何かを始めるのに年齢が足かせになる、なんてない。 ―50歳で会社を立ち上げた「介護美容写真家」の挑戦の軌跡―

介護業界の経験豊富な美容師でありカメラマンが、シニアにメイクをして写真を撮るーー。介護美容写真家という肩書を持つ山田真由美さんの仕事を簡単にいうとこうなるが、そこには笑顔の連鎖とでもいうべき幸せな物語がある。山田さんが唯一無二のこの仕事を確立し、法人化したのは50歳になってから。いつでも、始めるのに「遅い」なんてない、現在55歳の山田さんはそう話してくれた。

介護美容写真家・山田真由美さん

専業主婦から介護職へ。「美容が高齢者を元気にする」ことに気がついてから、介護✕美容を業務に取り入れようと獅子奮迅の活躍を続けてきた山田真由美さん。介護福祉士、ケアマネージャーの資格を取り業務に励む一方で、43歳で国家資格である美容師の資格取得や、48 歳でカメラマンに師事して本格的な写真撮影の腕を磨くなど、目的のために邁進し続けた。そしてついに50歳で「介護美容写真家」として株式会社ソーシャルビューティーフォトを設立。いくつになっても挑戦し続ける、その大切さを山田さんの生きかたを通して教えていただいた。

今が一番若いんです。迷ったら何歳だからとか考えずに飛び込んでいきます

メイクすることで起きる高齢者の驚くべき変化

「ご依頼があると、個人のお宅や介護施設などへ出張し、メイクをして撮影を行います。この前撮影した高齢の女性は、お孫さんがプレゼントとしてメイク+写真撮影のプランに申し込んでくださったんですが、御本人は1年前に先立たれたご主人のことをずっと思っていて『早く主人のところに行きたい』とおっしゃるんです。背中もまるく、縮こまってしまって。

でもお話しながらメイクしていくうちにみるみるお顔が明るくなって。写真を撮る時には『ふふ、私もう1回結婚しちゃおうかしら? あ〜、でもやっぱり主人を愛しているし!』といいながら背筋もピンと伸びて、お帰りの時も何度も、何度も振り返って手を振ってくださって、私も嬉しかったですね」

この変化は女性男性関係ないと山田さんはいう。

「一人暮らしの、90代の男性の撮影のとき、お伺いしたら介護ベッドの上にネクタイがいっぱい並べてあって、『どれにしたらいいと思う?』なんてニコニコして。眉毛を整えて、白い部分に色もつけたりしたら喜んでくださって、洗面所の鏡を見に行ったまま、なかなか戻ってこないなんてこともありました。本当に、一人としてストーリーのない撮影はないんです」

介護美容写真家の山田真由美さんは、高齢者がメイクや写真撮影をすることによって、笑顔や前向きさを取り戻していく様子を数多く見てきた。「こんなに幸せな仕事は他にない」と断言する山田さんが、介護と美容を結びつけて活動してきたのにはどんな背景があるのだろうか。

年を取ったらみんな同じ髪型、衣服でも構わなくなる……?

山田さんが介護職に就いたのは32歳のとき。

「当時、ヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修)を主婦が取っておくと良いよという話があったので、資格を取ってみようと思ったんです。当時ファストフード店のパート職だったんですが、資格を持って長く働ける仕事をしたいと思ってたので、取得後、特別養護老人ホーム(特養ーー公的施設が運営する、要介護者向けの施設)に就職したんです」

もともとタスクがたくさんあって、時間内にいかにクリアするかにファイトを燃やすタイプの山田さん、仕事の忙しさにもすぐなじんでいった。ただ仕事中、ふと違和感を感じることがあったという。

「ホームの入居者の方々が、みんな同じ髪型をしているんです。後頭部を刈り上げて、前髪だけ残す。男性は前髪も切る。その当時は“特養カット”と言われていました。これって、スタッフ側がお手入れしやすい髪型なんです。着ている服も、同じような個性のない服。持ち物を拝見すると、かつてはおしゃれを楽しんでいたんだろうなという方も、みんな同じになってしまっている。初めて働いた介護施設だったし、それまで高齢者も身近にいなかったので『歳を取るってこういうことなのかな? 身だしなみにも気を遣わなくなって、それでもいいと受け入れるようになるのかな。私も歳を取ったらそうなるのかな』と思っていました」

介護美容写真家・山田真由美さん

しかし、そうではなかった。特養から自立型の介護施設(日常生活動作を介助なしに行えるシニアが入居する施設)に転職したところ、入居者が身だしなみをきれいに整え、お互いのファッションをほめあって楽しんでいる光景を見て山田さんは衝撃を受けた。

「それまで抱いていた80代のイメージが覆されました。みなさん小ぎれいにして『あなたのネイル、きれいね』『あなたこそ、そのバッグ素敵。どこで買ったの』なんて会話をしている。お気に入りの美容院に電車で通っている方や、エステに行っている方もいました。みなさんすごく生き生きしているんです。

ここで初めて『身だしなみを整えることは、元気でいられることとつながっているかも』と思いました」

メイクは高齢者を元気にする! 介護✕美容の可能性を追求

その確信が深まる出来事にも遭遇した。日頃から加害的な発言をする女性の利用者に、山田さんがふと、空き時間にネイルをしたときのこと。

「そうしたら、すぐに立ち居振る舞いや言動が穏やかになって、暴言などを口にしなくなった。びっくりするぐらい変わったんです。一過性のことかなと思ったんですが、その方がまた激しい言葉を言いそうになったときに『きれいな爪をしているのに、その言葉遣いは似合わないですよ』と言うと、あっ、という感じで指先を見て『あらいやだわ。本当ね』といって暴言をやめるんです。ネイルをしただけで、ですよ」

激しい言動や行動が少なくなれば、スタッフも働きやすくなる。みんなが幸せになれるのでは? と考えた山田さんは、美容を業務の中に取り入れられたらと考えた。

とはいえ、チームで動く仕事の中で一人だけ違う動きをすることもできない。そこで国家資格である美容師免許を取ることにした。

「いち美容好きのスタッフが提案しても業務を変えることはできない。業務に取り入れるんだったらこちらの本気を見せて説得力を持たせるしかないと、仕事をしながら勉強して資格を取りました。43歳の時です」

介護美容写真家・山田真由美さん

88歳の元気すぎる自撮り写真家・西本喜美子さんとの出会い

見事美容師となった山田さんは、施設の運営主体である組織に「美容事業室」を立ち上げたいと考えた。介護の世界には、美容業界出身者が意外に多い。チームを作り、施設内はもちろん、訪問介護ならぬ訪問美容を事業化してはどうかと上層部に提案書を送った。上司の反応はよかったが、施設は公益団体だったため、利益を上げる事業はできないとのことで残念ながら却下。それでも「地域貢献事業という形でやりましょう」ということになり、エステティシャンやアロマセラピスト、美容販売員の経験を持つ仲間を集め、活動は細く続けられることになった。

そんな中、次の展開がやってきたのは「もっとカメラの腕を上げたい」と考えていた48歳のときだ。

「写真をうまく撮りたいと思った理由は2つあって、1つはもちろん、メイクした方のきれいな写真を撮りたいから。もう1つは、ビジュアルの力で活動をもっと広げたかった。言葉で長々説明するより、見てすぐ分かる写真の力なら、美容の必要性を一発で説明できるじゃないですか。メイクした利用者さんもですが、それを見ているスタッフもものすごくいい顔になるんです。そんな写真を見たらまた『やりたい』という人が出てくるはずですからね」

そんなとき、あるニュースに目が釘付けになった。88歳のおばあちゃんが、斬新なシチュエーションの自撮り写真を撮り、Photoshopも自在に操り写真家として活躍しているという。これが“自撮りの女王”として有名な西本喜美子さんだった。

「目を奪われましたね! 88歳の方が、能動的に動いてイキイキしている。施設の利用者さんは、長い年月のうちにだんだん受動的になる方がほとんどで、自分から何かをする気力をなくしている方が多かった。でも、喜美子さんは72歳から写真を始めて、どんどん世界を広げたすごい人。調べたら、喜美子さんの息子さんで、有名なアートディレクターでありフォトグラファーの西本和民さんという方が『遊美塾』という写真塾をやっていて、喜美子さんもそこで学んだことが分かりました。

喜美子さんに会いたくて出かけていって、それがきっかけで私も『遊美塾』で、写真の撮り方を学んだんです。特にライティング。ストロボの使い方をしっかり教わるだけで、以前とはぜんぜん違う写真が撮れました」

介護美容写真家・山田真由美さん

「これだ!」と直感が閃くと、まず飛び込んでいく山田さんらしい。そして飛び込んだら、次の道を切り拓いていく。

この当時はまだ、独立開業など考えていなかったという。しかしまたも新たな扉が開くときが来た。

「友人が『介護ができて、メイクができて、写真が撮れるなら、それって仕事になるんじゃない?』と言ったんです。『私なら、もし真由美ちゃんが出張してくれて、メイクして写真撮ってくれるなら、うちのお母さんにやってもらいたい』と。それを聞いて、仕事にできるのだろうか? と頭の中でぐるぐる考えていたのですが、写真の師匠である西本先生に『そんなこと、無理ですよね……?』とおずおず相談したら『それはすごくいい。絶対やるべきだよ』と力強く言われて」

あと10年、60歳をゴールにして走ってみよう

背中を押されてしまった。

施設では、やりたいことがあればやらせてもらえるポジションにいた。だけど、山田さんはこう思った。

「今が一番若いんだ!」

その時、山田さんは50歳。

「50歳の新人でも10年キャリアを積めば、60歳になったとき介護もメイクもできるカメラマンとして輝けるはず。50代ならまだ体も動く。60歳になってから始めるより絶対いいはず。だったら今から10年、走ってみよう!」

そう決意した山田さんは施設を退職し、準備期間を経て2020年1月「株式会社ソーシャルビューティーフォト」を設立。開業と同時にコロナ禍となり、介護施設を訪れることができないという困難もあったが、その分、しっかり勉強して準備し、人脈を広げていくこともできた。またこの間、日本郵便の「終活紹介サービス」と業務提携し、出張撮影サービスを展開することができた。郵便局をスタジオにして撮影するサービスも行っている。

現在55歳。10年の半分を走り抜けてきた。会社の事業は新たな枝葉を広げ、2024年には横浜にスタジオを開設。さらに、介護美容写真家を目指す人々に向けて写真講座も行っている。短期講座、オンライン講座含め、すでに100人以上に教えてきた。

介護美容写真家・山田真由美さん

介護美容写真家として活動する中で、山田さんは2つの思いを持っている。

「1つは、私は遺影を撮っているつもりはないということ。そのご依頼で来られる方もいらっしゃいますが、メイクと撮影を通して、自分の魅力を再発見して、元気になってほしい、そこからまた新しい自分をスタートして欲しいと思っています。

もう1つは、これから高齢化社会だからニーズがあるよとか、ビジネスチャンスだよとかっていう考えはないこと。

シニアの撮影って、御本人もご家族も笑顔になって、いろんな物語が起きる。毎回胸が一杯になります。こんな幸せなカメラマンはいない!と思います。講座をやっているのも、生徒さんにこの幸せを感じてほしいから。会社を大きくしようとか、いっぱい儲けようという気持ちはないんです」

これから先の5年も全力疾走しそうな山田さんだが、さらにその先に年齢を重ねたとき、山田さん自身はどんなシニアになりたいのだろうか。

歳を取れば取るほど、年齢に見合わないことをしたら面白いって思っています。喜美子さんが有名になったのも、80歳なのにあんな面白いことしているおばあちゃんがいる! という点だと思う。私も、起業したときWEBの記事で紹介されたのですが、記事のタイトルは「50歳で起業」。30歳だったら取り上げられなかったと思うんですよ。才能や学歴がなくても、年齢を重ねてから挑戦することが逆に武器になるんじゃないでしょうか

取材・執筆:有川美紀子
撮影:阿部拓朗

介護美容写真家・山田真由美さん
Profile 山田 真由美

1970年生まれ。介護美容写真家(カメラマン、美容師、介護福祉士、ケアマネージャー)。神戸学院大学現代社会学部客員教授。相模女子大学生活デザイン学科非常勤講師。介護福祉士として、介護の現場に15年関わりながら、介護✕美容で高齢者が元気になる活動を続ける。43歳のとき美容師免許取得、48歳でアートディレクター・フォトグラファーの西本和民氏に師事、介護美容のカメラマンとして活動開始。50歳で株式会社ソーシャルビューティーフォト設立。高齢者のメイク・写真撮影に奔走する傍ら、シニア撮影カメラマン養成講座も開講し、後進の育成にも取り組む。

ソーシャルビューティフォトHP https://www.s-b-p.co.jp/

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