結婚したら女性は名字を変えなきゃ、なんてない。

石井リナ

「日本の女性をエンパワーメントする」というミッションを胸に活動する石井リナさん。社会課題からセックスまでさまざまなテーマで発信をする動画メディアBLAST(ブラスト)を立ち上げ、現在はフェムテックブランドNagi(ナギ)の展開に勤しんでいる。そんな石井さんだが、パートナーとの結婚には「痛み」が伴った。日本ではいまだ実現していない、姓の選択の自由について葛藤する一人の女性の思いにせまる。

日本の男性が、結婚時に改姓する確率は4%(※1)。この数字を、あなたはどう捉えるだろう。民法750条で「夫婦は同姓となる」ことが義務付けられているこの国では、個人が結婚前の名字を保持するには、初めから事実婚を選ぶか、離婚して旧姓に戻るしかない。そんな制度には不満の声が上がっており、橋本男女共同参画担当大臣も「選択的夫婦別姓を男女基本計画に盛り込む」など前向きな発言をしてはいたものの、実際の法整備はなかなか進んでいない状態だ。
1年前に結婚した石井リナさんも、「夫婦同姓」の制度に納得がいかず、これまで何度もパートナーと話し合いを重ねてきた。より多くの女性が、自分らしい生き方を選択できる社会にするためにはどうしたらいいのか。石井さんが抱えているモヤモヤも含め、現在の等身大の心の内を伺った。
※1 厚生労働省 出生の年次推移 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/konin16/dl/gaikyo.pdf

私にとって名前は
アイデンティティ

現在、社会で起こっているさまざまなジェンダーの問題に真正面から向き合い、自ら立ち上げた事業や、メディア発信を通じて日本の女性をエンパワーしている石井さん。実は社会人になるまで、ジェンダーに関する格差や差別を日常的に気付くことは少なかったという。

「私が生まれ育った家庭では、比較的時間に融通がきいた父が、料理も含めた家事の8割を担っていました。小さい頃から、女だから何かをしなさい、女だから何をしちゃダメだ、と言われることもなく、ジェンダーバイアスに触れずに生活をしてこれていたと思います。今考えれば、小さい頃から触れていたメディアや、広告からのバイアスはかかっていたと思いますが。

就職活動中にも、女性だけ制服が決められているような職業があったり、先進的だといわれるIT企業でも経営層が男性ばかりだったりすることに気付いてはいました。でも当時は、その違和感とジェンダー格差(ジェンダーギャップ)の問題が結びつかなかったのです」

フェミニズムに出合い、会社員を辞めて行動を起こした

そんな石井さんがフェミニズムに出合ったのは、2016年頃勤めていた会社でSNSマーケティングに従事し、世界の潮流を追い始めてからだ。#MeeTooをはじめ、さまざまな著名人が女性の尊厳と権利のために声をあげ、SNS上でフェミニズムに関する運動が盛んになりつつあった時である。

日本のジェンダーギャップ指数の順位が下から数えた方が早いことを知り(※2)、女性をエンパワーメントするためのコミュニティやメディアが必要だと考え、BLAST.Incを立ち上げた。SNSメディアのBLASTでは、「モテ」を扱わず、これまであまり語られてこなかった女性特有の病気や、多様なパートナーシップ、セクシュアリティなど社会的な話題をフラットに発信していった。

また、150人の女性のリアルな声をもとに、2020年にはフェムテックのブランドNagiも立ち上げた。プロダクト第1弾として発売された、紙ナプキンなどの代わりに1枚でもはける吸水ショーツは大人気で、「これまで憂鬱だった生理が初めて楽しみになった」という声も寄せられている。

事業の立ち上げをしている最中の2019年、石井さんは抽象写真家のパートナーと結婚した。

※2 世界経済フォーラムが発表。2016年度の日本の順位は、144か国中111位であった。

同姓にすることを選んだものの、やっぱり納得できない

「私たちは法律婚をして、夫の姓を選びました。事実婚も考えましたが、今の日本の法律では、子供が生まれたときに姓が違うと共同親権を持てないので。どちらの姓にするのかという話では、夫自身は姓を変えてもいいと言ってくれていたんですが、夫の家族のことを考えたうえで、最終的に私が譲る形になりました。戸籍筆頭者を夫にする代わりに、世帯主は私にしています。ただ、正直今でも夫の姓で呼ばれることにしっくりきていないし、納得できていないですね」

結婚から1年がたっても、いまだ納得ができないと語る石井さん。そこにはある思いがあった。

「やっぱり、別姓を選びたかったですね。家父長制を象徴する戸籍制度に取り入れられるのも嫌ですし、名前一つでこんなに抵抗を受ける現状も……。自分の姓を選びたいと思って生きているだけで、なんでこんなに傷つけられるんだろうと思います。実際、夫婦の同姓が決まったのは明治の民法改正時だし、日本の伝統でもない。今でも外国籍の方と結婚したら夫婦別姓にできるわけで、日本国籍同士だとできないのはなぜ?と矛盾を感じています。

先祖代々の名前を受け継ぎたいとかではなく、名字を含む名前は自分にとってアイデンティティでもあります。今の若い子たちと話していて、何度か『えっ夫婦別姓できないんですか?』と聞かれました。現代の価値観を持った若い子たちの中には、自分の姓は当然選べるものだと思っている人もいます」

石井さんは現在、戸籍上の姓は変わっているものの、生活するうえで最低限変更が必要な身分証明書以外は、まだ変更の手続きをしていないという。そんな石井さんに対し、パートナーの方は、どのように考えているのだろうか。

「夫は、結婚やジェンダーの役割についてフラットで、とても向き合ってくれています。この間もペーパー離婚(書類上の離婚)について検討していることをこぼすと、彼も『別姓について話したほうがいいと思っていた』と。やはり日本の現状に納得していないので、法律婚をやめて、事実婚にしてもいいよね、と話しているところです」

良好なパートナーシップに重要な「自立」

政治や経済面など、大きな意思決定の場への参加機会の欠如、緊急避妊ピルの薬局販売への反対、性的合意の年齢の引き上げに関する議論、もっと小さなところで言えば、高級志向のお店に入れば「ご主人様」「奥様」と呼ばれること。日常の中で、女性が不平等を感じる場面はまだまだある。

より多くの人が「夫婦別姓」も含めた自分らしい生き方を選択し、パートナーとお互いを尊重し合うために、今の日本には何が必要なのだろうか。

「他人のことに干渉しすぎず、もっと寛容な社会になったらと思います。姓の選択だけじゃなくて、同性婚や、そもそも結婚しないという選択、パートナーが複数いる恋愛、人の性自認・性的指向もそうですよね。

パートナーとの関係性で言えば、経済的にも精神的にも『自立』することがすごく大切だと思います。たとえば、女性が経済的に自立することで、自分のライフプランを自由に選択できるようになります。ただ、今の日本はジェンダーギャップが大きくあり、賃金格差や育児にまつわる社会通念もあるので、女性たちの努力だけで報われない社会構造が根底にあります。なのでそれを変えられるよう、声を上げ続け社会に働きかける必要もあります」

日本の現状を知り、結婚時には「姓」の選択ができないという壁に直面しながら、今も女性のために声をあげて行動し続ける。そんな石井リナさんが、伝えたいメッセージとは。

日本に構造的な性差別があるとしても、私たち個人がステレオタイプに加担しないことはできます。自分で意識して、選べるんです。女性らしさも、男性らしさ、母親らしさなど、「らしさ」を他人に押し付けるのをやめる。それが女性を、そして男性をも含めた多くの人を解放することになると思うから。

編集協力:「IDEAS FOR GOOD」(https://ideasforgood.jp/)IDEAS FOR GOODは、世界がもっと素敵になるソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジンです。
海外の最先端のテクノロジーやデザイン、広告、マーケティング、CSRなど幅広い分野のニュースやイノベーション事例をお届けします。

石井リナ
Profile 石井リナ

1990年9月9日生まれ。2018年に起業し、BLAST Inc.を創業。エンパワーメントメディア「BLAST」とフェムテックブランド「Nagi」の立ち上げ、運営を行う。2019年に日本を代表するビジョンや才能を持った30歳未満の30人を表彰する「Forbes 30 Under 30」インフルエンサー部門を受賞。
新卒でIT系広告代理店に入社し、企業に対するデジタルマーケティング支援に従事。共著に「できる100の新法則 Instagramマーケティング」があり、雑誌ケトルやForbes、朝日新聞デジタル&Mなどで連載を持つ。

STORIES 2021/01/28 結婚したら女性は名字を変えなきゃ、なんてない。