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LGBTQは自分らしい部屋探しができない、なんてない。

須藤 あきひろ

“普通”の暮らしとは何だろう? 真面目に働いて丁寧に暮らし、好きな人を大切にしながら自分らしく生きる。ごく当たり前のことに思えるが、セクシュアルマイノリティ(性的少数者)と言われるLGBTQの人たちは性自認や恋愛対象が“世間一般”の既成概念と違うだけで、さまざまな偏見を受けている。家探しが困難なこともそのひとつだ。

LGBTQの人たちは家を借りにくい「住宅弱者」とされている。生まれ持った性と性自認の不一致や、恋愛対象に同性が含まれることを除けば、彼らはいわゆる“普通”の人と何ら変わりがないように思える。しかし、パートナーとの部屋探しにおいては、安定した仕事や経済力があっても、審査に通りにくいという。なぜ彼らが部屋探しに苦労しなければならないのか? 当事者をとりまく家探しの実情と課題を、LGBTsの人々にフレンドリーな不動産会社「IRIS」代表の須藤あきひろさんに話を伺った。

社会が変わるのを待っていても
当事者の暮らしは変わらない

須藤さんが代表を務める「IRIS」は、LGBTsの方々にフレンドリーな不動産会社だ。2014年の設立当初は、当事者に向けたライフプランニングに役立つ情報を発信するWEBマガジンとしてのスタートだったが、2016年に法人化。資格取得などの準備期間を経て、2017年からは本格的な不動産事業に乗り出した。

「金融業界で働いていた頃、当事者向けにお金やライフプランに役に立つ情報をWEBで発信し始めたことがそもそもの始まり。ロールモデルの少ない当事者には、生き方のお手本や暮らしに寄り添う情報がないんです。おまけに誰に相談したらいいかもわからないので、お金のことや人生設計にも漠然とした不安を抱えやすい。だから「IRIS」ではお部屋探しだけでなく、ライフプランニングの相談も請け負っています」

不動産業界の仕事に興味を持ち始めたのは、ゲイである須藤さん自身がパートナーと住むための部屋探しで苦労したことがきっかけだという。その後、自分と同じように大変な思いをしている当事者がたくさんいるということ、彼らをサポートしてくれる不動産会社がないことを知り、「ないならつくってしまおう!」と一念発起。持ち前の行動力と負けん気で、少しずつ事業を軌道に乗せていった。

「当事者が暮らしやすい未来を考えた時に、社会が変わるのを待つだけじゃ僕らの暮らしは何も変わらないだろうと感じていて。だったら自分にできることからやっていこうと思ったんです。僕、『継続は力なり』という言葉が一番好きなんですよ。継続するためにはすぐ実らないものでも、まずはやってみないと! というタイプです(笑)」

LGBTQ当事者に寄り添いながらオーナーや管理会社との交渉を地道に重ね続けた結果、問い合わせや利用者の数はじわじわと右肩上がりに。法人化前は100PVほどだったホームページの月間PV数は、法人化後には平均15,000PVまでに跳ね上がった。入居後の利用者たちの満足度も高く、掲載した物件がすぐに決まってしまうことも多いという。

小さな誤解を解くたびに成約数も増えていく

物件の仲介をするにあたって、一番の要となるのは管理会社とのやりとりだ。

「最近では『同性カップルの方からのご希望で~』と言えば、なんとなく察してくれる方がかなり増えました。ただ、『LGBTQの人ってどういう感じ?』『周りにそういう人がいないからわからない』と質問されることもまだまだ多いです。なので僕たちは『一般の方と変わらないですよ』とお話ししています。誤解が解けて安心していただければ審査でもOKがもらえますし、『実際に住んだ方の暮らしぶりを見て当事者に対する偏見がやわらいだ』ということも多いです」

性自認や恋愛対象が少数派というだけで、LGBTQの人は決して特別な存在ではない。しっかり働き、経済的に自立している人も多いように思える。にもかかわらず、なぜLGBTQの人たちが「住宅弱者」になってしまうのか?

「根底にあるのは“男らしさ”“女らしさ”というような日本人特有の型にはめる文化と、不動産業界の根強いルールでしょうね。不動産業界は、『家賃を払えるか』ということ以上に、『誰が住むか』をすごく気にするんです」

同性同士の場合は家族ともカップルとも認めてもらえないため、“友達同士のルームシェア”という定義で審査を申し込むことになるのだが、物件の管理規約やルールを理由に断られることが多い。だが、実のところ「ルームシェアはダメ」と書いてある規約はほとんどないという。

「ファミリー層か高額な家賃をひとりで払えるような人に住んでほしいとオーナー側が希望する場合もありますが、やはり腑に落ちませんよね。なので、我々は同性同士の方も男女のカップルと同等、もしくは家族として認めてもらえるように交渉しています」

この時、同性パートナーシップ制度を採用している自治体や、顧客であるカップルが制度を利用しているとより有利に交渉を進めやすいという。

「一般のご夫婦のような法的な保証ではないですが、夫婦と同等の関係を公的に認めるものなので実質的な効果を発揮しやすいんです。『これから制度を利用するからこのエリアに住みたい』というお話ができると後押しになりますからね」

不安な気持ちで家探しをする当事者の現状を変えていきたい

「IRIS」での活動を通じ、「「LGBTQは特別な存在ではない」、「マイノリティの人たちがいるのはごく普通なこと」と思ってくれる人が増え、社会が少しずつ変わってきたという実感はあります」と須藤さんは語る。

だが、セクシュアリティをオープンにしづらい空気はまだ根深く残っており、「当事者だとバレないように家を借りたい」という相談は後を絶たない。さらには過去に嫌な思いをした経験から「不動産業者に相談しづらい」というケースも多いという。

「例えば男性2人で1LDKのお部屋を借りたいというと、『ベッドは1つしか置かないんですか?』とか、結構踏み込んだところまで質問されるんですよね。気にするかどうかは人によりますが……、僕は嫌でした。『どういうご関係ですか?』と聞かれればほとんどの方は『友達です』と自分を偽らざるを得ない。それでお部屋探しが進めばまだいいのですが、結局『友達同士はダメです』と断られて、やりきれない思いをすることも珍しくありません」

もちろん理解のある不動産会社もたくさんある。だが、フタを開けるまでわからないのでは、不安な気持ちのまま家探しをするという当事者たちの現状は変えられない。

「そこをサポートしていくのが我々の役目ではあるのですが、本来なら誰もが不安にならなくていい不動産業界に、ひいては社会になるべきなんですよね」

“誰かのため”ではなく“自分のため”に力を尽くす

スタッフ全員が当事者で、入居希望者の気持ちに親身に寄り添えるのも「IRIS」の持ち味だ。しかし、「同じ当事者同士だからこそ、感情移入しすぎてつらくなることもあった」と須藤さんは当時を振り返る。

「仕事上のこととはわかっていても、否定されるようなことを言われたり審査に落ちたりすると、まるで自分ごとのように感じてしまうんです。お客様のご希望に添えなかった時の悔しさも相まって、じわじわとストレスが積み重なっていったんでしょうね。一時期は管理会社に電話するのが怖いと感じたり、自律神経失調症になったこともありました」

やりがいを感じて楽しいはずなのに、どうしようもなく苦しい。つぶれる寸前の須藤さんを救ったのは、スタッフからの「そろそろ自分の幸せを考えてもいい時じゃないか」というひとこと。

「もう本当に嬉しくて、ひとりで大泣きしました。それを機にちょっと肩の力を抜いて外の世界も見てみようと思い、半年ほどパラレルキャリアを試してみることにしたんです」

LGBTQにまつわる2本の新規事業にかかわり、多様な意見や価値観に触れる中で改めてかみしめる仕事の楽しさ。さらには視野が広がったことで、感じていた苦しさの原因が「誰かのためにやっている感」であることにも気づいたという。

「要は勘違いですね。『自分がこれだけやっている』ということの評価を周りの人に求めてしまっていた。だから『頑張っているのに誰もわかってくれない』とひとりで苦しくなってしまったのではないかと。それ以来、“誰かのため”というのはやめて、“自分のため”に頑張るという考え方にシフトしました。今は『僕が自分らしく生きられる社会に近づく努力をしているだけ。その結果、みんながハッピーになったらいいよね』という感じです(笑)」

目指すのはマイノリティを特別扱いしない未来

「IRIS」が最終的に目指しているのは、誰もが自分らしく生きられる社会。すなわち、“LGBTsにフレンドリー”という肩書き自体が不要になる未来だという。

「本当は今も肩書きをつけたくないんですよ。だって、それだけでLGBTQが特別な扱いになってしまいますからね。だけど、LGBTQという社会問題があることを可視化していかなければ、当事者が抱える問題にも気づいてもらえない。つまりは我々の暮らしも変わっていかないと思うんです」

近年、LGBTQに対する認知は広まりつつある。だが一方で、「オリンピックが終わったらLGBTQブームも終わるのでは?」といわれることも。

「確かに注目度が低くなるのでは……という不安はありますが、ブームが終わってもLGBTQの人がいなくなるわけではありません。当事者に対する偏見や生きづらさが解消する日が来るまでは、自分たちの存在を言葉にしてしっかりと発信していくことが大事だと考えています」

現在の取り組みはLGBTQを主軸においたものだが、彼ら以外の「住宅弱者」の課題を解消していくことも「IRIS」の目標のひとつだ。

「複数形のsを入れてLGBTsにしているのはそのためです。例えばご年配の方、障害のある方、シングルマザーとファザー、外国籍の方、独立したての起業家の方など。いろんな人がお家を借りづらいという課題と向き合って、多様な人が自分らしく安心して暮らしていける社会を作り上げていけるよう、これからも走り続けます!」

目の前の相手や課題と真っ直ぐに向き合うこと。想いを伝え続けること。言葉にするとシンプルだが、価値観の違う相手だと実践するのはなかなか難しいように思える。須藤さんのように多様な考え方の人と向き合うスキルを高めるためには、どのようなことを心がけていけばいいのだろうか?

これはLGBTQに限った話ではないのですが、自分の価値観を押し付ける前に相手の話を聞いてみることではないかと思います。主張が合わなかったとしても『いろんな意見や価値観があるよね』と考え方の幅を広げ、お互いを認め合う。そのためには他責ではなく、自責で考えることも大事ですね。自分の中で『こう言ったら、相手はこう思うかもしれない』と想定したうえで相手と接していけば、誰かを傷つけることも少なくなりますから。この文化が浸透していけば、誰もが自分らしく生きられる社会に近づいていくし、社会が変われば自然と、誰もが安心してお部屋探しを楽しめる未来にもなっていくのではないかと思います

撮影/居木陽子
取材・文/水嶋レモン

Profile 須藤 あきひろ

1989年、宮城県生まれ。不動産会社勤務を経て、金融業界で保険、証券、投資信託のリテール業務に携わる。2014年からFPのライターとしてLetibeeにライフプラン関連の記事を寄稿するとともに、WEBマガジン「IRIS(アイリス)」の運営をスタート。特にLGBTsのライフプランニングをサポートするために、記事執筆や各種コンサルティング、セミナー・勉強会の開催など幅広く活動している。

【保有資格】証券外務員一種、ファイナンシャルプランナー技能士2級、AFP、住宅ローンアドバイザー

HP  https://iris-lgbt.com/

Twitter @iris_tokyo2014

STORIES 2020/04/22 LGBTQは自分らしい部屋探しができない、なんてない。