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女性特有の悩みはタブー視しなきゃ、なんてない。【後編】

中村 寛子&Amina

女性の健康課題を解決するために開発されたテクノロジーを使用するソフトウェアや診断キット、サービスや各種製品、いわゆる「フェムテック」。これらのプロジェクトを育て必要な人々に出会えるプラットフォームを創出するfermata Fund合同会社の中村寛子さんとAminaさんに、代表的なアイテムの紹介や未来について語っていただいた。

これまでタブー視されていたため、必要にもかかわらず遅れていた女性用の機器やサービス。これらを積極的に開発し世に放つ2人の女性、中村寛子さんとAminaさんが考える「女性活躍」とは。

重要なのは「女性」ではなく「私」。
直近を見ながら前へ進むこと

中村寛子さんとAminaさんが紹介、提供するフェムテックは、どのようなものがあるのだろうか。

「寛子がイベントで議論の場を増やしていることもあり、自分のニーズや課題に気付いた女性が本当に必要で使えるものが多いです。これまでタブーとされていたようなことに対して、ユーモラスなソリューションを提供するものですね。例えば “中出し”というセックス中の行為がありますが、女性からすると、あれは気持ち悪いんですよ。今まではトイレに駆け込んで精子をティッシュで拭き取ったりしていたんですけど、それを取り出すためのクルクル棒みたいなアイテムとか」

状況を想像するとなかなか生々しく、入手するには抵抗がある人もいそうだが、続けてAminaさんはこのようにも話す。

「どういうものなのか、ちゃんと確認してみないと不安でしょうから、現物を触れる場と、恥ずかしい方にはオンラインで買えるように、両方の場を作っています。他にも例えば、おりものの質を測るKeggというデバイスがあります。おりものは体から出てくるイヤなものと思っている方って多いんですけど、体から出てくるものにはそれなりの理由があります。おりものは膣内の環境を整えるもの。排卵日が近づくとネバネバして精子が泳ぎやすくなる環境を作り、排卵日前後の膣の環境が良いときに妊娠しやすくするものなんです。排卵日だけを計算していると、妊娠しやすい日がピンポイントでしかわからないんですが、これを使えばだいたい1週間ぐらいのスパンで妊娠しやすい日を把握できるようになります。これを作ったのはサンフランシスコにいる女性です。サンフランシスコといえば自動運転も普通にあるぐらいテクノロジーが進んでいる都市。この女性は、妊娠したいと病院へ相談しに行ったのですが、医者の先生からは『手を入れて毎日ネバネバを測るように』と言われたそうなんです。そこで、“アナログではないやり方でできないか”を考え始め、自分の妊娠を後回しにしてこれを作ったそうです。fermataもここへ投資しています」

おりものの粘度を測り、妊娠しやすい日を知らせてくれるデバイスBloomlife

妊婦と胎児の生態データをモニタリングするデバイスKegg

ユーザー自身が新たな使い道を見つけてくれる

Aminaさんのおすすめフェムテックはまだまだある。

「私がMistletoe Japan合同会社に所属していたときに投資をしたんですが、妊娠中期以降のお母さんのお腹に貼ると、胎児の様子をモニタリングできるキットがあります。超音波による胎児心拍数などの計測値を用いて、陣痛(子宮収縮)強度を検出することができるんです。ケータイ電話と連携ができ、お父さんも仕事のちょっとした合間にも確認できるんです」

だが、実は継続的な陣痛のデータは医療界にこれまでなかったのだという。

「当たり前にありそうなのになかったんですよ。このキットによって、世界で初めて陣痛のデータが継続的に取られるようになったんです。1万人、2万人とデータを取り続けて分析したところ、現在ではあとどれぐらいで生まれるのかといったことがすごく細かくわかるようになってきました。データはクラウドベースで蓄積されていて、陣痛が何分おきになったら何時に生まれるから病院に来てくださいということまでわかる。これまでのように破水したからタクシーに乗る、というようなことはなくなるんです」

フェムテックはデザインにこだわったものも多いが、それ以外にもこだわっている。例えば、泣いている赤ちゃんに対応するなら即効性や効率性だ。

「子供を産んだお母さんは、おっぱいをあげるとき、痛みなしに素早くお乳をあげたいと思う人が多いんです。そのための搾乳用のマッサージ機を開発している会社があります。乳腺が詰まっているところを温かくしてマッサージして、楽に授乳できるようにするんです。他には、出産後って膣の細胞や筋肉が衰えがちで尿漏れにつながることもあるので、膣周辺の細胞を活性化させる医療機器もあります。セックストイに見えちゃうかもしれないけどそうじゃない。この問題については論文もたくさん出ていて、非常に重要です」

また、こうしたフェムテックは本来想定されていた以上の新たな使い道がユーザーから出てくることもあるとAminaさんは続ける。

「先ほどご紹介した膣の中から精子を取り出すアイテムですが、生理が重い女性が最後の何日間かの経血を取るためにも使われたりと、いろいろな使い方を見つけてくれる人たちが現れるのが面白いですね

生物学的男女の違いを感じないなんてありえない、当然のこと

だが、フェムテックを事業の柱にしながら、中村さんもAminaさんも「女性活躍」といったフレーズはさほど重要視していないようだ。

「MASHING UPで“女性活躍”という言葉を使ったのは最初だけです。2回目からは“女性”を強調しすぎないようにしています」(中村さん)

「世界経済フォーラムの2019年12月の発表によれば、ジェンダーギャップ(男女格差)のランキングで、日本は121位でした。しかし、個人的には、この順位の低さがいけないというわけではないと思っています。そもそも男女は生物学的に違うので。子供を産もうと妊娠したら、1年間ぐらいは100%稼働は無理なんだし。もちろん男女の賃金が同じになったとか、男性も育休を取るといったことでジェンダーギャップを埋めることはあるでしょうけど、社会生活を送る中で、男女が身体の違いを感じないということはありえないということを前提にしていった方が生きやすくなると思うんです。違うのに同じだと思ってアプローチするから難しいんじゃないでしょうか。例えば日本人同士のカップルよりも、日本人と外国人のカップルの方が離婚率は低いんですよ。もともと、育ってきた環境が違うので、お互いがわからないという前提でいるからだと思います」(Aminaさん)

みんなが好きなことだけやれればよい

fermataの活動を通して、2人が目指す未来はどのようなものなのだろうか。2人とも「目の前のことしか見えていない」と、意外なことを口にした。

「私たちって、生まれたときから社会のバグしか見ていないと思うんですよ。生まれたときにはすでにバブル崩壊後で不景気で、将来払われないかもしれない年金を納め、女性が活躍する社会といわれながらも本質は変わらない。ずっとそんな中で生きてきて、明るい未来に変えていこうと言われても無理。だから眼前のことをやってるんだろうって思うんです」(中村さん)

「今の私は基本的に好きなことしかしてないんです。毎朝、これをしたいと思って、その日はそれをやる。みんながそうできればいいんじゃないかっていう感覚。今まで私はアカデミアの世界にいて、パブリックヘルスとかグローバルヘルスとか都市衛生とかをやっていて、人のため、将来のため、世界のためではあったかもしれないけど、自分にとってはどこか人ごとだったんですね。だからそこをやめて起業して、経歴を知ってる人からは全然キャリアパス合ってないじゃんって言われるんですけど、自分が好きなことを仕事にしたかったんです」(Aminaさん)

眼前のことしか見えていないかもしれないが、好きなことをやれているのは事実。それこそが2人の原動力になっている。

「身近な人が幸せになってほしい。母や姉がハッピーになれるソリューション。母は更年期がつらそうだったし、姉はシングルマザーのため、大変な部分が多少なりともあります。もっと自分を知れるツールがあればいい、という気持ちでやっています」(中村さん)

「言葉じゃ表せないですね。『ハマる』って言い方が一番近いかな。私、多分今のこの仕事にハマってるんです。なんだかわかんないけど(笑)」(Aminaさん)

~女性特有の悩みはタブー視しなきゃ、なんてない。【前編】へ~

私は単純に、自分の自信を取り戻したいんです。自分を知ろう、ニーズを知ろうって。できているかといえばできていないけど、Aminaやみんなと一緒に探していければいいなって。今はなんでこんなことで悩んでいたんだろうとか思えるようになってきました。MASHING UPでは男女雇用機会均等法の2期生3期生ぐらいの人たちと関わる機会があるんですけど、彼女たちが覚悟を決めて働いてきたおかげで今の私たちがある。その人たちは挑戦を続けてきた。私たちも失敗して底に落ちたって、また上がっていけるんですよ。(中村さん)

人生そんな甘くないんだぞとか、苦労があって当たり前、いつでもおいしい食べ物があって飲みに行けるような世界は普通じゃないんだって感覚があるんです。だから環境を変えたければ自分が動くしかないんです。以前、ある人から言われたんです。何かをやろうと本気で思うなら、「女性」だからやるんじゃなく、「自分」だからやれって。社会とか女だからとか関係なく、私しかできないという覚悟でやるんだって。(Aminaさん)
Profile 中村 寛子&Amina

中村 寛子(写真:右)
Edinburgh Napier University (英)卒。ad;tech/iMedia Summit主催。2015年にmash-inc.設立。女性エンパワメントを軸にジェンダー、年齢、働き方、健康の問題などまわりにある見えない障壁を多彩なセッションやワークショップを通じて解き明かすダイバーシティ推進のビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画プロデュース。fermataではコミュニティ運営と各種イベントを統括。

Amina(写真:左)
東京大学修士号、London School of Hygiene & Tropical Medicine(英)公衆衛生博士号取得。日本医療政策機構にて、世界認知症審議会(World Dementia Council)の日本誘致を担当。Mistletoeに参画。All Turtles の日本オフィス設立メンバー。国内外の医療・ヘルスケアスタートアップへの政策アドバイスやマーケット参入のサポートが専門。

STORIES 2020/07/16 女性特有の悩みはタブー視しなきゃ、なんてない。【後編】