高齢者がインストラクターになるのは無理、なんてない。
87歳で日本最高齢のフィットネスインストラクターとなった「タキミカ」「筋肉ばあば」こと瀧島未香さん。90歳を迎えた今も現役インストラクターとして「タキミカ体操」のレッスンを行う。LIFULL企業CM、雑誌、テレビ番組と活躍の場を広げ、日本中に元気を届ける瀧島さんだが、トレーニングを始めたのはなんと65歳の頃。それまで運動らしいことはまったくの未経験だったというから驚きだ。
日本の平均寿命は年々伸長している。2017年の調査時点で男性は81.09歳、女性は87.26歳。2065年には男性84.95歳、女性91.35歳となる見通しだ。そんな未来を見据え、「どうせ長生きするならいつまでも生き生きと活動したい」と願う人は少なくないだろう。年齢を重ねてもなお新たな挑戦を続ける瀧島さんは、まさに人生100年時代を象徴する存在。自分らしく輝く彼女に、フィットネスとの出合いや美しい体を保ち続ける秘訣、今後の展望について聞いた。
年齢なんてただの数字。
人は何歳からでも変われるんです
24歳で結婚し、2人の子どもをもうけた瀧島さん。専業主婦として家事育児に専念してきたが、子どもたちが独立すると「何もすることがなかった」という。
「夫と2人きりになっちゃったら、洗い物も洗濯物も一気に少なくなって、時間に余裕ができますでしょ。そしたらもう、やることは買い物に出るくらい。毎日テレビを見て、お菓子を食べて、お茶を飲んでゴロゴロ。老後はどう過ごそうなんて考えたこともなくて、のほほんとしていましたね」
そうした生活を続けていたところ、夫や子どもたちから「最近太ったんじゃないの?」と指摘されるように。長年144㎝42㎏のスリム体型をキープしていたが、いつのまにか体重は15㎏増えていた。
「自分ではそんなに太ったと思っていなかったけれど、昔のズボンをはいてみるとわかるんですね。お腹がきつくって、太ももの部分も上がらなくて……。それで元の体に戻したくなって、ジムに行ってみようかしらって」
ご主人が探してくれたジムの1日体験に参加したところ、参加者が楽しそうに踊っている様子に心惹かれた。翌日には入会し、ジムのトレーナーに「痩せたい」と告げる。
「先生は『急いで痩せると太っていた時の皮が残りますけど、時間をかけて痩せていくと綺麗になります』っておっしゃったの。『なら、私は時間をかけるので結構です』って答えて、ちょっとずつ運動しながら痩せていきました。だから、元の綺麗な体になるには4~5年かかりましたね。体が元に戻った時はとっても嬉しかったですよ」
フィットネス未経験、高齢でのスタートだったが、スリムな体型を取り戻すのに見事成功。通っているジムにたくさんの友達ができ、できることも増えていった頃には、すっかりフィットネスの世界にのめり込んでいたという。
運動は毎日5時間。努力するたび自分の体を好きになれる
体型が元に戻ると、次は「もっと綺麗な体にしよう」「こんな体になりたい」と思うように。運動を始めて10数年経った頃には筋肉量も増えていたが、「全身のバランスが悪くてヨガのポーズをうまく取れない」という新たな悩みも湧いてきた。
「どうすればバランスのいい体になるかしらと思っていた頃に、昔ジム通いを始めた頃にお世話になっていた、インストラクターの中沢智治先生と再会したんです。お話ししたら独立してパーソナルジムを始められたとのことだったので、先生のレッスンを受けて体づくりをすることにしました。それが79歳の時ですね。
パーソナルトレーニングを受けて体幹を鍛えたら、ついにバランスのいい体を手に入れることができました。そうしたら、今度は先生みたいな逆三角形の体にしたいという新たな目標ができて。次はへそピアスが似合いそうな綺麗なお腹。その次は桃のようなプリッとしたお尻。ひとつずつ目標を達成していくごとに、どんどん自分の体を好きになりましたね」
パーソナルトレーニングで手に入れたメリハリのある体型に、しゃきっとした姿勢。背骨、肩甲骨、股関節の動きをなめらかにする体操で、体のゆがみも直した。ただ痩せるだけでなく、健康的で丈夫な体を作ることができ、ますます運動の魅力に引き込まれていった。90歳の今も、これまでの努力で作り上げた体を保つべく、昼夜トレーニングに励んでいる。
「今は1日5時間くらい運動しているかしら。朝は3時半に起きて、4時から2時間ウォーキングとジョギングをして、家のことを全部片づけて。午後からは筋トレ、チューブを使ったトレーニング、スクワット、体操などいろいろやります。
それからまた家事をして、夜も少しトレーニングをして、お風呂へ入って出てきたらストレッチで体をしっかりほぐして。こんな感じで、ほとんど毎日運動しています。習慣になっているから、やらないとなんだか変な感じがしちゃうのよ。
『5時間も運動してクタクタにならないんですか?』って聞かれたりするけど、私はかえって元気になるんです。毎日ゴロゴロしていた昔の私が今の私を見たら、びっくりどころの話ではないわね(笑)」
87歳、日本最高齢でのインストラクターデビュー
フィットネスインストラクターになったのは87歳の頃。中沢さんのグループレッスンを受けようと思っていたところ、突然「今日はみんなの前で体操をしてもらいたい」と言われたのがきっかけだった。
思いもよらぬ提案に驚き、何度か断ったが、中沢さんの「できないところはサポートするから大丈夫だよ」という言葉に背中を押される。マイクをつけ、大勢の生徒の前に立ち、45分間のレッスンをやり切った。
「そりゃあ緊張しましたよ。でも、皆さん楽しそうについてきてくださるし、やっているうちに楽しさの方が勝ってきちゃって。終わったあとも生徒さんがすごく喜んでくださって、『楽しかったです! 次はいつ来てくれますか?』なんておっしゃるから嬉しくて嬉しくて。
いつまでも体操を続けて元気でいられればいいとは思っていたけれど、まさか自分がインストラクターになるなんて考えたこともなかったのよ。でも、生徒さんの喜ぶ顔を見たらもっとやってみたいと思うようになって、続けることにしました」
自身が積み重ねてきたトレーニングをもとに、中沢さんとも相談しながら「タキミカ体操」を考案。肩甲骨や股関節、足首などをなめらかにし、筋肉をつける独自の体操で、「100歳まで力強く年を重ねていく」をテーマに掲げた。
2018年からスタートしたレッスンは大人気に。現在は新型コロナウィルスの影響により、月に1回から2回、パソコンを使ったオンラインレッスンを行っている。全国に生徒を抱えており、年齢層も20代から80代と幅広い。
「初心者向け、中級者向け、上級者向けと、それぞれの人の生活や年齢に合わせたレッスンを用意していて、初めて体操をやる方からインストラクターの方にまで受けていただいています。
最近はYouTubeを見たドイツの方からオファーが来まして、通訳付きでドイツの皆さんにタキミカ体操を教えているんです。あとは、小さいお子さんで『タキミカのファン』と言ってくれる子も増えていますね」
頑張れない日があっても、諦めず続ければ自分は変わる
毎日の運動で健康的な体を維持し、元気なまま100歳を迎えるのが目標だという瀧島さん。90歳という高齢をものともせず、たゆまぬ努力を続けるモチベーションはどこにあるのだろうか。
「毎日の運動をやめてしまえば、せっかくつけた筋肉が落ちちゃうし、綺麗な姿勢も崩れちゃうし、プリッとしたお尻だって下がってしまうでしょ。一度こういう体ができるとね、崩すのがもったいないと思えるのよ。努力で手に入れた体が崩れていっちゃうなんて、私泣いちゃう(笑)。頑張ればそれを保てるんだから、運動が苦しいだなんて思いません」
こうした瀧島さんの前向きさに感化される人は多いが、万人が彼女のようにパワフルなわけでも、根気があるわけでもない。何かに挑戦してみたはいいが、途中で苦しくなってしまうこともあるだろう。そんな人に対しても「諦めないで続ければ大丈夫」とエールを送る。
「何に挑戦するにも、大切なのは少しずつやることですね。無理して100回やろうとしても、やりたくない時もありますでしょ。そういう時に無理するともう嫌だ、やめようってなっちゃう。それが一番良くないんですよ。
例えば『今日はジムに行きたくないな』と思ったら、お休みにしちゃっていいのよ。ジムのお友達と会話して、お風呂に入って帰ってくるだけの日があったっていいじゃないですか。
でも、ちょっとでもやってみようかって気持ちになった時は、ぜひやってね。そうやって少しずつ少しずつ、無理せず自分がやりたい範囲内でやればいいの。ただ、諦めないでくださいね。
人からどう思われるかなんて、気にしなくていい。私だって最初は恥ずかしい気持ちもあって『インストラクターになった』と家族や友達に言えなかったけれど、精いっぱい続けていたら、今はみんな応援してくれるようになりました。『私は私。今日はここまで。でも、諦めずに続ければなんとかなる』って信じられたらそれでいいんです。『○○だからできない』なんて決めつけないで。頑張って続けていれば、自分ってだんだん変わっていきますから」
1931年生まれ。65歳からフィットネスの世界に足を踏み入れ、79歳でパーソナルトレーニングをスタート。87歳の頃、フィットネスインストラクターに就任。現在は日本最高齢のフィットネインストラクターとして「タキミカ体操」のオンラインレッスンを行うかたわら、LIFULL企業CMほか様々なメディアで活躍中。
タキミカ公式チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC7MyPlf3MBui90M-Eoy2RVg
Instagram @takimika_poweraging
Twitter @power_aging_inc
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