映画ではフードロスは解決できない、なんてない。
フードロス問題を取り上げ、さまざまなアイデアで廃棄食材問題の解決策を見いだすエンタメロード・ムービー『0円キッチン』。制作をしたダーヴィド・グロスさんと配給会社の関根健次さんは、社会課題と真摯(しんし)に向き合い、世界を良くするために自分ができることを実行している。
![](https://media.lifull.com/wp-content/uploads/2020/01/aed1f1bcd2f972545539ab60601c6bfd-1.jpg)
世界で、一年間におよそ13億トンの食材が捨てられているフードロス問題。賞味期限が切れた肉や魚を、多くの人たちはどのようにしているのだろうか。何気なくゴミ箱に送ってしまうそれらの食品は、実はまだ食べられる場合が多い。近年、社会問題として取り上げられる、このフードロスをなくそうと、向き合っている人たちがいる。普段何気なく残してしまうその一皿が、一口がなくなっていけば、多くの人が幸せになれる。それを信じて、大きな一歩を世の中に送り出したのが、ダーヴィド・グロスさんと関根健次さんだ。
捨てられる食材がないことを映画で世界に発信
約8年前、ダーヴィドさんはフードロス問題に直面し、ある行動に出たという。
「当時、閉店後のスーパーなどのゴミ箱にダイブする“ゴミ箱ダイバー”という運動を始めました。夜遅くにゴミ箱にダイブすると、そのまま食べられる食べ物がたくさん残っていたんです。すごくショックな現状でした。これに対して何かアクションを起こさないといけないと考え、料理しようと思ったのが始まりです。8年前に活動を始めた頃は、いろいろな人に頭がおかしいとか刑務所に入った方がいいと言われました。でも今は、オーストリアの政府がこの活動やイベントをサポートしてくれています。その後は、『捨てられてしまう食材を救い出し、おいしい料理に変身させよう!』と思い、ヨーロッパ5カ国を巡る“食の旅”に出たんです。廃油で走るキッチンカーで旅をしながら、廃棄食材をクッキングしました。各地で出会う人々と触れ合いながら、傷んだもの以外捨てられる食材なんてないということを伝えたいと思い、『0円キッチン』という一本の映画に収めたんです。未来の食として注目される昆虫で料理を作ったり、捨てられてしまう魚や規格外の野菜も調理しました。欧州議会の食堂では廃棄食材料理を振る舞い、食料廃棄問題を訴えたこともあります。このエンターテインメント・ロード・ムービーはやがて日本でも公開され、次作は日本が舞台となる『もったいないキッチン』です。これは2020年に公開できるように、今まさに制作を進めているところ。廃棄していた食べ物はおいしい料理に変わり、人々は笑顔になっていく。食べられない食材はないんです」(ダーヴィド・グロスさん)
人と人をつなぐことで、多くの課題を解決できる
ダーヴィドさんの思いのこもった活動を支持するように配給を決めたのが、映画配給会社であるユナイテッドピープルの関根健次さんだ。
「今、世界が直面しているさまざまな課題は、ほとんど人間が作り出した社会課題です。人間自身が作り出した課題は、人間が解決できると信じている。それには、一人ひとりの参加が必要なんです。自分一人の力は小さいと思うかもしれない。世界なんて、社会なんて変えられないと思うかもしれない。でも、それぞれの皆さんが今いる場所で、できることを始めてつながると、みんなの力で合わせ技一本が取れるようになるものです。ユナイテッドピープルという社名は人と人をつなぐという言葉で、それを、そのまま社名にしました。それぞれの皆さんがより良い社会を作るために行動を少しずつ始めたら、きっと、いい未来が待っています。そのために、現状を知ることが大切で、ストーリーとともに、伝えられる映画を選んでいます。『0円キッチン』は社会課題を持った映画だからこそ、配給を決めました」(関根健次さん)
自分が食べようとしているものを詳しく知る必要がある
日頃からダーヴィドさんは、面白くて楽しいアイデアを発信し続ける。過去には、規格外の野菜を、集まったみんなで音楽をかけながら切り刻んでスープにする“ディスコスープ”を開催したことも。
「都会に住む人は自然とのつながりが薄れているし、例えば学校で調理のワークショップをしても、子どもたちは、野菜がどこから来ているのか、まったく見当がついていないんです。土の中で育っていることも想像できない子どもが多いんです。それに、食べ物を廃棄することで利益を得られる経済の仕組みも、問題があるのではないかなと思います。食事は、誰もがとらないといけないもの。みんなが食べなければならない食をどのように調理するか、どのようなところから来ているのかを考えることは、自分の体にも考えにも影響を与えることだと思います。普段捨てられてしまう食べ物は、まだ食べられるものがやっぱりほとんどで、それをみんなで集まって楽しく調理をして、楽しく食べることで、世界を良くすることができると伝えたい」(ダーヴィドさん)
関根さんもまた、ダーヴィドさんに負けない情熱を持っている。それを映画というコンテンツで、世間に伝えていくのだ。
「映画は、人の人生を変えるきっかけになるメディア。写真や本と違うところは、音楽や情景、ストーリーで感情を揺さぶられやすいですよね。映画の力を使って人の心に触れて、変えないといけない、変えたいという願いや勇気を持つきっかけになる。その力を映画は持っているんです。いい形で映画を使えば、社会はもっと良くできます。行ったことのないところに行けて、会ったことのないものに出合えて、普通に生きていたら体験できないことを自主体験できる。それも映画の力ですよね。見ることのできた世界は実現できる。例えば、食品ロス問題の素晴らしいプロジェクトを紹介したとして、それが、手触り感のあるものならば、まねできる。見るということと信じること、行動することはつながりますが、そういう可能性を感じさせ、やる気になるような映画を配給していきたいですね」(関根さん)
人生をエンジョイできる平和な世界を作りたい
世界を良くするために。2人の活動内容は異なるが、根底にある心は同じ。だから、描く未来も、壮大だ。
「まだ食べられるものが入っているゴミ箱をなくすこと。その夢が実現したら、別の仕事を探さないといけませんが、やはり今はフードロス問題を少しでもなくしていきたい。その思いでいっぱいです」(ダーヴィドさん)
「共に幸せになれる世界を作りたい。生まれた国や場所にとらわれず、会いたい人に出会えて、友達になれる。人生をエンジョイできる平和な世界を作りたい。そのためのツールが僕の場合は映画でした」(関根さん)
「人とたくさん出会うことがとても重要です。人や映画はもちろん、何ごとも出会いです。その出会いがあって自分が予期せぬ行動に駆り立てられることがあります。出会う中で体験が生まれて、体験があると行動が生まれていく。そうするとこれが本当にやりたいことなのかもしれない、向いているかもしれないと思えるので、たくさん出会うことを大切にしてほしいなと思います。いろいろなところに興味を持つことが大事だし、興味がないと最初からシャットアウトをせずに、話を広げてみたり、調べてみたりすると、その人の人生や生き様を知ることができます。それを自分の中に入れることで、本当の合う合わないが見えてくるかもしれません。だから興味を持って出会うこと。それが重要だし、大事だと思います」(関根さん)
![ダーヴィド・グロス&関根健次](https://media.lifull.com/wp-content/uploads/2020/01/baa6f5024a86c5c0a15073199a0ad6f4-1.jpg)
ダーヴィド・グロス
1978年、オーストリア・ザルツブルグ生まれ。ジャーナリスト、食材救出人。
ウィーン大学でコミュニケーション科学と演劇学、ドナウ大学クレムスでジャーナリズムを学び、2003年に卒業。以後、ジャーナリスト、ドキュメンタリー映画監督として活動。2015年に『0円キッチン』を監督・制作した。次作は日本が舞台となる『もったいないキッチン http://www.mottainai-kitchen.net/
』。2020年に公開できるように、今まさに制作を進めているところ(2020年8月公開が決定)。
関根 健次
1976年生まれ、神奈川県出身。ユナイテッドピープル株式会社 代表取締役。
アメリカのベロイト大学経済学部卒業。2002年にユナイテッドピープル株式会社の前身ダ・ビンチ・インターネット有限会社を創業し、世界の課題解決を目指す事業を始める。2003年には募金サイト「イーココロ!」の運営を開始。2009年から映画配給事業を始め、2011年には「一般社団法人 国際平和映像祭」を設立し国連が定めたピースデー9月21日に合わせてUFPFF/(国際平和映像祭)を主催する。著書に『ユナイテッドピープル』(ナナロク社)がある。
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