女性が活躍する社会を実現するには? 女性活躍は多様性を生かす試金石

日本の女性の就業率は、2016年時点で約7割です。労働力人口の減少もあり、女性活躍の推進は日本社会の喫緊の課題と言えるでしょう。女性が活躍する社会実現のために、ダイバーシティ経営が注目を集めています。ダイバーシティ経営とは何か、女性が活躍する社会にするための企業の取り組み、子育てと仕事を両立させながら活躍する働く女性たちの事例などを紹介します。

この記事では以下4点について見ていきます。

  • 女性が活躍する社会とは?
  • ダイバーシティ経営と女性活躍における社会課題
  • 国の認定制度を活用し、具体的なアクションへ
  • 企業が取り組むダイバーシティ・女性活躍推進の事例

女性が活躍する社会とは?

2016年4月に、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下、女性活躍推進法)」が施行されました。

この法律の概要は以下の通りです。

自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分に発揮されることが一層重要。このため、以下を基本原則として、女性の職業生活における活躍を推進し、豊かで活力ある社会の実現を図る。

  • 女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供及びその活用と、性別による固定的役割分担等を反映した職場慣行が及ぼす影響への配慮が行われること
  • 職業生活と家庭生活との両立を図るために必要な環境の整備により、職業生活と
  • 家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能にすること
  • 女性の職業生活と家庭生活との両立に関し、本人の意思が尊重されるべきこと

引用:厚生労働省 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要
女性が活躍しにくい理由の一つに、出産・育児と仕事とのバランスが取りにくいという大きな課題があります。女性が活躍するには出産・育児と仕事のバランスが取りやすくなるように、企業の制度を整えていく必要があるのです。こうした課題から女性の活躍を推進する上で、企業では「ダイバーシティ経営」が実践されてきました。
女性活躍推進はダイバーシティ経営の実践がゴールではなく、ダイバーシティ経営の実践により、「実際に女性が働きやすい・活躍できる職場環境」をつくり上げることがゴールと言えます。

一方で、2017年に株式会社かんでんCSフォーラムが実施した調査では、女性活躍推進に対して否定的な意見もあります。この調査による女性の回答では、「活躍しなければいけないと義務のように聞こえ、若干プレッシャーに感じます」という意見や「女性は、産んで育てて働け!と言われているよう。子育てに専念したい女性にとっては、厄介な風潮」という意見が見られました。
男性からは「男だ女だではなく平等に。男女関係なく能力ある者、やる気のある者が評価される社会を望みます」「まず、子育て、家事を『男性活躍推進』として社会が認めないといけないのでは?」といった意見が見られます。

こうした意見から、女性活躍推進には性別にとらわれない働き方ができるようにすることが求められていると言えるでしょう。単に、「女性に対して今以上に職場での活躍を求める」だけでなく、男性も子育てや家事に取り組みやすい環境をつくることが求められています。

多様な視点で社会課題を捉え未来を考えるメディア「MUSHING UP」編集長の遠藤祐子さんは、インタビューで「女性が輝くとか活躍するとかでなく、それぞれの良い生き方ができることのほうが良いことだと思う」と語っています。

ダイバーシティ経営と女性活躍における社会課題


経済産業省では、ダイバーシティ経営を “多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営”と定義しています。

しかし、女性活躍を推進する手法の一つである「ダイバーシティ経営」を実現するには、企業でもさまざまな課題があるのが現状です。その中でも、次の3つが優先度の高い課題として挙げられます。

  • 仕事とプライベートのバランス
  • 出産・育児のサポート環境
  • 女性管理職のモデルが少ない

課題1:仕事とプライベートのバランス

日本国内では、成果を出す人よりも長時間働く人を評価する風土が根付いている企業もあります。このような企業では、定時後なのに帰りにくい雰囲気がムダな残業を生み出し、ダラダラと働く社員も少なくありません。こうしたことから、女性も男性も仕事とプライベートの両立が難しい企業も少なくありません。長時間労働を改善するために、残業時間の上限が設けられるなどの取り組みが進められています。

その一方で、労働時間以外の働く環境の見直しも求められてきました。

例えば、近年取り組む企業が増えた「テレワーク導入」や「時短勤務」などの勤務形態や福利厚生の見直しも、労働者の仕事とプライベートのバランスを図るための対策の一つです。

課題2:出産・育児のサポート環境

従来 は育児・介護休業法が改正された2009年以前は、育児休業の制度はあっても男性は取得しにくい風潮があることや、企業のサポート体制も整っているとは言えなかったため、女性の退職理由の半数近くは「出産」や「育児」でした。2009年の法改正によって生まれた「パパ・ママ育休プラス」によって、男性も育児休業を取得しやすくなりました。2009年で男性の育児休業取得率が1.72%だったのが、2018年では6.16%と約4倍にまでなったのです。男性も育児休業を取得しやすくなったことで、出産・育児を夫婦で協力しやすくなりました。徐々にではありますが、働きやすい社会になってきたと言えます。

企業でも、育児・子育てのサポートのためにさまざまな取り組みを行っています。具体的には、「育児休業復帰後の勤務形態を選択できる制度」「育児休業中の社内報や近況の送付によるコミュニケーション」「授業参観など学校行事参加の応援」「コアタイムを設けた短時間勤務制度」などの取り組みを行っている企業があります。

企業によってアイデアはさまざまで2021年時点では、出産・育児と仕事のバランスが取りやすい環境が整いつつあります。

課題3:女性管理職のモデルが少ない

株式会社帝国データバンクの調査によると、2021年7月の調査で女性の管理職の割合は、平均8.9%でした。政府は女性管理職の割合を2020年代で30%とする目標を掲げています。本来は2020年までとしていた目標でしたが、実現には至らず厳しい現状が見られました。

女性管理職が少ない理由として以下の4つが挙げられます。

①管理職候補となる「総合職」「基幹職」の採用人数が少ない
②就業継続していない
③教育・機会損失がある
④女性の多くが管理職になることを希望していない

①管理職候補となる「総合職」「基幹職」の採用人数が少ない

企業には、管理職候補となる人材を採用する「総合職」「基幹職」という職種と、管理職候補にはならない「一般採用」があります。このうち「総合職」は、2009年の厚生労働省の調査では女性の割合が9.2%、男性の割合が90.8%と大きな開きがあります。また採用だけでなく、総合職や基幹職を希望する女性も少ないのが現状です。

②就業継続していない

総合職や基幹職で採用した女性は、出産を機に離職する人が多く、10年でおよそ65%の女性が離職しているのです。管理職となるまでの平均年数は、中小企業・大企業とも15年目以上であり、管理職になるまで就業を継続できていない状況がうかがえます。これには、仕事と育児とのバランスが取りにくい風土が理由として考えられています。

③教育・機会損失がある

男性と女性で教育訓練や任される仕事に差のあるケースがあります。同じ職位でも、女性が定型業務や支援する役割の仕事を任され、男性は責任もあり難易度の高い仕事を任されるといったことです。

④女性の多くが管理職になることを希望していない

女性は男性に比べて昇進意欲が低い傾向にあります。その理由の一つに「自己評価が低く、管理職に対して強い不安を抱いているから」があります。2015年4月に三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が発表した「女性管理職の育成・登用に関する調査」によると、女性(非管理職)は、管理職に求められる要件レベルを男性より高く想定している一方、男性よりも自己評価が低いことがわかっています。

国の認定制度を活用し、具体的なアクションへ

女性活躍推進を実現するためには、企業の風土改革や男性・女性問わず、社員一人一人の仕事・育児・出産に対する意識改革が求められています。ジェンダーにかかわらず、社員一人一人が自らのキャリア意識を高め、能力を発揮できる人材育成や環境づくりが必要です。また、ワークライフバランスを考慮した多様な働き方への対応、仕事と育児の両立を可能にする制度による支援といった取り組みも不可欠でしょう。

女性の雇用環境を整備し認可を受けることで、「女性に対するサポートが整っている企業」だとアピールできる認定制度があります。ここからは、具体的な認定・選定制度を4種類紹介します。

くるみん認定について

子育てサポート企業として認定されると取得できるのが、「くるみん認定」です。認定基準をクリアしていれば「子育てサポート企業」の認定と「くるみんマーク」が付与されます。付与された「くるみんマーク」は、ホームページや広告などに表示が可能です。さらに高い基準を満たすと「プラチナくるみん認定」への申請もできます。

えるぼし認定について

出典:厚生労働省 女性活躍推進企業認定「えるぼし・プラチナえるぼし認定」
「えるぼし認定」は、女性の活躍推進活動の状況などが優良な場合に認定されるものです。えるぼし認定は以下の評価項目を満たすことで申請できます。

  • 女性労働者の競争倍率・女性労働者の雇用割合
  • 女性労働者の平均継続勤務年数・雇用割合
  • 長時間労働となっていないか
  • 女性管理職比率
  • 多様なキャリアコース

これらの項目を基準以上でクリアしている数と、女性の活躍推進企業データベースに毎年公表することで、段階ごとのえるぼし認定が取得できます。そして、全ての評価項目をより高い基準で満たしていることに加えて、独自の要件を満たしていると「プラチナえるぼし」が与えられます。

 

なでしこ銘柄について

出典:経済産業省 女性活躍に優れた上場企業を選定「なでしこ銘柄」

女性活躍推進に優れた企業を、経済産業省と株式会社東京証券取引所が共同で選定するのが「なでしこ銘柄」です。なでしこ銘柄の選定条件は、上場していることに加え、女性活躍度調査の基準をクリアする必要があるなど、厳しいものになっています。しかし選定されれば強いアピール方法となり、投資家からの注目も集められるでしょう。
これらの認定・選定はそれぞれに証明できるマークが付与されます。働きたい女性に対しても、社会的にも高い企業価値をアピールできます。

認定・選定制度は、あくまでも女性活躍実現へのスピードを加速する手段の一つです。固定化した価値観やジェンダー役割などを無意識に決めつけてしまうのを防ぐためには、あらゆる面での意識改革を忘れてはいけません。

例えば、「家事育児は妻の仕事で、夫は仕事一筋」という価値観は、女性の活躍を阻害するだけでなく、男性の育児機会の喪失にもつながります。男性の働き方を見直し、女性・男性共に活躍できるダイバーシティ経営を実現することが、企業価値の向上に直結すると言えるでしょう。ビジネスニュースサイト「Business Insider Japan」統括編集長の浜田敬子さんは、男女共に意識を変えないと、ジェンダー役割などの既成概念は取り払えないというメッセージを発信しています。

企業が取り組むダイバーシティ・女性活躍推進の事例

すでに多くの企業が女性活躍推進法に基づく行動計画を策定し、ダイバーシティ経営に意欲的に取り組んでいます。ここでは、3社の事例を紹介します。

大王製紙の取り組み

大手製紙メーカーである大王製紙株式会社は、ダイバーシティ経営推進の専門委員会を設立し、女性活躍推進・育児支援などの施策を実行しています。

具体的には、育児休業復帰からのキャリアアップを目指せる環境を提供するため、復職前面談を実施しています。さらに、育児支援として子どもが小学3年生の学年末を迎えるまでベビーシッター補助制度、時短勤務を認めています。また、上司とのキャリア面談や外部研修会社への派遣も実施しています。

朝倉染布の取り組み

スポーツウエアや合成繊維の染色加工業務を行う朝倉染布株式会社は、女性社員が活躍できるよう、積極的に職場環境の見直しを行っています。男性ばかりの生産現場に女性社員を配置するため、布製品を運搬する電気自動車を導入するなどして、男女の体力差をカバーする対策を実施してきました。現場の女性リーダー育成にも力を入れ、女性のキャリアアップのための研修制度も整えています。

ソリマチ技研の取り組み

新潟に本社がある情報通信・ソフトウェア開発の株式会社ソリマチ技研には、創業当時より「女性だから」という偏見を持たず、男女の区分けをしないという風土が根付いていました。年齢や性別問わず平等にチャンスを与え、社員一人一人の「やりたい!」を尊重する企業です。
ソリマチ技研の女性活性化プロジェクト「ソリパスプロジェクト」には、15社からなるグループの女性社員が参加しています。企業成長を見据えた新たなビジネスや、多様な働き方でも継続可能な事業を企画・提案します。プロジェクト参加を通じて、メンバーの成長も目標に掲げており、ビジネス開発と人材教育の両面を兼ね備えた取り組みです。

女性活躍推進の実現において、「育児」と「仕事」の両立は課題が多いと認識されています。しかし、実現が難しいと諦めず、問題の解決にまい進する人たちによって、「育児もこなしながら働きたい」という女性のニーズに応えるサービスや取り組みが生まれています。自分らしさを大切にし、それぞれのステージで活躍する女性の記事はこちらをご覧ください。


まとめ


女性活躍推進の一環として注目されるダイバーシティ経営。企業のダイバーシティ経営を推し進めるため、国は認定制度なども設けています。
多様性のある企業を目指すためには、性別や年齢、人種、宗教、価値観など、一人一人のパーソナリティーだけでなく、キャリアプランや経験値、希望する働き方なども捉える必要があります。女性活躍推進においても、ジェンダーの側面に限らず、すべての人が自分らしく輝けるよう、経営陣や現場のメンバー含め、一丸となって取り組んでいくことが求められています。

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