いつからアンコンシャスバイアスの考え方を持つ? 研究の歴史と日常的に生じる偏見や思い込み
「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」は偏ったものの見方であり、実は昔から私たちの日常にあふれていて、誰にでもあるものです。最近よく目にするなと思った方もいることでしょう。では、いつ頃からメディアに取り上げられるようになったのでしょうか。
この記事では、下記4点について解説します。
- アンコンシャスバイアスはいつからメディアに取り上げられているのか?
- アンコンシャスバイアスはいつから持ち始めるのか?
- 身近にあるアンコンシャスバイアスの弊害
- アンコンシャスバイアスの対処方法
※出典:「共同参画」2021年5月号 | 内閣府男女共同参画局
アンコンシャスバイアスはいつからメディアに取り上げられているのか?
2000年頃、欧米においてビジネス分野のダイバーシティ推進が加速していました。アメリカでは、人種に限らずさまざまなマイノリティを含む多様な人材の社会進出が進む中、アンコンシャスバイアスが注目されるようになり、心理学者らを中心に調査や研究が開始されました。さまざまな調査結果から、無意識の思い込みによって採用や評価に望ましくない影響を与えることがわかりました。
アンコンシャスバイアスが採用シーンにおいて大きく影響することが判明した例として有名なのが、米国のオーケストラ団員のオーディションです。審査に参加する演奏者の性別や外見がわからないよう、審査員の間にスクリーンを置いて演奏を聞く「ブラインド・オーディション」を導入したところ、女性が採用される割合が大幅に増えたのです。採用方法を変えたことで、それまで男性が有利に採用されるジェンダーバイアスがあったことが発覚しました。
2010年代には、GoogleなどのIT企業が中心となり、アンコンシャスバイアスの啓発や対策を始めたことで、社会に広く知られるようになった概念です。日本では2013年頃から、ビジネス雑誌や新聞・テレビでも取り上げられるようになってきました。内閣府は、女性活躍推進を進める中で男女共同参画社会を実現するための重要なキーワードの一つに「アンコンシャスバイアス」を挙げ、調査結果などを発表しました。
また、内閣府は男女共同参画の取り組みの進展が十分でない要因の一つとして、社会全体に「アンコンシャスバイアス」が存在していることを取り上げ、意識改革と理解の促進の重要性を訴えかけています。
出典:日本健康学会誌 第 84 巻 第 3号
出典:「共同参画」2021年10月号 | 内閣府男女共同参画局
出典:「共同参画」2021年5月号 | 内閣府男女共同参画局
アンコンシャスバイアスはいつから持ち始めるのか?
アンコンシャスバイアスは、過去の経験と周囲からの影響によって形成されます。育った環境やメディア・マスコミでの描かれ方、個人的な経験などによってバイアスは形成され、根深く私たちの中に無意識的に刷り込まれていくのです。
内閣府の調査によると、性別に基づく役割や思い込みを決め付けられた経験のうち、「性別役割を言ったり、言動を感じさせた人」としては、男性では「父親」「男性の知人・友人」が、女性では「配偶者・パートナー」が多いことがわかりました。子どもの頃から、家庭や学校、交際相手など周囲の言動や行動によってアンコンシャスバイアスが生じていると思われます。
職場シーンにおいては、男女とも「男性の職場の上司」から性別役割を感じさせられたという回答が多いことがわかりました。
同調査によると、メディアで見たり聞いたりすることが多いのは、「女性は感情的になりやすい」「女性は論理的に考えられない」など、ジェンダーをめぐるアンコンシャスバイアスでした。
また、親や周りの人が子どもの「男らしさ」「女らしさ」を決め付けるのも、ジェンダーバイアスを抱かせる要因の一つです。
子どもにまつわるジェンダーバイアスに関する意識調査によると、保護者の約1/4が性別を理由に子どもが欲しがった商品を購入しなかったことがわかりました。男女で区別されることの多いものは玩具や衣類、ランドセルが上位を占め、子どもが欲しがった商品を「女の子(男の子)だからふさわしくない」という理由で購入していませんでした。こうした男女の役割に関する固定観念や、それに基づく差別・偏見・行動を子どもに押し付けている可能性があります。
若者が高齢者に対する偏見(エイジズム)を持つケースも多くあります。「高齢者は頑固だ」「頭が固い」「ITに弱い」など、高齢という属性に先入観や固定観念を抱くステレオタイプバイアスが存在します。
出典:内閣府 令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究
出典:「子どもに対する『女の子らしさ』『男の子らしさ』意識調査」を実施 | こどもりびんぐ
身近にあるアンコンシャスバイアスの弊害
子どもの人格形成に大きな影響を与える教育現場でも、アンコンシャスバイアスが数多く存在しています。
イタリアの中学校を対象に行われた研究では、教師の潜在的態度を測定するためのテストで各教員のアンコンシャスバイアスを測りました。結果として、「女子は数学が苦手だ」と思い込んでいる教師に教わると、女子生徒は数学の成績が下がり、高校の進路で良い学校を選ばなくなり、数学に関する自己肯定感が下がることがわかりました。「女子は文系、男子は理系」といった思い込みが社会に存在し、その影響が生じているのです。男女の教育格差の背景には、こうしたアンコンシャスバイアスが少なからず存在していることを示唆する研究結果だと言えます。
年齢や経験のアンコンシャスバイアスにとらわれず、自分らしく働いたり、生きている人たちがいます。教育の常識にとらわれない柔軟な考え方で道を切り開いた方たちのストーリーはこちらです。
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アンコンシャスバイアスの対処方法
近年、企業や大学でアンコンシャスバイアスの研修が行われています。多様な人材を雇用する組織にとって、アンコンシャスバイアスがダイバーシティ推進を阻害する要因となっていることが背景として挙げられます。偏った思い込みや言動を取り除き、アンコンシャスバイアスによるマイナスの影響を減らすことで、職場でのダイバーシティを推進することができます。
自分の言動に「決め付け」や「押し付け」がないか、相手の表情や態度の変化などに注目し、振り返ることは重要です。以下のような言葉を口にしていないか、相手に伝える前に振り返ってみましょう。
- 「“普通”そうだ」「“たいてい”こうだ」などの価値観の決め付け
- 「どうせダメ、きっとムリ、そんなことできるわけない」などの能力の決め付け
- 「そんなはずはない、こうに決まっている」などの解釈の押し付け
- 「こうある“べき”だ、こうでないとダメだ」などの理想の押し付け
「無意識の偏見度」を簡易的に診断することができるチェックリストがあるので、活用してみましょう。女性管理職・候補者育成のプロが作ったチェックリストでは、「小さい子どもを持つ女性には、なるべく出張のない業務を割り当ててあげたい」などの項目に回答していくことで、「無意識の偏見度」が算出されます。誰でも実施することができ、アンコンシャスバイアスに気付けるきっかけを提供しています。また、アンコンシャスバイアスの研修に活用されるゲームやクイズもあります。
アンコンシャスバイアスへの対策事例についてはこちらをご覧ください。
出典:アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)診断
まとめ
アンコンシャスバイアスは、子ども時代から家庭や学校、メディアの影響を受けて備わっていくものです。ただし、バイアスの存在自体は悪いものではありません。さまざまな方法で自らのアンコンシャスバイアスに気付き、ネガティブな影響を減らしていくことが重要です。
執筆:遠藤 光太
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