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ダチョウで食の未来は変えれない、なんてない。

加藤 貴之

低カロリーで高タンパク。おいしくて飼料環境の良いダチョウをきっかけに、食の未来を守る加藤貴之さん。オルタナフードとなりうるダチョウやジビエなどを自社で取り扱いながらそのおいしさを伝え、普及する活動を続ける加藤さんに、その思いを聞いた。

人口増加、異常気象。世界を取り巻く環境は、年々変わってきている。その中で人が生きるために欠かせない食環境もまた、変化の時を迎えている。人が増えれば消費量が増え、畜産するための食料や穀物も増加の一途をたどる。こうした食に関わる問題に直面し、解決につながる「オルタナフード」の普及に注目が集まっている。その一つがダチョウ肉だ。低カロリーで高タンパク、生産効率も高いダチョウは、食の未来を守る可能性を秘めている。

食べ物の選び方を変えるだけで社会問題が
一つ解決できる

2011年3月11日の東日本大震災発生後、加藤さんあることがきっかけでダチョウ肉と出合ったという。

「ダチョウに関心を持って、食で社会問題解決ができるんじゃないかということを考え始めたのは、震災後でした。当時、南相馬でしばらくボランティアをしていたんですけど、震災の爪痕がすごくて、ライフラインが止まってしまった状態でした。自然と人間の関わり方を見直さないといけないと考えるようになり、それは、これから求められる事業になるのではないかとも思いました。そんなことを考えている最中、埼玉県でダチョウ牧場を運営されている方をご紹介していただき、話を聞きに行ったら、ダチョウ肉は、まさにこれからの時代にぴったりのお肉でした。少ない餌で大きく育って、環境に優しくて、食料問題の解決につながる。それがスタートでした。そんなダチョウ肉は栄養価が高く、低脂肪・低カロリーの健康食として今では注目されています。食べても臭みが少なく柔らかくておいしい。しかし、日本国内では、ダチョウを育てられる牧場は限られ、口にできる環境も少ないのが現状です。国産ダチョウ肉の普及に力を注ぎながらオルタナフード(社会問題解決食材)と今でも向き合っています」

震災の日までは広告や映像の仕事をしていた加藤さん。ダチョウとの運命の出合いをきっかけに、2012年に自分の会社を立ち上げ、ダチョウ肉のPRや卸業に携わるようになった。

「あのときのダチョウ肉は本当においしかった。今でも日本で一番おいしいんじゃないかなと思います。もともと環境問題にすごく興味があったというわけではなく、本当に単純においしくて、そこからダチョウに興味を持った。小さい頃から鳥刺しや馬刺し、鯉の洗いなど、いろいろなものを食べるのは好きでしたけど、おいしいは正義だし、僕はたまたま、日本一に最初に出合ってしまったんですよね。そうしてダチョウに関わる日々が始まったのですが、ダチョウ肉の普及と言っても一筋縄では行かず、ダチョウの飼育は牧場によって品質にすごく差があり、生産していく過程で屠畜やお肉にできる処理場が少ないなど、いろいろな課題があることが、徐々に見えてきました」

さまざまな問題に直面し、頭を悩ませていていた。そんな加藤さんのもとに、さらなる話が舞い込んできた。それがジビエだった。

「鹿や猪の狩猟を推進し、捕まえたものを食肉として活用していこうという流れがあって、僕のところにもジビエも扱えないかという話が来ました。ダチョウとジビエの両方を扱うようになって、それら以外にも生産や流通の過程で食料問題の解決・社会問題の解決につながるようなものが、他にもあることが分かってきたんです。そこで、食べ物を選ぶ時の選び方として、おいしい、安い、ヘルシーなど、たくさんの価値観の中に新しい価値観として、社会問題解決性を加えたいと考えて、オルタナフードを提唱していこうと思いました」

ダチョウは食べても育てても環境に優しい

現在、オルタナフードを扱い環境問題に取り組む加藤さん。そもそもオルタナフードとは「まだ普及していないものの、多くの人々の役に立つ可能性がある食材」のことで、食糧問題、環境問題など食に関わる社会問題の解決に貢献する食べ物だ。

「日本ではジビエと聞くと、シカやイノシシが思い浮かぶと思いますが、狩猟の対象となっている野生鳥獣はすべてジビエと定義されているんです。害と嫌がられる獣も、食となれば、低カロリーで高たんぱく。おいしいと評判のジビエ料理に変わっていきます。ダチョウもまた、同じです。低カロリーで栄養価が高い上に、穀物ではなく草を餌にするため、生産効率が高いんです。お肉をつくる過程って、実はものすごく大量の資源が必要なんです。牛肉1kgをつくるのに11倍となる11kgの餌が必要で、豚は7倍、鶏ならば3〜4倍といわれています。それがダチョウであれば大幅に改善できる可能性がある。ダチョウ肉1kgの場合、餌はだいたい3kg。食べる餌自体も、穀物の割合は多くなくていいのです。もちろん効率よく育てたり、おいしく育てたりしようとすると、穀物を加える量は変わりますが、他の家畜よりも、その割合は抑えられます。手間もそんなにかからないし、牛で指摘されるようなメタンガスの排出もない。そうしたところもあって、環境に優しいお肉だと注目されています」

ダチョウをはじめジビエなど、自社で取り扱う食材を増やす一方で、加藤さんはダチョウの飼育にも力を入れている。ダチョウが足りなくなることを危惧して、ダチョウ牧場を立ち上げたい人や適した土地を探すようになり、全国各地を駆け巡った。

「僕はこれまで、飼育自体を現場で実際にやってきたわけでもなく、畜産経営の勉強をしてきたわけでもありません。“ダチョウ業界”では新参者です。壁にぶつかりながらも、一緒に良い牧場を造っていこうという人を探し、島根県や山口県、千葉県で活動を進め、たどり着いたのが、僕の故郷でもある茨城県でした。去年は牧場に25羽のひなが来ました。それを去年から今年にかけて増やしていって50から100羽ぐらいを飼育したい。でもまだ、ダチョウに合わせた環境に仕上がっていないのが現状です。それに日本でもダチョウを飼育する技術が確立していないので、そこはしっかり確立していきたいです」

やったことのないことにトライして、
自分の世界広げていくことが大事

今後も加藤さんは、オルタナフードとしてダチョウを通したおいしい提唱を続けていく。環境に優しく、社会問題を解決できるからだ。

「おいしい、安い、食べやすい。何気なく食べている食材の選択肢に、地球に優しいという視点を加えてみれば、世界はちょっと良くなるかもしれません。小さな一歩は、大きな財産なんです。いろいろな人が自分の食べているものを意識する社会になったらいいと僕は考えます。何を食べるかを意識的に選んでいくことや、食べること一つで社会的なアクションになったりするので。ダチョウ肉もそうで、ゲテモノとか硬いとか、臭い、獣っぽいっていうイメージがあると思うんですけど、僕の周りにそう思う人はもうほとんどいません。2012年からの8年間で、僕の世界は大きく変わりました。やってみなければ分からないものがあるように、食べてみないと分からないものもあります。そして、初めて食したその一口が、人生の可能性を広げ、地球を救う未来につながっていくんじゃないかと思っています」

自分で何かを決めて動いている人は、何かを決めるというハードルが低くなっていると思うんです。逆にそれをやっていない人は、何かを決めてやるということに、もじもじしてしまうことが多い。決めることに慣れてないと感じるので、決めること慣れてしまうのがいいのかなと思います。なんでもいいからまずはチャレンジしてみる。例えば、毎日電車に乗る中なかで、降りたことのない駅で降りてみて、周りを探検してみるとか、いつも行ってるお店で頼んだことのないメニューを頼んでみるとか。そういう、やったことのないことに少しずつトライしてみて、自分の世界を少しでも広げていく。そういう習慣ができると、新しいことに対するハードルが低くなっていくんじゃないかなと思います
Profile 加藤 貴之

1987年生まれ、茨城県出身。
上智大学卒業後は、都内で広告代理店に勤務。2011年の東日本大震災後は、ボランティアのため南相馬に赴く。その中でダチョウ肉と出合ったことで、12年に株式会社「Noblesse Oblige」(ノブレス オブリージュ)を設立する。以降は、ダチョウ肉、ジビエをはじめとする希少肉食材の産直卸売や、ダチョウ牧場の立上げ・運営などを現在もなお行っている。

STORIES 2020/02/13 ダチョウで食の未来は変えれない、なんてない。