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住宅弱者は住まいの選択肢が限られる、なんてない。

龔 軼群(キョウ イグン) LIFULL HOME'S

住宅弱者の住まい探しをサポートするためのプロジェクト「FRIENDLY DOOR」を立ち上げた龔軼群(キョウ イグン)さんが目指すのは、住まい探しでつらい思いをする人がいない世界。「困っている人を助けたい」というシンプルな思いを体現し続ける生き様の背景には、彼女自身も“外国籍”であることを理由に住まい探しで苦労したという過去があった。

「住宅弱者」という言葉をご存じだろうか? これは高齢者、外国籍、LGBT、障がい者、生活保護利用者など、賃貸物件を借りにくいなど住まいの選択肢に制限がある人を表す用語であり社会問題のひとつでもある。空室率の上昇で頭を抱える不動産オーナーが増えている一方で、住まいを借りられず困っている人がいる。この矛盾を解消するため始まったのが、LIFULL HOME'Sによる「FRIENDLY DOOR」という取り組み。発案者である龔さんが目指すのは「住宅弱者に対する既成概念を解消し、誰もが自由に住まいを探せる未来をつくること」。理想を実現するため、ひたむきに突き進む彼女のライフストーリーを軸に、プロジェクトに懸ける熱い思いを伺った。

“外国籍”という理由だけで
入居を断られるシステムに理不尽さを感じた

「FRIENDLY DOOR」とは、「年齢」「国籍」「経済力」「社会的立場」などのバックグラウンドを理由に住まいを借りにくい人、すなわち住宅弱者と住まいをつなぐ取り組みだ。住宅弱者それぞれが持つバックグラウンドを理解し、親身に住まいを探してくれる不動産会社の情報を検索することができる。2020年3月時点における協力会社の掲載件数は、全国で1000店舗以上。2019年11月の立ち上げ当初に設けられたバックグラウンドのカテゴリーとしては高齢者、外国籍、LGBTQ、生活保護利用者に絞られていたが、同様に入居を断られやすいシングルマザー・ファザー、被災者らに向けての窓口も追加で開設された。

プロジェクトの発案者であり事業責任者を務める龔さんは、「私はこの企画を実現するために株式会社ネクスト(現・株式会社LIFULL)に入社したんです!」と胸を張る。新卒で入社して今年で10年目。長い時を経て揺るがぬ思いを形にした背景には、持ち前の正義感と龔さん自身や彼女の親族が「国籍」というバックグラウンドで住まい探しに苦労した過去がある。

住宅弱者の具体的なリスクとして挙げられるのは、家賃の未払いや夜逃げ、言語や生活文化の違いによるトラブル、騒音問題、孤独死など。ほかの入居者にも迷惑がかかるのでは?という懸念も、不動産業者やオーナーが前向きに住まいを貸し出せない理由になっているという。

「私は上海生まれで5歳の時から日本で暮らしているのですが、帰化していないので籍は中国籍のままなんです。けど、そのことだけでフィルタリングされてしまい、審査にかけられる以前に断られてしまうことが何度かあって……。普通に働いて人並みに生きているのに『私のどこが悪かったの?』、とかなり落ち込みました」

龔さん同様、留学中のいとこの住まい探しを手伝った時も一筋縄ではいかなかったという

「ある程度、日本語での会話や読み書きができても『留学生はいつどこで帰ってしまうかわからない』とか、日本人の保証人がついていても『外国人はちょっと嫌だ』とか……。最終的には親身になってくれる不動産屋さんに出会っていい物件を見つけることができたのですが、それまでにすごく時間がかかってしまって。その時に改めて思ったのが、人ではなく“外国籍”というカテゴリーだけを見て全てを判断されてしまうのは不公平だな、ということ。それと、暮らしの根本にある住まい選びの選択肢が少ないというのは幸せじゃないよなって。突き詰めて考えるうちに、これはある種の社会問題ではないかと気づいたんです」

物件そのものよりも親身な不動産会社を増やしていく

プロジェクトの立ち上げに伴い様々なアイデアを練る中で、最初に考えたのは入居が可能な物件数をとにかくたくさん集めること。しかし、突き当たった現実は厳しかった。

「手始めにバックグラウンドごとに入居可能な物件をオンライン上で検索してみたのですが、あまりの件数の少なさに愕然としました。例えば外国籍の人がオンラインで検索できる入居可能な物件数は全国でたったの2万件(当時)。それなら検索して可視化できる物件の数を増やそうと思ったのですが、ひとつひとつの物件ごとにバックグラウンドのカテゴリーに対する『OK』『NG』を入力してもらうのは非常に手間がかかるため、不動産会社に依頼する上でのハードルが高い。それに交渉する前からNGと決めてしまうと入居可能な物件の数も増えないし、審査を受ける以前に拒否されてしまう当事者の方々の気持ちを考えると気が引ける。だったら数少ない物件を可視化することに力を注ぐより、物件数そのものを増やすためにできることを考えようと、方針を切り替えることにしました」

その末に浮かんだのは、住宅弱者の方々を受け入れてくれる不動産会社を見つけ出し、オーナーに交渉してもらうこと。しかしその交渉には、各バックグラウンドの人たちが入居することで考えられるリスクをどのように下げるかの説明が必要だった。

「例えば、不動産会社の方が『そのリスクについては問題ないですよ』と説得してくれれば、今までNOと言っていたオーナーさんの答えが YESに変わるかもしれないなと思ったんです。リスクを下げる方法についてはいろいろ検討しているのですが、今考えているのは、問題が起きた時にオーナーや不動産会社さん以外の法人が代理で対応してくれる仕組みを作ること。もちろん、当社だけでそのサービスを作るのは難易度が高いので、行政や住宅弱者に親身な企業や非営利団体との連携も視野に入れながら準備を進めています」

「住宅弱者は入居後のリスクが大きい」という先入観を持たれがちだが、そんな彼らを親身に受け入れてくれる不動産会社も少なくはないという。実際に問題行動を起こすのはごく一部の人だけであって、大半はきちんと暮らしてくれるという理解が世間でも深まりつつあるからだ。
しかし、一度でも夜逃げやご近所トラブルなどの問題に遭遇した経験がある不動産会社やオーナーの中には「同じような人たち=迷惑をかける」という偏見が根付きやすい。協力を得るのは難しいように思えるが、苦労はなかったのだろうか?

「私も最初は理解を得るのは難しいんじゃないか?数が集まらないんじゃないか……?と思っていました。けど、実際に不動産会社さんたちと話してみると私たちと同じように『住宅弱者の方々をどうサポートしていくか』という課題意識を持つ方がたくさんいたんです。もちろんうまくいかないこともありましたが、想像以上に親身になってくれる不動産会社があることを知って、すごく勇気づけられました」

知ろうとする気持ちと情報があれば住宅弱者という概念は覆せる

サイトをオープンさせたあとも順調に思いの輪は広がり、2020年3月現在でFRIENDLY DOORに掲載されている不動産会社の件数は1000店舗を突破。まだまだのびしろがあると手ごたえを感じる一方で、新たな課題の発見や学びも多い。

ひとつは、住宅弱者にまつわる様々な情報を知ってもらうことの必要性。

「『受け入れられない』と回答した方たちの意見を掘り下げてみると、偏見だけではなく『対応したことことがなく、どう受け入れていいのかわからない』という声が意外と多くて。その時に感じたのが、情報が足りていないことが住宅弱者に対する既成概念の元になっているのでは?ということ。特に様々なバックグラウンドを抱える方と直接の接点が少ないオーナーさんの場合だと、そもそもの“知る機会”がない場合もありますからね」

対策として考えているのは、セミナーや勉強会といった学びの場を作ることと、龔さんは目を輝かせる。

「『こうしたらうまくいった』という具体的なノウハウや成功事例をシェアしていけば、バックグラウンドで判断するのではなく、その人自身と向き合おうとする人も増えていく。ひいてはFRIENDLY DOOR全体のサービスの向上にもつながっていくはずです」

また、それぞれのバックグラウンドを理解し寄り添うことは大切だが、「深く考えすぎて立ち止まってしまうことは良くない」という気づきも、ひとつの突破口になったという。

「以前、『障がいのある方も受け入れます』と謳ってはいるものの、障がいの種類や重さで断られてしまったらどうしよう?それだと障がいのある方を受け入れてることにはならないんじゃないか?と悩んでしまったことがあるんです。でも専門家に相談したら、『親身に対応してくれるというフラグがあるだけでも、当事者からすると安心できるものなんですよ』と言ってもらえて肩の力が抜けたというか。加えて、背中を押してもらえたことで『きっかけとなる窓口を作るだけでも困ってる人たちの役に立てるんだ!』と取り組みに対する自信を持つことができました(笑)」

ゴールとして目指しているのは、住まい探しで傷つく人が誰もいない世界。どんなバックグラウンドを背負っていても、自分に合った住まいを自由に、そして楽しく探すことができる。そんな未来に近づくためのアドバイスを、住まいを貸す側、借りる側の両者に向けてくれた。

共通するのは『うまくいかなかったらどうしよう?』と考えすぎて動けなくなるより、まずは行動を起こしてみること。とっかかりさえつかめば、自然と道は開けていきます。不動産会社さんやオーナーさんにお願いしたいのは、相手の特有のバックグラウンドだけで判断しないことです。そして『一緒に探しましょう』と言ってほしいということですね。接し方がわからなくても大丈夫です。その人のことを理解しようとする気持ちは伝わります。住宅弱者にとって、寄り添ってくれる人が近くにいるだけですごく心強いし、それだけで住まい探しがステキな思い出になるんです。

また、住まいを探す方に伝えたいのは、親身になってくれる不動産会社さんはちゃんといるので、不安にならなくていいですよ!ということ。様々なバックグラウンドに対して理解のある不動産会社さんはFRIENDLY DOORでどんどん紹介していくので期待していてください!

撮影/杉森健一
取材・文/水嶋レモン

Profile 龔 軼群(キョウ イグン)

上海生まれ。5歳の時から日本に在住。2010年株式会社ネクスト(現・株式会社LIFULL)入社。営業や国際事業部などの部署異動を経て、2019年からはFRIENDLY DOORの事業責任者に。認定NPO法人 Living in Peaceの代表理事も務めている。

FRIENDLY DOOR
https://actionforall.homes.co.jp/friendlydoor


認定NPO法人Living in Peace HP
https://www.living-in-peace.org/

SOLUTIONS 2020/04/16 住宅弱者は住まいの選択肢が限られる、なんてない。