会社の正解に合わせて生きなきゃ、なんてない。―成熟社会を生きる新社会人に伝えたい、セルフ・リーダーシップと大人になることの楽しさ―
4月になると、たくさんの大学生たちが社会人となって、新生活をスタートさせる。しかし中には、喜びや期待感よりもむしろ不安の方が大きいという人もいることだろう。就職先での「仕事」との向き合い方や、将来のキャリア形成、そして職場での人間関係など、さまざまな不安を抱える一方で、「早く一人前にならなきゃ」「会社にうまく馴染まなきゃ」と前のめりになって、肩に力が入りすぎている人も多いかもしれない。今回はそんな人たちのために、長年にわたって人材育成に携わってきたその道のプロに、話を聞く。
「期待よりも不安の方が大きいかもしれない。でも、あえて言いたい。大人になるって、めちゃめちゃ楽しいよ!」
そう語るのは、多くのリーダーを育成してきたLIFULL Leadership代表取締役社長の吉田宗興。彼自身、かつては「会社」という狭い枠にとらわれ、苦しんだ時期があった。社会人の先輩であり教育・人材育成の専門家である吉田さんに、会社の正解に縛られず、大人という自由を最大限に楽しむために、社会人として意識したいポイントを伺った。
大人になると、自分が解放されて世界が広がっていく。さまざまな人と出会い、知らなかったことを知ることができる。それはもう楽しいことだらけ!
幼くして“人の可能性”に興味を抱く
吉田が教育・人材育成の道に進むことになるきっかけは、幼い頃の衝撃的な体験にあった。
「5歳の時、僕は、おばあちゃんの部屋でロサンゼルス・オリンピックを見ていました。そうしたらカール・ルイスという陸上競技選手が毎日のように登場して、もうめちゃくちゃ活躍してたんです。100m、200m、4×100mリレー、さらには走り幅跳びまで金メダルを獲っちゃって、僕は、世の中にはこんなすごい人がいるんだ! って驚かされた。そして、人ってどこまですごくなるんだろう? どこまで可能性を秘めてるんだろう? ってワクワクしたのを、今でもはっきりと覚えています」
吉田は、高校時代には小学生にミニ・バスケットボールを教えながら英語塾に通い、塾の校長の薫陶を受けて大学の国際関係学科に進学。大学在学中には、1年間の米国留学を経験した。この留学が吉田に大きな影響を与えることになる。
「留学先のニューヨークで、アメリカという国の豊かさ、資本主義の力強さに圧倒されました。そして専攻したポリティカル・サイエンス(政治学)でもまた米国の学生たちに圧倒された。知識量では勝っているのに、なぜか議論すると勝てないんですよ。もう百戦百敗みたいな感じで、自分がいかに井の中の蛙だったかを思い知らされました」
しかしその挫折感はやがて、「もっと成長したい!」という強い欲求へと変化する。吉田はその後さまざまな局面で自分の至らなさを痛感し、そこから学ぶことで成長し、飛躍していく。

社会に出たら、“会社人”ではなく“社会人”になろう
米国留学でビジネスの世界に魅せられた吉田は、新卒で外資系の大手コンサルティング・ファームに就職。しかし当時、IT関連企業のコンサルティングに事業をフォーカスしていたその会社での仕事は肌に合わなかったため1年余りで辞め、企業の人材育成・組織変革を支援する企業に転職する。そこには「やはり“人を相手にする仕事”がしたい!」という思いがあった。
「新しい会社で私は、主に営業と研修講師という2つの仕事をしました。中でも研修講師の仕事は自分に合っていて、実に充実した毎日を送ることができた。研修講師は人の可能性を拓く仕事。その時僕は、自分がずっと思い続けてきたこととビジネスが、そして社会の中での自分の役割が、初めて一致したなと感じました」
やっと吉田の仕事が軌道に乗ったのも束の間、世界をリーマン・ショックが襲う。米国発の大不況が日本にも波及して、多くの企業が苦境に陥り、コスト削減のために真っ先に削られたものの1つが研修費だった。
吉田の仕事は激減し、取引先が破綻する事態にも遭遇する。取引先企業は、もはや改善・改革どころではなく、生き残ることが多くの企業の当面の課題となった。吉田の会社も吉田自身も防戦一方になり、心身共に疲弊をし、休職をする手前まで追い込まれた。
「その頃、自分なりにその会社の次の一手を考えていく中で、気づいたことがありました。それは、“自分は会社を通してしか社会を見てこなかった”ということです。今の自分は“社会人”ではなく、ただの“会社人”に過ぎないのではないか、と。本当の社会人というのは、自分の目で社会を見て、そこにどんな課題があり、自分はそれにどう向き合って解決していくのかを考えるべきなのに、それが自分には、まるでできていなかったことに気づいて愕然としました」
大きな教訓を得た吉田は、ほどなくその会社を辞め、幼児から大人までを対象に教育事業を展開する企業に転職。そこで日本の教育の現場を見て多くを学び、満を持して人材育成会社を興し、後に縁あってLIFULLグループに参画する。
社会に出たら、“セルフ・リーダーシップ”を育てよう
吉田の本領は教育・人材育成だが、その中でも“リーダーシップ育成”は大切な要素だという。リーダーシップというと「人をまとめ、チームを牽引する」ことを思い描く人が多いのではなかろうか?
しかし吉田は、「それもリーダーシップですけど、僕が大切にしているのは“セルフ・リーダーシップ”なんですよ」という。聞きなれない言葉だと思われる方も多いかもしれない。詳しく聞いてみよう。
「セルフ・リーダーシップを僕なりに定義すると、“目的地を描いて、そこに向かって自分と他人を一致団結させていく力”、ということになります。ですから“目的地設定”というのが、リーダーシップのまず一番大事なポイントになる。いや自分は目的地なんて考えたことないよ、っていう人も多いと思いますけど、そんな人でも例えば、“しばらくの間は穏やかに暮らしたいな”なんて考えていたりしますよね。それも実は目的地で、誰もが自然に描いていたりするものなんです。そこへ向かって自分と他人を一致団結させていく力、それがセルフ・リーダーシップです」

目的地の設定にあたっては、社会や会社が今どんな状態にあるのか、そしてこれからどうなっていくのかを見据えつつ、一方で、自分の能力やスキルを棚卸しながら設定していくのが定石とされてきたが、時代と共にそれが変化してきていると吉田は続ける。
「今の時代は産業も成熟し、社会も成熟しきっているので、周囲の状況を根拠にした目的地設定が難しくなってきています。だからもう、“自分”を軸に考えるしかない。自分の価値観・生き方をしっかりと言語化して、自分が大事にしたいことはこれなんだ! ということを明らかにすることで、目的地を明確に描くことができると思います」
社会に出たら、“自責”と“他責”のバランスを考えよう
さらに吉田は、学生が社会に出ていく上で大切にしてほしいこととして、「自責と他責のバランス」について話してくれた。
「これから社会で活躍したい、成長したいと考えるのであれば、1つだけコツがあります。それはものごとを“自責スタンス”で考えることです。自責というのは、物事がうまくいかなかった原因を自分に求めること。だけど決して自分を責めるのではなくて、自分は今どうすべきか? そしてこれからどう動くべきか? を考える“未来志向”のスタンスです」
その逆は他責スタンスで、人のせい、環境のせいにする考え方。あくまで自責スタンスを基本に考え行動することで、人は確実に成長できるのだという。
「仮に自責と他責の合計を10とすると、学生の場合は、自責が3で他責が7くらいの人が多いのではないですかね。自分もそうでしたから。その自責と他責の成分比率を、社会に出たら思い切って、自責の比率をぐーっと広げ、他責を少なくしてみるといいと思います」
吉田はかつて、自責を10に、他責を0にすることに挑んだことがあるという。
「とにかくあらゆる言い訳を排して、自分だけで頑張り通してみようと試みた時期があります。そうしたらなんと、人が、周りが、僕を助けてくれたのです。さらに、人に助けられ、人とつながりができたことで、いろんな情報も入って来るようになって成果が出始めた。そこからうまく波に乗ることができて、成長することができたと思います」

社会は楽しい! やれることが増えるし、いろんな人に出会えるから
春に新社会人になる人たちへのアドバイスを求めると、吉田の第一声はこうだった。
「大人になるって、めちゃめちゃ楽しいから楽しんで! って言いたいですね。少なくとも一人だけでも、ここでこうやって楽しんでる大人がいることを知って欲しいし、見ていて欲しいと思います」
大人になると辛いことや苦しいことばかりだから、学生時代にせいぜい楽しんでおけよ、とアドバイスする大人が多い中で、こんなポジティブなメッセージを贈る吉田を奇異に感じる人もいるかもしれない。苦しい、ではなく、楽しい……? あらためて問うと、吉田の言葉は、こう続いた。
取材・執筆:宮川貫治
撮影:阿部拓郎
株式会社LIFULL Leadership代表取締役社長。アクセンチュア、リンクアンドモチベーション、トライグループ(家庭教師のトライ)を経て、研修事業と学習塾事業を柱とした会社を起業。独自のリーダー育成プログラムで、多数の管理職や若手社員を自らビジョンを描き挑戦するリーダーへと育成する。小学生・中学生に対しても生き抜く力養成を目的に、リーダー育成プログラムを提供。2020年LIFULL社の出資を受け、会社をLIFULL Leadershipに商号変更。「自分の道を自分で拓けるリーダー輩出」を目指す。