top  / stories  / 決められたルールに、疑問を持っちゃいけない
STORIES 2019/05/16

決められたルールに、疑問を持っちゃいけない

子供の頃から人と同じことをするのが嫌いで、大人になってからも独自のやり方で仕事や暮らしを楽しむLIFULL HOME’S総研所長・島原万丈さんの生きざまは、とても自由だ。「センシュアス・シティ[官能都市]」などの独創的な住宅研究レポートが生まれた背景には、既存のルールを疑ってかかる“あまのじゃく”な性格が生きている。

無意識のうちに「こうやりなさい」「これがルールだから」という言葉に縛られていないだろうか? 「人と同じ」という状況に安心を覚えていないだろうか? 既存の概念や目の前にある物事に疑いを抱くことは、新たな着想や視野の広がりといった可能性を生む。島原万丈さんの独創的なアイデアや自由な発想の原点も、「そんなこと誰が決めたの?」「本当にそれが正しいの?」というささやかな疑問にあった。

ルールに縛られたり人と同じように
“することをする”のが何よりも嫌だった

生まれ育ったのは愛媛県宇和島市。島原さんの父いわく、「小学校の先生から『こんな自律的な子は見たことがない』と言われていた」ほど、自分を持っている少年だったという。

「ただ単に『周りに合わせなさい』とか『こうやりなさい』と道筋を決められるのが嫌だっただけ。『なんで?』と理由を聞いたときに『ルールだから』と言われるのが大嫌いでした。ゴールは決まっていてもいいけど、そこに至るまでのやり方は自分で考えて自由にさせてほしい。『別にその方法じゃなくてもいいよね?』ということってたくさんあるじゃないですか。そういう部分でロジカルな屁理屈を言って大人を困らせる。いい意味でも悪い意味でもあまのじゃくな子供だったと思います(笑)」

地域の人同士の距離が近い環境に愛着はあったが、高校生になる頃には愛読していた雑誌の影響で東京のファッションやおしゃれな暮らしに憧れを抱くようになる。

「当時は雑誌に出ているような服を着ていたのですが、田舎だと浮くんですよ(笑)。だから『地元から出て面白いことがしたい』という思いで大学進学を機に上京。生まれも育ちも東京の友達の振る舞いを見て自分の田舎っぽさを感じることもありましたが、毎日が本当に楽しかったですね。当時の住まいは1980年代半ばに流行っていたワンルームマンション。家具をモノトーンで統一したり間接照明を置いたりして、雑誌で見たような都会的な暮らしを満喫していました(今思えば、単に人と同じ流行を追いかけていただけでしたが)」

同じやり方で勝てないなら
自分なりの方法を見つければいい

大学卒業後はリクルートリサーチで、企業に対するコンサルティングの仕事に従事。営業の仕事は好きではなかったが、“クライアントからの要望”というお題の解決法を自由に考え、提案できるコンサルの仕事は持ち前のあまのじゃくな性格にうまくハマったという。

与えられた仕事をうまくやるため「電話営業で断られても落ち込まなくていい。そっと受話器を置くだけだ」など、苦手な業務を克服するための自分チューニング法も開発。「目の前の案件をどう楽しく進めるか?」というスタンスで突き進んでいたが、優秀な先輩や同僚を見るうちにコンプレックスを感じたこともあったという。

「リクルートに入って知ったのが『世の中には頭のいい人がたくさんいるんだ!』ということ。学歴ではなく地頭の良さが違うんです。例えば調査会社や広告代理店の資料を見ても、僕の場合はいったん持ち帰って参考になる本を読み込まないとなかなか理解できなくて。でも会社の人に相談すると、みんなパッとわかってしまう。同じ部署で同じ営業をやる上で、同じやり方をしていたら負けるだろうなと感じていました」

そこで生きたのが、子供の頃からのあまのじゃくな一面。

「同じやり方で負けるなら、手段を変えればいいやって。そもそも“周りと一緒”というのも嫌いでしたしね(笑)。『人と被らない方法で結果を出すにはどうすればいいか?』と考えた末に思いついたのが、『頭のいい人よりも時間をかける』ということだったんです」

昼夜を問わず本を読み、提案内容も人の倍近く時間をかけて考える。一晩中考えるうちに「この調査は本当に必要なのか?」「今やるべき課題はこっちじゃないか?」と気づき、お題の前提条件をずらすアイデアを思いつく。当初の注文内容とも周りの営業とも違う独自の提案書が出来上がるわけだが、結果として数字を大きく伸ばしたのは島原さんのほうだった。

「頭のいい人は理解が早いから言われた通りの仕事を手早くこなせるけれど、意外と気づきが足りなかったりする。逆に頭が良くなくてもその都度勉強して時間をかければ、深い仕事ができる。気づいたら生活が昼夜逆転になり、僕だけ勝手に自由出勤になっていましたが(笑)、この働き方はほかの部署へ異動になったときにもすごく役立ちました」

2005年にリクルート住宅総研へ異動してから手掛けるようになったのが、住宅や住まいにまつわる調査研究レポートの作成。時間をかけてじっくり向き合うスタンスはそのままに、住む人や大家さんなどの目線に立った調査や、業界のあり方に疑問を投じる革新的な論文を発表し、たちまち多方面から注目を集めるようになった。

今までの調査のやり方では
人が体感する街の良さが見えてこない

2013年にリクルートを退職した後は、ネクスト(現LIFULL)HOME’S総研所長に就任。前職時代同様、「好きなテーマや問題意識で、好きなレポートを作っていい」という自由な環境のもと、独自の感性を発揮して注目を集めたのが2015年に発表された「センシュアス・シティ[官能都市]」というタイトルの都市レポートだ。

「『官能都市』という発想が生まれたきっかけは、東京五輪が決まった後に加速しだした東京の再開発。新しくできたタワマンや商業施設にそれなりに人が集まったり、地価が高騰するといった良い部分もありましたよ。でも武蔵小山にあった暗黒街のような味わいのある路地や横丁が壊され、同じような建物が並ぶだけの味気ない場所になっていく。『この“街がつまらない”と感じる思いをどう言い表せばいいんだろう?』と制作チームでブレインストーミングを重ねた結果、ピンときたのが『官能性が足りない』というフレーズでした」

「官能性」という言葉を切り口に議論は盛り上がったが、問題は「住んでみて気持ちがいい街なのか?」「どう快適なのか?」ということを測る指標が、当時の日本には存在しなかったということだ。調査で引き出したかったのは、公共施設や子育てのしやすさといった「街力」ではなく、「なんかいい感じ」と肌で感じる街の心地良さを表す声。今までのやり方では集めることができないデータであるため、調査設計にはとても苦労したという。

「考えた末にたどり着いたのが『家族と手をつないで歩いた』『素敵な異性に見とれた』といった、思わず『あるある!』と言いたくなるような“動詞”を物差しにした指標づくり。それを基に調査を行ってみると、回答者の暮らしや住む街の良さが浮かぶ、リアリティのあるデータを集めることができたんです」

いざレポートを発表して驚いたのは、批判を受けると思っていたデベロッパーや行政からも「今までうまく言い表せなかったことが腑(ふ)に落ちた」などと良い評価や共感を得られたことだ。「組織としての意思決定は別として、個人的に好きな横丁や路地を再開発でつぶしてしまうことにジレンマを抱える人は、“中の人”にもたくさんいたんだ!と知りました」。

「反響の中でも特に大きいと感じたのは、僕がレポートの中で“つまらない”と批判したまちづくりを推進している国土交通省のイベントで『センシュアス・シティ』がテーマの基調講演の依頼を受けたこと。おかげで地方都市での講演会や勉強会の依頼も増えました。未来の事業計画にかかわる方々に“街の心地良さ”という指標を意識してもらうことで、再開発に対して『センシュアスなやり方はないのか?』と提案してもらえる機会が増えてくれれば、出来上がる街も少しは変わってくるのでは?と期待しています」

狭くても賃貸でも枠を壊さなくても
自分らしい快適な住まいは追求できる

2018年からは「幸福」という観点から住まいのあり方を考える調査研究レポート「住宅幸福論」を制作。2019年5月に発行されるEpisode.2では、国連の「世界幸福度レポート」でその幸福度が評されるデンマークと日本の住生活を比較している。

デンマークの人々がそれぞれの家を自分らしく自由に楽しんでいる様子と日本の住まいを比べて改めて感じたのは、「日本の家は見えない二重三重の枠にはまっている」ということだった。

「まず『賃貸より持ち家』とか『中古より新築』という既存の価値観に縛られている人が多いということ。特に賃貸住宅の場合は、住宅内の造りが均一化していたり、“原状回復”の縛りが強いのも住まいを楽しめない一因かもしれません」

持ち家なら楽しみの幅も広がるのでは?と思いきや、必ずしもそうとは言えないという。

「日本人は『幸せな住まい=いいマンション、いいハウスメーカーの建物』と考えがちなんですよね。確かにそれも正しいですよ。でも戸建てでもマンションでも買うまでは細かくチェックするのに、いざ自分のものになったら一気に熱が冷める。例えば、家具やアートなどのインテリアで空間を演出することにはあまり関心がない。つまりは、住まいを楽しみ切れていない人が多いような気がしているんです」

家という“箱”以上に大切なのは「住み始めてからの幸福度」と島原さんは語る。

幸福度を高めるコツは自分にとって居心地のいい環境を主体的に追求し、『部屋の中をもっとこうしよう』と行動を起こし続けることではないかと思うんです。例えば『何もしちゃいけない』という賃貸マンションでも、自分らしい家具や雑貨を置くことくらいは自由じゃないですか。『賃貸住宅=与えられたもの』『狭いからなんにもできない』という気持ちもわかりますよ。でも枠を壊さなくたって自分らしい暮らしはできるんです。ちょっとした花や好きな作家の絵を飾ってみるといった、小さな変化を楽しむだけでも全然幸福度は変わってきますからね。『部屋が散らかってるからムリ』という方は、片付けなくていいから絵やポスターを1枚飾ってみてください。気分が変わって、きっと片付けたくなりますから!(笑)
Profile 島原 万丈

愛媛県宇和島市出身。
1989年株式会社リクルート入社、株式会社リクルートリサーチ出向配属。以降、クライアント企業のマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略のプランニングに携わる。2004年結婚情報誌「ゼクシィ」シリーズのマーケティング担当を経て、2005年よりリクルート住宅総研。
2013年3月リクルートを退社、同年7月株式会社ネクスト(現株式会社LIFULL)HOME’S総研所長に就任。ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事している。


LIFULL HOME’S総研 https://www.homes.co.jp/souken/
Twitter https://twitter.com/Manjo_Shima

STORIES 2019/05/16 決められたルールに、疑問を持っちゃいけない

STORIES

しなきゃ、なんてない。既成概念にとらわれず、自分らしく生きる人々のストーリー。

view all STORIES