妊娠したら自分らしいキャリアは諦めなきゃ、なんてない。

今回お話を伺ったのは、オンラインキャリア相談サービス「ミートキャリア」を手掛ける株式会社fruor(フルオル)代表の喜多村若菜さん。「働き方の選択肢が少なすぎる」と感じた経験がきっかけで、ライフステージに合った働き方を支援するミートキャリアを立ち上げた。どんなライフステージにあっても、誰もが自分らしい働き方を実現するために、社会は、そして私たちはどのように変わっていくべきなのだろうか。

「やりがいのある仕事がしたい、でも家庭の時間も大切にしたい……」。副業やフリーランス、在宅勤務など、働き方が多様化しつつある今でも、仕事と家庭の両立に悩む人は少なくない。特に妊娠・出産、配偶者の転勤などのライフステージの変化によって、築き上げてきたキャリアを失ったと感じるケースもある。

そんなキャリアにまつわる課題感を解消するため、従来の人材業界のビジネスモデルに一石を投じたのがミートキャリアだ。「求人紹介をしない」「転職を前提としない」といった革新的なキャリア相談サービスを提供し、個々人が自分らしい働き方を実現できるよう相談者に伴走している。喜多村さんは、ミートキャリアを通してどんな世界をつくりたいのか。また、私たちが“自分らしい働き方”を実現するために必要なこととは何なのか。お話を伺った。

子育て中の人や女性に限らず、誰もが自分に合った働き方ができる社会をつくりたい

法人から報酬をもらう現状の人材業界のビジネスモデルでは、柔軟な働き方を優先させるインセンティブが働きにくく、週5日フルタイムで仕事ができる人材が重宝される構造になっている。そのため、妊娠・出産、配偶者の転勤といったライフステージの変化によりフルタイム以外の働き方をせざるを得ない人が、不本意にキャリアを中断するケースがいまだ多く見られる。仕事と家庭、どちらも豊かな人生を歩むために欠かせない要素であるにもかかわらず、トレードオフになってしまっているのが現実だ。

「ミートキャリアはオンラインのキャリアカウンセリングを提供するサービスです。2019年11月のリリース後、すぐに始まったコロナ禍で働き方や生き方を見直す方が増えた影響もあり、約2年間で1,500人以上にご利用いただきました。

相談者さんは、Zoomを用いたカウンセラーとの1対1のオンラインキャリアカウンセリングと、3カ月間のメールのやりとりを通して自己分析を行うプログラムの2種類から選択できます。『転職をしようか迷っている』『今の働き方に不安がある』などの悩みがある方に向け、キャリア支援のプロにより自身のスキルや強みの棚卸し、求める働き方の言語化をしてもらえると好評を頂いています」

ゴールが“転職”に限られる既存の人材紹介サービスとは異なり、求人紹介を行わず、一人ひとりがかなえたい働き方を実現できるよう伴走する。これまでの業界の常識を覆すようなサービスを立ち上げるには、苦難も多かっただろう。喜多村さんは「それでも挑戦する意義があると思ったんです」と語った。そもそも、喜多村さんがキャリア形成に課題意識を持ったきっかけはなんだったのか。

目の当たりにしたキャリア形成の難しさ

地方大学を卒業した喜多村さんは、新卒で大手の外資系コンサルティング企業に就職。入社後程なくして、女性のキャリア形成の難しさを目の当たりにする。

「10年後のキャリアを考えた時に、社内に女性管理職がほとんどいないことに気がつきました。いたとしても、子どもを育てながら両立できている人は見当たりませんでした。忙しく働く父、専業主婦の母を見て育った私は、仕事も家庭もどちらも諦めたくありませんでした。『こうなりたい』と思える働き方を実現しているロールモデルが身近にいなかったんです。

自分のやりたいことにチャレンジするなら、ライフイベントを迎え、働き方の選択肢が少なくなる前に早めに行動しようと思い始めました。会社を退職して起業した先輩に相談すると、『まずはうちの会社を土・日曜だけでも手伝ってみない?』と誘ってもらって。事業の立ち上げに興味があったこともあり、手伝ううちにそのままその会社にジョインしました」

大企業から約1年で転職した先は、教育関連のベンチャー企業。事業開発や採用業務を担当する中で子育て世代に関わることが多く、女性のキャリア形成に関する課題意識はますます強くなっていった。

「大学を卒業してすぐに妊娠・出産した後輩に仕事を頼んだことがあったのですが、とても優秀で私たちは助かりました。しかし、彼女は社会人経験のないまま家庭に入ったことで、その後のキャリア形成に苦労していると聞きました。

ポテンシャルがあって、本人に働く意欲が十分にあっても、育児中などで働き方に制約があるだけでキャリアが築けない。他にお子さんがいる候補者からも、『柔軟な働き方ができる会社がほとんどない』という悩みを聞いていました。

私が漠然と抱えていたキャリア形成への不安は、実はたくさんの人が直面していて、解消しなければいけない社会課題なんじゃないか。そしてすでにある人材業界のモデルで解決できていないのなら、私が創ろう。そう思いました」

自分の選択を正解にしていく

社会人3年目、25歳の時に喜多村さんは起業を決意した。まだ社会人経験も少ない中での起業に迷いはなかったのだろうか。

「『自分の選択を正解にしていく』覚悟を持って仕事に打ち込みたいと思っていたんです。だから、迷いはありませんでした」

喜多村さんの親族には、公認会計士、医師、エンジニアなど専門職に就いている人が多かったという。自分の得意分野で働く人たちに囲まれて育ったからか、大人になると誰でも自然と“天職”が見つかるのだと思っていたそうだ。

「就活の時期になっても、私には“天職”が見つかりませんでした。就活していてもやっぱりピンとくるものがなく、思い切って“天職”を探すため1年休学することにしたんです」

休学中、興味のあった海外企業のインターンに参加した時、これまでの考えが一気に変わったという。

「現地で働く人たちに、『なんでこの仕事を選んだのか』『新卒の時に今のキャリアを思い描いていたか』と話を聞きました。

そこで分かったのは、『与えられた“天職”なんてない』ということ。目の前のことにがむしゃらに取り組むうち、気づけば“天職”になっているものだという彼らの言葉が腑(ふ)に落ちました。だから私も、まずは目の前のことに取り組んで、自分の選択を正解にしていきたいと思ったんです」

“女性のキャリア”に焦点を当てたキャリア相談サービスでの起業を決意した喜多村さんは、当時25歳。結婚や出産などのライフイベントを経験しておらず、早々に壁にぶち当たる。

「当事者の課題をイメージできない、という絶望的な状況からのスタートでした。

たくさんの人に話を聞けば共通の課題が見えてくるのではないかと考えて、Twitterで見かけた育児中の方にメッセージを送ることにしました。とにかく一人ひとりに思いの丈をぶつけてみたんです。突然の怪しいメッセージだったにもかかわらず、想像以上に多くの方に協力していただけたのはうれしかったですね。

会える方には、直接話を聞きに行きました。育児中の方たちがどんな一日を過ごしているのか。キャリアについてどんな課題を感じていて、何が障壁になっているのか。最終的に200人もの方の話を聞いて出た結論は、それぞれ悩みは千差万別だということ。それなら、一人ひとりのキャリア観や状況に寄り添ったサービスを始めようと思いました」

ゴールは一人ひとりの理想のキャリアに近づけること

ミートキャリアの利用者の6~7割はいわゆる“ワーママ(ワーキングマザーの略)”だという。

「相談者さんの平均年齢は34歳。年齢的にも、仕事と家庭の両立で悩んでいる、というご相談はとても多いです。例えば、子育て中で時間的な制約はあるけれど、やりがいのある仕事に就きたい。でもそろそろ第2子も考えている……。しかも転職市場では『35歳限界説』といわれて悩んでいる、というご相談はすごく多いですね。

『転職しようかどうか迷っている』という段階の悩みって、意外と会社の人を含めて、誰にも相談できないものなんです。転職エージェントに登録したら、たくさん求人が送られてくるけれど、そもそも本当に転職をすべきなのかも分からない、という方は少なくありません。

そういうご相談には、転職の悩みをもう少し分解してみましょうとアドバイスをします。今の職場や仕事内容には不満があって、現状を変えたいと感じている。でも、そうできない理由はいろいろで自分の強みが分からなくて自信がないとか、やりたいことが定まっていない、とか。一社での経験が長くて、他の会社で通用するのかが不安で一歩踏み出せないという方もいますね。

私たちは対話を通して客観的な視点でスキルや強みを言語化したり、やりたい仕事や条件を整理したり、というアプローチをしていきます。漠然とした不安の正体がはっきりして、選択肢がたくさんあると気づくだけで安心してくださる方も多いんです。

例えば『配偶者の転勤に帯同して地方に引っ越したが、なかなかやりたい仕事に巡り合えない』というお悩みをお持ちの場合、やりたいことは本業ではなく副業で満たすという選択肢もあります。他にも育児中で時間的な制約があるとか、ライフステージの変化に伴う条件が“ハンデ”になってしまうケースなら、フルリモートで働ける会社を選ぶなど、実はできることはたくさんあるんです」

あくまでゴールは転職ではなく、相談者自身が納得できるキャリアを築くこと。そのため、転職活動が終わったあとに定期的にカウンセリングを利用する人も多いのだとか。

「ライフステージや環境の変化に伴って、キャリアの価値観や理想の状態は変わるものです。ミートキャリアのカウンセリングで“現在地”を確かめながら、自分のありたい姿、進みたい方向性を微修正していってもらえたらとてもうれしいですね。私たちは、いつも相談者さんのそばで伴走できる存在でありたいです」

“人生100年時代”のインフラに

喜多村さんにこれから何を目指すのかを聞くと、「私自身の目標はミートキャリアの目標とほぼイコール」だと前置きした上で、「社会のインフラになりたい」という壮大な答えが返ってきた。

「“人生100年時代”といわれている中で、キャリアについて考えるタイミングはこれからもっともっと増えていくと思います。それは子育て中のママさんだけに限りません。将来的には年代・性別問わず、全ての属性の人に合ったキャリア形成の支援をしていきたいんです。

起業してからこれまで、解決したい課題はどんどん大きくなっている気がしていて。きっと一生『解決した』と言い切れる瞬間は来ないだろうなと思っています」

喜多村さんがミートキャリアにここまで人生を捧げられるのはなぜだろうか。

「ミートキャリアの相談者さんから『人生が変わった』とお声を頂くんです。なかなか人の人生を変えられる体験ってないじゃないですか。誰かの人生に良い影響を与えられているという実感。それがなかったら辞めていたかもしれません。

働くことは人生のほとんどの時間を使う、人生を充実させる一部だと思っているんです。だから、そこに自分が前向きになれない時間を使っていたらもったいない。キャリア支援を続けることで、生き生きと働く人が増えていってくれたらうれしいですね」

人生を充実させ、生き生きと働いてほしいという思いは、社名のfruorの由来(ラテン語で「楽しむ」の意味)にもなっているそうだ。与えられた“天職”なんてない、自分の選択を正解にする。その意味で喜多村さんは、すでに“天職”を見つけているのかもしれない。

「自分に合った働き方」って、一人ひとり違うもの。誰かと比べてうらやましがるようなものではないし、「こうすべき」という正解もない。だからこそ、すごく悩むんですよね。自分がどんな人生を歩みたいのか、何を一番大切にするのか。結局、答えは自分の中にしかないように思えます。ただ、自分と向き合うのってしんどいし、一人だと難しい。そういう時は第三者にアドバイスを求めてみるのもアリではないでしょうか。​​誰もが、どんなライフステージにあっても、自分に合った働き方で生き生きと働くことができる社会を実現できるまで、私は挑戦し続けます。

取材・執筆:安心院 彩
撮影:阿部 健太郎

喜多村 若菜
Profile 喜多村 若菜

株式会社fruor代表取締役 CEO。1993年、大阪府生まれ。神戸大学在学中にシンガポールや米国・ニューヨークの企業でインターンシップを経験。2016年7月、アクセンチュア株式会社に新卒入社。その後転職し、教育関連事業の立ち上げを経験。採用・育成を担当する中で、育児中の働き方のニーズに対し、選択肢が少なすぎることに疑問を持つ。2019年1月、 25歳でライフステージに合わせたキャリア支援事業を行うfruorを起業。2019年11月、「ミートキャリア(meetcareer)」サービスを始。全国からフルリモートで参画するキャリアサポーター(カウンセラー)やメンバー約100名と共にサービスを運営。

Twitter @waka_37
ミートキャリア公式サイト https://www.meetcareer.net/

2022/04/19 妊娠したら自分らしいキャリアは諦めなきゃ、なんてない。

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