結婚は不自由、なんてない。—やりたいことを諦めない。自由人でいたい二人が「夫婦」を選んだ理由—
ひらいめぐみさんは、数々のエッセイ本を出版する作家だ。『転職ばっかりうまくなる』(百万年書房)では20代で6回転職した自身の経験から独特のキャリア観を、『世界味見本帖』(角川春樹事務所)ではスウェーデン、カンボジア、台湾など世界各国の料理を食べる経験を通じて、驚きや発見を綴る。軽やかな生き方やユニークなライフスタイルが20代・30代の読者に支持されている。
そんなひらいさんのエッセイにも登場するのが、夫の三浦希(のぞむ)さん。ひらいさんの文章のなかで描かれる夫婦生活は自然体そのものだ。生き方やパートナーシップが多様化するなかで、二人が「結婚」という形にたどり着いた理由はなんだろうか。現代を「夫婦」という関係性で生きる二人に、結婚観を聞いた。
「生き方」そのものが多様化する現代。働き方やジェンダー・セクシュアリティなどをそれぞれが認め合い、個々人が自分らしいライフスタイルを模索する。そんな社会が築かれつつある。そのなかで、「結婚」への価値観も大きく変化しているといえる。「未婚から非婚へ」ともいわれるように、結婚にネガティブイメージを持ち、あえて独身や事実婚といった選択をする人も多い。現代の日本では同性婚や夫婦別姓が認められていないことも、「非婚」という選択が広がっている一つの要因かもしれない。「結婚」というパートナーシップのかたちは、もう古いのだろうか?
そんななか、作家・ひらいめぐみさんとライター・編集者・モデルの三浦希さんの夫婦生活は、自然体でポジティブな雰囲気にあふれている。ひらいさんのエッセイでは、三浦さんのお茶目で飄々とした一面がたびたび描かれる。結婚に慎重な若者世代が多いなかで、軽やかに夫婦生活を送る二人。彼・彼女が思う「結婚の幸せ」とは?
夫婦であり、友達。違いを認め合う軽やかなパートナーシップ
「結婚することはないだろう」。両親の離婚が影響した結婚観
茨城県に生まれたひらいさんは、幼少のころから結婚の難しさを感じていたという。両親の仲が芳しくなかったのだ。歳を重ねるごとに、結婚に対するハードルを感じるようになっていったと語る。
ひらいめぐみ(以下、ひらい)「実家は両親と兄、私、弟という家族構成だったのですが、兄が中学に進学したくらいの時期から両親がぶつかる頻度が多くなっていったんです。たぶん、教育にかかるお金のことなどが大きなプレッシャーになっていたんだろうなと。それで、子どもながらに『結婚=幸せってわけじゃないんだな』と感じるようになっていました。だから、学校のクラスメイトたちとの『いつか子どもができたら名前はどうしたい?』といった他愛ない会話にも少し違和感がありましたね」

ひらいさんが成人を迎えたころ、両親は離婚。その事実も、彼女の結婚観に大きな影響を与えた。
ひらい「兄が実家にいたころは彼が両親の仲を仲裁してくれていたのですが、最終的には離婚というかたちに落ち着くことになって。両親が別れたことで、自分も結婚することはないだろうなと感じました。やっぱり夫婦同士は血縁関係もないし、関係を続けていくのは難しいんだ、って」
一方、三浦さんももともと、結婚には抵抗を感じていたという。
三浦希(以下、三浦)「僕は結婚に対して、『できることが少なくなる』というイメージが強くありました。もともと『自由にしていたい』という想いが強い人間で。やりたくないことはやりたくないし、やりたいことはすぐに実行したい。そういう性格が、結婚には合わないんじゃないかな、と。
結婚前、祖母から『結婚しないのかい?』『子どもは欲しくないのかい?』と言われることもあったのですが、毎回聞き流してしまっていましたね」

結婚は自己肯定感を高めてくれる関係性
そんな三浦さんだが、ひらいさんと出会って交際するようになったあとは、すぐにひらいさんと結婚したいと思うようになったという。
三浦「正直あまり記憶にないんですが、付き合っていた当時、酔っ払って帰ってきてはめぐちゃんに『結婚しよう』って言っていたらしくて。結婚へのイメージが湧いていなかった僕ですが、めぐちゃんに対しては直感的に『この人と結婚したい』と思えていたんです」
ひらいさんも、三浦さんに対しては結婚に前向きになれる“何か”を感じ取っていた。
ひらい「私はもともと、両親の不仲や育ってきた環境の影響で自分に自信がない性格だったんです。希くんとの会話でも、よく『私なんか』と自分を下げていて。そのことを、希くんから一度真剣に怒られたんです。『めぐちゃんは最高なんだから、自信を持ったほうがいい。それほど自らを卑下するのでは、仲良くしている僕や友人たちにも失礼だよ』って強く言ってもらえて。それで私の考え方が大きく変わったんです。
希くんが、私の自己肯定感を引き出してくれた。この出来事がきっかけで、一緒に生きていくイメージが徐々に湧いてくるようになりました」

さらに、離婚を経験したひらいさんの母親の言葉も、彼女を後押しした。
ひらい「母に結婚について聞いたことがあったんです。母は結婚生活に苦労したので、『しないほうがいいよ』と言われるだろうと思っていたのですが、意外にも『人生経験として一回してみるのはいいと思うよ。お母さんはおすすめ!』と言われて。そのことで、『結婚って大変そうだけど、したらしたで面白いのかも』という感覚になりました」
三浦「その言葉によって、僕の心も少し軽くなったように思います。いざ結婚直前になったとき、『めぐちゃんの夫が僕で本当にいいのか?』と急に不安になり、マリッジブルーのような感覚になってしまったんですが、めぐちゃんのお母さんの言葉で『何か間違えても、そこから修正していけばいい』と、結婚に踏ん切りがつきました。今でも『本当に俺なんかでいいんだろうか?』と思うことがしばしばありますが、あの言葉には背中をグッと押してもらいましたね」
一緒にご飯を食べるだけが家族じゃない。夫婦の絆を深める大切な基準
晴れて夫婦となったひらいさんと三浦さん。その生活のなかで、二人はお互いに “違い” を感じ、だからこそ尊重し合う関係性を築いているという。
ひらい「例えば食生活でいうと、希くんはお肉が大好きだけど私は牛肉アレルギーだったり、全然好みが違って。同じ家にいても別の時間に別のものを食べていることが多いんです。一緒に食事を取ることは週に1回くらいで。
お互いにフリーランスだから、どちらかが仕事をしているときにもう一方は遊んでいることも多くて、それが自然なこと。希くんが昼間に家でゲームをしていてもとくに気にならない。それぞれが自然体で同じ空間にいられているなと感じます」
三浦「お互い、作家やライターの仕事をしているというのも大きいのかなと感じます。そういう仕事って、あらゆるものに興味を持ち、面白がるってことが大事で。
めぐちゃんは『白い食べ物が食べられない』とか『温かい納豆が嫌い』とか、変わった偏食がある人。白い食べ物って、白米とかも含まれるんです。僕は日本人として白米が当たり前に好き。そういう、自分と全く違う部分が面白い。一緒に生活していて、ずっと『この人、変だな』『面白いな』と感じさせてもらえている。一番近くにいる結婚相手がこんなにも自分と違うというのは、学びの機会としてありがたいなと思います」

一方で、仕事や生き方における“芯”の部分では共通点も感じるという。
ひらい「二人とも『義理堅い人』がとても好きなんです。逆に人情味が薄い人とは一緒にいられないかも、と思うし、私たち自身がそうならないようにしよう、というふうにいつも話し合っていて。人間関係の価値観が合うのが、私たちの絆を強くしている要因かもしれません」
三浦「仕事でも、どんな依頼なら受けて、逆に断るのはどんなものか、という相談をよくします。金額や条件だけじゃなくて、『これを断ったら不義理になるよね』というところを基準にしたり。その価値観が、めぐちゃんとはマッチしているなと感じます。一緒に寝て起きてご飯を食べるだけが家族じゃなくて、むしろそこがそれぞれ別でも、大切な価値観があっていれば家族になれるんだと思います」
作家・ライターの二人の部屋には本がずらり
二人が思う「結婚してよかったこと」とは
違いを認め合い、独立した大人同士としてパートナーシップを育んでいるひらいさん・三浦さん夫婦。改めて、二人が思う結婚の良さを聞いた。
ひらい「私自身は、結婚を『良い』『悪い』でとらえていなくて。世間的には、『子どもが生まれる』とか『家を建てる』みたいな、特別でおめでたいことの一つとされることが多いですが、私にとって結婚はもっと自然で、フラットなこと。だから私たちは、結婚式も挙げていないんです。希くんと一緒に暮らせて、日々刺激を与え合うことができている。それ自体がうれしいし、ありがたいことだなと思います。
一つ思うのは、結婚は家族・親族との関係に良い影響があるな、ということ。私の祖父は希くんと会うとすごく喜んで、一緒にお酒を酌み交わしては『孫をよろしく』と毎回言っていて。そうして、家族・親族の絆がパートナーも込みで深まっていくのは、恋人同士だったころにはなかったことかなと思います」

三浦「本当にそうだね。僕もそれを感じたことがある。僕の父が亡くなったとき、お葬式にめぐちゃんにも来てもらったんです。僕は父をすごく大切に思っていて、亡くなって悲しかった。ただ、葬儀のときは母が『泣かずに見送ろう』と呼びかけていたから、僕も泣かないようにしていました。そんななかで、めぐちゃんが感極まって泣いてくれて。
僕の大事な人が、僕の大事な人に関して、涙を流すほど感情を高ぶらせている。これってあんまりないことだなと思ったんです。新しい家族と感情を共有できる。これは結婚でしか経験できないことかもしれません。結婚してよかった、と思いました」

結婚を特別なイニシエーション(通過儀礼)ではなく、自然な関係性の一つであると示してくれたひらいさんと三浦さん。二人の言葉からは、結婚に迷い、踏ん切りがつかない人へのヒントが満ちていた。
三浦「僕はめぐちゃんのことを、今でも友達であり親友だと思っているんです。もちろん結婚相手で大切な人だけれど、それ以上に苦楽を共にしてきた盟友、という感覚。『妻と夫』といった型にはまった関係ではなく、シンプルに『すごく仲の良い人』でいられている。だからこそ、一緒にいるだけで楽しいし、発見があるんです」
取材・執筆:生駒奨
撮影:巻嶋翔
三浦希(写真左)
フリーランスのライター・編集者。ファッション系の編集プロダクションでの勤務を経て、2020年に独立。ウェブメディア、雑誌等で執筆や編集を担当しながら、モデルとしても活動している。
ひらいめぐみ(写真右)
作家。1992年生まれ、茨城県出身。7歳からたまご(についている賞味期限が表示された)シールを集めている。近著に『転職ばっかりうまくなる』『ひらめちゃん』(ともに百万年書房)『世界味見本帖』(角川春樹事務所)がある。