「供養は遺された者が前を向くためのもの」那須の長楽寺の住職が語るペットロスの受け入れ方
近年、犬猫などのペットは家族の一員と言われるようになり、供養の仕方にも注目が集まっている。ペットの海洋散骨サービスを行う一般社団法人LOAMOKUが2025年に公表したペット供養に関する調査によると、「ペット専用の納骨堂・納骨棚に収蔵する」が31.0%で最も多かった。
ただ、どんな供養を選んだとしても、愛しい存在を失った痛みは簡単には癒えない。私たちは深い喪失感とどう向き合い、その後の日々を歩んでいけばいいのだろうか。
そのヒントを与えてくれるのは、SNSやYouTubeで「猫がいるお寺」として人気を博している栃木県・那須の長楽寺の住職、鈴木祥蔵(すずき しょうぞう)さん一家の死生観だ。自身も愛猫の死を経験した住職やおかみさん(妻)、おねえさん(娘) はどのように痛みを受け止めたのか、話を伺った。
「家を嫌な場所にしない」家族3人で話し合った治療の選択
幼少期から境内に野良猫や半野良猫がやってくる環境で育った住職は、根っからの猫好きだ。
「子どもの頃には、獣と喧嘩して足を負傷しながらも家に帰ってきて息を引き取った猫もいました」(住職)
現在、お寺では8匹の猫が暮らしている。一番の古株は、小学校の敷地内で保護した三毛猫のミー子ちゃん。保護当時、ミー子ちゃんは妊娠しており、後に6匹の子猫を出産。家族はミー子ちゃんが産んだ子どもたちも自宅に迎え入れ、大切に育ててきた。
現在16歳のミー子ちゃん
多くの猫たちと暮らすということは、多くの看取りを経験することでもある。2025年10月、ミー子ちゃんの子どもであるシロくん(享年14歳)が悪性リンパ腫で天国へ。約5か月前、同じくミー子ちゃんの子どもであるひーちゃん(享年14歳)を亡くしていた家族は再び、悲しみに暮れることとなった。
シロくんの体に異変が見られたのは、亡くなる1か月ほど前のこと。お腹が不自然に膨らんだことから動物病院を受診し、検査をすると、悪性リンパ腫であることが判明する。
シロくん
すでに末期だったため、できる治療は少なかった。痛みなどを緩和する薬を与えることや腹水を抜くこと、少しでも楽になるように点滴を打つことくらいしか選択肢はなかったそうだ。家族は今後の治療方針について、何度も話し合った。
「それぞれ感じている想いが違っていても同じ方向を向いて治療を進められるように、たくさん話をしました。『どんな結果になっても誰かひとりの責任じゃない』と言いながら痛みを共有し合えたことは、心の支えになりました」(おかみさん)
延命措置をし続けることがシロの負担になるなら、しない。話し合いの結果、家族はそう決断し、必要最低限の治療を行うことにした。だが、治療方針を決めた後も葛藤は続いた。

「自宅で薬を飲ませていたのですが、シロは次第に家を『嫌な薬を飲まされる場所』と認識するようになってしまいました。自分を守るかのように一生懸命、私の手から逃げるようにもなって……」(おかみさん)
この子は、嫌がっている。そう感じたおかみさんは、自宅での投薬を止めた。自宅はシロが心から休める場所にしてあげたい。そう思い、獣医師に相談。投薬は病院で行ってもらうことにした。
「心の穴は絶対に埋まらない」三者三様なペットロスとの向き合い方
シロくんの最期はある朝、突然訪れた。前日の夜まではいつもと変わらない様子だったが、翌朝の5時半過ぎに様子を見に行くと、すでに息絶えていた。最期を看取れなかった。おねえさんはそう自分を責めたが、獣医師の言葉に心救われたという。

「長年お世話になっているベテランの獣医師さんが『シロくんは最期の姿を見せたくなくて、あえて誰もいない時間を選んで旅立ったんだと思う。それが、シロくんの望みだったんだよ』と言ってくれたんです」(おねえさん)
その言葉を聞き、おねえさんはシロくんの死を前向きに受け止めることができるようになったという。
一方、おかみさんは今もペットロスの悲しみと向き合っている最中だ。毎日泣き崩れているわけではないが、日常の中でシロくんを思い出し、涙することはある。
「シロの前に愛猫ひーちゃんも亡くしているので、その時からずっとペットロスです。心の穴は時間が経てば小さくはなるけれど、新しい子を迎えたとしても絶対に埋まらない。その子は、唯一無二の存在だから」(おかみさん)
ひーちゃん
自宅で薬を飲ませ続けていれば、シロはもっと生きられたかもしれない。そんな後悔を抱えているが、おかみさんは悲観的になりすぎてはいない。ペットロスによる悲しみも「愛したからこその痛み」と肯定的に受け止め、生きている愛猫たちに目いっぱい愛情を注いでいる。
また、住職も今ある命のほうに目を向けている。住職には「命あるものはいつか死ぬ」という一貫した考えがあるため、亡くなった命を悼みつつも、今ある命のほうに目を向けている。
「もちろん、悲しいし寂しいけど、ずっと引きずって何もしないわけにはいかないからね。今、生きている猫たちのお世話が疎かになっちゃうから、『可哀想』と泣き続けているわけにはいかないなと思うんです」(住職)

愛猫の死を、潔く「自然の摂理」と受け止めるその姿勢は悲しみの断ち切り方を知りたい人の心に刺さることだろう。
「お葬式や供養は、生きている人間のためにある」住職が説く弔いの本質
亡くなったあの子には、幸せでいてほしい。そんな想いから、ペットを亡くした後には祭壇に手を合わせたり、ペットの法要を依頼したりする飼い主は多い。そうした供養は、心のザワつきを少し鎮めてくれる効果があるように感じる。
実際、おねえさんは愛猫を亡くして心が不安定になっていた時、本堂でお線香をあげ、手を合わせた時、不思議と心が落ち着いたそうだ。
「供養って、遺された人間が前を向いて生きていくために必要なことだと思いました」(おねえさん)

そんな答えを導き出した背景には、住職の教えも深く関係している。
「供養は、遺された人間のためにあります。お経を読んだり仏壇に手を合わせたりしても、亡くなった猫たちがそれを理解し、喜んでいるかを知る術はありません。ただ、供養をして一区切りつけると、人間は前を向いて歩き出しやすくなると思います」(住職)
近年では、人間と動物が同じお墓に入ることを前向きに捉える僧侶や寺院も増えてきているが、基本的に仏教の教えでは動物と人間が同じお墓に入ることはタブー視されている。長楽寺では、2025年7月に愛猫たちを供養するための“猫塚”を設けた。
「猫たちが年老いてきたから、そろそろちゃんと看取る準備をしてあげないと……と思ったんです」(住職)
愛猫たちへの想いが込められた猫塚で、亡きシロくんやひーちゃんは安らかに眠っている
住職は、「愛猫と一緒のお墓に入りたい」という飼い主の想いには理解を示す。だが、一方で将来、同じお墓に入るかもしれない子孫への配慮も大切だと説く。
「もし、猫が嫌いな人がいたらそれはそれで可哀想だから、それも考えていかなくちゃならない現実的な問題だと思います」
住職が説く「いつか必ず消える命」との向き合い方
長楽寺では、2019年から動物供養の相談を受け付けている。悲しみに暮れる依頼者の相談をまず受け止めるのは、おかみさん。話を聞く中でおかみさんが意識しているのは、余計な励ましをしないことだ。
「亡くし方は、それぞれ。たとえ同じ年齢や病気であったとしても、その人の悲しみはその人にしか分かりません。台本のように万人の心を癒す言葉なんてない。だからこそ、心に寄り添えるように、ただただお話を真摯にお聞きしています」(おかみさん)
動物供養を行う住職
依頼者から「話したい」と言われるまでは心の傷に触れず、安易に「可哀想に」という言葉も使わない。それが、同じ痛みを経験したおかみさんならではの優しい配慮だ。
「人間も猫も、いつかは必ず死ぬ。だからこそ、生きている間に間違ったことをせず、後悔のないように努力する。大事なことは、それに尽きます。ペットを亡くしてどうしても心が辛い時は長楽寺に来て、今を生きている猫たちと触れ合い、癒やされてほしい」(住職)
住職はそう話し、限りある今を悲しみで埋め尽くさない生き方を説く。
亡きペットに想いを馳せることはもちろん、尊いことだ。だが、自分の心が悲しみで窒息してしまわないよう、今そばにいる命に目を向けたり、今という時間の過ごし方を考えたりすることも同じくらい大切である。
愛しい存在の死を自然の摂理と受け止め、前を向く那須の長楽寺のご住職、おかみさんとおねえさんご一家。その死生観は、ペットロスによって時が止まってしまった飼い主の背中を優しく押すことだろう。
取材・執筆:古川諭香

真言宗 智山派
那須三十三観音霊場第十二番札所