「LGBTQ+」とは? 多様な性のあり方が受容される社会を実現するために知っておくこと

昨今、話題になっている「LGBTQ+」ですが、学校のクラスに一人は当事者がいるとも言われています。世界では理解や認知が進んでいる国もありますが、根深い偏見や、いじめが起こっているなど理解が追い付いていないのも事実です。

この記事では以下4点をリポートします。

  • 「LGBTQ+」とは?
  • 深まる「性の多様性」への関心と根深い偏見
  • 「LGBTQ+」当事者がリアルを発信して理解促進をけん引
  • セクシュアル・マイノリティが安心できる環境とは?

また、その問題に対して当事者が積極的に行っている活動も紹介していきます。

「LGBTQ+」とは


「LGBT」というワードはよく聞きますが、このワードはL:レズビアン、G:ゲイ、B:バイセクシュアル、T:トランスジェンダーという4つの用語の頭文字を並べたものです。「LGBTQ+」という、より多様な人々を含んだワードもあります。Qには、クエスチョニングおよびクィアが含まれ、+には、既存のカテゴライズに当てはまらないさまざまな性のありようが含まれるという意味が込められています。

クエスチョニングとは?

クエスチョニングとは、性自認(自分の性別をどのように持続して認識しているか)や性的指向(恋愛や性的関心をどのような性別の相手に抱くのか)が決まっていない、わからない、もしくはより前向きに決めないあり方を指します。

具体例として、クエスチョニングは次のような感じ方を持っている場合があります。

  • 性自認や性的指向をはっきりさせたいが、まだ確信を持てない
  • 自分の性自認や性的指向をはっきり表す用語が見つからない
  • 性自認や性的指向を用語で定義する必要はない

クィアとは?

クィアとは「風変わりな」「不思議な」「奇妙な」という意味の英語で、1990年代以前はセクシュアル・マイノリティへの蔑称として使われてきました。

しかし1990年以降は、既存の性別規範からはみ出た人たちを表す用語として、侮蔑を受けてきた当事者たちがあえて肯定的な意味で名乗り始め、現在では多様なセクシュアル・マイノリティを包括する言葉として使われています。このような背景を持つ「クィア」という言葉には、「規範から外れて何がいけないの?」という挑発的なメッセージが含まれています。

なぜ「LGBTQ」ではなく「LGBTQ+」なのか

「LGBTQ」という表現もあるのですが、「LGBTQ+」というワードが使われることもあります。

「+」は何か一つの意味を持つわけではありません。ジェンダーやセクシュアリティのあり方は既存のカテゴライズに当てはまらないものが多々あり、さらには枠組みを決めるものではなく、常に新しい性のあり方、多様性をオープンに受け入れようという意味も込めて「+」という表記が使用されています。他にも、Aセクシュアル(誰にも性的関心を持たない人)を含めてLGBTAという表現が用いられるなど、性の多様性を語る文脈によって、さまざまなワードが使われることがあります。

日本でも“理解しよう”“違いを認め合おう”という動きが広まっていて、「誰もが自分らしく人として生きる」ということを主張しています。トランスジェンダーである杉山文野さんはLGBT、マーケターやSNSコンサルタントとして活躍する加藤綾さんは「LGBTQ+」への理解や認知を広める活動を積極的に行っています。


深まる「性の多様性」への関心と根深い偏見


「性の多様性」への関心が高まっているが、偏見が残っているのも事実です。

宇多田ヒカルさんが自身のことを「ノンバイナリー」(性自認が男女のいずれか一方のみには当てはまらない)と発言したことが大きな話題となりました。宇多田さんの発言を受け、「わざわざカミングアウトしなくてもよい」「注目を浴びたいだけだ」などの否定的な声が上がっています。明らかにするのもしないのも本人の自由ですが、「LGBTQ+」の人たちが自分のことを語りたいと思ったとき、心ない言葉が飛んでくる現状があります。
諸外国の調査では、同性が好きな人やトランスジェンダーが、異性愛者やシスジェンダー(トランスジェンダーでない人)に比べて自殺を考える割合が高いこと、いじめ被害にあいやすいことが示されています。日本の調査でも同様の結果が出ており、LGBT法連合会のホームページでは、学校や職場、医療現場などで当事者が直面している差別の事例がたくさん紹介されています。

性の多様性(LGBTQ+)を尊重する地方公共団体の取り組み

否定的な声も根深く残る日本ですが、国や自治体は性的指向や性自認の多様性を保障するための取り組みを行っています。

例えば、2010年代からは次のような取り組みが進みました。

パートナーシップ宣誓制度:お互いを人生のパートナーとして、相互に協力し合う関係であることを宣誓したLGBTのカップルに、自治体が証明書等を発行するもの。事実婚の異性カップルが使える場合もある。2015年に世田谷区と渋谷区で開始し、2021年7月時点では全国110自治体で制定され、2,000組以上が利用している。

制服選択制:女子はスカート、男子はスラックスという縛りをなくし、性別によらず自分の好きなスタイルで登校できるよう見直す取り組み。世田谷区では2019年よりスカートかスラックスかを誰もが選べる仕様となった他、毎月1回は私服登校を歓迎する「カジュアルデー」を設けている。福岡市では2020年よりスラックス、スカート、リボン、ネクタイなど自由に組み合わせる新標準服の導入が始まった。

医療現場での包摂:これまで法的に家族関係にない同性カップルは、医療現場で家族同様の扱いを受けられず、最期にも立ち会えないケースがありました。そのため横須賀市は2016年に全国に先立ち、市立病院において同性パートナーが救急搬送された際の情報提供や、意識不明時の入院・手術への同意を可能とする指針を発表しました。

なお、パートナーシップ制度は法的効力があるものではなく、国が法律で認める「結婚」とは異なるため、相続などの問題は解決しません。パートナーシップ制度を利用する当事者の数が増えていくにつれ、同性婚の法的実現を求める声も可視化しており、今後は国レベルでの法整備が実現していく可能性もあるでしょう。

性の多様性に対する日本国内の取り組み

政府も少しずつ性の多様性の包摂について、取り組みを進めています。

教職員向けの啓発:2016年には文部科学省がリーフレット「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」を発行し、本人が希望する制服での登校や通称名の利用、健康診断やトイレの配慮事例などを紹介しました。

また、職場でのハラスメント防止:2020年施行の労働施策改善推進法(パワハラ防止法)では、性的指向や性自認に関する侮辱的言動や、労働者の性的指向や性自認を本人の同意なく暴露すること(アウティング)がパワハラと定義され、禁止されました。
特にパワハラ防止法でも明らかになったように、日本国内の職場でも少しずつ、「ダイバーシティ」という考え方が少しずつ浸透しつつあります。ダイバーシティとは、「多様性」という意味で、女性・外国人・「LGBTQ+」・障がい者などさまざまな背景を持つ人々の積極雇用や働くうえでの障壁を取り除くこと、さまざまな感性・能力・経験を持っている人材を組織に迎え入れることで、組織としても競争力を高めることが期待されています。

「LGBT総合研究所」の代表を務める森永貴彦さんや、「NPO法人 東京レインボープライド」で共同代表を務める山田なつみさんも、多様な人材がそれぞれに能力を最大限発揮できるダイバーシティ社会の推進を目指しています。


「LGBTQ+」当事者がリアルを発信して理解促進を牽引


ダイバーシティを尊重しようという機運や、「LGBTQ+」に対する肯定的な捉え方は10〜20代の間で近年高まっています。
カミングアウトした芸能人やモデルが、メディアやSNSを通じて当事者ならではの情報発信を活発に行っていることもきっかけとなっているようです。

2017年には元バレー選手の滝沢ななえさんがレズビアンであることを公表したり、2019年には女子サッカーの下山田志帆さん、2021年には元なでしこジャパンの横山久美さんがトランスジェンダーであることを公表したりするなど、スポーツ界でもカミングアウトする当事者が少しずつ出てきています。
タレント・美容家として活動しているGENKINGさんも自身のセクシュアリティに悩んだ過去を話しています。

あの頃は『私はユニセックスです』と言っていたけれど、心の中ではずっと『本当はそうじゃない。私は女性なんだ』という葛藤を抱えていました。じゃあ何でそんなことを言ったのか?というと、怖かったんです。また子供の頃のように気持ち悪いと言われたり、いじめられたりするんじゃないかって……

引用:LGBTQという枠の中で暮らさなきゃ、なんてない。 – GENKING

「LGBTQ+」だと公表することで、「LGBTQ+」という特別な枠の中に当てはめられてしまうことを嫌ってカムアウトしない当事者もいます。多様な性のあり方についての考え方や価値観には個人差があるというのも共通認識として併せ持つ必要があるでしょう。

しかし、多様な性のあり方が受容される社会実現のため、人々の意識の変革を求め、著名人がSNSや学校・企業での講演活動を通じて発信しています。美容家として活躍するGENKINGさん、ボイストレーナーの白石涼(通称おしら)さん、モデルとして活動するKanさんは、「LGBTQ+」の理解促進だけでなく、自身のライフワークや生き方などセクシュアリティにまつわるさまざまな葛藤や気づき、思いをインタビューで語っています。



セクシュアル・マイノリティが安心できる環境とは


セクシュアル・マイノリティ当事者たちは、周囲の人々の無理解や偏見などから、学校や仕事場などの日々の生活の中でさまざまな困難を抱え、孤立している場合があります。また、住まいに関しても当事者を悩ませている大きな課題があります。

アパートを借りる際に、男性同士のカップルだと犯罪に使われる可能性があると根拠なく言われ、女性同士の場合でも断られる場合があります。大家さんの思い込みは、当事者との接点が少なく情報が不十分であることも一因といわれています。こうした思い込みをなくし、「LGBTQ+」への理解増進を促す法制度の整備を求めて多くの当事者が声を上げていますが、差別禁止の法案はいまだ成立していません。

こうした背景もあり、「LGBTQ+」当事者への配慮を念頭においたサービスや考え方が求められています。自治体や企業が取り組む、「LGBTQ+」当事者を対象にしたサービスや採用方針、人材育成などについて紹介します。

LIFULL HOME’Sの取り組み「FRIENDLY DOOR」

外国人や同性カップルだという理由で、希望する住まいを借りることができない人たちがいます。LIFULL HOME’Sが始めているのは、国籍・年齢・性別などさまざまなバックグラウンドを持つ人と、相談に応じてくれる不動産屋さんをつなぐサービスです。

住宅弱者の住まい探しをサポートするためのプロジェクト、「FRIENDLY DOOR」を立ち上げた龔軼群(キョウ イグン)さんが目指すのは、居住地の選択で困っている人がいない世界です。

楽天銀行LGBT住宅ローン

パートナーの収入合計を基盤に1本のローンを組むことができる、共働きのご家族のための住宅ローンです。現在、パートナーシップ証明書を発行してくれる自治体の数はごくわずかであり、楽天銀行ではパートナーシップの証明書の提出を不要にしています。

LGBT雇用に積極的な資生堂

資生堂では、社員一人一人がありのままの自分で働ける環境を整備するとともに、LGBTへの理解を深め、LGBT当事者を支援するなど、さまざまな活動に取り組んでいます。

例えば、次のような取り組みをしています。
「LGBT」理解に向けた社内セッションの開催
同性パートナーでも異性の配偶者と同じ待遇を受けることができる就業規則に改訂

「LGBT」の正しい理解と、当事者である社員に向けた体制整備を進めているのです。

多様な個性を尊重し合い、平等に安心して暮らせる社会の実現を目指した自治体、企業、団体、そして個人の活動や取り組みが活発になっています。

「LGBTQ+」と社会をつなぐ場づくりなどの活動を行っている松中権さん、性的マイノリティ当事者のライフプラン支援などを手がける「IRIS(アイリス)」の代表の須藤あきひろさんが「LGBTQ+」当事者たちが生きやすい環境をつくるため、日々活動を行っています。


まとめ

日本社会において、「LGBTQ+」の完全な社会的受容は道半ばですが、平等な権利を確保するための動きも少しずつ進んできています。
自治体や企業の先進事例に学んだり、当事者の多様な語りに耳を傾けたりすることを通じて、私たちは「当たり前」をアップデートすることができるでしょう。

監修者:遠藤まめた
1987年埼玉県生まれ。一般社団法人にじーず代表。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。
著書に『先生と親のためのLGBTガイド 〜もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)、『みんな自分らしくいるためのはじめてのLGBT』(ちくまプリマー新書)ほか。
ホームページ:https://www.endomameta.com/
Twitter:https://twitter.com/mameta227

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