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教育は大人にしか変えられない、なんてない。

仁禮 彩香

仁禮 彩香さんは、現役大学生でありながら教育関連事業を展開する株式会社TimeLeapの代表取締役でもある。中学2年生で起業し、10代のうちに「人が生きるプロセスに貢献したい」という自分の軸を見つけた。「何も知らない若者では社会を変えられない」という周りの声にとらわれず、自分らしく生きてきた仁禮さんが考える、「自分らしさ」の見つけ方とは?

何か新しいことを始めようとすると、「今のあなたにはまだ早い」「もう少し経験を積んでからにしなさい」などと、アドバイスをくれる人がいる。

しかし、本来何かを始めるのに年齢は関係なく、早いも遅いもない。いつだって、今がベストなタイミングだと決めるのは自分だ。中学生の時に起業し、現在会社の代表取締役を務めている仁禮さんは、「年齢」に対してフラットな目線を持っている。どのような流れで起業することになったのか。「年齢に関係なく誰もが自分らしく生きる社会」とはどのようなものなのか。仁禮さんにお話を伺った。

「自分らしい」人生は、
何歳からだって始められる

仁禮さんは現在22歳で大学に通う学生だが、同時に会社も経営している。14歳で起業することになった最初のターニングポイントは、小学1年生の時だった。

「私はインターナショナルスクールの幼稚園に通った後、地元の小学校に入学したのですが、そこでの学び方はインターナショナルスクールとは全く違うものでした。例えば、『けんかをした時、どう解決するか』を考える道徳の授業では、プリントには『謝る』という回答だけが書いてありました。『なぜそのけんかが起きたのか』『どういうコミュニケーションの取り方があるのか』など、他にもいろいろとディスカッションできることがあるのにと不思議でした。私が通っていた幼稚園では、『これが答えだ』と教えるのではなく、みんなはどう思うかを考える時間が多くあり、私はそのプロセスが大事だと感じていました。しかし、小学校では教科書に書いてあることを言った子が正しいと褒められることが多かった。私は教科書に書かれた1つの答えをクイズのように当てていくことに時間を使うよりも、自分や友達が思っていることを話したり聞いたりしながら、人や社会について知りたいと思っていました。だから、自分が理想とする学び方を提供してくれていた幼稚園の園長に小学校を作ってもらえたらいいのではないかと考えました。実際に園長先生の元に相談に行き、彼女は本当に小学校をつくってくれたのです。この一連の経験が行動することの大切さを教えてくれて、それが今の私に大きく影響しています。私の残りの小学校5年間は、自分が求めていた学びができる環境で過ごすことができました」

インターナショナルスクールで「自分で考える」教育を受けてきた仁禮さんが、「小学校を作ってもらう」という大きな目標を達成させた後にしたことは、「自分で会社を起こす」ことだった。その選択をしたのはなぜか。

「社会についてもっと知りたいという思いがありました。作っていただいたインターナショナルスクールの小学校では、ミュージシャンやアーティスト、茶道家などプロフェッショナルから学ぶ機会がたくさんありました。しかし、中学生になって日本の教育に戻ると、社会で何が起きていて、どういう仕組みで物事が動いているのかを教えてもらえず、多様な方に会う機会もなくなってしまいました。私が学校で学んだことがどのようなことに役立つのかを知りたいし、資本主義のロジックにも興味があり、仕事をするという体感を得たかった。また、ボランティアなどは小学校でもやっていたので、せっかくならやったことのないことをやりたかったという点もあります。」

世の中に対して「こう変わったらいいな」と思っていても、実際に行動にまで移せる人は多くない。そんななか、仁禮さんは現状に疑問を感じ、自分がやったことがなく、なおかつ一番学びが多そうという理由から、「起業」を選択した。

「事業を通じて教育の問題を改善するというのが、当時の自分が一番やりたいことでした。行動にまで移せた1つの理由は、通っていたインターナショナルスクールの影響で小さい頃から『行動から学ぶ』ということが癖になっており、苦ではなかったからです。それから、なにか動いていないと気が済まないタイプだというのもあります」

質問の繰り返しが、自分らしさに気かせてくれた

仁禮さんは、幼少期から自分について考える機会に恵まれた結果、「自分がどういう人間なのか、何がしたいのかが、自分自身で認識できている」という。社会人として働いていても自己認識ができずにもがき苦しんでいる人は多いが、自己認識ができるまでの過程で大事だったことは何だろうか。

「一番は質問される機会の多さだと思います。『彩香だったらどう考える?』というコミュニケーションを幼稚園の時からずっと取ってもらっていたので、自分のことを知りやすい環境にありました。特に、母とのコミュニケーションは答えではなく質問の繰り返しでした。例えばこのまま小学校に居続けるのがしんどいと母に話をすると、『どんなところが嫌なの?』とか『どうやって解決する?』といった質問を投げてくれたり、自分がどう思うかを考えるきっかけをいつも与えてくれました」

しかし、地元の中学校に入学して、それが当たり前ではないことに気が付いたという。

「周りの友人の多くは、自分がどんな人で、何をやりたいのかが分からず、すごく苦しそうでした。それは、彼らの考えを聞いてくれたり、価値観を揺さぶるような刺激を与えたりしてくれる場面が少なかったからだと思います。教育のプロセスに、自己認識する機会が全く織り込まれていないことに気づきました。」

起業家教育を通して、自分の人生を生きれる人を増やしたい

日本の教育プロセスに課題意識を持った仁禮さんは、中学2年生の時に「子どものアイデアを実現する事業」をサービスとする会社を設立した。現在は2社目となる、教育事業を展開する株式会社TimeLeapを経営している。

「小中高生向けに自分の人生を生きる力を育む教育プログラムを提供しています。これまでは、マネースクールというお金の流れを実践で学びながら社会や自分について知るプログラムなどを提供していました。新型コロナウイルスの影響で通い型のスクール事業が全停止してしまったので、オンラインに急きょ切り替え、現在はオンライン起業家教育スクールを運営しています。この事業の一番の目的は、起業家を増やすことではなく、起業家的な経験をすることで自分や社会のことを認識し、自分の人生を切り拓く力を育んでもらうこと、そして自分の才能を存分に社会の中で発揮してもらうことにあります。実際に私も起業家という道を選択したことで経営者の先輩方や投資家の方に『何がしたいの?』『なんで仁禮ちゃんがこれをやりたいの?』と聞かれる機会が多くあります。『こうすると社会がどうなるの?』『この事例で何が変えられるの?』と問われ、その答えを考える過程で、自分のことを知ることができました。もちろん結果として起業家が増えるといいですが、あくまで自分の人生を切り拓ける人を増やすための手段としてこのプログラムを運営しています。」

既成概念に縛られず、「自分の人生を生きるカ」を持った人を増やしたい。仁禮さんはそんな思いで会社を経営している。そして、起業したことで、自分の既成概念も崩れていった。

「自分がいる学校だけが世界の全てだったところから、いろいろな会社の方とお仕事をさせていただいたり、多ジャンルで活躍する同年代や先輩方と交流したりする中で自分が正解だと思っていたことや既成概念がいい意味でどんどん壊されていきました。一方で、違うテーマにチャレンジしてみたり、人からどんな助言をもらった時でも自分の中に変わらず残り続けたものが、『人類の生きるプロセスに本質的に貢献し続けたい』『人が自分の限られた時間をどう使うかサポートし続けたい』という気持ちでした。自分の軸がより強固に浮かび上がってきたのです」

年齢はあくまでコミュニケーションツール

起業して「大人」と触れ合うことで、自分の既成概念が崩れた仁禮さん。しかし、そんな仁禮さんに対して「若いだけで何も考えてないくせに」「学生で何も知らないくせに」のような、「年齢」という既成概念で見てくる人もいる。

「年齢のフィルターを通して見られることについては特に気にしていません。私は自ら『中学生起業家です』などと名乗ったことはなく、周りが勝手にそう言って、勝手に評価をしてきただけです。その評価が良い時はそのまま活用し、マイナスな時は『未熟で分からないことが多く、学びたいので、教えてください』と先に言ってしまえば、相手も教える姿勢になってくれます。もちろん、自分が考えていることもしっかり伝えています。カテゴライズされること自体よりも、それによって生まれる恩恵や弊害を認識することが大事だと思っています」

仁禮さんにとって、年齢はあくまで対外的なコミュニケーションに使われる数字でしかない

「実際、子どもなのか大人なのかという表現においては、本人が自分についてどう思っているのかを基準にして考えればいいと思います。私も便宜上、使いやすいので『子ども』『大人』と言いますが、小学生でも30代の人より物事を深く見ている子もいます。そのため、個々の状況を考えると、『大人』『子ども』という定義には意味がないと思っています」

仁禮さんは、自分で考える癖があるからこそ「年齢」という1つの基準にとらわれずにさまざまなことにチャレンジすることができたのだろう。そして、起業をして社会との接点を多く持つなかで「人が生きるプロセスに貢献し続けたい」というご自身の軸にたどり着くことができた。

「自分は変わる」を前提にすれば、楽にめられる

自分で考えることの重要性を強調する仁禮さんだが、日本の教育システムでは自分について深く考えたり、周りの事柄に対して疑問を持ったりする機会はあまりないのが現状だ。学校教育の中でそのような機会に恵まれず過ごしている人にも、何かできることはないだろうか。

「まず、これからいろいろなことにチャレンジしていくZ世代(1990年代後半~2000年生まれ)は、『自分は変わる』ということを認識すると、少し楽になると思います。その時は答えだと思っていても、学びの先で別の答えにたどり着くこともある。変わってはいけないと固執せずに、それは成長として受け入れていいですし、その感覚を大切にしてほしい。そして、様々なことが変化していく中で、それでも変わることのない大切な何かも見つけられるはずです。また、やりたいという実感を持てなくても大丈夫です。『やりたいことをやればいい』というコミュニケーションが先行しがちですが、私もやりたいことをやっていたのかはよく分かりません。やりたいから始めた時もあれば、できることをしているうちにやりたいことになったという時もあるので、やりたいことが見つからない自分はダメだとは思わないでほしい。逆に、やりたいことよりもやりたくないことの方が思い浮かぶタイプの方もいます。本当にやりたくない、向いていないなど、自分がネガティブに思うことを洗い出して人生から排除するのも1つのやり方だと思います。ネガティブなことを除外すると、それ以上ネガティブなことには出会いにくくなるので、より良い方向へ伸びていけると思います。あとは、あまり焦らないでほしいですね。モヤモヤしている時は、輝いている人たちの様子を見てしまい、自分との乖離(かいり)を感じてさらに深みにはまったりします。そんな時は、そういうタイミングだと思いながら、なるべく焦らずリラックスしてほしいです。その上で、誰かに目的なく話したり、新しい活動に参加してみたりなど、少し違うことをしてみるのもいいと思います。直接自分が行きたい方向とは関係ないことでも、行動して振り返ることは時に突破口になります。」

そもそも、迷いを超えて自分のことを捉えられているか、初めから自分にあまり不安がない場合でなければ、『自分らしさ』の答えは出てきません。例えば、私の父は私のように自分のことを内省的に捉えるタイプではありませんが、自分の幸せを感覚的に知っていて、それに対して迷いがありません。そういうタイプの方は自分の人生を自分らしく生きているので、あえて考える必要もない。つまり、そこに迷いや不安がある人は自分のことを知るしかないのです。そういう人は、まずは体験して、次にその体験に対して自分がどう思ったのか、振り返りまでをセットにすることが大事です。私自身も経営者としてやりたいことを世の中にアウトプットして、『どうだったのか?』を常に振り返り続けています。体験して振り返り続けることが、自分らしく生きることにつながると思います。

編集協力/IDEAS FOR GOOD

Profile 仁禮 彩香

株式会社TimeLeap 代表取締役。
中学2年生の時に1社目の会社を設立し教育関連事業・学生/企業向け研修などを展開。高校1年生の時に自身の母校である湘南インターナショナルスクールを発展支援の目的で買収し経営を開始。2016年に株式会社TimeLeap(旧Hand-C)を設立し、代表取締役に就任。同年 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出。慶應義塾大学総合政策学部所属。

STORIES 2020/08/13 教育は大人にしか変えられない、なんてない。