もが気軽にファッションを楽しめるのは、すてきなことだと思います。しかし、商品を低価格で提供できるのは、使う素材を変えたり、縫ってくれる人の工賃を下げたりと、さまざまな調整が行われているから。そこで生まれた犠牲の上に安さが実現されていることもあります。Tシャツが500円で売られていることに、消費者が疑問を持つことができない。『こんなに安いなんて不思議だな』とモヤモヤできない──そんな構造にはやはり大きな問題があるよな、と思っていました」

周囲からの理解がすぐに得られずとも、鎌田さんは生産現場で目にしたこと、感じたことをありのままに伝えようとブログでの情報発信を始めた。すると「自分も服の背景に興味があった」とファンから大きな反響があったという。その後も鎌田さんは、情報発信を続けながら、普段使うものが作られる現場に足を運ぶ機会をつくることにこだわった。

自分でやってみて、感じて、暮らしの中で手に取るものに思いをはせる

より多くの人に服の生産背景を知ってもらいたいと、鎌田さんはモデルという枠組みを超えて新たに「エシカルファッションプランナー」としての活動を始めた。

「まず、服を選ぶときの基準をもっとみんなで共有できたらいいなと思ったんです。商品の生産背景をみんなで見に行ける機会をつくりたいと思い、旅行会社に提案して、ものづくりの現場に行くスタディツアーを企画しました。オーガニックコットンの畑を見るためにカンボジアに行ったり、インドのプリント工場に行ったり、ニュージーランドの洗剤の工場に行ったり、いろいろなところにみんなで行きましたね。参加してくれた方は10代から20代の女性が多かったのですが、『自分が使っているあの商品、こんなふうにできていたんだ』という気付きや驚きがあったようです」

さらに、ものづくりを探求する一環として企画した「服のたね」というプログラムでは、コットン(綿)を種から育てて服作りの過程を楽しむという、消費者一人一人が「生産者」として服作りに携わる機会を設けている。

「参加者は各自、自宅のベランダなどでコットンを種から育てます。夏には花が咲いて、その後実ができます。気温が下がってきて11月、12月くらいになったら、実がパンとはじけて、その中にふわふわの綿ができるんですよ。その綿をみんなで紡績工場に持って行き、種取りをして、糸にして、生地にして、みんなでデザインを考えて1着の服をつくるという一連の企画を行っています。

コットンを育てていると虫が来ます。そのときに、みんなそれぞれ『殺虫剤使いたいな』『でもオーガニックコットンってそれをやらずに育てるんだな』『そういう手間や時間がかかっているんだな』というようなことを自然に考えるのです。そんなふうに、ファッションを、自分から遠いところにある問題ではなく、自分の生活の延長線上にある話だと捉えてもらえたらうれしいですね」

ちょっとした疑問に対して、立ち止まって考えてみる。
豊かさとは、日常のささいなことに美しさや面白さを見いだせること

生活の中でアンテナを高く張り、手に取るものの背景にあるリアルに向き合い続ける鎌田さんだが、その根幹にある考え方とはどういうものなのか。

「一瞬でも『ん?』と疑問に思ったことや気付いたことを見逃さずきちんとつかまえる、というトレーニングを怠らないように意識しています。忙しい現代社会で生きていると、暮らしの中でのちょっとした疑問や発見を一つ一つ考えていたらキリがないし、仕事が忙しくて忘れていってしまうんですよね。

2年ほど前、朝急いで準備していたときに、手に持っていたコップを落として床に水がこぼれてしまったのですが、そのときの水の形がとても奇麗だったんです。急いでいても、こぼれた水の形を奇麗だなと思えた状態が心身の健康を表していると思いました。こんなふうに、日常のささいなことに美しさや面白さを見いだせる状態がキープできたら、それは豊かですよね」

すてきなものの作り手たちに「もっと続けて」という気持ちを

毎日の暮らしの中で、服や食べ物、日用品など、触れるものごとに面白さや豊かさを見いだすチャンスはあふれている。その一つ一つに目を向け、暮らしの中の選択をもっと納得ができるものにするために、私たちはどうしたら良いのだろうか。


「いわゆるラグジュアリーブランドの商品のように『持っていると他人から尊敬されるもの』を買うのではなく、『尊敬できる人からものを買う』ことがぜいたくだなと思います。『面白いな』『すてきだな』と思わせるような作り手たちに『そのまますてきであり続けてほしい』『もっと続けて』という気持ちで、お金を払う。消費をする上ではそういった気持ちが大切だと思いますね」

サステナブルであるために、正解を求めない。
「これってどうなんだろう?」とモヤモヤすることが大事

エシカル消費やSDGsへの関心が高まり、議論されるほど「何が正しいのか」「結局自分は何をしたらいいのだろう」と迷ってしまい、せっかく興味を持った社会課題に向き合うことができなくなってしまう。そんな経験がある人もいるのではないだろうか。エシカルファッションが社会に浸透していくための課題について、鎌田さんに伺った。

「エシカルやサステナブル、SDGsに確固たる正解があると思われると、多様さとは別の方向、つまり画一的な方へ行ってしまいます。数値目標があると分かりやすいので、どうしても数字の議論になってしまう。もちろん、そうした議論はとても重要ですが、数字では測れない、分かりにくいことをいかに議論の場に持っていくかがより重要だと思います。

私が大学院で所属している研究室の先生が、しきりに『FFtTが大事です』と言うんですね。『Feel First, then Think(まずは感じて、そこから考える)』ということなのですが、『考えるのも大切だけれど、まずは感性を使うことが大切だよね』と。サステナビリティって、どうしても『考える』ところから入って、正しさを求めがちになってしまいますが、自分の五感を使って感じることが大切だなと思います」

ファッション業界で生産者と消費者の距離を近づけるスタディツアーや「服のたね」などの鎌田さんの取り組みは、まさに「使い手」が「作り手」の身になって、「感じる」ための場になっている。

情報発信の際には「分かりやすさを求めないこと」をポリシーとし、現実に起こっていることを一人一人に自分の目で確かめてもらうことを大切にしている鎌田さん。持続可能な社会を実現するため、SDGsという一つの目標に向かって世界が前進していくことは良いことだとしながらも、一人一人が納得して、暮らしの中の選択をしていくためには、「モヤモヤ」する余地が必要だとする。

「一つの答えにたどり着こうとせず、雑談のように話せる相手や場所がとても大事ですよね。サステナビリティを考える中での『これってどうなんだろう』というモヤモヤを、グレーなまま話せる。“ゆらゆら”し続けられる仲間がいることが大切だと思います。立場の違いを超えて、みんなが直接話し合える場をつくっていけたらと考えています」

暮らしの中で出合う「すてきだな」「好きだ」と思うものが本当に「サステナブル」で「エシカル」なのか、モヤモヤすることがあると思います。気になる社会問題について勉強したり調べたり、「でもどうしようかなあ」「どう関わったらいいのだろう」と思ったり。私も常にモヤモヤしていますが、この状態はきっと健全なんだと思っています。「スッキリ分かった!」という状態は永遠に訪れないかもしれないし、今は正しいと思っていることが、時間がたつと「違うかも」と思うこともありますよね。それもすべて抱えて、「適度な罪悪感」を感じながらも少しずつ良い方向へ向かえるように生きていけたらいいのではないかなと思います。

編集協力:「IDEAS FOR GOOD」(https://ideasforgood.jp/)IDEAS FOR GOODは、世界がもっと素敵になるソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジンです。
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鎌田 安里紗
Profile 鎌田 安里紗

1992年、徳島県生まれ。高校進学と同時に上京し、2009年から2013年までファッション雑誌『Ranzuki』の専属モデルとして活動。現在はエシカルファッションプランナーとして積極的な情報発信を行い、衣服の生産地を訪ねるスタディツアーの企画やファッションブランドとのコラボ商品の開発などに取り組む。暮らしにまつわるさまざまなことを探求するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」を立ち上げ、2020年から共同代表理事を務める一般社団法人「unisteps」ではエシカルファッションのオンライン講座やコミュニティなどを展開する。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍中。


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◉Little Life Lab(ウェブサイト)
https://littlelifelab.co/
◉unisteps(ウェブサイト)
https://unisteps.or.jp/

STORIES 2021/08/03 エシカルファッションにただ一つの正解を求めなきゃ、なんてない。