壊れたものには価値がない、なんてない。【後編】

実店舗でもネットでも気軽にものが手に入るようになった現代。いつでも必要なものを買うことができるようになった一方で、必要ではなくなったものは安易に捨てられ、廃棄物の増加が問題となっている。
そんな大量生産・大量消費文化が普及した今、割れてしまったり欠けてしまった陶磁器を漆で修理する金継ぎに注目が集まっている。前編に引き続き、金継ぎを通してものと人の心を修復させるナカムラクニオさんにお話を伺っていく。

前編では、ナカムラさんが金継ぎを始めたきっかけと金継ぎの魅力を伺った。日本の伝統工芸である金継ぎは、割れたりひびが入ってしまった陶磁器に新たな命を吹き込むだけでなく、金継ぎをする行為自体が人の心を癒してくれる効果がある。
そんな金継ぎの伝統を守るためも「先代の教えに忠実に従うだけでなく、時代と共に変化が必要だ」とナカムラさんは語る。後編では、伝統工芸を守るために意識していることや、消費のあり方について、ナカムラさんの考えを伺っていく。

求められているものを作ることで
価値が高められる

ただ修理するのではなく、時代に合わせて工芸をアップデートさせる

金継ぎの伝統を守るためにも、国内外での活動を今後も積極的に続けていきたいと話すナカムラさん。しかし、伝統を守りながらも需要に合ったものが提供できなければ価値あるものは生み出せないと話す。

「伝統を守る必要がある一方、時代に合わなくなってきたら変化していく必要があると私は考えています。最近では呼び継ぎのように異なるパーツを合わせるといったアート要素が強いものを作って欲しいという声が増えてきたので、伝統的な職人さんと違うアプローチでアート作品のような金継ぎや呼び継ぎを制作しています」

また、人に必要とされるもの、価値あるものを生み出すエッセンスに関しても教えてくれた。

「単にきれいに直したものは愛情が感じられないので、少しだけ抜け感を持たせたり、使っているうちに上塗りがはがれると別の色が現れるなどといった仕掛けを作ったりと工夫をしています」

金継ぎが昔のやり方のまま進化していないことにナカムラさんは危機感を感じているという。

「伝統工芸とは、歴史的にみると当時の新技術を用い、試行錯誤を経て磨かれた技術です。先代から教わったやり方をそのまま受け継ぐだけなのはもったいないですね。求められているものは時代と共にどんどん変わっていくので、ニーズに合ったものを作れば価値は高まると考えています」

革新的なことを取り入れても洗練された技術が伝統として残っているため、技術のさらなる進化が止まってしまうのはよくないとナカムラさんは自らの考えを力説した。

ナカムラさんが集めている割れた陶磁器

そして、金継ぎされた陶磁器の価値を高めるためには時代やニーズに敏感でいることの重要性を改めて強調する。

「例えば銀や黒で仕上げる需要もどんどん出てきているんですよ。金継ぎは金を使うことがほとんどでしたが、現代では他の色も欲しいという声もあるので、そういったニーズを察知して提供する必要があると思います。そうすることで伝統を守り続けるのと同時に、出来上がった新たなうつわも長く大切に使われますよね。こうした価値あるものを創り出すために、私は常に依頼主の好きな色や仕上げたい理想のイメージを丁寧に聞きます。ほかにも、その人がうつわをどのような場面で使っていたか、今後どう使うのかをじっくりと聞いて金継ぎを行うようにしています。聞く姿勢は工芸に必要なことですね」

こうして生まれた金継ぎを新たな価値観で表現した映像作品「金継ぎ PIECES IN HARMONY」は、ADFEST 2018(第21回アジア太平洋広告祭)デザイン部門でシルバーを受賞。資生堂の世界CM「The redefiniton of Japanese Beauty by Shiseido」にも作品を提供するなど、アートとしての金継ぎ文化の普及に力を入れている。最近では、児童養護施設に暮らす子どものドキュメンタリー映画「ぼくのこわれないコンパス(2019)」(監督マット・ミラー)にも出演した。

人が本当に美しくて「欲しい」と思えるものを創り出していくことが、長く愛されるものづくりの本質ではないだろうか。

いいと思ったものは積極的に手に入れ、必要な人へと循環させるギブの精神

壊れてしまったものや必要でなくなったものに価値を創り出すことに尽力しているナカムラさんは、新しいものを「買うこと」や「捨てること」に関してはどのような考えを持っているのだろうか。

「自分がいいと思った作品やものはただ『いいね』と言うだけではなく、必ず購入して使うようにしています。買うという表現が正しいかわかりませんが、素敵なものを生み出した人へ対価を払うことの必要性を感じているからです。タダでものをもらうより、得たものと同等の価値のものをお返しすることで制作者への支援にもつながると考えています」

誰かがいらなくなったものであっても自分にとって必要なものであれば購入して使用することに意味がある。そして自分が使わなくなったり必要でなくなったりすれば、「捨てること」はほとんどなく、必要な人に譲ることで適切な居場所へと循環させている。

「基本的にいいものや価値があると感じたものしか手に入れないので必然的に身の回りのものは価値を保ったまま長持ちします。自分ではもう使わないかな、というものでも誰かがほしいと言えば、その人へあげたり譲るようにしています。そうすることでものの持っている価値を無駄にせず使えます。金継ぎも同じように、うつわに価値があれば使われ続けますよね」

こうした必要な人へものを循環させるという考えからさらに発展し、ナカムラさんは自身の金継ぎのノウハウを惜しみなく提供し、生徒を育てている。

「金継ぎのレッスンをするときは必ず友達や家族から割れたうつわを預かり、それらを直す仕事として受注してきてもらっています。そうすると私が教えた金継ぎを実践するだけで授業料以上の利益が出ますよね。そして授業だけでなく、展示や販売会まで開催してあげるとどんどんお金が貯まってくいい仕組みが出来上がります。金継ぎを教えるだけで、生徒たちがどんどん豊かになっていき、そしてものも直っていく。そういう仕組みを作ってあげれば無限に好循環の輪が広がります」

「修理の文化はこれからもっと広がっていくんじゃないかな」最後にナカムラさんはつぶやいた。

「金継ぎが面白いと感じる人は多いと、これまでワークショップに来てくれた人の反応を見ていて思います。今後も金継ぎは普及するし、より多くの人が今後は当たり前にできるようになってくる気がします。私の役割は普及活動だと思っているので、まだ金継ぎが知られていない地方や海外に行き、普及していきます。そしてボランティアであっても自発的に出向いて教えているうちに、巡り巡って何かしらいいことが自分に戻ってくる体験をたくさんさせてもらっているのでそれもまたとても面白いんです」

金継ぎができるようになれば、壊れたものに対してポジティブに捉えられるようになるのではないだろうか。工夫すればまだ使える、他のものと組み合わせてみれば新しいものに生まれ変わらせることができる、といった具合に。修理することだけでなくその修理するプロセスにも価値があるという金継ぎの魅力から、これからのものとの向き合い方のヒントを得ることができた。

伝統を守りながらも、需要にあったもの、時代や使う人に合わせたものを作ることが工芸には必要です。そのままでは使えないものを使えるように直すだけでなく、大切にしたいと思われるものを世に出すことで価値が長く保たれ続けます。

そして、より多くの人が修理する方法を知ることができれば捨てられるものは必然と減ります。修理することが当たり前になれば人々のものに対する価値観も変化するのではないでしょうか。ぜひ多くの人に金継ぎを試してもらいたいです。

編集協力:「IDEAS FOR GOOD」(https://ideasforgood.jp/)
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ナカムラクニオ
Profile ナカムラクニオ

1971年、東京生まれ。荻窪「6次元」主宰/美術家。日比谷高校在学中から画家として活動し、大学卒業後はテレビ番組の制作に携わる。「開運!なんでも鑑定団」やNHKワールドなどで数多くの番組を演出。独立後は、美術家として活動し、山形ビエンナーレ、東京ビエンナーレなどにも参加。文学や美術に関する著書や連載多数。現在、長野にある築100年の古民家をリノベーションし、アトリエに改装中。

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