エシカル消費はわくわくしない、なんてない。
東京・代官山で、エシカル、サステイナブル、ヴィーガンをコンセプトにしたセレクトショップ「style table DAIKANYAMA」を運営する三上結香さん。大学時代に「世界学生環境サミットin京都」の実行委員を務め、その後アルゼンチンに1年間留学。環境問題に興味を持ったことや、社会貢献したいという思いを抱いた経験をもとに、「エシカル消費」を世の中に提案し続けている。今なお根強く残る使い捨て消費の社会において、どう地球規模課題と向き合っていくのか。エシカルを身近なものにしようと活動を続ける三上さんに、思いを伺った。
近年よく耳にするようになった「エシカル消費」。エシカルとは「倫理的な」という意味を持ち、消費者それぞれが、社会的課題を考えたり、そうした課題に取り組む事業者を応援したりしながら消費活動を行うことを指す。昔とは違う生産者と消費者、互いの顔が見えない現代においても、私たちが、何を食べるか、何を着るかという“選択”によって生産者や地球環境に影響を与え続けているのだ。ただ現状として、「エシカル消費」の意味をきちんと答えられる人や、実行している人はそう多くない。その背景には「なんだか難しそう」というイメージや「具体的にどうしたらいいかわからない」という戸惑いがあるのではないか。
三上さんが目指すのは、「欲しいと思って買ったものが、結果的に地球に優しい商品だった」。そして、「わざわざ選んだり探しに行ったりしなくてもエシカルが当たり前」という世の中になること。環境問題のハードルを下げて身近なものにしたいという三上さんの、「エシカルの世界観」とは。
「かわいい」と「地球に優しい」の両立は可能
コスメに食品、日用品。三上さんの経営する「style table DAIKANYAMA」(代官山本店)には、客の心をくすぐるかわいらしいデザインの商品がセンス良く並べられている。
「自分の健康にも良くて、プレゼントしたときにはその誰かの健康にも良くて、さらには地球の健康にも良いというものを取りそろえています。ただ健康に良いだけでなく、女子がキュンキュンするようなかわいい商品を置いているのが特徴です。『かわいいな』と思って買ったら、結果的に健康や環境にも良いというものがすごく好き。そういった形でエシカルな消費活動を提案させていただいています。
私自身、ショッピングが好きなんですよ。でも、“エシカルなものっていいんだろうな”とか“環境のことを考えないといけないんだろうな”と思いつつも、めちゃくちゃ高い服やセンスの悪いものを買えるかといったら買えないですよね。『本当に“いいな、かわいいな、欲しいな”と感じたものが結果的にエシカルだった』というほうが、より多くのお客さまに手に取っていただきやすいんじゃないかなと思っています。例えば、スターバックスのマグカップとかタンブラーが好きで持ち歩いている人っていますよね。それは見た目がかわいいから買うと思うんですが、結果的に紙コップの消費を減らすことにつながっている。こんなふうに、入り口はハードルが低いほうがいいなと思っていますね」
服をリサイクルに出してみる、大切な人へのプレゼントとしてエシカル商品に触れてみる……。エシカルとは、決して意識が高い人だけの価値観ではないのだ。
今の三上さんの原点は、同志社大学3年生のとき。「世界学生環境サミットin京都」の実行委員を務めたことがきっかけだった。
「世界11カ国の大学生が集まって環境問題について話し合い、2008年に行われた洞爺湖サミットに学生意見書を提出するというもの。私は広報部の部長だったので、協賛企業の獲得に走ったり、プレスリリースを配信したりしていました。半年間くらいろくに睡眠時間も取れなかったですけど、貴重な経験でしたね。それまでは、なんとなく授業を受けて、アルバイトをして、遊んで……という普通の大学生活を送っていましたから。そんな自分が環境問題に関心を持っただけでなく、それに取り組む学生たちの意識の高さにも圧倒されました。“こんなにすごい大学生がいるんだ!”という刺激を受けて、サミットが終わった翌年から1年間、アルゼンチンに留学しました。
アルゼンチンでは、大学で政治経済を学ぶ傍ら、貧困問題に取り組むボランティアをしていました。中学生くらいの年齢で子どもを産んだお母さんが集まる場に行ったこともありました。それまでも海外が好きだったし、将来は外交官になって社会貢献をしたいという思いがありましたが、“自分の生きてきた世界ってこんなに狭かったんだ”と気づかされるきっかけにもなりました。自分が大きな仕事に就いたとしても、果たして世界のどれだけの人に届くのか。かといって現地ボランティアでは、その場だけになってしまう気がする。だったら、“経済を通して社会貢献しよう”と思い、日本に帰ってきました」
会社の目標ではなく、人生の目標を
帰国後、第一志望のNTTコミュニケーションズに就職。「会社のプレゼンスを世界で上げたい」という目標を持ち、頑張り始めた矢先だった。
「お世話になっている大学の先輩に『それって会社の中での目標であって、自分自身の人生の目標じゃないよね』って言われたのが、結構ズシッときたんですよ。プライベートはもちろん、一回きりの人生で自分が成し遂げたいことって何なのか……それを考え始めてから、いろいろな人に会ったり本を読んだり、やりたいことを紙に全部書き出したりしたんです。そこでたどり着いた答えが、『起業して自分自身をマネジメントできるようになること』でした。それが23歳のときですね。
かといって、最初からエシカル分野で起業しようと思っていたわけではないんです。これもその先輩からの言葉なんですけど、世の中の状況や環境がめまぐるしく変わる中で、『この分野じゃなきゃ、この業界じゃなきゃというビジネスモデルで選ぶのは、正直ナンセンスだ』って言われたんですよね。『どんな業界であれ、自分さえいればうまくいく存在になりなさい』という言葉にピンときたんです。もともと、“どうしてもこれがやりたい”というものや専門分野がなかったので、起業するのは怖くもありました。でも“一つに絞る必要はない”っていう考え方に、逆に救われたんですよね」
現在、学生向けのキャリア支援や地域創生、ベンチャー企業の立ち上げなど、携わる事業は多岐にわたっている。
「このお店は経営者としての大事なファーストステップだったし、地域の方のお役に立てるようにというコンセプトが気に入っています。ただ、広い意味で本当に多くの方の役に立ちたいという思いもあるので、“これじゃなきゃダメ”とは思っていないですね。これからも次々といろんなことに挑戦していきたいと思っています」
誰かの目標になれるような人生を
コロナ禍で家にいる時間が長くなったことで、エシカルを考える人や身のまわりのものを大事にする人は増えているように感じているという。さらに、消費の仕方だけでなく、働き方も多様性の時代になった。
「私が大事にしようと思っているのは、視野を広げ続けることですね。いろいろな人に会って話を聞くと、“自分の常識が全てじゃないんだ”と感じるし、“こういう選択肢もあるのか”ということを常日頃から考える余地も生まれる。また、ちゃんと目標を持っている方や尊敬する方と一緒にいると刺激をもらえるので、人とのつながりにはこだわっていますね。
多様性というのは、私の中のテーマです。私はいい意味で人に影響されて生きてきました。サミットや留学もそうだし、就職や起業だってそう。大きな決断のときには必ず誰かがいたので、自分も誰かのきっかけになれるような人でありたいと思いますね。
私が23歳のときに起業を決めたきっかけになった先輩は、当時30歳くらい。私からするとすごく大人で、“こういう30代になりたい”と思わせてくれる人でした。だから私も、この先40代50代になったときに、今の若い人や子どもの世代から見ても“こんなかっこいい大人になりたい”と思ってもらえるようなロールモデルでありたい。やりたいことは、どんどんあふれてきますね」
1987年生まれ、滋賀県出身。同志社大学在学中に「世界学生環境サミットin 京都」やアルゼンチン留学を経験。大学卒業後、大手通信会社への就職を機に上京。「世界で活躍するビジネスウーマンになりたい!」という思いから、独立して経営の道に。2019年、東京・代官山にてエシカル・サステイナブル・ヴィーガンをキーワードにしたセレクトショップ「style table DAIKANYAMA」の運営を開始。
Twitter
@ymikamioverseas
みんなが読んでいる記事
-
2023/09/12ルッキズムとは?【前編】SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題
視覚は知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて解説します。
-
2024/11/11あなたが気になる「しなきゃオバケ」はどれ?しなきゃオバケキャンペーン
【LIFULL公式Xでキャンペーン実施中!】既成概念に潜み、自分らしい生き方を邪魔しようとする「しなきゃオバケ」の紹介ページです。
-
2023/01/05障がいがあるから夢は諦めなきゃ、なんてない。齊藤菜桜
“ダウン症モデル”としてテレビ番組やファッションショー、雑誌などで活躍。愛らしい笑顔と人懐っこい性格が魅力の齊藤菜桜さん(2022年11月取材時は18歳)。Instagramのフォロワー数5万人超えと、多くの人の共感を呼ぶ一方で「ダウン症のモデルは見たくない」といった心無い声も。障がいがあっても好きなことを全力で楽しみながら夢をかなえようとするその姿は、夢を持つ全ての人の背中を温かく押している。
-
2023/05/18高齢だからおとなしく目立たない方がいい、なんてない。―「たぶん最高齢ツイッタラー」大崎博子さんの活躍と底知れぬパワーに迫る―大崎博子
20万人以上のフォロワーがいる90代ツイッタラーの大崎博子さんに話を伺った。70歳まで現役で仕事を続け、定年後は太極拳、マージャン、散歩など幅広い趣味を楽しむ彼女の底知れぬパワーの原動力はどこにあるのだろうか。
-
2022/02/22コミュ障は克服しなきゃ、なんてない。吉田 尚記
人と会話をするのが苦手。場の空気が読めない。そんなコミュニケーションに自信がない人たちのことを、世間では“コミュ障”と称する。人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のパーソナリティを務めたり、人気芸人やアーティストと交流があったり……アナウンサーの吉田尚記さんは、“コミュ障”とは一見無縁の人物に見える。しかし、長年コミュニケーションがうまく取れないことに悩んできたという。「僕は、さまざまな“武器”を使ってコミュニケーションを取りやすくしているだけなんです」――。吉田さんいわく、コミュ障のままでも心地良い人付き合いは可能なのだそうだ。“武器”とはいったい何なのか。コミュ障のままでもいいとは、どういうことなのだろうか。吉田さんにお話を伺った。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。