【スペシャル対談】子育てママはキャリア形成できない、なんてない。
送迎や託児、モノなどのシェアをできる子育てシェアアプリを運営する「AsMama」の代表を務める甲田恵子さん(写真左)。そして、オフィス内で子どもを遊ばせながら働ける場を提供する「LIFULL FaM」の代表・秋庭麻衣さん(写真右)。子育てママのキャリア形成の新しい形を作り上げたふたりが、ワーキングママとしての自らの経験も交えながら、子育てをしながら働くママのキャリア形成の可能性と課題について語り合いました。
国を挙げて、女性の活躍推進に取り組んでいる日本。待機児童問題が大きく取り上げられたことにより保育園の数が急増。育休や時短制度も整いつつある。しかし、まだまだ出産や子育てを機に、女性がキャリアを中断せざるを得ない状況は続いている。そんな中、甲田さんと秋庭さんは、子育てしながらもキャリアを形成したい女性の思いに応えるサービスを提供している。
子育てママが“遠慮”せず、
キャリアを形成できる社会へ
甲田さんが代表を務める「AsMama」では、地域住人同士で、おさがりなどモノの贈呈や貸し借り、子どもの送迎や託児のシェア、食事やお出かけの誘い合いを可能にする子育て共助のプラットフォーム「子育てシェア」アプリを作った。ご近所同士のつながりはどんどん広がり、解決率(支援依頼発信に対して支援者とのマッチングが成立をした率)は72%を超える(※2019年4月現在)。
秋庭さんが代表を務める「LIFULL FaM」は、子連れでも出勤できるオフィス運営や、WEBマーケティング分野でスキルアップできる「ママの就労支援事業」に取り組んでいる。子育て中でも、転職や復職に有利になるスキルを身につけられる仕組みを作った。
子育てシェアアプリ「AsMama」代表の甲田さん
そうしたサービスを展開するふたりは、自治体や大企業を中心に、仕事と子育てを両立するための制度や環境はずいぶん整ってきていると口を揃える。それでも、問題点がないわけではない。
「中学2年生の娘がいますが、私が出産した頃は、時短制度を使うだけですみませんという感じで、怖かったですね。でも今は、時短を取るのが怖いなんて時代錯誤です。ただ、子どもを預ける先が保育園だけというのは、やはり大変。どうしても残業したいときに、子どもをみてくれたり、悩み相談にのってくれるパパママが地域に3人いると、思う存分働けるんです。企業側は、地域の人たちと助け合える環境をサポートすることによって、社員が長く働いてくれるなど、福利厚生としてもプラスになる。今後、さらに色々な企業に取り組んでほしいですね」(甲田さん)
「保育園とやりとりしたり、サポートネットワークを作るのはママの役割といった現実は根強く残ってはいますが、出産を機に仕事を辞めなければいけないという固定観念を持っている人はかなり減っている印象ですし、大企業にはいろんな制度があります。一方で、中小企業ではまだまだ十分と言えない部分もあるので、ママのパワーをもっと感じて活用してほしいですね。“ママ=時短”と敬遠されがちですが、実は達成感や充実感を仕事から得たいというモチベーションがとても高いママも多いと感じます」(秋庭さん)
ママの就労支援事業に取り組む「LIFULL FaM」代表の秋庭さん
同じ子育てママのキャリアアップをサポートできる喜び
子育てと仕事を両立するママたちをサポートするふたりがやりがいを感じる瞬間は、サービスを利用した親子が笑顔になること。
「利用者から、居住地域で預ける人が近くに見つかって、育児ストレスがなくなって子どもがかわいく思えるようになった、子どもに友達ができたという声を聞きます。働くママたちの生活を豊かにできているのがすごくうれしいですね」(甲田さん)
「AsMama」のママサポーターとサービス利用者の様子
「子どももママもハッピーでいてくれるのが、事業をやっていて感じるいちばんのやりがい。ママが働いている間、子どもたちは戸建てのオフィス内にある遊び部屋で音を気にせず自由に楽しんでいます。ママの仕事中に待たされていると感じず、子ども自らが行きたいと思える環境があれば、ママも精神的な葛藤が薄れ、仕事へのモチベーションにもつながるんですよね」(秋庭さん)
子育てしながら、キャリアアップしていく女性たちを見るのもふたりの大きな喜びだ。
「飲食サービス業しか経験がなく、将来を考えてキャリアになるマーケティングの仕事をしたいと入社してきた女性が、最初はパソコンの入力作業から始め、企業さんのSNS代行やコンテンツマーケティングの記事制作など、だんだんステップアップしていったんです。そうした姿を見ると、この仕組みを作って本当によかったなって思いますね。『家の近くにも子連れオフィスを作ってください』というお声をよくいただくのですが、現在は目黒区と鯖江市、宮崎市の3カ所。今後、宮崎から始めたフランチャイズ展開によって、全国各地に増やしていきたいと考えています」(秋庭さん)
「AsMama内でも、仕事をしていく内に内勤希望だったけども営業に行きたがったり、仕事の幅を広げ、自然な形でキャリアアップして成長していく社員の存在は嬉しいですね」(甲田さん)
ふたりがキャリアを諦めなかった理由
働きながらも子どもを育ててきたふたり。甲田さんの娘は中学2年生、秋庭さんの娘は中学3年生になった。娘たちは、いきいきと働く母親を応援してくれている。しかし、そこに至るまでには、幼い子どもが入院したり、高熱が長引いたりして、「仕事を辞めたほうが迷惑をかけない」「働きながら子育てするのには向いていない」と思い詰めたこともあった。保育園代にベビーシッター代、お迎えに間に合わせるために乗ったタクシー代などで給料も大方が消えていった。それでも、キャリアを諦めなかった。
「子どもが度重なり熱を出して会社に電話したとき、『嘘じゃないんです』と言った覚えがあります。あのときは本当にツラかったですね……。でも理解のある上司で、『今日も休みます、申し訳ございません』と言ったら『あなたが悪いわけじゃないのになんで謝るの?』と言ってくれて。これだけ応援してくれる人がいるんだから、辞めたら失礼になる。子育てと仕事を両立しながら、結果を出すことが最大の恩返しになると思いました」(秋庭さん)
「大きくなったとき、『育児のために、やりたかった仕事を辞めたのよ』と娘が聞かされて、果たしてうれしいのかなと、娘が肺炎で入院していた病院で思ったんです。決していいお母さんじゃないかもしれない。すごくデキる社員でもないかもしれない。それでも、もがきながら子育てして働く姿を見せていこうと決意しました。金銭面だけで考えると、何のために働いているんだろうとなってしまうこともある。でも、私にとって仕事は向上心を満たしてくれるもの。周りを見ても、お金のプラスマイナスではなく仕事で得られる満足度を取った人は、その後も幸せなキャリア形成ができていると思います」(甲田さん)
ワーキングママに伝えたいメッセージ
働くママをいちばん間近で見てきた娘たちは、近頃、母の会社を継ぎたいと言ったり、学校で母の仕事について嬉しそうに話したりしているそうだ。彼女たちにとって母親の存在は誇りであり最高のロールモデルなのかもしれない。そして、会社員を経て起業し、輝きながら働くふたりは、子育てと仕事は両立できること、さらには子育てママのキャリア形成も不可能ではないことを立証してみせた。
「今、頑張っている姿は、絶対に子どもたちに伝わります。ママが頑張っていたから、自分もそういう仕事がしたいと思ってもくれるはずです。そして、子どもにわかりやすく説明するコミュニケーション能力や、たくさんの人に子育てや仕事を手伝ってもらうための巻き込む力、短い時間で仕事するためのタイムマネジメント能力は、将来のキャリア形成に役立つスキル。今は、子育て、家事、仕事とすごく大変だと思いますが、10年後を見据えて、肩の力を入れすぎずハッピーに続けてください」(秋庭さん)
甲田 恵子(写真左)
1975年生まれ。関西外国語大学卒業後、環境庁(当時)の外郭団体「特殊法人環境事業団」に就職。2000年、IT企業に転職し、海外事業部で渉外・マーケティングに携わる。2004年、長女を出産。翌年、復職。投資会社で広報・IR室長を務めた後、2009年に退職。同年、株式会社AsMamaを創設。著書に『子育ては頼っていいんです~共育て共育ち白書』(神奈川新聞社)、『ワンコインの子育てシェアが社会を変える』(合同出版)。AsMamaの取り組みは高い評価を受け、第2回日本サービス大賞優秀賞、「ICT地域活性化大賞2017」大賞(総務大臣賞)などを受賞している。
秋庭 麻衣(写真右)
株式会社ネクスト(現LIFULL)に新卒で入社し、不動産・住宅情報サイト『HOME'S』の営業を経験。社内第1号となる産休・育休を取得し、復職後に経営陣に自ら新たな子育て支援施策を提案し、社内制度を立案。時短勤務を続けながら人事部で新卒採用や人材育成を担当し、管理職としてメンバーのマネジメントを経験。
仕事と子育ての両立で直面する問題を解決したい、という強い想いから2014年10月にネクストから100%出資を受けて「株式会社LIFULL FaM」を設立。ママが子連れで働き、スキルアップする「就労支援事業」を運営。現在、東京都目黒区と福井県鯖江市、宮崎県宮崎市にオフィスを展開。
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