地方創生の目的と重要性とは? 公民共創で加速する国と地方の未来
出生数・出生率が1970年代から長期的に減少傾向にあり、合計特殊出生率も2.07を下回る状態が50年近く続いています。また、就職・進学や都心部への憧れといったことが要因で20代前後の層が東京へ流出し、地方の過疎化が深刻さを増しています。この2つの状況を解決するために、地方創生政策が生み出されました。
この記事では以下の4点を見ていきます。
- 地方創生とは?
- 地方創生は進んでいる? 現状と課題
- 地方創生に必須なのは「新しい価値の創出と共創」
- 企業・自治体が取り組むアクションと地方創生の事例
地方創生とは?
地方創生とは2014年に安倍内閣が提唱した、地方を活性化させることを目的にした施策です。人口の減少に歯止めをかけ、地方経済を活性化し、地方と東京圏がそれぞれの強みを生かした日本社会の姿を目指すものです。地方創生に向け、2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が制定され、同年12月には国と地方それぞれに「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と、第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を掲げました。その後、2019年12月20日に第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が定められました。
まち・ひと・しごと創生長期ビジョン
「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」は、第1期・2期共に2060年に1億人程度の人口を維持するなどの中長期的な展望を示したものです。国が2014年に出した将来の方向性として以下の3つを紹介します。
- 若い世代(15~34歳程度)の希望が実現すると、出生率は1.8程度に向上する
- 人口減少に歯止めがかかると、50年後に1億人程度の人口が確保される
- 人口構造が若返る時期を迎える
合計特殊出生率が2030年に1.8程度、2040年に2.07程度まで上昇すると、2060年の人口は約1億200万人になるとされています。人口減少に歯止めがかかると、高齢化率は35.3%でピークに達した後に低下し始め、27%程度にまで低下するといわれているのです。
この試算を根拠として、「人口の安定化」とともに「生産性の向上」が図られると、2064年頃も実質GDP成長率は1.5〜2%が持続されると考えられています。そしてその結果として、将来にわたって「活力ある日本社会」が維持されると見込まれています。
まち・ひと・しごと創生総合戦略
第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、4つの基本目標を掲げていました。
- 地方での雇用創出
- 地方に対する人の流れづくり
- 若い世代の希望実現
- 時代に適した地域づくり
それぞれの内容について見ていきましょう。
「地方での雇用創出」とは、2020年までの5年間の合計で、地方に30万人分の若い世代向けの雇用を生み出すというものです。若い世代向けの雇用を生み出すことで、地方経済の活性化が期待されていました。
「地方に対する人の流れづくり」とは、2020年に東京圏から地方への転出を4万人増、地方から東京圏への転入を6万人減少させるというものです。都市部に人が集まる仕組みではなく、地方に人が流れる導線を確立することが求められています。
「若い世代の希望実現」とは、結婚や出産に関して実現しやすい地域を作っていくことです。若い世代の悩みとしては、経済面や男性の育児休暇が取りづらいなどが挙げられており、自治体が子育ての援助金を出す施策や、男性の育児休暇を取りやすくする施策が求められています。
「時代に適した地域づくり」とは、地域と地域の連携を促進し、活気あふれる地方都市を構築することです。地方の魅力を伝えたり、興味を引く歴史の情報発信をしたりすることで活気のある地域づくりが実現できます。
以上4つの基本目標のクリアによって、人口減少・地域経済縮小の克服を目指していました。
地方創生は進んでいる? 現状と課題
第1期の総合戦略では、地方での雇用創出、地方に対する人の流れづくり、若い世代の希望実現、時代に適した地域づくりと、まち・ひと・しごとに関する4つの基本目標が定められました。
2020年までに地方において30万人分の雇用をつくるという目標では、15~34歳の就業率が2014年の61.3%から2018年に64.9%に上昇しました。農林水産物・食品輸出額では、2014年の6,117億円から2018年には9,068億円に増えるなど、「しごと」の総合戦略では一定の成果が得られました。一方、東京圏への転入超過は地方創生がスタートした2014年から伸び続け、2018年は13.6万人となり東京に人口が集中する流れは止めることができませんでした。
人口減少に苦しむ地方自治体は、さまざまな移住支援策を打ち出しています。しかし似たような施策が乱立し、2021年時点では自治体同士で移住者の奪い合いのような状況になっています。
また、全国規模では人口減少と東京圏の一極集中という課題は残っていることを受けて、政府は2019年末の長期ビジョンと第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略において、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材を取り入れる施策を打ち出しました。関係人口とは、「移住するでもなく観光に来たのでもない、特定の地域に継続的に関わる人」のことです。東京圏の一極集中を是正する取り組みの強化として、まずは地方と地域に住む人たちとのつながりを築き、地方への新しい人の流れを生み出そうという取り組みです。
第2期総合戦略には、「多様な人材の活躍を推進」と「新しい時代の流れを力にする」という2つの横断的な目標が掲げられています。
1つ目の「多様な人材の活躍を推進」とは、地方への移住に加え、関係人口の創出・拡大に注力するということです。地方にあるサテライトオフィスや商業施設、宿泊施設などで企業が企画したワーケーションを行ったり、地域商社ネットワークを介した地方採用・就労の拡大を行ったりするといった施策があります。
2つ目の「新しい時代の流れを力にする」には、2つのポイントがあります。それは、地域におけるSociety5.0の推進と、地方創生SDGsの実現などの持続可能なまちづくりです。
狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く人類史上5番目の新しい社会と呼ばれるSociety5.0の推進においては5Gなどの情報通信基盤の早期整備やスマート公共サービスを支えるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが必要とされています。そしてこのポイントについて、未来技術を活用し地域課題を解決・改善した地方公共団体の数およびその課題解決・改善事例数を2024年度までに600団体、600件を目指すというKPIが定められています。
また、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指すという、SDGsの理念に沿って地方創生の取り組みを推進することで、地域が抱える経済・社会・環境の問題をスピーディーに解決できる相乗効果が期待できると考えられています。このポイントについては、SDGsの達成に向けた取り組みを行っている都道府県および市区町村の割合を、2024年度までに60%達成するというKPIが定められています。
地方創生に必須なのは「新しい価値の創出と共創」
日本と地域の未来をつくる地方創生には、「誰もが活躍できる地域社会の実現」など、国と地方自治体の協働体制が必要です。地方圏の課題にしっかりと目を向けることが解決の糸口になるかもしれません。
人口減少問題において顕著なのが、中国・四国地方です。2000年と2010年の都道府県別人口増減率を見ると、全国では0.09%増加しているのに対し、中国・四国では全県で減少し、特に山陰地方や四国地域では減少率が高いという結果が出ています。原因としては、都市部に憧れて進学・就職したきり戻ってこない、給与面の差を加味して充実した生活が送れる都内に住む、といった若い世代の動きによるところが大きいのです。改善策としては、卒業した後のUターン制度の充実化や、地方の賃金を上げて労働環境を変える必要があります。
地方自治体・民間団体・市民活動をうまく連携して、若者が働きたくなるような・生活したくなるような「魅力ある地域」をつくることも重要になります。平日は首都圏で仕事をし、週末には自然豊かな地方で過ごすなど、新たな人間関係を構築するという働き方・生き方をする若い世代を、増やしていく必要があります。
岡山県西栗倉村では村と大都市圏の企業が協力した、「百年の森林(もり)構想」があります。大都市圏などから資金・人材を集めつつ、ヒット商品の開発・生産を実施し、構想推進後には30社以上の地元発信のベンチャー企業が誕生し、100人以上の雇用も創出されています。
移住や多拠点生活を通じて地方創生に貢献し、地域を盛り上げるアクションを行っている人たちがいます。彼らは、四国に移住しさまざまなメディアを通じて地域の魅力を届けたり、東京と長野の2拠点で生活を送ったりするなどして、地方の社会課題について積極的に発信しているのです。地方創生に取り組む人たちのインタビュー記事はこちらをご覧ください。
企業・自治体が取り組むアクションと地方創生の事例
2021年時点で、第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略が進行中です。具体的な施策として、企業の若い世代の人材育成の強化や、個人による空き家活用による定住促進など、多様な働き方を実現する施策が打ち出されています。ここでは、地方創生に取り組む団体・個人・自治体の事例を紹介します。
有限会社漂流岡山
農村地域の人口減少を食い止め、活性化させるためには、若者も高齢者も全ての住民が安心して暮らせる地域環境の整備が重要です。
岡山県産の野菜・果物を取り扱う卸会社「漂流岡山」は、若手農家への支援に注力しています。高齢化が進み続けている地方に「新産業 農業」を定着させることで関係人口を生み出し、人を呼び込む仕組みをつくることを目指しています。
NPO法人おっちラボ
島根県雲南市は、地方で働くIT人材を増やすことを目的にしたIT産業への支援事業を行っています。その中で、若手起業家の育成を担う「幸雲南塾」は全国の起業家からノウハウを学ぶケーススタディや、ICT関連技術とビジネススキルを持つコーディネーターによるプログラムを実施し、多くの人材を輩出してきました。
幸雲南塾の卒業生を中心に設立したNPO法人おっちラボは、雲南市への移住者が代表理事を務めています。現在では自治体から幸雲南塾の運営を引き継ぎ、空き家を利用したシェアオフィス開設、要介護高齢者へのケアをサポートする訪問介護ステーションの開業など、地域課題を解決する新しい事業が次々と生まれています。
NPO法人トティエ
2018年に行った総務省の住宅・土地統計調査によると、香川県内の空き家総数は約9万戸あり、総住宅数に占める空き家の割合は18.1%でした。全国平均13.6%と比べ高い水準で、全国で8番目に空き家が多い県です。県内でも、小豆島町の空き家総数は2710戸(2013年時点)で、空き家率26.7%と多く、深刻な問題となっています。
トティエは、香川県小豆島町の住民に対して、空き家の改修・補助や移住・定住に関する事業を行うNPO法人です。地域への移住を促進するために、移住者が住める家を探し出し、地域にすでに住んでいる人が笑顔になるような活動をしたりするなど、地域の本質的な課題を発見し、地道に活動を行っています。その取り組みの一つとして家の片付けがままならないという空き家所有者のニーズを受け、「空き家片付け大作戦」といった活動を行い、地域課題の一つである空き家活用と定住促進に取り組んでいます。
株式会社LIFULL
LIFULLは、全国で空き家が増え続けていることにフォーカスし、空き家再生を軸に日本の新しいライフスタイルを提案する「LIFULL 地方創生」という事業を行っています。
2033年には日本の空き家率は30%を超えるという試算が出ています。誰にも利用されない空き家が増え続けると、撤去コストの増加や治安・環境の悪化など多くの問題の原因となってしまいます。しかし空き家は正しく活用することで、関係産業の活性化や人口の循環、税収増など好循環を生み、地方創生の動力になる可能性を持っています。LIFULL 地方創生では、空き家の活用ノウハウの提供やプロデュース、資金調達支援などを通じて空き家の利活用を推進しています。
この他にも、地方自治体や個人がさまざまな形で地方の活性化につながるアクションを行っています。
牧野百男さんが市長を務める福井県鯖江市では、独自の“ゆるい”政策で人口流出にストップをかけ、さらには住民の数を増やすことに成功しています。
株式会社and picturesのCEO・プロデューサーの伊藤主税さんは、映画制作をきっかけに地方創生の可能性を広げたいという思いのもと、官民一体での取り組みを行いました。
指出一正さんは日本全国を取材で飛び回り、地域で活躍する若者や自治体のまちおこしプロジェクトを取り上げています。コロナ禍においては、オンラインで関係人口を増やせることにも言及しています。
島根県の食品産業づくり
地方創生には産業づくりも欠かせません。島根県では、地元の食品等製造事業者に対して事業補助金制度を設けています。地元産業の活性化は地元の経営基盤を強固なものにするとして、「事業者の販路開拓に向けた新たな挑戦や経営課題の解決に向けた対策、先導的モデルの創出等への支援」を行うと表明しているのです。先導的モデルとは、地域産業の先頭に立って導き、今後の模範となる者を指します。
まとめ
2014年に開始した第1期まち・ひと・しごと創生総合戦略は、東京への一極集中が減らない等の改善点がありました。その後、2020年度から始まった第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略では企業・自治体が、若い世代の人材育成を強化したのです。
しかし、2021年時点では、若い世代はまだまだ首都圏での進学・就職をしたいという思いが強い傾向にあるようです。そこで、地方創生によって地方での就学・就職を増やし、地域経済の活性化を促し、都心への学生流出を抑えようという試みが行われています。また、全国で深刻となっている空き家対策に力を入れ、安心して暮らせる住環境を生み出すことで地方への移住・定住を盛んにしようという、国や自治体の動きも少しずつ広がってきています。
これまでの枠にはない、自由な発想から生まれる新しい働き方や暮らし方が、素晴らしい地域づくりに直結するのです。その取り掛かりとして、「生き方を見直してみる」「もっと自由な働き方に変えてみる」など、自分ができる範囲でチャレンジしてみるのもよいかもしれません。
また、コロナ禍を経て、離れた場所にいる人同士の結びつきや協力も求められています。以前にも増してオンライン上での活動に注目が集まるようになったことから、地方は首都圏との結びつき以外にも、世界と直接結びつくチャンスが増えた時代になりました。日本国内にとどまらず世界との結びつきによって地方創生が実現されやすくなったことから、よりグローバルな地方創生の施策が求められるようになるでしょう。
監修者:吉田博詞
1981年広島県廿日市市生まれ。株式会社地域ブランディング研究所代表取締役。全国の地方自治体や企業と連携し、持続可能な稼げるまちづくりを推進。新たな価値基準のブランディング戦略、自走できる仕組み作りで、地域の課題解決のために奔走する。著書に『リクルートOBのすごいまちづくり』・『リクルートOBのすごいまちづくり 2』(他との共著、かもめ地域創生研究所)、観光経済新聞「私の視点(観光羅針盤)」連載中。
https://chibra.co.jp/
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