【スペシャル対談】若い女性がリーダーになるのは遠慮しなきゃ、なんてない。

田中美咲(右)・原田奈実(左)

「一般社団法人防災ガール」の活動で出会って以来、親交がある田中美咲さんとLIFULLの原田奈実。田中さんは2007年に立命館大学を卒業後、大手IT企業に就職。退職後の2012年には福島県庁の復興支援事業の立ち上げに携わり、2013年には一般社団法人防災ガールを設立。さらに2018年には社会課題に特化したPR会社を設立し、今年9月にはインクルーシブファッションのスタートアップ立ち上げなど精力的に活動を行う。「人間力大賞 2018 経済産業大臣奨励賞」など、数多くの受賞経験を持っている。
一方の原田は、2017年に立命館大学を卒業後、LIFULLに入社。新卒2年目で事業提案をした、規格外野菜を使う事業「Clean Smoothie(クリーンスムージー)(現CLEAN FOOD(クリーンフード))」の責任者を務め、今も農業の問題をビジネスで解決する仕組みづくりに尽力している。

※CLEAN FOOD及びClean Smoothieの運営会社は2022年1月より石井食品株式会社に変更いたしました。

国際労働機関(ILO)の発表(2019年3月)によると、2018年の世界の管理職に占める女性の割合は27.1%で、日本は12%と主要7カ国(G7)中最下位だった。政府が男性だけでなく女性も活躍できる場を増やそうと「一億総活躍社会の実現」を掲げたのは2015年のこと。翌年には女性初となる小池百合子東京都知事が誕生し、徐々に女性リーダーが増えているように感じるが、実際は“まだまだ”という感じかもしれない。中には、リーダーになりたくても「遠慮」や「既成概念」が邪魔して、「なりたい自分になれない」と思っている女性も少なからずいるのではないだろうか。田中さんと原田はどんな思いで自分のビジネスに挑戦し、そこにはどんな既成概念が存在してどんなふうに対峙(たいじ)しているのだろうか。

性別や年齢に負い目を感じる必要はまったくない

―田中さんと原田さんはこれまで、社会における課題を見つけ、解決に向けてさまざまな事業に取り組んできたと思いますが、どんな挑戦をしてきましたか? また、なぜそのような挑戦をすることになったのでしょうか? きっかけや体験があれば教えてください。

田中さん「簡単な経歴をお話しさせていただくと、私は大学卒業後にIT企業に就職したのですが、東日本大震災をきっかけに退職、2012年から福島県庁の広報課のもとに1年半住み込みで入り、事業責任者を務めさせていただきました。そこでは国や自治体がやりたいことと、地元住民である被災された方のやりたいことや思い描く未来が全然違うと感じ、両者を支援しながらアップデートできる存在になろうと考えました。翌年には『防災ガール』を設立し、原田さんとはそこで知り合いました。防災ガールで社会起業家仲間が増えましたが、良いことをやっているのに社会への伝え方がうまくいっていない団体や当事者の方が多いなということが分かりました。そこで私は、防災ガールを5年間続けた経験を生かしつつ、2018年に2社目となる、社会課題に特化したPR会社を立ち上げました」

原田「大学生のときに被災後の東北の課題を解決したいと思い、現地に行くツアーや農業体験ができるツアーなどの企画をしていました。その中で、東北に行かなくても東北と関われる方法や機会をつくりたいなと考えて、2014年の5月、大学2年生のときに『きっかけ食堂』をつくりました。いろいろな活動をする中で、ビジネスで課題解決をしたいなと思い、2017年に新卒でLIFULLに入社しました」

田中さん「ビジネスで社会課題を解決する、という意味では、私の時代だったら大手人材会社などが有名でしたが、なぜLIFULLに入社しようと思ったんですか?」

原田「LIFULLは社会課題を解決するというビジョンを掲げているところと、LIFULL HOME’Sという大きい事業もある点が魅力的でした。社長の井上が社会課題を解決したくて会社をつくっている、そういった思いが起点となってできているビジネスに取り組める環境がいいなと感じたんです。加えて、新規事業を提案する制度というのがあり、大手人材会社が年1回あるのに対して、LIFULLは3カ月に1回くらいある。機会も多いためたくさん挑戦できるのではと考えました」

―これまでの数々の挑戦の中で、「既成概念」を感じた瞬間はありましたか? また、それはどんな「既成概念」でしたか?

田中さん「私は20代で起業しましたが、世の中の風潮とは裏腹に、『20代の起業』というのが世の中的にまだ蔑まれて見られる傾向にあるということを正直感じました。加えて、セクシュアリティとしての女性否定、若者へのチャンスのなさということもまだまだなくなっていないということも同時に感じました。そのような場面に出合ったとき、私は相手に対して『それは差別ではないですか』と問うようにしています。相手の中にもし年齢や性別への偏見があるのだとしたら、逃げるのではなく戦います。その中で私は、“何を一番に解決したいか”という原点に立ち返りながら、結果を出すしかないと思って日々仕事に取り組んでいます」

原田「そうですね、挑戦という意味では…『SWITCH』というLIFULL社内の新規事業提案制度があるのですが、実は私はこのコンテストで7回くらい落ちています」

田中さん「すごい! 根気強いですね」

原田「いえ、そんなことはなくて、落ちるたびにショックですし心折れそうになります。自分がやりたい課題に向けての解決方法を模索するしかないから、ここで諦めたら全然意味ないと考えてがむしゃらにやりました。自分が悪く思われたくないとか、恥ずかしい思いをしたくないとか、周りの目を気にしてしまうことは、ある種の既成概念じゃないかと思っています」

既存の「暗黙」のルールを壊したい

―現在は、どのようなことに挑戦していますか?

田中さん「今年の8月にLIFULLの『OPEN SWITCH ビジネスプランコンテストvol.3』で事業案が入賞したことが後押しとなって、翌9月15日に3社目となるインクルーシブファッションのスタートアップ『SOLIT,Inc.』を立ち上げました。現在のファッションってすごく確立された枠組みがある感じで、サイズもS、M、Lと決まっていたり、レディース、メンズと決まっていたりする。大量生産、大量消費するためにはその枠組みじゃないと作業効率という観点から難しいというのも分かります。でも、その枠組みから抜け落ちた方が、仕方なく服に自分を合わせることに納得がいきませんでした。社会がマイノリティーと勝手に決めつけた人たちが生きづらい世の中は、とても嫌でしたね。ファッションという分野で事業をやったことはありませんでしたが、ご縁がありアパレル業界の方とつながることができました。今その分野でファッションを創る人と自由に楽しむ人をつなげられるのは、私しかいないんじゃないかと思いました。セクシュアルマイノリティの方や身体障がいのある方、宗教的に着る服に限りがある方などが誰でもファッションを楽しめる、そんなファッションサービスをつくりたいと思っています」

原田「冷凍スムージーの宅配事業に挑戦しています。スムージーには規格外野菜や納期遅れの余剰の野菜、新型コロナウイルスで飲食店に行くはずだった、つまり行き場がなくなってしまった野菜や果物を使っています。それらをスムージーという形に価値変換してお届けするという事業に挑戦しています」

―その中で「既成概念」を感じることもありますか?

田中さん「ファッションは従来人間に服が合わさってきたものなのに、産業構造上の理由で服に人の体を合わせなきゃならない構造に変わってきてしまったように感じます。本来はそうじゃないということを改めて捉え直して、事業を通してファッションの自由を伝えていきたいです」

原田「冷凍スムージーの宅配事業では、規格外野菜を使わせていただくことが多いです。形が悪い、ちょっと小さい、傷があるなどの理由で売れなくて、毎週トマト100キロを山に捨てている農家さんも実際にいます。いわばフードロス問題です。規格外の野菜は市場に出してはいけないという暗黙のルールこそ、既成概念だと感じています」

多様な価値観が承認される世界を創りたい

―今後はどのようなことに挑戦したいと考えていますか?

田中さん「私は多様な価値観が相互承認される世界を創りたいと考えています。その対象が今はインクルーシブファッションなだけで、5年後、10年後、自分に別のスキルやリソースが備われば、将来全然違うことをしているかもしれません。最終的には、多様な文化の中で生きている方々、人間、自然、動物も含めた、包括的な経済をつくっていきたいと思っています」

原田「私が取り組んでいるスムージーを、一般向けに販売していきます。今まではオフィス、つまり事業者向けに提供してきましたけど、もっと多くの人に野菜やフードロスのことを知ってほしいと考えています。さらに、私の地元である京都府井手町の町づくりのキーマンになるという目標もありますが、同じような農業課題を抱えている東北など地方の活性化にも携わりたいですね」

―現在取り組んでいることが広がっていき、その結果世の中がどうなることが理想だと考えていますか?

田中さん「誰もが自分らしく生きられることが理想だと私は考えています。それぞれありのままでいいし、価値観の押し付けがないように、すべての価値観が承認されて、相互承認した上で、お互いが生きやすいような世界になればいいなと思いますね。日本は世界的に見ても技術があり、知的財産があります。そのような恵まれた環境にもかかわらず、自殺する人が多かったり、社会的マイノリティーといわれている方々の生きづらさを感じる現状があったりしますよね。既成概念や既存の産業社会の枠にとらわれない、もっと多様な社会に変えていけたらいいなと思っています」

原田「シンプルに世の中は良くなっていくと思います。というのも、社会課題を解決したいという仲間が日々増えていると感じているからです。私はありがたいことに、自分がやりたいことに対して挑戦させていただいていますが、その中で社会課題を解決させるために取り組んでいる人と会う機会が多いです。そういった思いで取り組んでいる人の行動の積み重ねによって、世の中は良くなっていくと私は考えます」

田中さん:もしやりたいことがあるならば、今すぐにやるのが良いと思います。自分の中でとどめるのではなくて、1回アクションを起こしてみる。考えていても、何も始まらないと思うので。友達を集めたり、フェイスブックに投稿したり、何でもいいからやってみるということが大切。でもそこで“挑戦しなければならない”というプレッシャーに縛られる必要はない。挑戦したいタイミングで挑戦すればいいと思います。

原田:考えを行動に移す、この繰り返しがすごく大事じゃないかと思っています。そのためにはまず、自分の思いや意見を発信する。社会や世の中に対して一歩踏み出してみることが大切だと感じます。
田中美咲(右)・原田奈実(左)
Profile 田中美咲(右)・原田奈実(左)

田中美咲
1988年生まれ、奈良県出身。2007年に立命館大学を卒業後、大手IT企業に就職。退職後、2012年に福島県庁の復興支援事業の立ち上げに携わる。2013年に一般社団法人防災ガール設立。2018年にmorning after cutting my hair,Inc.設立。2020年9月、インクルーシブファッションのスタートアップ立ち上げを行う。「Forbes Japan『地球で輝く女性100人』」の選出、「人間力大賞 2018 経済産業大臣奨励賞」他、多岐にわたり受賞経験を持つ。

原田奈実
1994年生まれ、京都府出身。2017年に立命館大学を卒業後、株式会社LIFULLに入社。新卒2年目で事業提案を行った、規格外野菜を使った「Clean Smoothie(現CLEAN FOOD)」事業の責任者を務め、農業の問題をビジネスで解決する仕組みづくりに尽力している。東日本大震災の被災地を忘れないきっかけをつくる「NPO法人 きっかけ食堂」代表。

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