寝たきりになったらペットは無理、なんてない。 ―将来の選択肢を知る。ペットと入れる老人ホームを訪ねて―
ペットと暮らす50代以上を対象に行った調査*では、いつまでもペットがいる暮らしを望む人が8割近い一方、約2割の人は、ある程度の年齢でペットの飼育終了を検討していると回答した。さらに6割以上の人は自分の死後、残したペットがどうなるのかを案じていることがわかった。
*「ペットと入れる老人ホームに関する意識調査」(2026年/ LIFULL 介護)
「高齢者にとって、ペットがいることは大変大きなメリットだと思います」
そう語るのは、東京都八王子市にある介護付有料老人ホーム「ウェルハイム・八王子」施設長の川口 航平さんだ。同施設では15年ほど前から愛犬・愛猫との入居を受け入れるようになり、2026年8月現在、入居者の約16%が「小さな入居者」と共に暮らしている。
ペットと入れる老人ホームとは、一体どんな場所なのか。また、思うように体が動かなくなったとしても、ペットがそばにいてくれることで、どんな晩年を過ごすことができるのか。新たな将来の選択肢を知るべく、ウェルハイム・八王子を訪ねた。
ウェルハイム・八王子は、全ての居室が南向き。すぐそばを多摩川の支流が通り、窓からはのどかでゆったりとした風景が味わえる。広々としたロビーがある新館と、多目的スペースなどを含む本館があり、合わせて約100名の入居者が暮らしている。
「入居者さんたちのわんちゃんは、朝と夕方の2回、または、朝昼夕方の3回、毎日お散歩に出掛けています」
入居者のお世話をする介護士やヘルパーとは別に、ペット専任のスタッフが全部で5名、毎日2名体制で対応する。自身でペットのお世話を続ける入居者もいるが、年齢や病気などの理由で難しければ、ペットにまつわるさまざまなことをお願いできるようになっている。お散歩は毎日、居室まで迎えに来てくれるので、飼い主は愛犬を送り出し、帰りを待つだけで済む。
ペットと暮らす方は比較的早く、70代のうちに入居を決める方も少なくありません。ご自身もペットも高齢になる将来を考えて、気力も体力もあるうちに「ついの住まい」を決めたいと考えられるようです。
介護付有料老人ホームに暮らす高齢者の介護度は全国平均でおおよそ「3」と言われるなか、ウェルハイム・八王子では28%の人が要支援「1」または「2」と多くを占めている。要支援とは、基本的な日常生活はできるが(掃除や買い物など)部分的な手助けを必要とする状態のこと。また、約10%の人がまだ介護保険を使っていない「自立」の状態にある。
*介護給付費等実態統計(2026年5月/ 厚労省)
「いろんな方がいますので、要介護5や認知症の方もいますし、寝たきりでもペットと暮らしている人もいます」
入居者の介護度は、少しずつ変化する。川口さんたちは、今は自分でペットのお世話をしている人に対しても、普段からペットを含めたコミュニケーションを心掛けている。
「私たちにも慣れておいてもらうことで、いつかお世話をさせてもらうようになった時もスムーズに対応できますから。スタッフとも、できるだけ自分が飼っているのと同じ感覚で接しよう、と話しています」
小さな入居者たち
一般的には、いつ頃どんなきっかけで施設への入居を決めるのかを尋ねると、「多くの場合は少しネガティブな理由になる」と教えてくれた。
「例えば、ケガや病気で入院すると、無事に回復して退院したとしても、もう一人暮らしは難しいとか、自宅での介護は家族の負担が大きいといったことになりやすいんです。おそらく7〜8割の方はそうした理由で施設に入ると思います」
2025年の調査*でも同様の結果が見て取れる。入院を契機にした、比較的、軽介護度のうちに施設への入居を決める傾向が高まっているようだ。
*介護施設入居実態調査 2025(LIFULL 介護)
また、毎日さまざまな入居者の様子を見ている川口さんは、ペットの存在による良い影響を実感していた。
「ペットがいることで気持ちがしっかりしたり、役割を持つことで、自ら時間を決めて動く習慣が維持されやすくなります。認知症にならないように、という意識も高まると思います。あと、体温のある生き物と触れ合っていることで、幸せホルモンであるオキシトシンが出ると聞きますから、たぶん体にも良いんでしょうね」

はじまりは「人助け」。共生のためのルールも
1987年(昭和62)に開業した足立区の「ウェルハイム・東京」に続き、「ウェルハイム・八王子」の開業は1990年(平成2年)。当初は今と違い、ペットと一緒の入居は受け付けていなかった。
動物好きだった当時の社長が、ある時から施設内で犬を飼い始める。入居者の方々にかわいがられ、報道番組の取材も受けるなど、人気の看板犬として話題になっていくマルチーズの「マルコ」ちゃん。そして15年前のある日、マルコの噂を聞いた70代の夫婦から「犬と一緒に入居したい」という問い合わせが入った。
「愛犬と一緒に入れる施設がなくて困っていたそうで、それがきっかけになりました。何か大きな課題意識があったというよりも、人助けのために始めたことのようです」
ペット同伴の入居者が決まったことを契機に、設備やルールがつくられていくことになる。看板犬の座はその後、パンフレットにも登場している2代目・マルコに引き継がれ、さらに2025年12月には、3代目・マルコがやってきた。
愛犬とともに入居した一組目のご夫婦は現在、奥さまひとりとなり、2代目の愛犬と一緒に今も同施設で暮らしている。
ウェルハイム・八王子の看板犬・3代目マルコは元気いっぱい
現在ペットの同伴入居には、基本的な規約が定められている。
「原則的に、抱き抱えることができる大きさのわんちゃんか、ねこちゃんが対象となります。ご入居時にはペットの身元引受人を決めていただき、その上で預託金をお預かりしています。施設内でも、共有スペースではリードをつけるとか、食堂には入れないとか、一部のエレベーターの使用制限といったルールを設けています」
多くの場合、入居者の子どもがペットの身元引受人になるが、なかにはペット信託の団体に申し込み、引受人としている人もいる。
「ご入居時にペットの性格や吠え癖などもお聞きして、隣室の方との相性を考慮し、お部屋を決めています」
また、預託金の他にペットと暮らすためのお金も掛かる。管理費として、散歩がある犬の場合は月々33,000円(税込)、散歩がない犬もしくは猫の場合は月々22,000円(税込)が必要となり、散歩以外に、通院、餌やり、ペットシーツ交換、買い物代行などが含まれる。日々のペットフードや病院、トリミングなどの費用は自己負担となっている。
「でも生き物のことですから、あまりガチガチに規則で固めるよりも、できるだけ柔軟に対応できるようにしています」
施設内には季節を感じるお花がところどころに生けられ、老人ホームでありながら自宅にいるかのような安らぎがある。
ペットがいない入居者は、どのくらい理解してくれるものなのか。川口さんたちは双方にとってストレスがないよう、細やかにフォローしている。
「ペット可の施設と理解して入居しているので、多くの方は一緒にかわいがってくれています。まれに、例えばペットを飼っている方が認知症でルールを忘れてしまい、連れてきちゃいけないところに犬と入ったりすることもあり、それを見つけた入居者と言い争いになったりしないよう、私たちも気を配っています。ふつうのペット可マンションと同じように、お互いに配慮しあえるのが良いと思うんです」
むしろ動物がいることで生まれる入居者同士のコミュニケーションも多い。午後の自由時間には、ペットを連れた人もそうでない人も、同じ空間で一緒に過ごすことを楽しんでいるようだ。
「そうした光景を見ると、ペットのいる良さを感じます。動物がいることで、活気が出るというか、適度なカオスがあるというか。見学に来てくれる方にも良い印象になっていると思います」
川口さん自身も、ウェルハイム・八王子に転職したことで動物に対する考え方が変わったと言う。
「実は子どもの頃、犬に噛まれて以来、どちらかというと苦手意識があったんです。でもここに来て、毎日マルコや入居者さんのペットと触れ合ううちに、愛着が湧くようになりました。今は動物にもいろんな子がいると分かり、性格の違いも個性があっていいなあと思っています」

実感した、大切な存在による力
愛犬のパグと共に入居して6年になる80代の女性は、「犬と一緒に暮らせることが最高に幸せです」と話してくれた。現在は半身に麻痺があるため散歩はスタッフさんにお願いしているが、 家族が訪ねて来た際などは一緒に外へ行く。その時の愛犬の嬉しそうな仕草がたまらなくかわいい、と愛おしそうに教えてくれた。
また、16年前に入居したという80代の女性は「愛犬中心の生活です」と笑顔で語り、「トリミングで半日いないだけでも寂しくなる」と言う。今は散歩こそお願いしているが、ご飯は毎日自分であげていて、通院で帰りが遅くなる時だけスタッフさんに頼んでいる。都合を聞いてもらえてありがたい、と施設に対する感謝を言葉にした。
入居者が飼われているわんちゃん。私のお部屋よ、と言わんばかりの表情
これまでの、ペットと一緒に暮らした入居者で印象に残っている方を尋ねると、川口さんは、ある女性のことを教えてくれた。
「入院中に寝たきりになられて、退院後からうちに入居することになった方でした。入院中、わんちゃんは動物病院に預けられていたそうで、寂しかったのかストレスなのか、私たちが迎えに行った時には毛が抜けてしまって、ご飯もあまり食べていないような状態だったんです。でも退院した女性とここで暮らし始めたら、ご飯を食べるようになって、みるみる元気になりました。女性の方も、病院から聞いていたほどの重度ではなく、病院ではあまり積極的でなかったというリハビリも、うちでは一生懸命に取り組んでいたんです。あの時、好きな存在と一緒に暮らすことはお互いにとって力になるんだと思いました」
これまでの経験から、ペットと入る施設を探す時に重要なのは、「どこまで面倒を見てくれるのかを確認すること」という視点も教えてくれた。
「ペット可とうたいながらも、飼い主が自分で面倒をみることを条件にしている施設もあるんです。その場合、高齢や認知症になった際、面倒が見れないならペットを手放すか、あるいは一緒に退去しないといけなくなってしまう。それだけは絶対避けた方がいいと思うので、初めに確認する必要があります」
本館5階からは、八王子花火大会をみんなで鑑賞することも
ペットを介して築く、家族のような信頼関係
ペットを残して入居者が逝去した際、引受人への譲渡はスムーズなのだろうか。
「一度だけ、亡くなった入居者の息子さんがどうしても引き取れなくなったことがありました。他の人を探すと言うので、管理費をお預かりしながらうちで面倒を見ていたんですが、3か月経っても見つけられず、お部屋に残されたわんちゃんがかわいそうで……でも保健所に連れて行くことは絶対にしたくないので、なんとか里親を見つけようと思っていました。最終的にはうちの職員が引き取ることになったので、良かったです」
川口さんは、ペットも受け入れる施設として大事なことは、飼い主である入居者と施設側との信頼関係にあると考えている。
「例えば認知症の方のなかには、私たちに対して『うちの子にご飯をあげてくれない』とか『1回も散歩に連れて行ってくれない』と何度も怒ってくる人もいます。もちろん毎日スタッフが対応してるんですけど、わからなくなってしまうんです。また、犬にあげてはいけない人間のご飯をあげてしまう人や、ご飯をあげたことを忘れて何度もあげてしまう人もいます。苦しくても毎回食べるわんちゃんを見るのもつらいです」
【9/16開催|イベントのご案内】
ペットとよりよく生きるための終活セミナーを開催します。LIFULL介護編集長の小菅秀樹が、ペット可老人ホームの最新状況やシニアの住まい探しポイントを紹介します。ご都合がつく方はぜひ半蔵門にお越しください。詳細はPeatixの募集ページをご確認ください。

高齢者が最後までペットと一緒に暮らせることを支えるサービスは、この社会にもっと増える方がいいと思っています。
取材・執筆:やなぎさわまどか
撮影:森本絢
介護付有料老人ホーム「ウェルハイム・八王子」施設長。介護福祉士。同施設は株式会社クリエイトSDホールディングスのグループ企業であるウェルライフ株式会社が運営する有料老人ホーム。「ついの暮らしの不安を安心に」をモットーに掲げ、ペットと一緒に入居ができる「ウェルハイム・東京」(受け入れはネコちゃんのみ。1986年開業)、「ウェルハイム・八王子」(ワンちゃん及びネコちゃん。1990年開業)共に、豊富な実績と手厚い介護体制を誇る。見学や体験宿泊も受付中。
https://welllife.co.jp/